長時間労働は、うつ病の発症リスクを増加させる

最新疫学研究情報No.92

フィンランドの国立労働衛生研究所のMarianna.Virtanen博士と英国のロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ(UCL)による共同研究チームによって、「長時間労働は、うつ病の発症リスクを増大させる」との発表がなされました。

うつ病などの精神障害への対策は、公衆衛生における重要な課題となっています。WHOの報告によれば、「2030年までにうつ病は、高所得国における最も深刻な病気になるだろう」と予測しています。精神的な疾患は、心身に苦痛をもたらすだけでなく、仕事に支障をきたし、職を失う原因にもなります。近年の研究では、長時間労働は、抑うつや不安などの精神症状や認知機能の低下、睡眠障害などのリスクを増大させることが示唆されています。しかし長時間労働とうつ病との関連性については、いまだ明確にされていません。

今回の研究は、英国のホワイトホールⅡ研究(※1)の一環として実施されました。研究チームは、参加者のデータの中から、抑うつ症状のない公務員の男性1626人と女性497人(平均47歳)を選出し、残業による長時間労働とうつ病(大うつ病性障害)との関連性を明らかにするために約6年間の追跡調査を行いました。期間中に、66人(全体の3.1%)の被験者がうつ病を発症(*大規模臨床試験で採用されているDSM-Ⅲ-Rによる診断基準に基づく)しています。

調査の結果、1日11時間以上(*残業3時間以上)働いていた従業員は、1日7~8時間(*残業なし)働いていた従業員に比べて、うつ病の発症リスクが2.3~2.5倍にも増大したことが確認されました。喫煙や飲酒、仕事の負担や社会的支援などの条件を調整しても、長時間労働とうつ病との関連性は変わりませんでした。

研究者らは、長時間労働がうつ病の発症リスクを高める理由として、「仕事のことで家族と衝突が増える」「終業後に緊張をほぐす時間が取れなくなる」「コーチゾン(ストレスホルモン)濃度が高い状態が続く」といった内容を挙げています。Virtanen博士は、「時々残業することは個人や社会にとって有益となるが、長時間労働が続けば、うつ病の発症リスクが高まることを常に認識しなければならない」と指摘しています。

研究チームは、「ホワイトホールⅡ研究の参加者はすべてホワイトカラーであるため、ブルーカラーや民間企業の社員を対象としたさらなる調査を行う必要がある」と結論づけています。

※1ホワイト・ホールⅡ研究(Whitehall Ⅱ study)は、1985年より英国人公務員を対象に実施されている“ストレスと健康”に関する臨床試験です。

出典

  • 『PLoS ONE online版 2012年1月25日号』
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