運動は脳の機能を向上させ、うつ状態を改善する
最新疫学研究情報No.43
米国のエール大学Ronald.Duman博士の研究チームによって「運動は脳内の遺伝子の働きを活性化し、うつ症状を改善する(*マウスによる実験)」との報告がなされました。
研究者は、運動(*車輪走行を1日約10km1週間行う)をさせたマウスと、運動をさせなかったマウスの「海馬」(※1)の状態を比較分析しました。その結果、運動をさせたマウスの海馬で33の活性化した遺伝子が発見され、特に神経成長因子「VGF」(※2)の分泌を促進させる遺伝子の働きが強化されたことが明らかになりました。さらに研究では、強いストレス状況下に置かれたマウスの頭部に、合成したVGFを注入すると高い抗うつ効果が現れ、合成VGFの投与を止めると、うつ行動を起こすことも確認されました。
これまで「運動はうつ症状によい」と言われていましたが、そのメカニズムはよく知られていませんでした。今回の研究で「運動による海馬の遺伝子の活性化が、VGFに作用し、神経細胞の増殖や細胞間のつながりをよくすることで、うつ症状を改善する」という仕組みが明らかにされました。
※1海馬は、うつ症状に深く関係している脳の領域です。
※2VGFは、海馬の神経細胞の成長や修復に関与する物質です。
出典
- 『Nature Medicine 2007年12月号』