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  千秋針灸院の症例報告           ※内容、スライドの無断での転載等は固くお断りいたします。

この症例報告については今後の学術大会等、公の場で報告するための候補版です。治療方法等、一部は非公開とさせて
いただきます。正式な報告が完了いたしましたら、報告論文、スライド等は完全に公開いたします。
Web公開版は医療従事者に限らず、一般の方へ向けた報告ですので、必要と思われる補足を加え説明させていただきました。


症例報告の概要

視力・測定方法と平均値

視力・症例毎の変化量の分布

視力・視力の分類群ごとの変化

視力・まとめ

視野・評価方法と平均値

視野・症例毎の変化量の分布

視野・視野の分類群ごとの変化

視野・まとめ

考察と課題、期待される役割

1



千秋針灸院は眼科針灸専門治療院であり、網膜色素変性症をはじめ新規患者さんの9割、年間のべ2.000名以上(2007年)の
患者さんに、中医学による眼科領域への専門的な鍼治療を行っています。

鍼灸治療による網膜色素変性症への統計的な症例報告は、日本国内では初めての試みで、医学的根拠のある評価法から
有効性も確認できるものですが、眼科医学上、最も治療が困難な疾患であり、唯一の特定疾患に指定されている難病のため、
懐疑的に見られることは仕方のないことかもしれません。しかしながら網膜色素変性症は良くなるはずがないという先入観は、
ひとまず取り除いて見ていただけたら幸いです。

当院は鍼灸院であり、医学的にも信頼のある最新の検査機器を駆使することはできませんが、最新の眼科医学を学んでいく
過程で、様々な医学的根拠のある測定法を探し当てることができました。視力や視野といった限られた測定法ですが、治療を
受けられた患者さんの多くが実感される「見やすさ」を反映した結果が得られ、今回報告させていただくことになりました。


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2



網膜色素変性症は現在まで病気の解明は進められているものの、医学的に有効な治療法が無く、眼科の臨床現場では
一時的に視野や暗順応を改善する薬(アダプチノール)やビタミン剤の処方と共に、経過観察が行われているのが現状です。

また私達、はり師、きゅう師、あんま・マッサージ・指圧師として活躍されている方の中にも、網膜色素変性症による視機能障害から
これらの職業を選択された方も多く、この病気への鍼治療からのアプローチは、私達自身にとっても大変重要な意味を持ちます。


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3



症例数には30名の当院で継続した治療を受けられた患者さんに加え、9名の当院との提携治療院で治療を受けられ、
概ね3ヶ月または6ヶ月の時点で視力や視野の測定を行った患者さんが含まれています。

年齢層、病気の進行具合は幅広く、網膜色素変性症の初期から末期までの患者さんに、治療を行う機会をいただきました。
病気の進行程度によりグループ分けを行い、様々な進行状況の患者さんへ治療を行った際の統計報告となります。
鍼灸治療を行った際の参考にしていただけるものと思います。


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4



視力については、NIDEK社の液晶視力表、SC-2000を使用し、裸眼もしくは患者さんの持参の眼鏡で3メートルの距離から
測定しています。網膜色素変性症の患者さんの多くは、視力検査時の眩しさを訴えられるため、液晶視力表のランドルト環と
背景色を反転させ、眩しさを抑えて正確な視力が測定できるようにしています。また公式に0.03の視力から測定可能な為、
通常では正確な測定が難しい視力0.1未満でも、治療による視力の変化を捉えることが可能になりました。


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治療開始から3ヶ月後または6ヶ月後の、全患者さんの平均視力の推移になります。平均値としては上昇していますが、
患者さんの視力は測定不能(0.03未満)から1.0以上と幅があり、参考程度に見ていただけたらと思います。

6ヶ月継続された方の平均視力(52眼)では、3ヶ月後までの結果に比較して6ヶ月後との違いが小さくなっています。
視力については治療開始から3ヶ月後までの効果が大きく、その後は緩やかになることが分かります。


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治療開始から3ヶ月経過後の視力の変化の程度を表しています。3ヶ月までで2段階以上の視力向上が半数に見られます。
昨年報告した網膜黄斑変性症に比較して大きな改善は少ないのですが、3段階以上の改善例が3割あり、患者さんは自覚として
「見やすくなった」と言われる方も多くあります。

なお視力測定不能(0.03未満)や正常視力(1.0以上)の方は、視力向上幅の段階を表すことが困難なため、この結果から除外
しています。なお視力測定不能は7眼ありましたが、内6眼は3ヶ月時点で0.03以上となり、測定が可能になっています。
鍼灸院へ来院される患者さんは、0.03未満でも明るさ等が分かる方が多いため、治療を続けることで僅かながら視力が出てくる
可能性があることを確認しています。視力測定不能から最も向上した症例では、6ヶ月間で0.2まで回復した例がありました。

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3ヶ月時点に比較して、2段階以上の向上は50%から60%へと増加し、3段階以上の改善も4割の患者さんに見られます。
また治療開始から3ヶ月後に比較して、毎日のコンディションによる視力変化が小さくなる傾向が見られます。3ヶ月経過時点に
対し、患者さんが視力の向上を自覚される割合も増える傾向があり、安定した良好な結果が得られることが多くなります。


若干の視力低下例がありますが、網膜色素変性症では毎日のコンディションによる視力変化が比較的大きく、特に提携治療院で
治療されている患者さんは、3ヶ月後に来院された時点で調子が良くない場合に、数値が悪化してしまう場合があります。更に
継続してみていくと回復していることも確認していますので、3ヶ月の時点ではあまり心配しなくても良いようです。また数年以上の
長期間の治療継続例では、鍼治療とは関係なく白内障が進んでくる症例もあり、この場合には視力が低下します。


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治療開始当初の視力を0.1未満、0.1~0.5未満、0.5~1.0未満の群に分類した、69眼の3ヶ月後の平均視力になります。
当初の視力が正常視力である1.0以上は除外しています。

どの群にも向上が見られますが、0.1未満群と0.1以上の各群では、平均視力の向上幅が異なり、特に0.1以上の視力が確保
されている場合に視力の上昇が大きくなる傾向です。できれば視力が0.1以上ある内に、鍼治療を行った方が効果的と言える
結果になりました。


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治療開始から6ヶ月後では、3ヶ月後の結果に若干の上乗せをする形で、視力の上昇幅が大きくなっています。やはり視力が
0.1以上ある場合に平均0.2前後の上昇があり、0.1以上の視力が残っている段階で、鍼治療を試みることが効果的です。

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治療開始当初の視力を0.1未満、0.1~0.5未満、0.5~1.0未満の群に分類し、視力の変化量をグラフにしたものです。
これまで書いてきた、治療開始当初の視力が0.1以上の群で視力の向上幅が大きくなる傾向や、治療開始当初の3ヶ月間に
視力向上幅が大きいことが分かります。6ヶ月後の変化は小さく見えますが、多くの患者さんで毎日のコンディションによる
視力変化が小さく安定する傾向があります。


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視力についての結果をまとめたものです。これまで解説してきた内容に加えて、少なくとも片眼に2段階以上の視力向上が
得られた患者さんは、3ヶ月で6割弱、6ヶ月で7割弱という結果になり、視力に関しては6割~7割程度の患者さんに治療効果が
確認できたことになります。3年以上の長期間の治療継続例では、白内障などの合併が無ければ、概ね維持できることも
確認しています。


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視野については、鈴木式アイチャートを利用した平面視野計法により、主に中心部の視野を測定しています。
上下約20°、左右約25°までの、概ねハンフリー視野計(自動視野計)に近い測定範囲と言えます。

鈴木式アイチャートは主に緑内障や変視症等のスクリーニング用として、全国の眼科や脳外科で用いられています。

当院の測定方法は、眼科医学としては正しい方法になりますが、通常の眼科での視野検査との互換性については、
完全に同一ではありません。ハンフリー視野計による中心部視野が、比較的相似となるようです。


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測定方法については、チャートから約40センチの距離で片眼ずつ中心部を固視していただき、上下左右の4方向について、
視界に入るマス目の数を患者さん自身に申告していただく方法になります。網膜色素変性症では中心から約15°~20°に
あるマリオット盲点が、視野狭窄により検出不可能なケースが多いため、平面視野計法での評価としました。

なお鈴木式アイチャートを使用した評価法は、患者さん自身が見える範囲を申告することから、視野の変化を自覚し易く、
視野に変化があれば鍼治療の効果を実感することができます。また眼科でのゴールドマン、ハンフリー視野計に対して、
加齢により光に反応する速度が遅くなる(反応の遅さは視野の悪化と判断されがちになる)問題がありません。
中心固視ができていれば、測定時の誤差は概ね1.5°未満(チャート上の1マス未満)です。

また上下約20°、左右約25°が測定限界になりますので、治療開始当初から、1方向でもこの範囲を超えた場合には、
除外しています。また視力の低下や杆体錐体変性、黄斑浮腫の併発により、中心固視ができない場合も除外しています。
なお今回の測定について、視野(角度)とは、上下左右4方向の視野(角度)の平均値となります。

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測定が可能であった全51眼(3ヶ月)、30眼(6ヶ月)の平均値になります。概ね3ヶ月で2°、6ヶ月で3°の向上が得られて
いますが、実際には治療開始当初の視野の残存に大きく左右されます。


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全51眼に関して、3ヶ月経過後の視野変化の分布を表しています。3ヶ月の時点では大幅に改善している症例もあるものの
1.5°未満の変化に留まる場合も多く、1.5°以上の変化(有効)を認めた症例は47.1%でした。


臨床上では最も早い視野拡大は、2週間(4~5回)の鍼治療で若干の変化を確認することができています。しかしながら
視野の拡大は、少しずつゆっくりと改善していく特徴があるようで、今回の症例報告でも同様な傾向が表れています。

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6ヶ月の経過観察ができている全30眼の、視野変化の分布になります。3ヶ月の時点に比較して、1.5°以上(有効)の視野
拡大が認められる症例は、66.7%と大幅に増えています。また3°以上(著効)の拡大を認める症例も4割にも上ります。
視野の変化は視力とは異なり、鍼治療開始から6ヶ月頃まで徐々に拡大する傾向があることが分かります。


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治療開始当初の4方向の平均視野を、それぞれ4.5°以下、4.5°~9°、9°を超える群に分類した場合の平均視野の変化です。
治療開始当初の視野が広い群ほど、平均視野の向上量、改善割合は高くなることが分かります。

平均視野の改善率という表現にしましたが、視野の平均改善量はそれぞれ0.53°、1.52°、4.72°ということになり、分類群ごとに
改善量の差は非常に大きくなります。概ね3°(著効)以上であれば、患者さん自身で視野の拡大が自覚できる場合が多くなり
ますので、9°を超える群では3ヶ月時点で多くの場合、患者さんが実感できる治療効果が達成可能ということになります。


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6ヶ月時点では3ヶ月時点で見られた傾向が更に顕著になり、4.5°を超える群では大幅な平均視野の向上が認められます。
4.5°~9°の群でも平均3°弱の視野拡大があり、9°を超える群では、症例数は寡少(参考値)となりますが、7°以上の
拡大を示しています。チャートの測定限界を超える症例では、チャート最大値としたため、実際には更に大きな視野拡大が
得られている可能性もあります。また、この群では輪状暗点が消失し、広大な視野を獲得できた症例も存在しています。


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治療開始当初の4方向の平均視野を分類して、それぞれの群の平均改善率を表したものです。3ヶ月の時点に比較して
6ヶ月時点では各群の改善率の差が際だってきます。この結果からも視野狭窄が進行する前に、できるだけ早く鍼治療を
開始することで、患者さん自身が自覚できる程の大きな改善が得られる可能性が高いことが分かります。

また4.5°未満でも改善率は低くなるものの、一定度までの改善の可能性はありますので、鍼治療を受けられる価値は
十分にあると言えます。当院では比較的当初の視野残存が少ない患者さんには、視野の変化を確認しながら3ヶ月以降は
できるだけ早い時期に治療間隔を空け、患者さんへの負担が少なくなるよう配慮しています。


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視野についての治療結果のまとめです。概ねこれまで解説してきたものですが、鍼治療を一定間隔で継続されている患者さんに
ついては、3年以上の長期に渡って、視野は概ね維持されているようです。また視野に関しては患者さんによっては1年以上まで
平均視野の拡大は続く場合もあり、比較的早期に向上する視力に比較して、ゆっくりですが確実に拡大していく可能性のあることが
分かってきました。視野に関しては治開始当初の視野の残存が大きい程、視野の拡大が期待できるようです。


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考察として、これまでの結果から、鍼治療による視力・視野の向上は確認でき、改善の特徴も詳細に分かってきました。
鍼治療がどのくらいの患者さんに有効かを数字にすると、少なくとも片眼の視力が2段階以上、もしくは片眼の視野が1.5°以上
拡大した患者さんは39名中、3ヶ月で29名(74.4%)、6ヶ月で26名中21名(80.8%)に上ります。

悪化例については、1名の方で3ヶ月時点で片眼の視力低下(2段階)みられたものの6ヶ月時点で回復した例や、3、6ヶ月時点で
片眼の視力低下(2段階)がみられた(視野は拡大していることから、提携治療院での治療のため、測定当日の体調に左右されて
しまった可能性)程度であり、眼科領域の他疾患への投薬や手術成績に比較しても、非常に優れた治療効果を期待できる結果と
なりました。


今回は視力・視野についての鍼治療開始後の変化を、3ヶ月ないし6ヶ月間継続した測定結果より紹介してきましたが、様々な
症状の改善を自覚される患者さんもあります。改善が目立つのは、特に目の奥の痛みや頭痛、コントラスト、色合い、眼の周囲の
チカチカした感じ、目の疲れ感等です。また眩しさや夜盲(薄暗がりなら見える)、歩き易さ(つまずき難い、人にぶつかり難い)等、
患者さんごとの状況や程度もありますが、改善されているようです。視力や視野のみでなく、日常生活における改善も鍼治療を
行う上での特徴であり、目標になると思います。


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網膜色素変性症の患者さんの多くは、眼科専門医療機関で主に経過観察を続けられている場合が多く、眼科医の診断結果を
患者さんから聞いたり、視野検査や眼底写真などをいただける機会が多くあります。網膜色素変性症は現在までのところ、
有効な治療法が無く、特定疾患に指定されている難病のため、診断としては「調子が良いですね」等に留まる場合も多いの
ですが、視力検査の数値やゴールドマン、ハンフリー視野計の写しを分析していくと、当院の測定結果に比較的近い良好な
結果が出ているケースが多くあります。

当院の鍼治療を長期間に渡り継続している患者さんは3年以上になりますが、この間の明らかな悪化は白内障の合併を除けば
ありません。治療を定期的に続けられている場合には、全ての方で現状維持もしくは、一定度の改善後に維持できています。
まだ10年以上の長期間、維持できていくかは今後の課題ではありますが、少なくとも視力や視野が一定度向上したことにより
病気の進行を止めたり遅らせたりできる可能性は高いと推測されます。調子を維持するための適切な治療間隔は患者さん毎に
異なりますが、概ね週1回から隔週1回程度の鍼治療ができていれば、調子は安定している様子です。


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今回の統計症例報告から網膜色素変性症に対して、鍼治療は現在行われている治療法に比較して、高い治療効果を持ち、
治療の安全性、今回の統計による再現性、進行予防の効果を持つ、最も優れた治療法となるようです。また視力低下や視野
狭窄の程度が少ない内に治療を開始できれば大きな改善が得られ、長期に渡り維持できることに繋がることが分かりました。
しかしながら鍼治療はまだ、網膜色素変性症を完治させる治療法ではありません。鍼治療は有効な「つなぎ」の治療法であり、
患者さんにとっては今後の医学の発展が待たれるところです。


当院は眼科領域を専門とする鍼灸治療院として、今後も網膜色素変性症をはじめ様々な眼科領域の疾患に、現代の眼科学を
基準とした医学的根拠のある評価法により、正面から取り組んでいく所存です。当院では引き続き他の眼科疾患についても、
また網膜色素変性症では更に多くの症例数や、長期間の症例報告を課題とさせていただきたいと思います。
今後も当院の眼科領域への取り組みにご期待下さい。


昨年の網膜黄斑変性症に続き、今回は日本初となる鍼治療での網膜色素変性症の統計症例報告を行うことができました。
網膜色素変性症は良くなるはずがないという先入観は、ひとまず取り除いて、鍼治療の効果を医学的根拠のある評価法により
その結果を正面から見ていただけたら、難病である網膜色素変性症の治療に光明が見えてくるはずです。

これまで当院に来院され、多くを学ばせていただいた患者の皆様に感謝いたします。
     

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参考文献 2008.10

『今日の眼疾患治療指針・第2版』 医学書院

『眼科プラクティス2 黄斑疾患の病態理解と治療』 文光堂
『眼科プラクティス 11 緑内障診療の進めかた』 文光堂
『眼科プラクティス12 眼底アトラス』 文光堂
『眼科プラクティス15 視野』 文光堂
『眼科プラクティス20 小児眼科診療』 文光堂
『眼科プラクティス21 眼底画像所見を読み解く』 文光堂
『眼科プラクティス22 抗加齢眼科学』 文光堂
『視能学・増補版』 文光堂
『現代の眼科学 改訂第9版』 金原出版
『中医臨床 102号 眼科の中医治療』 東洋学術出版社
『難病の針灸治療』 緑書房 他

本ページの内容は現代の眼科医学及び中医学、千秋針灸院の治療実績に基づいて書いているものです。
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