頼忠09E



「「「「「どういう事か、きちんと説明してもらおうか。」」」」」
五人が私を取り囲む。
「・・・・・・・・・。」
「黙っていないで、話せ。」
「あの女(ひと)と共に夜を過ごした。」
「何でだっ!?」
「・・・・・・・・・。」
「お前は花梨を警護する為に、あいつの室の傍にいたんだろ?そのお前がなぜ?」
「・・・・・・・・・。」
「なぜ襲ったのです!?」
「・・・・・・・・・。」
襲ってなどいない。あの女(ひと)がそれを望み、私が応えた。それを望んでいたから喜んで。
「言い訳ぐらい言いなさい!」
「・・・・・・・・・。」
言い訳など、言える訳が無い。
「何時だ。何時、そういう関係になった?」
「何度襲ったんだ?一回や二回じゃないんだろう?」
「・・・・・・・・・。」
「何か言えよっ!?」
勝真が両手で私の襟元を掴み、ねじ上げる。
「・・・・・・・・・。」
「くっ!」
黙っていると、そういう態度は余計に怒りを煽るだけ。苛立った勝真が片方の手を放し、殴りかかろうと腕を振り上げたが。
「それぐらいで止めときなさい。」
翡翠が入って来た。
「翡翠!何でこいつを庇うんだ!?」
「庇ってなどいない。閨の中での出来事を、根掘り葉掘り訊くものではないよ?」
「だからってっ!
「姫君を辱める事になる。」
「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」
「どう状況だったのか、姫君がどう感じていたかは、姫君の記憶が戻ってからだよ。場合によっては・・・・・・・・・ね?」
何時もは艶やかに女人を見つめる瞳が冷たく光る。
「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」
不満は残るが、納得したようだ。渋々私から離れる。だが、憎々しげに睨むその眼は、殺意を隠しもしない。



貴女の記憶が戻るきっかけになるだろうとの泰継殿の意見で、私は毎日貴女の元に通う許可を頂いた。勿論、昼間、深苑殿か女房の誰かが同席するという条件で。―――貴女にお逢い出来るのならば、どんな条件でも喜んで呑もう。


だが、貴女の記憶を取り戻すきっかけを探す為、その筈だったのに。


「恋人だったんですか?」
「・・・いえ。違います。」
そうであったなら、どんなに嬉しい事か!
「違うの?」
「はい。」
「私はあなたを好きだったんですか?」
「・・・・・・・・・。」
お厭いになられていたとは・・・言えない。
「じゃあ、あなたは、私の事を好きだったんですか?」
「・・・・・・はい。お慕いしておりました。」
これだけは真実、信じて欲しい。
「・・・・・・・・・。」
「どういうきっかけだったんですか?」
「運命、としか答えられません。」
あの夜の事を説明するのは、不可能です。
「話せない事なんですか?」
「・・・・・・・・・はい。」
「あなたが襲ったの?」
「違いますっ!」
間をおかず、否定をする。
「じゃあ、合意の上?」
「はい。いえ、私はそうだと信じたい。」
心の弱さからだとしても、貴女もそれを望んでおられたと―――信じたい。
「・・・・・・・・・。」
「申し訳ありません。私の口からは、これ以上の事は申し上げられません。」
「回数は?一回?二回?三回?」
「・・・・・・そのような関係になってから、ずっと。毎夜です。」
「・・・・・・・・・。」
「十月の上旬頃から、毎夜です。」
「三ヶ月間、ずっと・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」



夜。
神子の室の警備をしながら、頼忠は考え事をしていた。
名乗り出たとは言え、それが事実だと証言出来る者はいない。記憶の無い女人の寝所に入る事は許されない。寒い夜なのに、この腕の中に貴女が居ない事が淋しくてならない。
「・・・・・・・・・。」
記憶の全てが無い今の状態ならば、今までとは違う眼で見て貰えると思ったから名乗り出たのだ。女人の弱さに付け入るような男としてではなく、夜を共に過ごした恋人として。そしてお腹の子の父親として、これから貴女と共に歩んで行く事を許して欲しいと願っていた。だが・・・・・・。

貴女の質問に、あの日々の全てを答える事も、真実を話す事も出来ない。
全てを知りたいと願う貴女のお気持ちに応えられない事が、辛い。不信に満ちた眼差しが、痛い。



――――――名乗り出た事を、早くも後悔し始めていた。







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