「24444」番・課題出題者・ミーシェン様へ。



頼忠08E



「神子様がたった今、お目覚めになられました。」
神泉苑での最後の戦いの後、意識を失ってしまった神子殿を心配して控えの間にいた我々は、女房のその報告に一斉に安堵のため息を洩らした。
「で、花梨さんのご容態はいかがでしょうか?」
彰紋様が心配そうに尋ねていると、神子殿の室の方から人が慌しく動き回る物音が聞こえてきた。
「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・。」」」」」」」」
黙り込み、誰か報告しに来るのを待っていると。
「泰継殿、どうかこちらへ。」
青冷めた一人の女房が飛び込んで来た。
「解った。」
泰継殿はそう言うと、すっと立ち上がり室を出て行く。
「おい、花梨は大丈夫なのか?」
「花梨さんは目覚めたのでしょう?どうしたのです!」
「神子に何かあったのでしょうか?」
「一体どうしたと言うのだ?」
残された我々は、最初の報告をした女房に詰め寄るが。
「あの、私には全く解りません・・・・・・。」困惑。「ご様子を窺って参りますわ。」
「いや、己の眼で確かめる。」
私がそう言って室を飛び出すと、他の者達も先を争うように走り出した。


神子殿の室の前では、大勢の女房達がいた。だが、それぞれ困惑していたり泣いていたり不安そうだったりと、我々の不安を煽る。
「神子殿のご様子はいかがなのです!?」
「・・・・・・・・・。」
顔を見合わせるが、説明をする者はいない。苛立ち、室に入ろうとしたが、出て来た深苑殿に止められてしまった。
「静かにせぬか。神子が怯える。」
「深苑殿。怯える、とはどういう事かな?」
「今、泰継殿が診ている。」御簾にチラリと視線を送るが、すぐに戻す。「神子の様子がおかしい。記憶を失っているようだ。」
「「「「「「「なっ!」」」」」」」



泰継殿の説明を聞く。
神子殿の記憶は、ご自分の名前が『花梨』という事以外全く無い。それは、龍神をその身に降ろした時、身体に予想を越える負担が掛かった。それから逃れる為に、その負担を精神へ回したと。
「泰継!」イサトが詰め寄った。「結界を壊せるほどの力があるなら、龍神の力を使いこなせるって言ったじゃないか!?」
「そうだ。」
「じゃあ、なぜ、こんな事になったのですか?」
彰紋様まで、今にも殴り掛かる勢いで詰め寄る。
「神子の体調が、普段とは違った。」
「え?体調がまだご回復しておられなかったのですか?」
泉水殿が叫ぶ。
「腹に子が宿っている。その子に負担が掛かるのを防いだ。」
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
「神子は懐妊している。」
言葉を繰り返す。
「・・・・・・・・・。」
私の、頼忠の子を・・・・・・?
「ちょっと待て。花梨に通っている男が居たのか?恋人が居るのか?」
「そういう事だ。」
「「「「「――――――っ!」」」」」
「・・・・・・・・・。」
「おやおや。」
私以外は、神子殿の予想だにしなかった姿に絶句。まぁ、翡翠は気付いていたから驚きは無く、この結果にただ呆れているようだ。だが私は―――貴女との縁の深さに、喜び戸惑う。
「通っていた男が誰だか、お前は知っているのですか?」
「まさか、お前が手引きをしたんじゃないだろうな?」
「花梨さんを守るのが、頼忠の役目ではなかったのですか?」
いろいろと問い詰めて来るが、相手が私だとは誰も想像出来ないようだ。
「神子殿は・・・ご自分の身体の変化をご存知だったのですか?」
みんなの質問には答えず、私は自分の知りたい事を泰継殿に尋ねる。
「そうだ。」
「ちょっと待てよ?」今度は勝真が泰継殿に詰め寄った。「花梨が知っていたと、なぜ泰継殿がご存知なのですか?」
「私が教えた。」
「教えた?じゃあ、泰継殿も以前からご存知だったのですね?」
「勿論。」
「ではなぜ、こんな大事な事を私達に知らせなかったのです?」
幸鷹殿も怒りに震えている。
「神子がそれを望んだ。」
「「「「「だからって!」」」」」
「・・・・・・・・・。」貴女はこの戦いが全て終わった後、私に話すつもりだったのかもしれない。だが、そうするつもりは無かったのかもしれない。今の段階では、それは解らない。「記憶は、戻られるのですか?」
「戻る。」
「何時・・・?」
「それは解らん。だが、時間(とき)と共にゆっくりと思い出すだろう。」
「・・・・・・・・・。」
貴女は私に知られたくは無かったのかしれない。子を望んでも居なかったのかもしれない。だが、子を守られた。頼忠の子を。そしてその代わりに、貴女は記憶を失われた。一時的でも。それは―――私にとっては望ましい事かもしれない。貴女にとっては苦しみでしか無いだろうが、私には希望の光に・・・・・・思えた。


「神子殿にお逢いしたいのですが。」
女房に頼むが。
「いえ。まだ少し戸惑っておられるご様子で―――。」
「いや、どうしてもお逢いしなくてはなりません。」
止めようとする女房を振り切って神子殿の室に向かう。
今頃、混乱しているだろう。恐怖で震えているだろう。一人静かに居たいと言う気持ちは理解出来る。神子殿の御意志に背いて逢おうとするのは、本来ならば許されない。だが、今お逢いしなければ、二度と機会は無い。本当の貴女はこの頼忠をお厭いになられているだろうが、今の貴女は違う。貴女の名を汚す事になってしまうが。余計に混乱させてしまうが。それでも、貴女にこの私を一人の男として見て欲しい。そして、考えて欲しい。頼忠を想う事は不可能なのかと。



「貴女のお腹の子の父親は、この私です。」






注意・・・本編07B&Cの続き。ゲーム終了後。
     身体の変化あり&記憶喪失。


頼忠07B&C

花梨08E 頼忠09E

※ブラウザを閉じてお戻り下さいませ。