頼忠07B&C



腕の中で眠る貴女は、震えて私にしがみ付いてこられる。その苦しげに歪む寝顔が、寒さのせいでは無いと教える。

何を悩んでおられるのですか?
その悩みを、お尋ねしても宜しいのですか?
この頼忠では、解決出来ない事なのですか?

閉じられた瞳から、雫が零れ落ちた。その雫を唇で拭う。
「神子殿。頼忠が貴女のお傍におります。貴女をお守り致します。ですから、そのように御一人で苦しまないで下さい。」
強く抱き締め、耳元で囁き続ける。
ほんの少しでも・・・苦しみが和らぐ事を祈りながら――――――。



神子殿が朱雀のお二人と外出なさっておられる時、供に付かなかった我々は四条の屋敷に自然と集まっていた。
「神子殿は、何をお悩みになられているのでしょうか?」
神子殿のお倒れになられた原因が、ただの疲れではない事に私以外の八葉も全員が気付いている。皆が密かに感じていた不安を、幸鷹殿がおっしゃられた。
「不安なのでしょうか?」
「明王の課題は全てこなしたし、南の札だって今の花梨と彰紋様とイサトなら問題は無いだろう?不安に思う事なんて何も無いさ。」
力を付けた神子殿への信頼は絶大だ。
「最後の結界が壊れたらどうなるかと言う不安はあるでしょう。気が正しく巡るのは解っておりますが、急激に巡り出すのです。何が起こるのか予測出来ませんから。」
「龍神様を呼ぶと姫君にはどんな負担がかかるのか、私は不安だが。」
バラバラだった八葉の心は、神子殿のお蔭で一つとなった。京を救うとの目的よりも、神子殿の願いを叶えたい、お心もお身体と共に大切にしたいと思うようになった。全員が我が身に変えてもお守りすると、誓いを立てている。
「問題無い。」
「どんな根拠があって、そう言えるのかい?」
「神子の力次第だ。結界を壊して京の気を整えられるほどの力があれば、龍神の力を使いこなせる。」
「「「「「・・・・・・・・・・・・。」」」」」
神子殿の力を信じていても、その説明では安心する事が出来ない。
「もしかして、終わりが見え始めたのでただ緊張しておられるだけなのでは?」
「「「「「・・・・・・・・・・・・。」」」」」
それで納得出来る者は、意見を述べた泉水殿本人を含めて誰もいない。


あの倒れた日以来、神子殿のご様子がおかしいのは誰の目にも明らかだ。
八葉の信頼を得た頃から少しずつ表情が穏やかになり、笑顔もお見せになられるようになった。しかし、今では最初の頃に逆戻りしている。
寂しそうなお顔になられたりお怒りになられたようなお顔をしたり諦めたようなお顔にもなられる。遠くに視線を飛ばして物思いに耽っている。
考え事―――悩み事がおありなのは解るのだが、誰も寄せ付けない雰囲気で声を掛けられない。ただ見守る事しか出来ないのだ。



ふと考える。
泰継殿なら何か知っておられるのでないか、と。
倒れた神子殿のご様子を説明する時、泰継殿は確かに私を見られた。気のせいかもしれないと、その時は思ったのだが。思おうとしたのだが。時間が経つにつれ、確信へと変わった。
私が原因なのか・・・・・・・・・?
抱き締める相手が、この頼忠なのが原因か?
もしそうなら。それが原因ならば、夜の勤めを止めれば良いだけの事だ。
だが。
『止める事は出来ない―――っ!』
震えてしがみ付いてこられる貴女を突き放す事は出来ない。
なにより。
貴女の御心に反しても、貴女を離す事は出来ないのだ。頭では解っているが、心は制御出来ない。心は、身体は求め続けてしまう――――――。



夜。
己の罪深さに悩みながらも神子殿の室に行くと、貴女は部屋には居られなかった。探しに行こうと慌てて庭に飛び出すと、丁度帰って来るのが見えた。
「神子殿!こんな刻限に一人で出歩かれては危のう御座います。どうなされたのですか?」
走り近寄ると、貴女は頭を私の胸にことんとぶつけて来た。
「大丈夫。龍神様のお導きだから。」
「神子殿?」
「何か疲れちゃった。今日はただゆっくりと眠りたい。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「眠るまで、抱き締めていてくれない?」
「お望みのままに。」
抱き上げ、褥にお連れする。

「お休みなさい・・・。」
「ごゆっくりとお休み下さい、神子殿。」


眠りに落ちられても、私は貴女から離れる事は出来なかった。赤く腫れた眼元を見つめながら、ずっとずっと考え事をしていた――――――。






注意・・・『06』の数日後。

次は、最後の戦いが終了した後。

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