「24444」番・課題出題者・ミーシェン様へ。



花梨08E



眼が覚めた花梨は、自分が見慣れない部屋の中にいる事に気付いて戸惑った。
「えっと・・・ここはどこ?」
記憶を探るが。
「あれ?・・・・・・・・・。ちょっと待って。」焦りと恐怖の感情が湧き上がってくる。「落ち着け、花梨。最初から一つずつ考えれば大丈夫。うん、大丈夫。」
自分に言い聞かせてから、深呼吸する。
そして――――――。



次から次へと、女の人が挨拶に来てくれる。だけれど、やっぱり私には誰が誰だかさっぱり解らない。初対面のような気がするけれど、親しい人達らしい。寂しそうな、悲しそうな表情をされてしまう。涙ぐむ人もいるけれど、記憶が無い私の気持ちは想像出来ないらしい。身体が震えてしまうのを止めようと、手をぎゅっと握り締めた。


「神子。」
そう言って入って来たのはきれいな男の人。一見すると無表情だけれど、心配そうに見つめてくる優しい瞳が、信頼出来る人だと解る。
「『みこ』?私の名前は『花梨』だよ。『みこ』じゃないよ?」
その男の人は側に来ると、目を瞑ってしまう。何だか解らないけれど、その行動には何か意味があるのだろうと黙っていると。
「龍神の力が大き過ぎたか・・・・・・。」
呟いた。
「りゅう、じん?」
この人は何を言っているのだろうと首を傾げていると、やっと説明をしてくれた。

「つまり・・・神様が私に降りた、乗り移ったと言う事?」
「そうだ。」
「何で私に?」
「お前の気が他の者達よりも清らかで、龍神の気に馴染みやすい。」
「はぁ・・・。」
清らか?馴染む?意味が解らない・・・・・・。
「普段のお前ならば己を保てただろうが、今は違う。」
「?」
何を言うんだろう?戸惑いつつ、言葉の続きを待つ。と、とんでもない言葉が飛び出した。
「腹の子は無事だ。」腹部に手をかざす。「己自身よりも子を守ったのだろう。」
「・・・・・・・・・。」
この人は何を言っているの?
「しばらくは大人しくしていろ。今は体調の回復が大切だ。」
そう言うと、立ち上がってしまう。
「ちょっと待って!」去られる前に訊かなくちゃいけない事が沢山ある。呼び止める。「待って下さい!」
「何だ?」
「私が妊娠しているの?」
「そうだ。」
「恋人が居るの?」
「そうだな。」
「誰?」
「記憶が戻れば解る。」
「戻るの?」
「時間(とき)と共に。」
「何時(いつ)?」
「それは解らん。」
「解らんって、早く戻ってくれないと困ります。」
困惑してしまうけれど。
「身体に掛かる筈の負担を精神に回したのだ。そう簡単には戻らん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「―――皆に報告して来る。」
そう言うとさっさと室から出て行ってしまい、私は一人取り残された。
「妊娠・・・・・・。私のお腹の中に・・・・・・赤ちゃんが、いる、の・・・・・・・・・?」
一刻も早く、自分が何者であるかも解らない不安から解放されたい。だけど、妊娠とはどういう事なのだろう?知りたいけど、知らなくてはならないけど・・・・・・思い出すのが怖い。胸の奥底から湧き上がって来る黒くてもやもやとした恐怖にも似た感情で、息苦しい。私は心踊るような恋愛をしていなかったと――――――。



「花梨様。」
『みこ』と呼ばれるのがどうも落ち着かないから名前で呼んでと言ったら、『様』付け。『花梨様』と呼んで貰えるような偉い人間だとは思えないんだけど・・・。
「はい?何ですか?」
いくら呼ばれても違和感は消えないけれど、返事をする。みんなも私の記憶が無い事で十分戸惑っているのだから、これ以上無理強いは遠慮しよう。
「ご友人の方々がご挨拶に参りましたが、お会いになりますか?」
「えっと・・・・・・。」
友人・・・・・・。私が忘れてしまった事は伝えているだろう。私が混乱しているように、その人達も驚き戸惑っているんだろうな。記憶が自然と戻るのをのんびり待つより、いろんな人と会って会話をして、きっかけを探した方が良いのかもしれない。明日明後日に戻るとは思えないし。でも・・・・・・私は本当に記憶が戻る事を望んでいるのだろうか?
「・・・・・・・・・・・・。」
私を巣食うこの不安感は、記憶が無いからという理由だけではない。女房さん達は誰一人、私の妊娠を知らなかった。男が通っている事自体、気付いていなかった。もしも、その男(ひと)との関係が知られてはいけない事だったら。この妊娠が望まない事だったら。私にとってもその男にとっても隠したい事だったら。
『今はまだ、考えられる状態じゃない。』
今の自分では、何もかもが上手くいくような決断は下せない。記憶が戻るのなら、戻った時にどうすれば良いのか考えるしかないだろう。―――そんな、全てを先送りにした逃げに走ろうとしていたけれど。

「お待ち下さい!」
「おい!ちょっと待て!」
突然、外が騒がしくなった。どうしたのだろうと、首を傾げていたら。
「神子殿。失礼を致します。」
背の高い男の人が室の中に入って来た。と、びっくりする間も無く。
「おい!待てと言っただろうが!」
「頼忠。一体どうしたのです?」
次々と男の人がなだれ込んで来て呆然としてしまう。
「あの・・・・・・?」
説明してくれる人は誰?と最初に入って来た人を見ると。
「・・・・・・・・・。」一瞬、躊躇う様子を見せたけど、決意を固めたように私に近付き、跪いた。「神子殿。私は源氏の武士、源頼忠と申します。―――記憶を失っていると伺いましたが、私の事も覚えていないのでしょうか?」
「えっとあの・・・・・・御免なさい。」
これから何かが始まる―――緊張しながら答えると。この男の人は、真っ直ぐに私の眼を見つめて、きっぱりと言い放った。
「貴女のお腹の子の父親は、この私です。」
「・・・・・・・・・・・・。」
いきなり言われた。誰も知らないのだから、秘密だと思ったのに。その相手の男性にとっても、知られたくはない事だと思ったのに。
「「「「「頼忠っっ!!」」」」」
周りでは、他の男の人達が驚き騒いでいたけれど、頭の中が真っ白になった私には何も聞こえなかった――――――。






注意・・・本編07B&Cの続き。ゲーム終了後。
      身体の変化あり&記憶喪失。

これは課題創作ですが、向こうでは意味不明となってしまうので、こちらで連載致します。少々、長くなりますが、最後までお付き合い下さると嬉しいです。


花梨07B&C

頼忠08E 花梨09E

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