頼忠08B |
神泉苑での最後の戦いの日。 「でも百鬼夜行を祓えれば頼忠さんを守れる!」 そう言って龍神を呼んだ貴女・・・・・・その言葉の意味を教えて欲しい・・・・・・・・・。 詫び、謝罪のつもりでしたか? 感謝、だったのでしょうか? それとも・・・・・・・・・、都合の良い夢を・・・・・・見ても宜しいのですか・・・・・・・・・? 神泉苑での最後の戦いが終わった後も、以前と変わりなく毎日警護はしている。だが、貴女は多くの人達に囲まれていて、私は遠くからお姿を拝見するだけ。だから、尋ねる事が出来なかった。―――頼忠を守りたいとおっしゃった、その言葉の意味を。 崩してしまった貴女の体調も回復して、そろそろお帰りになられる日を検討し始めた日。 その日の夜も、警護の為に四条の屋敷を訪れた。 貴女がお眠りになられているその場所の見当をつけて見つめる。戦いが終わる前の日々が懐かしい。いっそ戻りたいとさえ思う。そうであれば今頃、貴女を抱き締めていられたのに。疑問を尋ねる事が出来ないもどかしさも消えるだろうに。 そんな馬鹿げた事を考えていると。 カタリ。 小さな物音がして、妻戸から貴女が出て来られた。 久し振りに貴女の瞳にこの頼忠の姿が映っている・・・・・・それが嬉しくて堪らないのに。 「頼忠さん。」 貴女の呼び掛けに。 「神子殿っ!このような刻限に室から出られてはいけません!」 口から出て来たのは、そんな心の片隅にも思っていない言葉。 「もうすぐお別れだから、一度ゆっくりお話したくて。」 貴女のその言葉が胸に突き刺さる。 『永遠の別れ・・・・・・・・・。』 「頼忠さん?どうしたんですか?寒いんですか?」自分でも顔色が変わったのが解る。「警護なんてもうしなくて良いですから、早く暖かい部屋に戻って休んで下さい!」 『もう・・・お逢い出来無くなるのですね・・・・・・・・・。』 貴女は必死で何かをおっしゃられているが、理解出来なかった。だが、着ていらした袿を脱いで私の肩に羽織らせられたその行動で、私の体調を心配しておられるのが解った。 「これは貴女が着て下さい。」袿を脱いでそれで貴女を包む。「お話なら、貴女の室の中でお聞き致しますから。」 そう言うと、有無を言わせずに貴女を抱えるようにして室に戻る。 「お話とは何でしょうか?」 貴女に火鉢の側に座るように促し、一歩離れた場所に座った。別れの挨拶・・・・・・か。苦しくて苦しくて呼吸さえ出来ない。 私の顔色の悪さに少し心配そうに眉を顰められたが、話し始められた。 「昼間も夜もずっと傍にいて支えてくれて有難う御座いました。そのお蔭で神子としての役目を果たす事が出来ました。」 表面的には『命令』で夜のお勤めをしていたが、お礼を言われるとは思っていなかった。 「身体も心も頼忠さんが守ってくれて嬉しかった。貴方に出会えて幸せでした。」 なぜ貴女は笑顔でそうおっしゃられるのか? 私を利用していただけでは無かったのですか? 誰でも良かったのではないのですか? その役目は・・・・・・私でなくてはならなかったのですか? 私の手を両手で握り締められる。 「次は頼忠さんが幸せになって下さい。向こうの世界に戻っても、祈っていますから。だから、絶対、幸せになって下さい。」 幸せ・・・・・・?私が幸せになる事を願って下さるのですか?それが・・・貴女の不幸せに繋がっている事だとしても・・・・・・・・・それでも・・・それを知ってもなお、その言葉を下さいますか・・・・・・・・・・・・・・・? 「神子殿・・・。」 振り絞るように呼べば、驚いて顔を覗き込んでこられた。 「頼忠さん?大丈夫ですか?苦しいんですか?」片手を私の手から離して額の方を触れる。「熱は無いようだけど・・・・・・。でも誰か呼んで来ますね?」 そう言って立ち上がろうとした貴女を、離さない。離せない。都合の良い夢と現実がグルグルと頭の中で回り続ける。 「あの時・・・なぜ・・・・・・・・・?」 頼忠の心配をして下さる貴女。頼忠を守りたいとおっしゃった貴女。頼忠の幸せを祈る貴女。その優しい貴女の心根に突け込む事をお許し下さい。 「よ・・・りた・・・・・・だ、さん・・・・・・・・・?」 掴んだ両手に力が入る。貴女の顔が痛みに歪むが、気になどしていられない。 呆然としておられる貴女を床に押し倒し、覆い被さると唇を重ねる。そのまま己の感情のまま、全てを奪い取る。見開いた瞳が恐怖で震えてはいるが、知り尽くした弱点を攻め続ければしがみ付いてくる。爪を立てる。次第に甘さを含んだ吐息に変化する。 申し訳ありません。 この恐怖感から逃れる為に。この苦しみを忘れる為に。貴女の熱を感じたい。貴女に・・・・・・溺れさせて下さい――――――。 一晩中、貴女の寝顔を見ていた。そして、一つの決意が固まった。 地獄のような日々には耐えられない。 絶望が現実となるその前に。 貴女が、手の届かない天へお帰りになられるその前に。 貴女を手に入れる為に全てを賭けよう。 貴女がお守り下さった、この頼忠の生命を・・・・・・・・・。 遠くで微かな物音が聞こえ始めた。 それを合図に、私は貴女の頬、髪の毛を撫でる。優しく・・・ゆっくりと。 そして。 「神子殿・・・・・・・・・。」耳元で囁く。低く・・・艶を滲ませて。「神子殿・・・・・・・・・。」 ふるふると瞼が震えてゆっくりと瞳が開かれた。 何か言葉を紡ぐ前にその唇を塞ぎ、抵抗出来ないように貴女好みの蕩けるような甘い甘い口付けを、ゆっくりと丁寧に与える。それと同時に。猛る熱を敏感な部分に擦り付ける。ゆっくりと。焦らすように。 貴女が甘い吐息を漏らすまで。我慢出来ずに強請るまで。 しゅるしゅるしゅる。 衣擦れの音が室の前で止まった。 カタンカタンカタン。 格子を上げる音が聞こえる。 そして、室に入ろうとした人の動きが―――止まった。 「お願い・・・・・・・・・。」耐え切れず呟かれた。そして、繰り返す。「ねぇ、お願い・・・・・・頼忠さん・・・・・・・・・。」 ――――――罠に落ちた―――――― 「仰せのままに。」 欲しい物を与える。思う存分に。満足するまで。貴女の声が枯れるまで。意識を飛ばすまで。 貴女に残された選択肢は二つだけ。 一つ・・・・・・私、頼忠が『神子』を穢した罪で罰せられるのを承知で、ご自分の世界に逃げ帰る。―――貴女を失えば、どうせ生きてなどいられない。 二つ・・・・・・頼忠の命を守る為、ご自分の世界を諦めて頼忠の妻となる。―――――この手で貴女を抱き締められるのなら、どんなに憎まれようと構わない。 どんな卑怯な手でも。 貴女を手に入れられる可能性があるならば。 例え、失敗してこの生命を失おうと・・・・・・後悔などしない――――――。 注意・・・ゲーム終了後。 恋を叶える常套手段―――夜這い。 『遙か』では、『斎宮』に夜這いを仕掛けた男が失敗をして大宰府に飛ばされたと言う話がありましたね。その男は上級貴族だけれど、頼忠は八葉であってもただの武士。『龍神の神子』は『斎宮』と同じかそれ以上の尊い存在。頼忠では、『神子』と契るのは許されないでしょう。普通なら―――死罪。 頼忠は、わざとみんなに知られるような行動をしました。これは、「罠」であり、「賭け」です。 |
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