花梨08B |
頼忠さんがこの私を嵌めるとは思ってもいなかった。 それほど想いが強かったと言うのか。 そんな卑怯な真似をするほど思い詰めていたと言う事か。 神泉苑での最後の戦いが終わった後、崩してしまった体調も回復してそろそろ帰る日を検討し始めた日。 夜、頼忠さんに挨拶をしようと簀子に出た。 八葉としての役割が終わった後も、今までと変わりなく頼忠さんはずっと警護をしてくれている。だけど、昼間は多くの人達に囲まれていて二人きりになる事は無かった。私は人前で話せない事のお礼と謝罪を言いたかった。それに、この地で初めて出会った人なのに、ずっと傍にいてくれたのに、ゆっくり話をした事は一度も無かったから。 「頼忠さん。」 「神子殿っ!このような刻限に室から出られてはいけません!」 声を掛ければ、相変わらず変わり映えしない言葉が返ってくる。役目があった頃とは違って夜に忍び込んでくる事も無くなったから、話をしたいと思ったら私が簀子に出るしかないのに。 「もうすぐお別れだから、一度ゆっくりお話したくて。」 私が話し始めた途端、月の微かな光の中でもはっきりと分かるほど頼忠さんの顔色は変わった。 「・・・・・・・・・・・・・・・。」 「頼忠さん?どうしたんですか?寒いんですか?」緊張が弛んだ途端体調を崩してしまう事はよくある事で、頼忠もそうなのかと心配になってしまう。「警護なんてもうしなくて良いですから、早く暖かい部屋に戻って休んで下さい!」 そう言っても、私を怖い瞳で見つめるだけ。だったらと、着ていた袿を脱いで頼忠さんの肩に羽織らせる。すると、やっと私の言っている意味を理解したようだ。 「これは貴女が着て下さい。」袿を脱いでそれで私を包む。「お話なら、貴女の室の中でお聞き致しますから。」 そう言うと、有無を言わせずに私を抱えるようにして室に戻る。 「お話とは何でしょうか?」 頼忠さんは、私を火鉢の側に座らせると一歩離れた場所に座った。生真面目なのは何時もと同じでも、どこか上の空のその様子に心配になる。だけど、次の機会は無いだろうから言いたい事だけでも伝えようと話し始める。 「昼間も夜もずっと傍にいて支えてくれて有難う御座いました。そのお蔭で神子としての役目を果たす事が出来ました。」 『夜の事』は頼忠さんを利用して弄んでいたのだから、本当なら謝らなければならないのだけれど、あの時はそれ以外の方法は無かった。罪悪感は大きいけれど、酷い事をしていたと自覚しているけれど、自分の気持ちを正確に伝えたいから謝罪はしない。 「身体も心も頼忠さんが守ってくれて嬉しかった。貴方に出会えて幸せでした。」 にっこり笑顔で言うと、信じられないと言うような驚いた顔をされてしまった。散々自分勝手な事をして振り回していたのだから、そんな私からお礼を言われるとは思っていなかったのだろう。まぁ、当然だね。 頼忠さんの手を両手で握り締める。 「次は頼忠さんが幸せになって下さい。向こうの世界に戻っても、祈っていますから。だから、絶対、幸せになって下さい。」 祈る事しか出来ないなんて、じれったくって仕方が無い。でも、言葉にする事しか出来ない。悔しくて悲しくて。何か私にも出来る事があれば良いのに。頼忠さんを幸せに出来る事があれば、喜んでするのに。 「神子殿・・・。」 その振り絞るような声音に驚いて顔を覗き込むと―――苦しそうに歪んでいた。 「頼忠さん?大丈夫ですか?苦しいんですか?」片手を頼忠の手から離して額の方を触れる。「熱は無いようだけど・・・・・・。でも誰か呼んで来ますね?」 そう言って立ち上がろうとしたのに。 「あの時・・・なぜ・・・・・・・・・?」 「よ・・・りた・・・・・・だ、さん・・・・・・・・・?」 もの凄い力で両手とも掴まれていた。痛みさえ感じたけれど、ギラついた瞳で射るように見据えられれば、何も言えなくなってしまう。 と。 気付いた時には床に組み敷かれてキスをされていた。何時もの優しくて甘いキスではなく、全てを奪い去るようなその激しさに、恐怖心さえ湧く。けれど、心は怖がっていても、身体は反応してしまう。別人のようでも慣れた頼忠さんのその唇に。その指に。その、温もりに・・・・・・・・・。 全てが終わってしまった後では。 『神子』と『八葉』という、関係が崩れてしまえば。魔法が解けてしまえば。 二度と抱き締めて貰えないと思っていた。 だからこそ嬉しくて。嬉しくて。嬉しくて。 怖くてもしがみ付く。離さないでと爪を立てる。 無意識のまま・・・感じるままに・・・・・・・・・。 愛しい男の腕の中では・・・・・・・・・もう・・・何も考えられない・・・・・・・・・・・・。 気を狂わすこの熱に身を委ねる以外・・・・・・私に出来る事は無かった――――――。 頬や髪を撫でる優しい手の感触で目が覚めた。 「神子殿・・・・・・・・・。」 先程の事は無かったかのような優しくて甘い甘いキスに、頭の中も身体も溶けていく。「お願い・・・・・・・・・。」足を絡ませ引き寄せる。そして、強請る。「ねぇ、お願い・・・・・・頼忠さん・・・・・・・・・。」欲しい物をくれるまで。 手加減してくれなくて、声を抑える事が出来ない。頼忠さんの思うまま、声を上げてしまう。枯れるまで。 その時、私は気付いていなかった。 それが・・・・・・頼忠さんの罠だと言う事に――――――。 注意・・・ゲーム終了後。 |
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