花梨07B&C



何度も何度も考える。考え続ける。だけれど、新たに生まれた悩みは解消されない。自分だけでは、解決出来ない。
これは誰に相談すれば良い?――――――千歳。彼女にしか解決出来ない。彼女と話をしたい・・・・・・・・・。

「龍神様。勝手なお願いだけれど、千歳に会いたい。話がしたい。どうか、会わせて下さい!」

シャ、ン。シャ・・・・・・ン。

鈴の音に導かれて羅城門跡に行くと、願い通りに千歳と会えた。龍神様、有難う御座います。
だけれど。
「なぜ、私を呼んだの?あなたと話をする必要は無いわ。理解し合えないのだから。」
最初からこれですか。
「でも、私達の目的は同じだよ。京を守りたいって願いは。」
「あなたは私の邪魔をしている。怨霊を封印して結界を壊す。京を守りたいって言いながら、滅びに向かっているわ。」
「私が呼ばれたのは、京の街を浄化する為。千歳が怨霊を蔓延らせなければ、白龍の神子は必要じゃなかった。私をここに連れて来たのは白龍だけれど、仕向けたのは千歳だよ。」
違う。言いたい事はこんな事じゃない。喧嘩を売ってどうするのよ?
「わからない・・・・・・。あなたとは違ってずっと一人だったから、何が正しくて何が間違っているのか、わからないの。」
「一人?ずっと一人だったの?話を聞いてくれる人はいなかったの?」
「黒龍の神子は大きな力を得る。そして、白龍の神子には八葉がいる・・・・・・。誰も私の話は聞いてくれない。」
「八葉が傍にいたって、私も一人だよ。」
ぽつりと呟いた私を、千歳は怒って睨みつけた。
「一人じゃないわ!沢山の人に囲まれて守られているじゃないっ!最初から得ていたから、それが当たり前でどんなに嬉しい事か解らないのよ!」
「じゃあ、千歳に私の気持ちが解るの?平和で安全な場所で家族や友人に囲まれて幸せに暮らしていたのに、突然、説明も無しに知らない世界に連れて来られた私の気持ちが。納得出来る説明も無しに、問答無用で『龍神の神子』の役目を押し付けられた私の気持ちが。」
溜まっていた感情が爆発した。
「八葉が傍にいるって言うけれど、『龍神の神子』を利用しているだけじゃない。誰も『高倉花梨』の気持ちを考えた事なんて無いわ。私は『龍神の神子』になるしかなかった。誰も『高倉花梨』には興味が無かったから。あなたとは違って、ここには『高倉花梨』を守ってくれる人はいないもの。」
「それでも『神子』の話は聞いてくれるでしょう?家族がいたって誰も私の話は聞いてくれなかったわ。」
京を守る『龍神の神子』の話は聞いても、何の役にも立たない『高倉花梨』の話は誰も興味が無い。それでもそれは、嬉しい事なのだろうか?
「だから?自分達にとって都合の良い言葉だけを聞いているのよ。」神子に相応しくない言動は見なかった事にしましょう、聞かなかった事にしましょうと言われ、挙句の果てに怒鳴られ蔑みの瞳で睨まれた。「『龍神の神子』でない私には、この世界に居場所は無いわ。雨露しのぐ家も空腹を満たす食べ物も寒さから身を守る服も何も無い。ただ死ぬのを待つだけなの。私には選択肢は無かったのよ、怨霊を祓うしか。見捨てられたら、生きていけないもの。」
「あなたは・・・私が想像していたような人じゃないのね。京を守りたいと言っていたのに・・・私とは違うのね。」
どんな人間を想像していたの?知らない世界を救いたいだなんて、思える訳が無い。生命を賭けてまで、守る価値なんて無い。
「守りたいと思う気持ちは本当だよ。最初は自分の世界に帰る為。」
他に帰れる方法があれば、龍神の神子になんてならなかったけれど。
「最初?今は違うの?」
「今の私には、この京に守りたい人がいるの。」
愛する男(ひと)を守る為。この京が滅んじゃうと、あの男(ひと)も死んじゃうから。あの男(ひと)には生きていて欲しいから。幸せになって欲しいから。―――身勝手な気持ちだけれど。龍神の神子に有るまじき考えだけれど。でも、それが本音。
「・・・・・・・・・・・・。」
「千歳とは違う感情からだけど、守りたいって思うその気持ちは同じ。ねぇ、戦わないで済む方法を探さない?千歳も私も孤独なのは同じだし目的も同じ、争うなんておかしいよ。」
戦いたくない。私は千歳が憎い訳じゃない。戦う必要性は感じない。
「あなたにはあなたの考えがある。私には私の考えがある。」
不安が大きくなったのだろう、青冷めたその顔が痛々しい。
「千歳。間違ったと思ったら、違う道を進んで良いんだよ?」
「間違い?私のやり方は間違っているの?」
「京の人々は苦しんでいるよ。怨霊がいる事によってその地が穢されて。怨霊に襲われて死んでいく人もいるよ。」
「もう・・・・・・遅いわ。戻れない。始めたから、終わるまでやめられない。」
「千歳!私はあなたと戦いたくないの!」
「だったら、これ以上私の邪魔をしないで。」
「それは出来ないっ!」
「あなたならそう言うと思ったわ。・・・・・・やっぱり私達は解り合えないのよ。」
そう言うと、静かに去って行く。思い詰めたような表情を浮かべながら。
「千歳・・・・・・・・・。」
折角会えたのに。言いたい事は沢山あったのに。何も言えなかった。彼女を責める言葉以外は――――――。



千歳は京で生まれて、京で育った。良いところも悪いところも含めて京を愛していて。この京を守りたいと思う気持ちは、多分、八葉達よりも強いだろう。八年前から、幼い時から悩み苦しんで辿り着いた答えだから、そう簡単には考えを改めるのは難しい。それは解るのだけれど。理解出来るのだけれど。
「自分勝手だよ。」
ろくな説明もしないでただ邪魔をしないでと言うなんて。自分がやった結果から眼を反らして、途中で止める事は出来ないだなんて。
でも。
彼女も孤独なんだね。話を聞いてくれる人がいないんだね。
「八葉が傍にいたって、私は一人だよ。」
みんな自分勝手に好きな事を言って。抱えている悩みを『龍神の神子』に聞いて欲しくて、そして救って欲しいと考えている。
「でも、私自身の・・・『高倉花梨』の気持ちを聞いてくれる人はいない・・・・・・・・・。」
役目をきちんと果たす力の強い神子。失敗は許されなくて、泣く事も許されない。迷う事さえ。白龍の願う通りに進む私の心がズタズタに切り裂かれようと、誰も気にしない。
その時、ふと心の中に一人の男の姿が思い浮かんだ。
「あ・・・・・・・・・頼忠さん。」
黙って抱き締めてくれるだけだけれど、私を支えているのは頼忠さんだ。
「・・・・・・・・・一番身勝手なのは私か。」
役目を真剣に考え始めたのは、あの男(ひと)を好きだと自覚したから。あの男(ひと)を守る唯一の方法だから。
皮肉なものね。ずっと『龍神の神子』という肩書きから逃げ出したかった。なのに、頼忠さんを縛り付けられたのは、私が『龍神の神子』だからだ。
そして、千歳に会いたかったのは私の考えを押し付けたかったから。戦わずに済めば頼忠さんを危険に晒さずに済む。私は死なずに済む可能性が高くなるから・・・・・・・・・。


でももう、戦いは避けられないかもしれない。
だったら、今から覚悟を決めた方が良いのかもしれない。

一つ一つ考える。自分にとって何が大切で、何を犠牲に出来るのか。
守りたいものは沢山ある。この『京』の運命も京に住む『人々』も。アクラムも千歳も救いたいと思う心は真実だ。
だけれど。
私にとって本当に大切なのは、あの男(ひと)、あの男(ひと)だけ。あの男(ひと)を守る為に、全てを賭ける。この私自身を捧げなければならないのなら、躊躇わない。

腹部に手を当てる。
大切だと思う。愛しいと思う。守りたいと思う。
涙が溢れてくる。
けれど・・・・・・・・・二人のどちらがより大切かと言えば・・・・・・・・・。あの男(ひと)を救う為に犠牲にしなければならないのなら・・・・・・・・・。


そんな事を考えながらも、切り捨てる事の出来ない感情が心を切り刻む。


生きたい・・・・・・、死にたくない・・・・・・・・・。
死んで欲しくない・・・・・・、生きていて欲しい・・・・・・・・・。



雪が降り出したのも気付かずに、私はただ泣いていた――――――。






注意・・・『06』の数日後。千歳との友情イベント第3。第2も含んでいたり。

次は、最後の戦いが終了した後。

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