頼忠05



一つの結界が壊れて冬が訪れ、皆が喜びで浮かれている時。
貴女一人は笑顔が強張っておられる。何か心配事でも御ありですか―――?



西の明王の課題に奔走されて、昼間貴女にお逢いする機会が無い。やたら貴女の心に入り込もうとする翡翠と一緒だと思うだけで、落ち着かない。夜が待ち遠しい・・・・・・・・・。
それなのに。
室に入ると、貴女は翡翠の香に包まれておられた。
「・・・・・・侍従の香り、か。」
思わずぽろりと口から零れ落ちる。
「ん?侍従?」首を傾げて袖の辺りの匂いを確かめられると納得したようだ。「あぁ、翡翠さんの上着を借りて着ていたから、私に移っちゃったみたいですね。」
「翡翠の上着を?」
「そう、今日は寒かったから。」
「・・・・・・・・・・・・。」
―――不愉快だ。
貴女は私の物ではない。それは解っているが、貴女に触れて良いのは私だけだ。貴女は私の匂い以外、纏ってはならない。
「あの・・・侍従の香りは苦手ですか?」
「いえ・・・大丈夫です。」
一応、そう答えはするが。醜い嫉妬だと自覚しているが、心は思い通りにならない。そんな私の態度を心配して傍に寄って来られた貴女を抱き締める。翡翠の香などかき消してやる。私の匂いだけに包まれるまで。
「頼忠さん?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
戸惑っておられるようだが、貴女は何もおっしゃらずに私の背中に腕を回された。この貴女の心の広さに、優しさについ甘えてしまう。
気にしてみれば、確かに貴女の手足は冷えておられるようだ。気付かなかった己の鈍感さが悔しい。夜中、眠っておられるのにしがみ付いてこられるのは寒かったからだろう。喜んでいた分、大きく落胆してしまう。だが、私の身体で寒さが和らぐのならば、貴女の為にほんの少しでも長く抱き締めて差し上げよう。夜が明ける直前まで。寒さで眠りが妨げられぬように――――――。



翌朝。
室を出ると、貴女付きの女房が起き出すまで待つ。
もう二度と昨夜のような思いをするのは我慢ならない。寒いとおっしゃるのなら、何とかしよう。翡翠の衣を纏うような状況にならぬように。


そして、一度武士団に戻り雑事を片付けてから、様子を窺うと言う目的を隠して挨拶に伺う。
すると。
貴女は顔を顰めて薬湯をお飲みになられていた。身体を温める薬湯―――私以外の男の衣を纏われる恐れが少なくなる・・・・・・ホッと胸を撫で下ろした。
私に気付かれると、恨めしそうな瞳で訴え掛けてこられる。私が、貴女の苦手な薬湯を用意させたのが解ったようだ。
だが、文句も言わずに涙目になりながらも我慢しておられるそのご様子が可愛らしくて愛しくて。周りに女房達がいる為、抱き締めたい衝動を必死で抑えた――――――。






注意・・・第4章前半。白虎編。

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