頼忠02



「花梨殿、今日は顔色が宜しいのですね。」
外出の供に付こうと訪れた幸鷹殿が、少し驚いたようにおっしゃられた。
「久し振りに良く眠れたので気分が良いんです。」
誤魔化すように答えていらっしゃるが、私を意識してのことか、少し恥ずかしそうにしておられるのが伝わって来る。
昨夜の事を後悔しておられないようで、安堵のため息が零れてしまう。
苦しみを和らげてくれる温もりが欲しかったのだろう。
誰でも良かったのだろうとも思う。
だが。
その相手が私だった事に後悔しておられるのではないだろうかと心配だったから。

あの時・・・。
私を必要としたあなたを憐れんだのだろうか?
疑いの眼を持って探っている相手と睦み合うなど、己のした事とは信じられない。
だが、放っておく事など出来やしなかった。
誘われるがまま、その身体に触れてしまった。
骨と皮ばっかりに痩せ細った身体は女人としての魅力に欠けるが、孤独と悲しみで苦しんでおられる事を如実に伝える。
その孤独を癒したかった。
悲しみを忘れさせたかった。
気付いた時には・・・・・・・・・・・・唇であなたの素肌に触れていた。


あの日以来。
あなたを見つめている。
だから、気付いた。
孤独と悲しみで苦しんでおられたあなたが、心を閉じてしまわれた事を。
怨霊を見ても、怖がらない。
攻撃を受けて怪我をしても、興味がなさそうで。
あの時、私の穢れを受けてしまわれたのだろうか?
あなたの御心を壊してしまったのだろうか?


「おまえのおかげで今回は楽に勝てたな。」
イサトが、怨霊を前にしても逃げ出さずに戦うあなたを見て嬉しそうに言うが。
「よく頑張りましたね。立派な戦いでしたよ。」
冷静沈着的確に指示しているあなたを幸鷹殿が誉めても。
「立派な戦いでしたよ。きっと御仏も誉めてくださるでしょう。」
泉水殿は、穏やかな微笑みを向けるが。
あなたは同じ笑顔を浮かべる――――――うわべだけの微笑みを。



あなたが私を必要としたのは・・・・・・そこに私がいたから。
その後、私の腕の中で眠るようになったのは・・・・・・私だけがあなたの苦しみを知っているから。
本当は誰でも良かったのだろう・・・・・・私でなくとも。

あの時は、何か大きな力に操られるようにあなたを抱き締めたが。
その後は、己自身の意思で抱き締める。
私があなたに教えてしまった『絶望』の意味を忘れるまで。

他の者はあなたをズルい女と罵るだろう。
私を、利用されている愚かな男と嘲るだろう。
それでも。
あなたが苦しんでおられる間は。
この瞬間だけは。
全てを忘れさせよう。
私の穢れがあなたの御心を壊してしまったかもしれないと言う不安はあるが。
一人では眠る事が出来ないあなたを離す事は出来ない。
せめて。
あなたが御一人で歩き出せるようになるまでは・・・・・・・・・。






注意・・・『1』の次の日。

頼忠01  花梨02  頼忠03

※ブラウザを閉じてお戻り下さいませ。