頼忠01



夜。
頼忠は湖の辺で立ち尽くしている花梨を見つめていた。
『龍神の神子』を名乗る少女。
武士団の棟梁の命令で「院に仇なす者か、見極める為に監視」しているが、少女が真か偽者かは自分にとってあまり関心は無かった。
棟梁の命令に従うだけ。
だが。
時々、苦しげな瞳を遠くに飛ばしているのが、気に掛かる・・・・・・。


花梨は靴を脱ぐと、湖に足を入れた。そして、深みへと足を進める。
少女が死のうとしているのが解ると、雷に打たれたような衝撃が走った。
「・・・・・・っ!駄目だ。死んではいけないっ!」
星の一族を名乗る幼い姫以外、少女を信じている者はいないのは知っている。己を含めて、接している人の全員が疑いの目を向けている事も。
それでも。
この少女がこの「京」の為に一生懸命努力をしている事は伝わってきていた。
必死に生きているあなたは死んではいけない。罪を犯した私が生きているのだから・・・・・・・・・!

助けようと水に入り、抱き締める。
何を言われてもどんなに暴れられても、腕の力を緩める事など出来ない。
『生きていて欲しい』
願うはただ一つ――――――。

「何で・・・っ!何で放っておいてくれないのっ!」
吐き出すように叫ぶあなたに。
「申し訳ありません・・・・・・・・・。」
その言葉しか言えない。
あなたを楽にして差し上げる事が出来ない。
あなたを信じる事が出来ない。
「申し訳ありません・・・・・・・・・。」
そう繰り返して言うと、やっと抵抗を止めてくれた。
だが。
あなたは・・・迷子の子猫のような悲しげな瞳で私を見つめる。
あなたも・・・『絶望』という言葉の意味を知ってしまったのですね。
私が・・・教えてしまったのですね・・・・・・・・・。

唇まで真っ青になり震えている。だが、冷え切った身体は動かすことが出来ないのだろう。
許可も得ずに抱き上げたが、もう抵抗するそぶりさえ見せない。歩き出せば、肩に頭を乗せて瞳を閉じた。
疲れきってしまったのですね。
『申し訳ありません。』
心の中で繰り返す。
女人としては背丈があるのに、幼い童よりも体重は無い。その華奢な身体はこの数日の過酷な日々を訴えているようで・・・胸が痛む。


少女の室に送り、世話をしてくれる誰かを呼びに行こうとしたが、衣を握る手を離してはくれなかった。
濡れて冷え切った身体のままではお風邪を召してしまうのに。
震えているのに。
顔を上げて私を見つめる瞳は・・・・・・・・・・・・。
あなたは―――この私を必要としているのですか――――――?






注意・・・第1章前半。

花梨01  頼忠02

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