絆〜終〜 |
花梨は花を咲かせている二本の木を見上げた。紅梅と白梅。 「ありがとう。願いを叶えてくれて。」 この木は二人の願いを掛けた梅の木では無い。だが、願いを叶えてくれる優しい木だ。花梨の言葉を伝えてくれるだろう。遠い京で美しい花を咲かせている木に。 「花梨殿。こちらでしたか。」 頼忠が近付いて来た。 「綺麗な花だね。」 「えぇ。美しい花です。」 花梨の膝の上で、花梨の上着に包まれ、忠直が眠っていた。眼が細まる。 「頼忠さん、ありがとう。」 忠直の頭を撫でながら言った。 「何がです?」 「あの日、抱き締めてくれて。忠直を授けてくれて。」 「しかし・・・、その為に貴女は辛い日々を過ごしていたので御座いましょう?」 「そうだけど。」頼忠の手に触れる。「忠直が絆(ほだし)となったから人生を諦めずに済んだの。」 「・・・・・・・・・。」 「忠直を忘れられなかった。頼忠さんの傍に来たかったの。」 「私も・・・、忠直の中に貴女の面影をずっと見ておりました。」 「忠直は頼忠さん似だよ。」 「いいえ。笑い顔も泣き顔も貴女によく似ております。寝顔なんてそっくりですよ。」 「え゛っ!?」 寝顔ですか?まさか、一晩中眺めているなんて事、ある? 「はい、寝顔です。あまりに可愛らしくて、眠るのを忘れてしまう事もあります。」 花梨の心内の疑問に微笑みながら答えた。 「・・・ばか・・・・・・。」 恥ずかしさのあまり俯いた。 「陽が少し傾き始めました。寒くならないうちに戻りましょう。」 忠直を抱き上げようと、身体を屈めて手を伸ばした。 チュッ。 隙あり、とばかりに、花梨が頼忠の額に口付けた。 「ふふふ。」 「花梨殿・・・・・・。」 頼忠はしばらくの間、呆然と額に手をやって微笑む花梨を見つめていたが、 「こんな所で誘惑なさるとは。」 そう呟いて大きなため息を吐いた。 「へ?誘惑?」 きょとんとした顔付きで首を傾げた花梨の耳元で囁いた。 「夜が待ち遠しいです・・・。」 「なっ!?違―――。」 ギョッとして勘違いを訂正しようとしたが、頼忠に唇を塞がれ、言葉が喉元で止まった。 しばらく休憩してから家に戻ったのだが、辿り着くまでの間ずっと、花梨は頼忠の背中をポカポカと殴り続けていた。 そんな忠直の側で幸せそうに痴話喧嘩する二人を、頼柾は遠くから苦笑しながら見つめていたのだった――――――。 |
注意・・・2〜3月頃。 絆(きずな)・・・絶とうにも断ち切れない人の結びつき。 絆(ほだし)・・・自由を束縛するもの。足かせ。 忠直が寝ている頭上で何やっているんだか・・・。 2007/01/31 01:13:22 BY銀竜草 取り敢えず完結です。 後日談はもう少しお待ち下さい。 2009/01/06 03:12:03 BY銀竜草 |