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「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」」」」」」 たっぷり一分。 「花梨が頼忠を襲った?」 「なんだ・・・、そういう事か。」 「あぁ、それなら神子殿はご無事と言う事ですね。」 「頼忠なら、花梨が襲ったってどうって事ないな。」 「頼忠がどうなろうが、どうでも良い。」 「姫君がご無事なら他はどうでも・・・・・・・・・?」 「・・・・・・・・・え?」 七人は頭の中で花梨の言葉を繰り返す。 『『『『『『『花梨が、頼忠を、襲った?』』』』』』』 再び、たっぷり一分経過。 「「「「「「「えーーーーーーーーーっっ?!」」」」」」」 「花梨、お前どういう事だっ?!」 「神子殿が襲ったと言うのですか?」 「神子、お前何をした?」 あっという間に、七人は頼忠から離れて花梨を取り囲んだ。 「あ、あのね。」勝真から腕を離してぺたりと座り込む。「頼忠さんが寝ていたの。私が近付いても起きないから疲れているんだろうなって思って。」 「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・。」」」」」」」自分達の差し入れた品が効果あった事を知る。だが、頼忠の寝顔を見ていた事も知ると、心は穏やかではいられない。 「・・・・・・・・・・・・。」一緒になって花梨の説明を聞いていた頼忠は悩んでいた。自分が眠っている間、何があったのか知りたい。少女の行動の意味、気持ちが知りたくて仕方が無いのだが。 『他の者達に知られたら、神子殿は恥ずかしい思いをするだろう。どこかでお止めした方が良いのではないか・・・?』 「疲れているんだから静かにしていようと思っていたんだけど、何時の間にか私も眠っちゃって。で、その後の記憶は無いんだけど・・・・・・。」花梨の説明は続く。「なんかね、頼忠さんの夢を見ていたの。」 「頼忠の夢?」 「そう、夢。私ね、夢を見ているって分かるの。だから、頼忠さんの夢を見ているって分かっていたんだけど―――。」 「神子殿、あの時私の夢を見ていたのですか?」 頼忠は、言ってはいけない事を口にしそうな花梨に、慌てて声をかける。 「うん?あの時ってどの時?」 ・・・・・・あれ?夢を見ていたかもしれない、あの時? ちょっと待って。 あの夢は本当に夢だった?それとも、現実?―――私がキスをした頼忠さんは、まさか・・・・・・まさか、本物? 「・・・・・・・・・・・・。」 花梨は俯いて膝の上に置いた手を見つめた。怖くて頼忠の顔を見られない。 自分が無意識にしてしまった行為をはっきりと理解した。 寝ている布団に潜り込まれただけでも迷惑だった事だろう。しかも、しっかりと抱き付かれていたのだから。 その上、キスされたなんて。 そりゃあ、頼忠さんは大人だからもう何度も経験しているだろうし、減るものじゃない。悪戯で子供にされた事だってあるだろうけれど、だからと言って―――――――――。 「ご・・・めんな、さい・・・・・・。」泣いたら余計困らせてしまうから我慢しようとするが声が震えてしまうのは止められない。「ごめんな・・・さい・・・・・・。」 「おい、何泣かせているんだよ?」イサトが慌てて頼忠をゲシゲシと肘で突っつく。 「わっ!泣いちゃいましたよ?」彰紋は頼忠の肩をバシバシと叩く。 「お前が泣かせたんだから、どうにかしろよ?!」勝真が頼忠を花梨の側に突き飛ばした。 「神子殿。」 ビクっ! 「神子殿。あの時、私以外の男の夢を見ていたとしたら、同じ行動を取られたのでしょうか?」 「しないっ!」間髪入れずに顔を上げて叫んだ。「頼忠さん以外にする訳ないでしょうっ?!」 花梨はつい頼忠の顔を見てしまったが、その表情に首を傾げた。『・・・あれ?何で怒っていないの?』 「有難う御座います。私以外の男にはしないとのお言葉、嬉しく思います。」頼忠は、目元を赤らめて嬉しそうに言う。 「えっ?何で?・・・嫌じゃないの?迷惑だったんじゃないの?」 「いえ、いきなりだったので驚きましたが嬉しかったのです。」 『嬉しかった・・・・・・・・・?』頭の中で繰り返す。 「・・・・・・頼忠さん?」 「何でしょうか?」 「嬉しいって言う事は・・・・・・・・・頼忠さんも私と同じ気持ちって事?」 その言葉には答えなかったが、頼忠は耳元まで真っ赤で――――――。 「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」」」」」」 周りを取り囲んだ七人は無言で二人を見ていたが。 「あの・・・。」幸鷹がぽつりと言う。「私には、頼忠が神子殿を口説いているように見えるのですが。」 「幸鷹殿もですか?私にもそう見えます。」泉水も言う。 「口説く?」泰継の頭に再び疑問が浮かぶ。「では、頼忠の言葉が『口説き文句』と言うものか?」 「そうですね。」 「しかし、特別な言葉は言っていないが?」 「特別な言葉ってお前なぁ・・・。」イサトは呆れた様に言うと、泰継の肩に手を置いた。 「『口説き文句』という専用の言葉があるのではないのか?」 「泰継・・・。それ、真面目に言っているのか?」 「普段と変わらない会話でなぜ、神子の気が乱れるのだ?」 「「「「「「おいおいおい・・・・・・・・・。」」」」」」 「今までどんなに調べても、どの文献にも載っていないのだが、お前達はどこで知ったのだ?」 『『『『『『そんな事、載っているかっ!』』』』』』 そんな周りの会話など気付かず、と言うより、自分達の他に人がいる事などすっかり忘れ去り、二人の世界を作っていた。 「あの、もし宜しければ神子殿のお好きな時に気が済むまで、いくらでも。」 「えっ?またしても良いの?」 「神子殿がそうお望みになるならば。」 「頼忠さんは望んでくれないの?」 「あっ・・・その・・・・・・。それは私からしても宜しい、という事でしょうか?」 「えっとぉ・・・。頼忠さんの好きな時に気が済むまで、いくらでも。」花梨は小さい声でそう言うと、照れ笑いを浮かべる。 『真っ赤になられて可愛らしい・・・・・・・・・。』 せっかく許可が貰えたのだから早速自分からしようと、花梨を抱き寄せようと腕を伸ばしたが。 頼忠のしようとしている気配に気付いた翡翠が、頼忠の首に腕を回して引き寄せた。 「・・・翡翠、何をする?」 頼忠は腕を外そうとするが、翡翠は余計に力を入れて外させない。 「お前は今日一日寝ていたのだから、眠れないだろう?今宵は酒でも酌み交わしながら八葉の親睦を深めないかい?」 悪意の無い笑みを浮かべて頼忠と他の八葉達を誘う。 「翡翠?」 「少々幸せを分けてはくれないかい?」 「それは良い考えですね。」翡翠の魂胆をきちんと読み取った幸鷹が頷いた。「私達の知らない事を色々と知っているようですから。」 「こいつが何を知っていると言うんだ?」勝真が興味なさそうに言うが。 「花梨が絵を描くとか。」イサトが怒ったように言い。 「花梨さんが木に登られるのがお好きとか。」彰紋も同時に言う。 「ほう?姫君の秘密を色々と独り占めしていたのかい?」翡翠は、片方の眉を上げた。「泰継殿。」 「何だ?」 「みんなで頼忠に『口説き文句』を教えてもらわないかい?実際に使った人間が一番良く知っているからね。」 「そうだな。長い間の疑問がこれでやっと解けるな。」嬉しそうに頷いた。 「・・・・・・・・・・・・。」 「ん?頼忠、どうかしたかい?顔色が悪いが。」 「いや、何でもない。それより。」話を反らすように言う。「今宵も警護をするから、酒は七人で楽しんでくれ。」 「問題無い。警護なら、今宵は式神にやらせる。心配せずとも良い。」 頼忠と両想いになれて喜んだのも束の間、なにやら八葉達は微妙な空気漂う会話が続いているのを、花梨は複雑な表情で見ていた。 頼忠と話をしたいと正直強く思うが。 『親睦を深める、と言うのなら邪魔をしてはいけないよね・・・。』頼忠が困っているようにも見えるのだが。『今までケンカばっかりしていたし、これがきっかけで仲良くなると良いけど。』 「紫姫!」 紫姫が近付いてきたのに気付いた花梨は、ぱっと笑顔になり話し掛けた。 「紫姫の占い、予想外の嬉しい出来事が起こるって、本当に当たった!」紫姫を抱き締める。「有難うっ!」 「それは良かったですわね。」紫姫も嬉しそうに言う。 「紫姫の応援のおかげで頼忠さんと両想いになれたし、明日からもっと頑張るからね!」 「そうですけれど。」紫姫は、八葉達を見回す。「親睦を深める為に今宵は徹夜で話し合うのでしたら、明日の外出は難しいと思いますわ。」神子を笑顔で見上げる、「せっかくですから、私も神子様とゆっくりお話したいですわ。」 「じゃあ、今夜はもう遅いから明日一日、二人でゆっくりしようか?」 「はいっ!」 「紫姫、大好き♪」 「わたくしも神子様が大好きですわ♪」 「泰継殿の式神なら、安心ですね。」泉水もにっこりと微笑んだ。「これで、ゆっくりと話し合い出来ますよ?」 「そうですね。親睦を深めましょう。」彰紋も楽しそうに言うが、瞳は笑っていない。 「誤解とは言え殴ってしまったお詫びに、酒の酌をやらせてくれよ?遠慮しないで飲んでくれ。」酔い潰して口を割らせる気満々の勝真。 「今までほとんど頼忠の話を聞いた事がありませんでした。今日は私達が聞きますから、何でも気が済むまで話してください。」幸鷹が生真面目に言う。 「頼忠に聞きたい事が沢山あるんだ。」イサトが睨む。 「「「「「「「まずは今日一日何があったのか、白状してもらおうか?」」」」」」」 「・・・・・・・・・・・・。」 せっかく花梨の気持ちを知る事が出来たのに。 自分から「接吻」をしても良いとの許可が貰えたのに。 みんなが憧れている少女の心を独り占め出来た事を喜んだのも束の間。 何やら恐ろしい事になりそうだ。 何でこんな事になったのだろう? いや、不愉快な気持ちになるのは解るのだが。 祝福してもらえるとは思ってはいないが。 だからと言って・・・・・・・・・! 頼忠の背中に冷や汗が流れる。 想いが通じ合った事を花梨は無邪気に喜んでいるが、頼忠の方は簡単には諦めてはくれない七人の恋敵の存在に悩む日々が続く――――――。 注意・・・『漁夫の利』の次の日、物忌みの日。 ウサギ(花梨)が狼(頼忠)を襲う、の巻。 全てを知っていた紫姫は、花梨の想い人が「頼忠」である事も知っていました。 狼がウサギを襲うのは当たり前。ウサギが狼を襲ったら面白いかな?と、ただ、それだけのお話だったのだけれど・・・何でこんなに長くなったのだろう? 甲本様に、課題創作『漁夫の利』を献上、その続編『ウサギと狼』を贈り(送りつけ)ます。そして、『ウサギと狼〜おまけ〜』はお好みでどうぞ。 あのリクエスト内容で、何でこんな「長編」となってしまったのかは、大いなる謎です。もう言い訳も弁解も致しません、つーか出来ません。 ただただ謝るのみ。「御免なさいっっ!!」 |
創作の過程 |
2004/07/23 02:54:10 BY銀竜草 |