オレたちはそんなこんなで、お引っ越しをしました。
てんとう虫くんから、新しいおうちに。
（そういうのも、引っ越しっていうのかなー？）
それはもう、いたってシンプルなお引っ越しだったけれども。
結局、部屋を借りて所持金が残り少なくなったオレたちがてんとう虫くんで運んだ引っ越し荷物は、
折りたたみ式の小さいテーブルと、ヘブンさんが大フンパツして買ってくれた小さな冷蔵庫。
波児さんからの差し入れ、お米１０キロ。
あとは、ホームレスのオッチャンにもらった炊飯器。
それと、たぶんまだ使えるはずの洗濯機（なんと二層式）。
あと、お酒と食料少しと、日用品もろもろと…。
ああ、それとお布団一式。
そんなぽっちでした。
家具もそんなわけでほとんどない殺風景な部屋だけど。
それでもねえ。
オレは、もうなんだか嬉しくて嬉しくて。
つい緩んじゃう頬を、どうにもできないくらい嬉しくて。
「なーにニヤけてんだ？」
「うん。 なんかいいなあって思って」
「何が？」
蛮ちゃんと向かいあわせで座って、小さなテーブルを家族みたいに囲んでる。
それが、すんごくあったかくて幸せなんだ。
「へへへへ〜っｖ」
「あ？ んだよ、気持ち悪りぃな」
枝豆をほおばりながら、ぐいと一杯缶ビールをあおって、蛮ちゃんが”頬を染めてにたにたしてるオレを横目で見て苦笑します。
ちなみに。
初めての晩ごはんのメニューは、コンビニで買ってきた枝豆と唐揚げ、それとビールとおにぎり。
そんだけです。
質素ー。（笑）
でもでもおにぎりはね、コンビニで買ったやつじゃなくて、うちでちゃんと炊いたご飯でオレが作ったおにぎりなんだよ！
すごいっしょ！
ちゃんと梅干しと海苔も買ってきて。
銀次特製の、特大バクダンおにぎり!!!
炊きたてのアツアツご飯にお塩をぱっぱっとふりかけて、梅干しを指先でぐぐっと押し込んで丸めただけだけど。
これがまた、熱くて。
けど、「あちあち…！ぬおおっ、熱い〜っ」とか言いつつ、みるみる真っ赤になっていく手の平でにぎにぎご飯を両手で握ってると、なんか蛮ちゃんが妙に嬉しそうでさー。
まあ照れ屋だかんね。
テーブルの前で新聞広げて胡座かいて、
「ああ、ったく！ メシ粒あっちこっちにとばしてんじゃねえよ、不器用なヤローだぜ、んっとにー！」
とかブツブツ文句言うだけなんだけど。
でも、目つきはとてもやさしいんだよね。
なんか、それも嬉しいなあって。
ああそうそう。
この、引っ越し初日で大活躍の炊飯器はね。
公園に住んでたホームレスのオッチャンがどっかで拾っておいたのを、時々オレが発電してご飯炊いてあげてたんだよねー。
でも銀ちゃんいなくなったら、宝の持ちぐされになっちゃうからあげるよーって言ってくれて。
ヤサシイんだよね。へへ。
…じんわり。
「あ？ 銀次？ どうしたよ」
「ううん、なんかみんなヤサシイなあって」
「んだよ、いきなり」
「ね、蛮ちゃん」
「あ？」
「ウチで炊いたご飯でおにぎり作ってさ、今度オッチャンたちに差し入れてあげてもいい？」
「ああ、そーだな。金なくて餓死寸前の時に、よく助けてもらったからよ。…好きにしろや」
「うん！」
「しかしまあ、よく食うなあテメー。こりゃ気合いれて稼がねーと米の１０キロぐれえ、あっという間になくなっちまうぞ」
呆れ顔で言いつつも、かぼちゃぐらいのサイズのでっかいバクダンおにぎりをしあわせそうにほおばっているオレを見て、蛮ちゃんがいきなりフッと笑いました。
んで、オレの頬のあたりに手を伸ばしてきて。
――ん？何？
「ぎーんじ。メシ粒ついてんぞ」
「んあ」
「ったく、ガキ」
目を細めて笑ってそう言うと、蛮ちゃんはオレの頬にくっついてたごはん粒を指先にとって、それをぺろりとおいしそうに食べてくれたのです。
「蛮ちゃん…」
なんだか急に恥ずかしくなって思わず赤面するオレに、蛮ちゃんがくれた照れ隠しのゲンコは、頭の横いらにコンと、えらくソフトなものでした。
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