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私釈三国志 120 孫権即位

2 天下三分
F「孫権の即位について、当然ながら蜀からは反対の声が上がっている」
A「当然か?」
F「当然だろう。孔明は、劉備を漢王朝の正統継承者と任じて、対魏の旗頭にしたンだぞ。さっきお前らの意見が一致したように、魏からはもちろん蜀の立場から考えても、コレは僭称だ」
A「……後漢の帝位を簒奪した魏を討つべく戦っていたのに、呉の帝位を認めるのは、蜀の国是に反するワケか」
F「蜀の群臣にしてみれば、これは重大な裏切り行為だ。あくまで劉氏の血統をこそ掲げる蜀の正義を明らかにすべく、国交の断絶を主張する声が上がった」
Y「『呉との国交は無益』『名分は通じないし道理に反する』と、諸葛亮伝の注にあるな」
F「云ってることは正しいな、どー考えても矛盾している。ところが孔明は『あー……認めとけ』との結論を出した」
Y「お前の人生は素直に間違っていると俺は思う」
A「政略的な判断からじゃぁ!」
F「孔明が云うには、もともと孫権は帝位に食指を動かしていた。それを見逃してきたのは、魏を討つためでやむを得ない……とのこと」
A「相変わらずフォローもナシかい……。もともと、魏へ侵攻するときに呉が一軍を出すことを期待しての同盟だったンだしなぁ」
F「ところが、劉備死後の南蛮蜂起を見ても判るように、孫権は蜀の切り崩しを狙っていた。蜀と組んで魏に当たるか、蜀を攻略してから改めて魏に当たるかのキャスティングボードを握っているのは呉なんだ。夷陵の勝戦で得たものは大きかったワケだが、それでも単身で魏に敵対する自信はない」
Y「魏が本気で攻め入ってきたら、呉には太刀打ちする策がないと?」
F「策はある。敵が来たら陸遜ぶつければいいンだから」
A「……いや、確かに策としては充分すぎますがね」
F「つまり、呉は二正面作戦を行えない。陸遜はひとりしかいないし、陸遜の代わりもいない。魏が複数方面から侵攻してくるなら陸遜に全権を委ねて防げるけど、魏と蜀が呼応して侵攻して来たら、さすがの陸遜でも防ぎきるのは難しい」
A「……つまり、蜀が国交断絶を通達したら、呉は魏に通じていた可能性がある?」
F「可能性としては高い。孫権なら『ワタクシ皇帝になりました。つきましては蜀と手を切りましたので、魏と仲良くしたいと思います』とか何とか云いかねない」
A「やりかねないのは認めるが、もー少しソフトな表現をですね……」
Y「いちおうはここまで、魏の藩国だったしな」
F「うーん、どうだろう。形式上は魏から任じられた呉王を名乗ってはいたが、さっき見た瑞兆からして220年くらいには帝位への野心が見えているし、222年からすでに独自の元号を立てていた。魏との関係は断絶していたと思えるが」
A「だいたい、魏がそれを容れるかは別問題だろ? そんな節操ナシかどうかはともかく、孫権を信用するかは」
F「いいところに注目はしたが、詰めは甘いな。この時点で呉が蜀と断交し魏に接近してきたなら、孫資辺りがそれを容れるよう進言したはずだ。複数の敵がいるなら、一方と組んで他方を叩くのは外交の基本だぞ」
Y「孔明が考えたこともコレだろう? 呉と組んで魏を討ち、返す刀で呉も討つ」
A「あー……」
F「ただし、蜀が滅んだら次は呉の番だ。孫権とてバカではないのだから、呉が生き延びるためには蜀と組むか蜀を滅ぼすかの二択だというのはわきまえていたはず。だからこそ、呉は蜀に『帝位につきました!』と打診している」
A「少しくらいおーきい態度でも許されるワケか……」
F「孔明も現状認識ができていた。呉と断交したら孫権は魏に通じ、蜀は北と東に敵を抱えることになる。純粋な国力に劣る蜀には呉を討つという選択肢ができないし、そもそも呉と蜀が争えば魏が喜ぶ。だからこそ孔明は、呉の帝位を認めると決断した。この時点での対決を避けたワケだ」
A「孔明の外交センスはさすがだねぃ」
F「ここで蜀呉が断絶していたら、天下統一に要する時間はずいぶん減っていたはずなんだが……ともあれ。そんなワケで、魏がこの即位をどう考えたのかは察することができる。蜀との関係悪化を期待して、表だっての公認はできなくても黙認していた感がある」
Y「魏のメイン級の武将の伝には、この即位に関する記述はなかったな」
F「明帝紀(曹叡伝)を筆頭に、孫権即位に関する記述はない。が、楊阜という文官が『あの連中が同盟したら十万からの軍勢が東西に張りついて我が宮廷を脅かすでしょう。一日たりとも安寧の日は起こりえませんぞ』と発言しているくらい、深刻に受け止められていたンだ」
A「従って、この時点では魏・蜀ともに孫権の即位を認めざるを得ない?」
F「そういうことになる。かくて孔明は陳震を呉に送り慶賀の意を伝え、孫権は喜び改めて同盟を誓いあっている。魏を平定した暁には、豫・青・徐・幽州は呉が、兗・冀・并・涼を蜀が治め、司隸は函谷関を境にして、天下を東西に分ける……という『真・恋姫』呉ルートエンディングの元ネタとなる計画を立てている」
Y「画餅という言葉の語源だな」
A「違うだろっ!」
F「……そういえば、その『真・恋姫』で変な記述があったな。魏の人口が三千万って台詞があったが、いったい三国時代のどこを探せばそんな人口がいたンだろう」
A「94回で自分が何て云ったのか確認してみろ」
F「後漢時代には約五千万の人口があったことは書いたが、アレはあくまで後漢書の記述だぞ? 誤解されるだろう表現をしでかしたのは事実だが、異民族の侵攻や黄巾の乱、何より長引いた戦乱の影響で、魏の人口は四百四十万、呉が二百三十万、蜀だと四捨五入して百万、総人口で七百六十万というところ」
A「今さらどのツラ下げてどんな爆弾発言しでかしていやがる、お前は!?」
Y「まぁ、『真・恋姫』は厳密な三国志ではないンだから、それはそれでいいンじゃないのか?」
F「ひょっとした時に備えて謝っとこう。名指ししますが張宝さん。そーいう次第ですので、アレが三国時代の人口だと思ってしまっていたら、ごめんなさい」

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