私釈三国志 100 劉備玄徳
8 知彼知己
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F「長々ととりとめなく話してきたが、僕が劉備をどう評価しているのかは判ってもらえたと思う」
Y「ひと言でまとめると『失敗した叛逆者』だな」
A「いつの間に手ェ挙げるのやめた!?」
F「そんな劉備は、正史三国志でこんな具合に評されている。ちょっと長いが引用しよう」
先主(劉備)は度量が広くて心が大きく、意志が強くて親切で、人物を使いこなすのに長けていた。漢の高祖(劉邦)を思わせる英雄の器だった。その国と遺児を孔明に託し、何ら疑念を抱かなかったのは、君臣の在り方としてはこの上なく、古今稀なことだった。だが、権謀・才覚では魏の武帝(曹操)に及ばず、そのせいで国は小さいものだった。しかし、敗れても破れても屈服せずに最後まで臣下とならなかったのは、そもそも武帝は自分を絶対受け入れないと考えたからで、利益を求めたというよりは(その目的もあったろうが)被害を回避するためでもあった。
F「劉備が曹操と戦い続けたのは、劉備の誤解と被害妄想に由来すると云っているンだよ」
A「劉備好きが正史を嫌うのは、その辺に原因がある!」
F「では、同時代の人々には、劉備はどう思われていたのか。それを列挙してみる」
「この大耳野郎こそがいちばん信用ならんのだ!」
呂布(裏切りのプロフェッショナル。処刑される直前に)
「たとえ曹操の奴隷になっても、劉備の上客になぞなれるか!」
張魯(漢中を治めていた道教徒。劉備と通じて曹操に当たれ、との家臣の進言に応えて)
「お前の劉備のような凡才が、どうして曹公に敵対できるか!」
龐徳(魏の武将。旧主や兄は劉備の配下。関羽に降服を促されて)
F「この辺はまぁ、ボロクソに劉備をこき下ろしておいでです」
A「呂布は仕方ないにしても、張魯は劉備になにか恨みでもあるのか!?」
F「チャプター2で『ラストでやる』と云っておいたものだ。また、本人のコメントで、龐徳が馬超に同行しなかった理由が判るかと」
A「うぐむぅ〜……」
「劉備の奴は兵法を知らん。戦争の禁忌を犯しているのだから、孫権から勝ち戦の上奏がすぐにでも届くだろう」
曹丕(魏の皇帝、曹操の息子。夷陵の戦いでの布陣を聞いて。7日後に届いた)
「劉備は凶悪な野郎でしたが、川辺でくたばりました」
曹植(曹操の息子、曹丕の弟。曹丕の追悼文にて)
「劉備は恩義に背いて巴蜀に逃げ込み、孔明は故郷の国を捨てて仁義にもとる逆賊の一味に加わった。神も人もみなその害悪を被ったが、悪行の累積で身を滅ぼすに到った」
曹叡(魏の皇帝、曹丕の息子。益州人民への降服勧告文書より。なお、むしろ孔明をこそボロクソに評している)
F「魏のひとたちはちょっと手厳しいコメントが目立つな」
A「敵なら仕方ないだろ」
F「劉曄のコメントはさっき見たから、他の軍師さんたちの意見も聞いてみよう。こんな具合だ」
「劉備は英名高く、関羽・張飛は万夫不当の勇者。孫権は彼らを使って我々に対抗するでしょう。我々が退けは劉備は孫権とも分離して勢力を伸張させ、もう手のつけようがなくなりますよ」
程c(魏の謀臣。赤壁の戦いに先立って)
「劉備は人並み外れた才をもち、関羽・張飛は万夫不当の勇者で劉備のために命さえ捨てるでしょう。私の見立てでは、劉備は公(曹操)の下にいるような男ではありません。早くに処置をなさるべきです」
郭嘉(魏の謀臣。劉備が降伏してきた際のコメント)
『なりません! 劉備を自由にしては変事が起こります!』
上記2人(劉備を袁術討伐に出すと聞いて)
「劉備は勇敢で大いなる野望の持ち主。関羽・張飛という猛者が彼を支えております。劉備に心を許されるのはいかがなものかと」
董昭(魏の謀臣。劉備を袁術討伐に出すと聞いて)
F「魏にも、劉備を割と評価しているひともいるワケだ」
A「見る奴は見ているンだな」
F「ただ、劉曄も含めて、どうしても関羽・張飛ナシでは評価できないようでな。そこが気になると云えば気になるか」
「劉備は度量の広い立派な人物で信義がある。徐州が彼を戴くことを願うのは、まことに私の希望に沿ったものである」
袁紹(英雄。劉備の徐州禅譲に関して)
「わたしでは劉備に及びません」
劉j(劉表の息子。傅巽に聞かれて)
「劉備で曹操に対抗できないなら、荊州は独立を維持できますまい。しかし、劉備が曹操に対抗できるなら、劉備は我らを処分するでしょう」
傅巽(荊州の家臣。劉jに応えて)
「劉備殿は殿の一族で、曹操の仇敵です。兵を用いることが上手ですから、張魯をきっと倒せるでしょう」
張松(蜀の臣。劉璋に劉備を呼ぶよう勧めて)
「劉備は英雄です。必ず害を成すでしょうから、益州に入れてはなりません」
劉巴(蜀の臣。劉備を呼ぼうという劉璋をいさめて)
「劉備は勇名を馳せております。招いて部将と遇すれば本人が不満でしょうし、賓客とすれば一国に二君があることとなりましょう」
黄権(蜀の臣。劉備を呼ぼうという劉璋をいさめて)
「(劉備を呼んだのは)山奥でひとりになったとき、虎を使って我が身を守ろうとするようなものだ」
厳顔(蜀の臣。劉備が益州入りしたと聞いて)
「劉備はしばしば態度を変えますから、手なずけるのは困難です。早く始末なさるのがよろしいと存じます」
呂布の部下(たぶん陳宮。劉備が降伏してきたときのコメント)
F「各地の皆さんのコメントを見たけど、好意的であれ否定的であれ劉備の能力を評価しているのがうかがえる」
A「えーっと……呉のヒトのコメントは?」
F「あぁ、じゃぁ主だった3者のものを」
「劉備は野心ある英雄、関羽・張飛といった勇猛無比な武将を従えております。いつまでも人の下に屈しているような者ではありません。この三人を一緒にはしておかず、劉備は御主君のもとにとどめて美女で骨抜きにし、関・張はワタシの配下にすれば、天下は統一できましょう」
周瑜(英雄。美周郎。孫権に進言して)
「荊州は劉表が死んだばかりで混乱しております。そこに劉備という天下の英傑がいるのですから、彼を中心に荊州をまとめ、曹操に対抗させるのがよいでしょう。私が直接参ります。遅れれば曹操に先を越されますよ」
魯粛(呉の謀臣。荊州の政情不安に乗じるべしと進言して)
「劉備は天下にその名を知られ、あの曹操でも畏れた男だ。容易ならぬ敵が国境を犯してきたから対峙しているンだぞ。国に恩を受けた諸君が共同でこの敵に当たり、外敵を除いて恩に報いねばならんのに、意地の張り合いをしてどうする」
陸遜(呉の武将。夷陵の戦いで、諸将が命に服さないのに腹を立てて)
F「周瑜は『御主君では劉備を使いこなせないでしょうが、ワタシにならできますよ』と云っているに等しい。陸遜はもっと非道いことも云っているンだが、そっちは割愛」
Y「主を主と思ってない連中だな」
A「なんだかなぁ……」
F「では、劉備の関係者のコメントを見てみよう」
「私は義兄から篤い恩義を受け、ともに死ぬと誓った仲です。あの方を裏切ることはできません」
関羽(関聖帝君。劉備の義弟。張遼に本心を聞かれて)
「劉備でなければ徐州を安定させることはできん」
陶謙(群雄。死に臨んで)
「傑出した雄姿に恵まれ、王者の才覚を備えておられる。わしは劉備殿を尊敬している」
陳登(陳珪老の息子。本心を口にして)
F「当然ながら、と云うべきか好意的な評価が目立つな」
Y「当然だろうな」
F「一方で、こんな意見もある」
「我らは互いに間違っておりました」
龐統(鳳雛。劉備をいさめたことを「誰が間違っていたのか」と聞かれて)
「劉備が天下を盗れば、人心は乱れ太平の世は遠ざかりましょう。しかしながら、世情の間隙に乗じて要害の地を得られれば、地方の君主としてはやっていける才能は持っております」
裴潜(荊州で劉備に仕えたことがある魏の文官。曹操に、劉備について下問されて)
F「これも当然ながら、と口にしよう。龐統はともかく、裴潜の台詞は演義には採用されていない」
A「……まぁ、仕方ないよ」
F「ところで、正史を読み返していて見つけた、最高な台詞がコレだ」
「ただちにことを起こさねばならん。成功すれば天下を盗れようし、失敗しても劉備くらいにはなれるだろう」
鍾会(魏の武将。魏への叛意を口にして)
Y「ぶはははははっ! やはり劉備は『失敗した叛逆者』だったというわけか!」
A「やかましいわ!」
F「まぁ、先のことを云ってしまえば、鍾会は劉備にさえなれなかったンだが……。では、長々続いた第100回、それを締めくくるのは、余人ならぬ曹操孟徳そのひとのコメントです」
A「……え、あの台詞って正史にもあったの?」
Y「お前、本当に正史を読んだのか?」
「本初のような連中は数にも入らん。いま天下にある英雄とは、君と余だけだ」
曹操(英雄)
A「英雄は英雄を知る……だね」
F「英雄は英雄を知る、だ。では……アキラ」
A「へ? ……あ、え? いいの? えーっと……続きは次回の講釈で!」
Y「よくできました(ぱちぱち)」