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私釈三国志 88 曹豹昇端

2人『誰だ!?』
F「お前ら、コーエー(当時は光栄だったが)のゲーパラ読まなかったのか? なぜ曹豹の字を知らんのだ。……フィクションだが」
Y「俺、帰るわ」
A「諦めはやっ!」
F「薄情な兄は置いといて。今回は、三国志が誇る隠れた人気者、曹豹についてですー。いくら何でもアリで知られたこの『私釈』でも、コラムでしかできんわな、こんな暴挙」
A「今さら曹豹語ろうってアホがいるとは思わなかったが、そのアホが俺の兄だと思うと情けなくて涙が出るよ!」
F「何もかもコーエーが『蒼き狼』シリーズの続編を出さんのが悪いのじゃ!」
A「曹豹関係ねェだろ!」
F「字はさておいて曹豹だが、この男は正史・演義問わず、徐州のドタバタ劇で張飛に殺される役どころだ。ただし、その一件を検証すると、劉備一党の徐州における立場が実は危ういものだったのは20回で見た通り」
A「いきなりまじめに話し始めるな!」
F「ただ、ねぇ……歴史的に云うなら曹豹がただのザコ武将だというのはどうにも事実。典韋や孫権みたいに『正史であれ演義であれよくよく見ると、どうしてこんな高い能力値なのか判らない』連中とは違って、コーエーが三國志シリーズでつけている数値に異論を唱えようとは思わないンだよなぁ」
A「だから、典韋を弱いと思ってるのお前だけだって……」
F「あー……典韋については、済まんが90回の『三国無双』で取り上げるンで、それを待ってくれ。泰永には云ったが、素で忘れてたモノがあってな」
A「ナニを」
F「この一件だけで『悪来封神』に書いたモノを覆すわけにはいかないが、下手をすれば覆す必要があるエピソードを忘れてた。我ながら、何でアレを見落とすかな……」
A「はぁ……まぁ、典韋を見直すなら不満はないが」
F「ともあれ曹豹だが、三國志Uでの武力19・知力13を皮切りに、えーっと……泰永いないから自分で計算しないといかんのか。11作の知力平均が24(最高36、最低12)、武力はちょっと高くて平均59(最高73、最低18)だな。熱狂的曹豹応援グループ『曹豹血盟軍』の事実上の創始者たる練り児山尊師に云わせると『Vの曹豹は能力値が高すぎて使う気にならない』とのことだが」
A「……どれくらいだ」
F「知力24、武力52。なお、曹豹の武力が六十代後半に届かなかったのはVまでのみ。W以降では平均69を誇る。若い頃は武侠で鳴らしていたヤンキー軍師・徐庶にも匹敵する数字(Uから11までの10作で平均68)だ。……知力平均値では70以上の差があるが(11作平均95)」
A「腐っても劉備の軍師だぜ……」
F「データはこれくらいにしておいて。さらっと云った通り、以前コーエーが出していた『光栄ゲームパラダイス』において、曹豹の能力値があまりにも低かったことに感激した練り児山なる人物が、曹豹を愛する内容の投稿を行ったところ、悪ノリしたのか同調する読者投稿が増え、編集部もこれに応えてついに『曹豹血盟軍』なるコーナーが(投稿ページの隅っこに)できた。一部で発生した曹豹ブームの火付け役になったのが、この血盟軍なワケだ」
A「ひとに歴史ありだなぁ。……つーか、こんなバカ話、ホントに『私釈』に入れるのか? 最初の頃と比べて内容がずいぶん劣化してるって指摘もあっただろ。こんなモン公表したらホントに客なくすぞ」
F「むぅ……正直やり足らんのだが、真面目なオハナシに入るか。僕にはよく判らんのだが、判官贔屓なる習性が存在している。勝者ではなく負け犬に賞賛を浴びせるものだ」
Y(ちなみにコイツは、学生時代からずっと"英雄"を"hero"ではなく"winner"と書き続けている)
A(いるンならこっちに来い)
Y(スイッチが切れてから呼べ)
F「正義は勝つ。ゆえに、敗者とは正義に反する行いをした者、つまりは悪人だ。そんなモンを称賛するのは、台詞を借りればオレには気持ちも理屈も判らん。だが、これは日本人特有のものではなく、古くから伝えられている通り『曹操が負けると喝采し、劉備が負けると涙を流す』中国人の子供もいる」
A「……云われてみれば、日本人特有の習性じゃないのか」
F「練り児山尊師が何を考え曹豹を愛する投稿を行ったのか、今となっては確認するすべもないが、発想の末端にはこの思想があったように思われる。つまりは、曹豹に対する同情だ」
A「割とアレなオハナシ、尊師やめね?」
F「ホントにひとの話の腰を折るのが得意だね、この弟は……。えーっと、気にせず続けるけど、判官贔屓の語源は九郎判官こと源義経だ。父を死なせた平家を討つべく奮戦し、実際に平家を滅ぼしたのに、腹違いの兄に謀殺された悲劇の武将……とされている野郎だな」
A「……どうしてこの兄弟は、ここまで義経が嫌いなんだろう」
F「親の仇討ちとか云い出した時点で儒者呼ばわりしても、どっからも文句は来ないような気はするが、断定はしないでおく。つまり、悲劇的な最期を迎えた人物を称賛することで鎮魂を図るワケだ。あなたは本当は素晴らしい功績を立てたンだ、だから安らかに眠りなさい……と。それが発展して、世界的に見るなら珍しい、敗者へ(勝者へのものを凌ぐ)称賛を送る習性ができたらしい」
A「……でもよ、曹豹に判官贔屓って無理がねェか? 現にコーエーは、まったく同情ナシで能力値つけてるぜ?」
F「うん、判官贔屓にはひとつ、絶大な問題があるンだ。歴史には結果で評価されるという原則がある。確かに義経は平家を滅ぼした。だが、頼朝ににらまれて弁慶以外のすべてを失って奥州に落ち延び、落ちた先で攻め滅ぼされている。さぁ、義経は英雄か? 歴史的に云うならNOだ。勝者にあらぬ者を英雄とは呼べない」
A「意見そのものへの反論はともかく、それで?」
F「曹豹をどうフォローしても、トリックスターとしての役割なンだ。高くは評価できない。ゆえに、コーエーは当時から、曹豹に高い評価をしていない。敗者を歴史的に評価するのか、感情的に評価するのか。そこが、コーエーと練り児山尊師の違いなんだよ。……まぁ、惜しみはしても高くは評価しないンだが、尊師も」
A「……つまり、究極的には練り児山なる変人がしていたことは、判官贔屓とは呼べないンじゃないか?」
F「そうでもない。実は、判官贔屓の究極型が、曹豹ともうひとりに行われたことだからな」
A「は? ……もうひとり?」
F「判官贔屓の語源となった義経以前の人物だから、それとは意識されずに判官贔屓の対象となっているのが菅原道真だ。あの御仁はあまりに悲劇的な人生、そして最期を迎えたモンだから、死後神として祭られている」
A「いや、確かに曹豹はある種の神なんでしょうがね!?」
F「うむ、恐るべきことに『曹豹血盟軍』には『曹豹は神聖にして食すべからず』という軍則がある」
A「意味が判らんわ!」
F「オレに怒るなよ。ともあれ、そういう次第だ。曹豹は英雄の器ではなかった。だが、その悲劇性ゆえに、一部のひとたちから惜しまれ、判官贔屓的な扱いを受けている。……究極的な判官贔屓を、な」
A「無理やりなこじつけにも思えるが……」
F「――そして、究極的ではない判官贔屓を受けている人物が、もうふたりいる」
A「誰だよ!?」
F「劉備と孔明」
A「…………………………あー」
F「三国志演義成立の根底には、志半ばで散ったふたりの負け犬への同情が込められている……というのは、いまさら確認するまでもないだろうね」
A「お前を相手にするのは、ホントに頭を使うな……。反論していいのか悪いのか判断できなくなる」
F「ところで、『曹豹血盟軍』への参加条件が、当時練り児山尊師から提示されている。あえて全文を引用したい」
A「入りたくねェよ」
F「まぁ聞け。次のみっつのうち、ひとつでも満たしていなければ参加は認めないと云っているのだが」

 ・リンゴが好きである
 ・リンゴが嫌いである
 ・リンゴが好きでも嫌いでもない

A「ケンカ売ってンのか!?」
F「どうだ、難しいだろう、過酷だろう……とのこと」
A「ケンカじゃなくてリンゴ売ってンのかよ……」
Y(うまいこと云ったつもりか?)
F「続きは次回の講釈で」
A「次もアホやったらアキラ逃げますからね……」

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