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私釈三国志 86 神卜管輅

F「では、演義での登場順に従って、今回は占い師の管輅さんでいってみましょう。ちなみに『恋姫』にも名のみ登場」
Y「奇人変人シリーズか?」
A「次回が禰衡とか云ったらアキラ本気で怒るぞ!?」
F「じゃぁ鄭泰……」
A「鄭泰も禰衡も石印三郎も青牛先生も第五文休もダメーっ!」
F「智鬱……」
A「智鬱築鞬も置鞬落羅もダメに決まってるでしょー!?」
Y「アキラ……何で正史読んでないのに異民族には詳しいンだ、お前? 俺でもすぐには出なかったぞ、その名前」
A「昔コイツに仕込まれたンだよ……」
F「四夷の主だった民族についてはいずれ触れるつもりなんだが」
Y「真面目なオハナシなら同席はするが、ネタなら帰るぞ」
A「冗談はほどほどにしないとアキラもヤスも席外すよ?」
F「となると、前々から臨席したいと云っていた泰永のヨメに来てもらわねばならんのかなぁ」
Y「……それは大学かどっかでやってくれ。少なくともまっとうな学術施設でないとついていけンだろうが」
F「一度本性丸出しであのヒトと語りあいたいンだがなぁ。どーいう反応が来るのか楽しみだ」
A「アキラ冗談抜きで逃げますからね!?」
Y「俺たちのこの反応がその全てだ!」
F「まぁ、あのヒトとの友誼についてはまた折を改めて深めることにして。『私釈』するよー。えーっと、管輅(字を公明)さんは、三国時代きっての占い師だ。左慈に翻弄された曹操が呼び出してお悩み解決させたンだけど」
A「正史には出るの?」
Y「わざわざ伝を立てられているな。……トンデモ話だが」
F「ある日、足が悪くなった兄弟三人が管輅に占ってもらうと、女の呪いだとの卦が出た。飢饉の折に米目当てでおばを井戸に突き落とし、石を投げ込んで殺害したモンだから、その呪いだと看破したのね。兄弟は罪を認めた」
A「あ、演義にもあるエピソード」
Y「つまり羅貫中が正史からそのまま持ってきたってコトだ」
F「あるひとが官職を辞して故郷に帰ると、家の扉の前に光があふれてきて懐に入り雷のような音を立てた。慌てて上着を脱いでも見つからず、その光はどこかに行ってしまった。どうしたことだろう、と管輅に尋ねると『吉兆です』との卦が出た。ほどなくして、その男は地方の太守に任ぜられている」
A「縁起のいいオハナシだってのは判るな」
F「あるひとの妻が病気になったので占ってみると『八月まででしょうね』との卦が出た。ところが妻は快方に向かい、準備を整えていた葬式の道具も処分したのに、ある日病気が再発し、管輅の云った通りに死んだ」
A「……管輅、何かしたンじゃね?」
F「一方で、別のひとのところでは『父が子供のことで泣くことになるでしょうが、どうにもなりません』との卦を立てた。翌日にはそのひとの息子が死んだとの報告が来て、さすがに怪しんだ父親はどうしたことかと管輅を問い詰めると、占いの講釈をして煙に巻いた。まだ納得しない父親に『五月を待ちなさい』と告げて立ち去る。すると、五月に父親は、地方の太守に任命された」
Y「こう度重なると、怪しくなってくるな、確かに」
F「管輅が怪しい、というのは判らんでもないな。でも、無害な占いもしている。ある宴席に呼ばれた管輅はみっつの箱を示された。中身をあててみろ、というお約束な宴会芸だけど、それをしっかり当てて列席者を驚かせている」
A「阿倍晴明か?」
F「しかも、この宴席のホスト相手に兵火を交え、こっぴどく打ち破っている」
A「何だそりゃ!?」
F「いや、よく判らんのだ。このホストが栄転することになったら、いきなり陣地にこもって戦闘をはじめ、弓弩を浴びせラッパを打ち鳴らし、城壁の上に立って敵を迎え撃った……云々、と書いてある」
A「どこの武将だ、どこの……?」
F「挙句に『項羽よりすげーぜ』とか書いてあっては、記述が混乱したンじゃないかって気がするンだがな」
Y「まぁ、まったく別のエピソードだからなぁ」
F「さて、演義のオハナシに入るが、そんな管輅が道を歩いていると、若者の姿が目に付いた。呼びとめて年を尋ねると十九だという。溜め息吐いて管輅は云った。『お主の命はあと3日だ』慌てて若者は、父とふたりで管輅に泣きつくけど、天命ゆえにどーにもならんと応えを渋る。なにとぞなにとぞと泣きつかれ、やむなく管輅は対策を講じた」
A「酒を肉を持って南の山に行くンだよな? そこで、碁を打っている二人組がいるから、酒食を勧める」
F「碁に夢中のふたりは勧められるままに酒と肉を口にする。ひと区切りついたところで若者はひれ伏して、なにとぞ寿命を延ばしてくださいと泣き叫んだ。二人組は『あの野郎、よけいな入れ知恵を……』と苦笑するけど、すでに飲み食いしてしまっている。賄賂を受けて何もしないわけにはいかない、と、ひとりが帳面を抜き出すと『十九』を書かれた若者の寿命の上に九と書き足して『九十九』とした」
A「北斗と南斗の二人組だったワケだ」
F「ただし、釘を刺すのも忘れなかった。若者に『管輅に伝えろ、天機を漏らせばお前もただじゃ済まんぞ、と』伝えさせる。それを聞いた管輅は、みだりに占いをしなくなったという」
A「でも曹操に呼び出されたら、占わないわけにはいかない?」
F「うむ。左慈のおこないについて意見を求められた管輅は『アレは幻術です。気にされることはないでしょう』と請け負ったので、ほっとひと息。憑き物が落ちたように気分が晴れやかになった」
A「……意外と単純だな」
F「そこで、自分や魏の王権について、また家臣たちを占わせるンだけど、あまり要領を得ない卦を立てて解答をはぐらかす。面と向かって天機を漏らすのを警戒したのかね」
A「その割には、呉や蜀についての占いはちゃんとやったよな?」
F「そーなんだよねぇ。呉では魯粛が死に、蜀は兵を挙げるとの卦には、曹操でも半信半疑だったンだけど、実際にその通りのことが起こってしまう。そこで曹操、自ら蜀に向かうべきかと占わせたところ『許昌で火災がありますので、動かれない方がよろしいかと』の卦に、警戒して(この時点では)出陣を控えたのは以前見た通り」
A「例の叛乱騒ぎだな」
F「曹操は管輅を重く賞しようとしたンだけど『火を防がれたのは大王のお力です』と、それを受けなかったという」
Y「……その辺り、正史にも書かれた本人の意思を反映してるな」
F「そうだね。……まぁ、曹操を相手にしたのは、相変わらずの悪意なんだろうけど」
A「? どういうこと?」
F「んー……今のところは気にするな、と云っておこう。そうだな……演義において管輅は、そもそも『顔の悪い大酒呑みの半狂人』と称されていた、のは覚えておくべき」
2人『…………………………』
F「お前ら、その眼は何だ!?」
A「悪気はない」
Y「本心だ」
F「こん畜生。……ところで、ちょっと真面目なオハナシを。云うまでもないと思うが、正史三国志は歴史書だ」
A「おう?」
F「つまり、その出来事が終わってから書かれたものだ。その出来事が起こる前に書かれたものは、歴史書ではなく予言書と呼ばれるのが正しい。――ゆえに、歴史書に書かれた予言は当たっていなければおかしい」
A「まぁ、間違った予言をしましたよー、なんて記事を載せる必要性はないよな」
F「当たらなかった予言には、遺される必要がない。これは、覚えておいてくれるか。けっこー重要なオハナシだから」
Y「今度は何を企んでる?」
F「さて、演義でのエピソードはともかく、正史に収録された管輅のオハナシには、どうにも作為的なものが見られる。左慈のようにトンデモなものでない、ヒトの手でできるものが多く収録されているところに、管輅に対する陳寿の悪意が見え隠れしていてな」
A「流したよ……」
F「そんな管輅に、正史はどんな評価をしているか。書き下して引用してみる」

 ――人々はみな、彼を愛しはしたが、尊重はしなかった。

2人『やっぱり……』
F「だから、その態度は何だ、お前ら!?」
Y「応えていいのか?」
F「続きは次回の講釈で」
A「また流したよ……」

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