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私釈三国志 82 五虎大将

F「いわゆる『五虎将』を全員挙げよ」
Y「張遼・張郃・徐晃・楽進・于禁!」
A「関羽・張飛・趙雲・馬超・黄忠だ! それは魏の五将軍だろ!」
Y「ナニを云う、そもそも正史にはいずれの呼称も存在せんぞ。蜀のは羅貫中が作った造語だし、魏のにいたっては統一された名称さえない」
F「呼ぶなら魏の連中は七武将と呼ばなきゃならんと思うンだが……冒頭から荒れたな。えーっと、狙い通りの反応が得られたところで本題に入るが、今回は蜀の『五虎将』について」
Y「俺、帰ろうか?」
F「ふっ」
2人『ナニを笑う!?』
F「それはともかく。さっきうまい具合に出たように、そもそも正史には『五虎将』ないし『五虎大将軍』なる呼称は存在しない。正史で上述の五人が一緒の伝にまとめられていて、それを見た羅貫中が創作した名称だな。ちなみに、これまた羅貫中が制作に関わったとされる水滸伝にも『五虎将』はいるンだけど、それは余談」
A「関羽の子孫がちゃんと加わってるのがいい感じだよな♪」
F「関羽の子孫についてもいずれ1回を割く予定だから、その辺は流してくれ。さて、もう一度確認しよう。アキラ、『五虎将』を挙げよ」
A「ん? 関羽・張飛・趙雲・馬超・黄忠、だろ」
Y「蜀の四猛将、字つきで全員挙げてみろ」
A「……………………………………………………おにーちゃぁ〜ん」
F「何で劉備びいきの連中は、孔明が死んだ後の話を何も知らんのかね……? 廖化(元倹)・王平(子均)・張嶷(伯岐)・張翼(徳子……じゃねェ、伯恭)だろうが」
Y「廖化当先鋒」
A「やかましい! ……つーか、負けるのもやむなしって面子なんですけど」
F「コーエーはナニを血迷って『三國志孔明伝』(関羽・張飛が生き残っても引退するので、この『四猛将』でもメインにせざるを得ないゲーム)なんか出したのか、いまだに判らん。つーか、話が逸れまくりだな、今回。えーっと、実は正史ではちょっと違う」
A「は? 魏延でも入ってるのか?」
F「いや、順番が違うンだ。正史三国志・蜀書の第六は『関張馬黄趙伝』になっててな」
A「趙雲最後かよ……」
F「とりあえず、その順番で見ていこうと思う。まず関羽だが、云うまでもなく呂布亡き後の三国志世界最強の武神と名高く、後世においては三界……以下略な神号まで贈られている」
A「略すな」
F「その分高慢ちきで外交ってモンができなくて死んだのは以前見た通りだ。そんな関羽に関するエピソードで、流しておいたものを見ておきたい」
A「なんかあったっけ?」
F「泰永が好んで引き合いに出す、コーエーの『三國志X事典』の記述についてだ。この『私釈』のインデックスに書いてある参考史料は『恋姫』以外10年以上前の書籍なんで、持ってるヒトが少ないンだよ」
Y「だから『お前の"逆説の三国志"は参考文献が古いから間違ってる』なんてメールが来るンだぞ。きちんと最近のも読んだなら書いとけ」
A「……逆説て」
F「まぁ、正史及び演義がいつ書かれたのか指摘したら大人しくなったが。それはともかく『三國志X事典』は96年発行だから……12年前か。書店ではまず置いてないから、そこにナニが書いてあるのかと当時聞かれてな」
A「あぁ、何か云ってたな。孔秀だっけ?」
F「うむ。関羽の千里行……えーっと、演義の二七回か。斬られた五関六将の最初のひとりなんだけど、演義を読み返すと『三國志X事典』に書いてある通り『この男がなぜ斬られなきゃならないのか、さっぱりわからない』ンだ」
A「へ? 曹操は見送るつもりだったのに、先走った連中がばたばた斬られていく下りだろ?」
F「仔細に見ようか? この孔秀、東嶺関の主将(兵五百)だったンだけど、関羽が来たと聞くとわざわざ出迎えてどこに行くのかと訊ねる。関羽ったらバカ正直に『曹操殿の許を辞し、河北にいる義兄(劉備)を尋ねに行く』と応えちまった」
Y「ここにいたのが陳羣辺りだったら『おのれ、裏切り者め!』と襲いかかってきてもおかしくないな」
F「向かう先は河北、つまり曹操にとっては敵地だから、そこに行くには曹操の手形か何か必要だ。お持ちでしょうか……と、孔秀はずいぶん物判りのいい発言をする。当然持っていない関羽が『あいにく出発があわただしく、得られなかったのだ』と応えると、このおっさんナニを血迷ったのかこんなことを云い出した」

孔秀「では、やむを得ません。ひとをやって丞相にお伺いを立てますので、しばしお待ちください」
関羽「待てぬ。邪魔立てするつもりか?」
孔秀「規則は規則ということで、特例はできません」
関羽「待つことなどできぬ! ワシの道をさえぎるつもりか!」

F「どっからどー見ても孔秀のが正しいよなぁ」
Y「なんて非道な奴だらう。このあとキレた関羽は孔秀をブっ殺し『コイツがワシを殺そうとしたからやむなく殺したのじゃ』とほざくンだぜ。この直前に山賊やってた"当先鋒"廖化が配下に加わりたいと申し出たのに『山賊はいらん』と突っぱねたのは何だったのやら」
F「廖化はダメで周倉はいいってのは何なんだろうね?」
Y「強盗はよくて山賊はよくないってことじゃないのか?」
A「お前らそんなに関羽が嫌いか!?」
F「大好きだ」
A「……とても信じられんて」
F「好きだからこそ公正に評価したいンじゃないか。関羽びいきがすぎる演義でさえ、こういう無体をしでかしているという事実から眼を背けるのは、ホントにいかがなものかと思うぞ」
Y「清濁併せ呑む曹操の姿勢を少しは見習おうぜ」
A「口に合わないと何もかも吐き出すだろー!?」
F「はいはい、仲良くしなさいなアンタたち。えーっと、アキラがキレると悪いから関羽はこれくらいにしておいて。張飛……は、ちょっとした都合で今回はパスします。93回か95回でしっかりやるンで、今は流しておいてくれ」
A「もーすぐ死ぬからなぁ……」
F「いちおう、正史の評は……あとでやるか。次、馬超。以前見た通り……このフレーズ多くて恐縮だが、馬騰と韓遂は義兄弟の関係だったが、仲違いして戦火を交えるようになった。曹操の仲裁で和睦したものの、一緒にはしておけないと判断したのか、馬騰を馬休・馬鉄とともに一族郎党(馬超以外)都に呼びつける」
A「ふんふん」
F「そーしたら馬超はナニを血迷ったのか、韓遂と組んで(つまり、都の親兄弟を見捨てて)曹操に反旗を翻す。いっときは曹操に『馬の小倅が死なねば、ワシには埋葬される土地もない!』とまで嘆かせる勢力を誇ったものの、結局大敗を喫して張魯のもとに走った。ところが現地でも『自分の家族を愛さない奴が、他人を愛することなどできません!』と重用されなかったのも前述した通り」
Y「……なぁ、これ『私釈』じゃなくて正史の記述を羅列してるだけだぞ」
F「愛情の反対は憎悪ではなく無関心です(マザーテレサのおことば)」
Y「興味ねェのかよ」
A「ええぃ、演義でも馬超は扱い非道いから期待してたのにー!」
F「そんなに馬超の活躍が見たいなら『反三国志』読んどけ。実際、馬超にはそんなに面白いエピソードが……んー」
2人『頼むから悩むな!』
F「……ひとつだけ云っておこう。実際、この件は『私釈』連載中には決着がつかないと思っているので、流したかったンだが、お前らがそこまで云うなら仕方あるまい」
A「聞きたくない、聞きたくない!」
Y「いや、ある意味興味はあるが、いったい何だ?」
F「176年生まれの馬超には、妾……つまり、正式に妻とはしていない女がいた。正史(正確にはその注)には董氏としか書かれていない女が、だ。董一族から娶ったらしいが、ホントに董氏としか書かれてないので……」
A「いや、いくら涼州人で董姓だからって、董卓とは何の関係もないだろ!?」
Y「……確か、董卓には孫娘がいたよな?」
A「名は月か?」(←『恋姫』における董卓本人)
F「いや、白ちゃんと云う。なぜか知らんが190年当時『まだ15にもなっていない』と正史に書いてある孫娘だ」
A「…………………………えーっと」
F「正直な? この点……董卓から馬超へとつながる涼州ライン(仮称)はどこまで深いのか判らんのだ。泰永が『董卓儒者説』と唱えてから一年半、涼州人に関する正史の記述を追っているンだが、どうにも底なし沼に潜っているように思えて仕方がない。しかも、これがいずれは姜維につながるワケだから、現在地は深くて六分というところで」
Y「……判った。馬超については流してくれ」
F「いいか?」
Y「種をまいたのは俺だ。検証の協力はする。それをまとめて形にするのはお前の仕事だ」
F「ありがとう。ともあれ、関羽・張飛・馬超に関する陳寿の評を、書き下して引用しておく」

 関羽・張飛は万夫不当の猛者であり、いずれも国士と称すべきであろう。だが、その欠点から身の破滅を招いたのは、道理から考えれば当然だ。馬超? 武勇を頼んで一族を滅亡に導いたのは残念ですねー。ま、(本人は)窮地を脱して安泰したのは、マシだったンじゃないですか?

Y「馬超について『誰より』マシ、とは書いてないワケな」
F「云い忘れたような気がするけど、馬超が叛乱を起こしたせいで、お父ちゃんも休クン鉄クンも一族郎党も皆殺しになってます」
Y「いや、今までに何度か触れてる」
A「ちくしょー!」
F「正史の記述で興味深いのは黄忠でな」
A「はいはい、今度は何だ!? 年寄りって記述がないンだったか!?」
F「いや、ないのは裴松之の注だ。正史における関羽の記述は、原稿用紙にすれば2枚少しだと何度も云っているが、裴松之はそれに数倍する注を施している。演義における大活躍の元ネタとして、羅貫中が重宝したであろうことは疑う余地がないンだが、黄忠にはそれがまったくない」
A「えーっと……それは、笑うところか? それとも悩むところか?」
Y「笑うべきだな」
A「その心は?」
Y「さっき野郎が云ったじゃねェか。愛情の対義語は……」
A「……あー」
F「まぁ、実はそんなに珍しくはないンだが。さっきお前らが来る前に数えたら、蜀書に独立した伝を立てられている67人中で、裴松之が一切の注を施していないのは13人いた」
Y「約2割か」
F「さて。陳寿は関張馬黄趙伝の締めで、前3人についてはさっきの通りのことを書いてるけど、黄忠と趙雲には、ふたり並べて好意的な評価をしている」

 黄忠と趙雲は勇猛果敢、武臣として功を挙げた。灌嬰・滕公の輩であろうか。

A「誰?」
F「劉邦の配下だよ。……と云っても、灌嬰は『漢楚演義』には出さなかったが。商人出身の武将で、秦・楚・臧茶・陳豨・黥布、そして呂一族を向こうに回して戦い続けた良将だな。"四面楚歌"の囲みを破った項羽を追撃した『五千からの騎兵』を率いていたのがコイツだ」
Y「出せよ」
A「いや、聞いてるだけでウキウキしてくるくらいの武将なんですけど……。じゃぁ、滕公ってのは?」
F「夏侯嬰だ」
A「何で曹操の先祖を五虎将で引き合いに出す!?」
F「ここが陳寿の面白いところでな」
A「……アキラ、トラの尻尾を踏んでしまったようです」
Y「掌の上でな……」
F「知っての通り夏侯嬰は、劉邦が逃げるときにその馬車で御者をしていた男で、項羽から逃げるときも匈奴から逃げるときも、常に夏侯嬰がいてくれたから劉邦は助かった。前漢建国の功臣ではないが劉邦にとっての最高の家臣ではあった男だ。ちなみにコーエーの『項劉記』コンシューマ版では、軍隊(最大5人の武将で編成されるユニット)にコイツがいると、劉邦はほぼ間違いなく退却に成功する」
Y「逃げ上手なのは先祖譲りか」
A「……どっちのこと云ってる?」
F「実は、趙雲の活躍はおおむね負け戦なんだ。コーソンさんの界境の戦い、劉備の長坂坡。漢中争奪で黄忠を助けに行ったのだって、味方が包囲されていたから慌てて馳せ参じたようなモンだし」
A「あー……云われてみれば」
F「信長軍団では『退くも滝川、進むも滝川』と云われたが、劉邦軍団では『退くは夏侯嬰、進むは灌嬰』だった。さて劉備軍団では……と見てみたら、実際に書いてあったよ。正史黄忠伝にも『黄忠は、常に先陣を駆けて陣地を陥落させた』と」
Y「で、負け戦担当の趙雲、と。なるほど、『灌嬰・滕公の輩』だな」
A「負け戦ゆーな!」
F「五虎次ぐ武勇を誇る魏延についても語りたいところだが、今回もうそれなりの長さになってるから、またの機会にするか」
A「ふぅ……。人選はともかく内容はアレでしたね、今回」
F「……ふっ」
A「ナニを笑う!?」
F「前回も云ったがアキラ、キミの兄がマトモなものなど書けると思うてか!」
Y「書け」
A「いや、今回充分マトモじゃねェって!」
F「いやいや、これからだ。この程度で終わっては『私釈』の名折れ。うちでなければ書かない、つーか気づかないようなことを触れておこうと思う。覚悟はいいか地雄星!」
Y「第1回でも云ったがアキラ、諦めろ」
A「そーいえば1回めでもヤスいたのね……。それで? ナニをしでかすつもり?」
F「俗に『五虎将』ないし『五虎大将軍』と称されるこの呼称だが、原文では『五虎大將』だ。――ところで、なぜ虎だ?」
2人『は?』
F「なぜ五"虎"将なのか、と考えたことはないか? 別に竜でも鳳でもいいだろう?」
Y「……はて? 考えたこともなかったな」
A「いや、えーっと……ほら、"臥竜"孔明・"鳳雛"士元がいたし」
F「趙雲は子"龍"だが」
A「えーっと……? 考えなかったな、確かに……? 何で虎……いや、強い動物って以外の理由があるのか?」
F「理由っぽいものは見つけた。偶然だったが、羅貫中がなぜ『五虎大将』としたのか、しょーもないものを」
Y「……しょーもないのか」
F「54回で触れた雨乞いの儀式、読み返してみろ」

F「(前略)大急ぎで南屏山に祭壇を築かせる。星宿二十八になぞらえた祭壇は、北には玄武の旗と北斗七星、南には朱雀の旗と南斗六星、西に白虎の旗と西斗五星、東には青竜の旗と東斗四星……」
Y「誰か『それじゃ水滸伝だろっ!』ってツッコんでやれー」

F「白虎で西斗五星だろ?」
A「だからってそのまま『五虎将』かよ!? ええぃ、真面目に聞いてたアキラがアホでした!」
F「蜀はどこにある?」
A「益州!」
Y「……中原から見ると西方だな」
A「……またこの雪男は、一概には否定できない暴論を……」
F「だから最初に云ったろ? 魏(中原から見ると北にある)なら七武将だって」
Y「玄武で北斗七星か……」
A「だから、それじゃ水滸で……ん!?」
Y「……水滸伝の制作にも羅貫中が関わっていた、だったな」
F「まぁ、そんだけのオハナシなんだが」
A「……どーしてこの雪男は、こういう反論できない屁理屈を並べるのかね」
Y「賛成できない正論、かもしれんがな」
F「続きは次回の講釈で」
A「……次が怖ェ」
Y「やっぱり俺、帰ればよかったぜ……」

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