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私釈三国志 80 曹操孟徳

7 唯才求賢
F「さて、周公とはどんな男かを先に見た。天下の才人を集めるためなら食事も吐き出して応対し、天下を保つためなら自分の悪評など意に介さなかった人物だ」
A「曹操がそれに憧れていたのはいいけど、まるで違うンじゃね? 足許にも及んでねーだろ」
F「"引き抜きメモリアル"曹操の人材収集癖は有名だが、その真骨頂が210年に出した『求賢令』だ」

 古代からの君主に賢者豪傑を用いなかった者がいたか? また、下々に出向かずに賢者を見出した者がいただろうか? 天下のためには人材が必要なのだ。
 だが、その人格は問われるべきではない。大ハーン・チンギスは自分の首を射抜いたジェベを配下に招いたじゃないか。異国の地でイヌ並みそれ以下の生活を続けながら、いまだレイモンド・ジョーンズに会えないでいる者はその辺にいないか? 才能さえあればそれでいい。オレのところに連れてこい。

A「三国志はどこへ行った!?」
F「いや、実際に曹操は、この布告文で『自分に敵対してベルトのバックルを射抜いた管仲を配下に招いた斉の桓公』や『兄嫁と不義をはたらき賄賂も取りながら、魏無知に推挙されるまで眼が出なかった陳平』を挙げているんだよ」
Y「ジェベはともかく、レイモンドが判りやすいかと聞かれると返事に困るな。シチュエーションはぴったりだが」
A「アキラ知らないけど……そいつ、なにもの?」
F「おいおい、歴史的な人物だぞ? 皮ジャンを着てレコード屋に行き、店長にレコードがほしいと云った当時17歳の青年だ」
A「どんな歴史だ!?」
F「店長の名はブライアン・エプスタイン、ほしがったレコードはビートルズの『マイボニー』。両者を結びつけたとされている、伝説的な青年だな。……まぁ、架空の人物らしいんだが」
A「だぁーっ!」
F「この辺りは演義でもはっきり書かれていて、孫権はもちろん劉備でも初見ではその真価を見いだせなかった龐統を高く評価している。親をはめてでも徐庶を引き抜いたり、謀略をもって龐徳を配下にしたりと、趣味なのか何なのか人材を集めまくっていた」
A「天下のため……じゃないのか?」
F「本人が天下を治める意思がなかったからなぁ。まぁ、清濁併せ呑む、と云うほど懐の深い男ではなかったのか、その後殺すとかはよくやったが」
A「これだから曹操は……」
F「ただし、曹操によって殺された者には、ある共通点が見いだせる。さすがの曹操でも、人材収集癖を抑えてでもそれを殺さねばならなかった共通点が」
A「(ごくっ)……拝聴しましょう」
F「敵だ」
2人『…………………………は?』
F「孔融であれ伏皇后であれ、董承であれ馬騰であれ、曹操に敵対した。ゆえに、曹操はこれらを殺した」
A「まて。徐州の殺戮に関しても……」
F「近代以前の社会において、人命とは消費財の一環だった。百姓と油は絞るほど取れる、とは日本人の台詞だが、民衆の人命を重く見るようになったのは人権意識が高まってからだ。はっきり云うが、ひとを殺したからと云って、それを理由に冷酷非道と云われたら戦争なんてできんぞ」
A「いや、1800年前だからってそんな暴言……!」
F「敵を殺すのは罪なのか? 僕には、それが判らない」
A「幸市!」
Y「待て」
A「止めるな! いくらコイツでも云っていいことと悪いことが……」
Y「お前のやろうとしていることは、お前の意見を否定することだ」
A「は?」
Y「自分と異なる意見だからと云ってそれを否定するのが、敵だから殺すのとどう違う。道義的には何も違わん。ベクトルはイコールだ。規模は圧倒的に違うが」
A「っく……!?」
Y「コイツが悪人ならお前は小悪党だ。手を出すか口を出すかの違いでしかない。……何も違わん」
A「……くそ」
F「お行儀の悪い発言だね、アキラ。……でも、僕には本当に判らない。敵のせいで腕一本亡くした身としては、敵を殺すのがなぜ悪いのか理解できないンだ」
A「……殺人を肯定する理屈は、存在してはならん。人命は世界より重い」
F「ひとつ重要な話をしておこう、アキラ。これが理解できないようなら、僕はキミを殺す」
Y「真顔だな」
F「戦争を否定していいのは、前線にいる兵士だけだ。戦わない者に戦いを否定する資格はない」
A「……どうしろってンだよ」
F「口を出すだけの卑怯者にはなるな。戦場にいないお前に、戦争を否定する資格はない」
Y「……お前は?」
F「兄としては、手を出すだけのバカにもなってほしくはないね。出した手に噛みつかれるのは僕だけでいい」

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