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私釈三国志 ８０ 曹操孟徳
３ 孔融処刑
津島屋幸運堂は【真・恋姫†無双】を応援しています。
Ａ「けどよぉ、曹操があくどいことをしでかしたのは歴史的な事実だろ？」
Ｆ「具体的には？」
Ａ「いくらでも挙げられるぞ？ 徐州を攻めては民衆を虐殺し、国舅の董承を処刑する。孔融とか馬騰とかも殺したし、懐妊中の献帝の后をも殺した。荀彧の反対を押し切って魏公になり、帝位簒奪の準備とした。漢の国是に背いて魏王になった挙げ句、国政を私物化したじゃねーか」
Ｆ「えーっと……処刑された連中から見て行くか。まず孔融だが、この孔子の子孫が尊大な人物だったのは確認するまでもないと思う。有名なエピソードがある」
孔融は十歳の折、名士と名高い李膺を訪ねた。門番に停められると「縁者である！」とのたまう。ひとまず会ってはみたものの、李膺、この少年に覚えがない。
「どんな縁者でしたかな」
「わたしの先祖（孔子）はあなたの先祖（老子：姓は李）に教えを乞いました」
居合わせた人々は孔融の言葉に感心したものの、あるひとりがからかう。
「なに、子供のころに頭がよくても、成長したらどうなるか判ったモンじゃないさ」
孔融、にっこり応えたね。
「オジサンも子供のころは、さぞかし頭がよかったのでしょうね」
Ａ「……まぁ、否定はせんな」
Ｆ「孔融については、むしろ後漢書に詳しいな。袁術が皇帝を自称したとき、曹操は、袁術の親戚だった楊彪を殺そうとして、孔融の反対『無実の者を殺すなら、二度と参内しませんぞ！』にあって断念している。これ以後、味をしめたのか何かと曹操に盾突くようになり、曹操が禁酒令を出した時は、凄まじい理論でコレに反発した」
――天地人と申しますが、そのいずれも酒とは切っても切り離せぬ間柄。古の賢帝とて、酒を呑まねば聖人となることは難しかったでしょう。ところで、殷の紂王・夏の傑王はいずれも女色に溺れて国を滅ぼしたのをご存知ないのですかな？ 酒を禁じて婚姻を禁じぬのは、さておかしな話で。
Ｙ「無茶苦茶だな」
Ｆ「ちなみに、劉備のところの簡雍が似たようなことを云っている。贋金造りの道具を持っていた、と捕縛した帰り道、通りかかりの男女を指さして『あのふたりを姦通罪で捕らえましょう』と」
劉備「そんなモン、見ただけで判るのか？」
簡雍「ええ。連中は姦通の道具を持ってますからね」
Ａ「まぁ、道具を持っているからって、必ず罪を犯すとは限らんからな」
Ｆ「その辺の事情はあとで割と重要になるンだが、ともかくとして。孔融本人がこんな態度だったのには理由がなくもない。曹操は、儒教で考えるなら孔融の上にいてはならない存在だったから、だ」
Ａ「その心は？」
Ｆ「繰り返すが、孔融は孔子の子孫で、当時でもきっての儒者だ。名門出身の知識人たる孔融に対し、曹操は『腐れチ×ポの残りカス』。血縁に由来した上下関係で社会を統治しようというのが儒教だ。その出自から孔融は、曹操を見下さないはずがない。孔融は徹底的に曹操を侮蔑していた。孔融に対して同情的な後漢書でさえ『（曹操に送った書簡の）文面は、相手を侮りバカにした言辞に満ちていた』と書いているくらいだ」
Ａ「全部、この禁酒令への反対意見みたいなモンだったワケか？」
Ｆ「というわけで、孔融は殺された。生かしておけば孔融の周りから、曹操を侮蔑する論調が広がっただろう。老子によれば、バカにされる君主は最低ランクだ。処刑した後に曹操は、わざわざ布告を出している」
――孔融は死んだが、世間にはアレの虚名を見て実態を知らない者が多い。上っ面では立派なことを云っていたが、好んで怪しげなことを行い、民衆を惑わし風紀を乱していたことに気づいていないのだ。奴は天道に背き、人倫を損ない、道理を乱した。殺すのが遅かったくらいだ。
Ａ「……そこまで云うか、とさえ思える発言だな」
Ｆ「実は、楊彪を殺そうとした、正確には曹操に働きかけて殺させようとしたのは袁紹なんだ。その時に孔融も殺すように云っているけど、曹操はそれをやんわりと断っている」
――上に立つ者が人を殺したら、それが正しかろうが正しくなかろうが周りからは私怨だと思われる。誰もが「次は自分か？」と疑念を抱くだろう。漢の高祖（劉邦）は雍歯を許して人心を落ちつかせた。その前例に倣おうじゃないか。
（雍歯については『漢楚演義』１３回参照）
Ｆ「かつて、自分を頼ってきた劉備を殺すよう勧められても、ほぼ同じ理由で殺さなかったことを考えると、曹操の本心がうかがえるな」
Ｙ「つまり孔融は、命を助けてもらったにも関わらず、それが自分の功績だと思い込んででかい態度に出たわけか？ ンで、我慢の限界に達した曹操は、ついに処刑した」
Ａ「そう聞けば、納得はできるけど……」
Ｆ「論拠というほどではないが、両者の性格と関係が判る発言を示しておこう」
孔融「父だ子だと云ってもつまりは性欲の産物。母だ子だと云っても所詮はカメの中のものを外に出したと同じだろう。いったん出したら別のものさ」
曹操「ワシは別に、孔融と親しかったワケじゃないからなぁ」
Ｆ「なお、孔融は曹操より２歳年長だった。それも考慮しておくべきだろうな」
