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私釈三国志 64 名将張任

F「はいっ、産休をいただいておりました『私釈三国志』、ようやっと連載再開になりますー」
Y「切りの悪いところで止めてたからなぁ。どっからだ?」
F「お話を益州に戻して、からかな。62回で見た通り、劉備はすったもんだの末に益州侵略を決意したんだけど」
A「……あの暴言へのフォローはナシかい」
Y「正論だろ?」
F「実際のところ、劉備が天下を盗れなかった最大の原因は、究極的には戦下手に求められるんだけど、その下手さ加減が遺憾なく発揮されたのが、この益州侵略だったと云っていい」
A「お前ら、本気で刺すぞ!?」
F「まず、劉備が関城(出城みたいなもの)を奪ったと聞いた劉璋は、雒城に劉カイ(字が出ない)たちを派遣して防備を固めさせるんだけど、劉備はあろうことか、この城を攻略するのに1年以上かかっている」
Y「出城ひとつにか?」
F「双方に理由があってのことでねぇ。劉備は戦下手、対して、劉カイ(字が出ない)はともかく、張任は『益州できっての切れ者』と名高い男だった。ために、張任が踏ん張っていたがために、劉備は雒城を抜けなかった」
A「……でも、アレが惜しい人材だったのは確かだけど、わざわざ1回を設けるか? 張繍の時も思ったけど」
Y「正史でも戦巧者ぶりは評価されているがなぁ」
F「とりあえず、演義でのイベントを順番に見ていこう。演義では、成都を出陣した劉カイ(字が出ない)たちは、錦屏山に住まう紫虚上人を訪ねるんだけど、張任は『大の男が占いか?』と鼻で笑っていてね。劉カイ(字が出ない)に云われて仕方なく庵を訪れるけど、上人『ワシゃ年寄りじゃけぇ、なーンも判らんでのぅ……』とボケる始末」
A「あぁ、張任は正しいな。帰っていいぞ、そんなジジイの相手しないで」
F「劉カイ(字が出ない)にしつこく聞かれて、上人はさらっと警句をしたためた」

 左龍右鳳 飛入西川 雛鳳墜地 臥龍升天 一得一失 天數當然 見機而作 勿喪九泉

F「劉カイ(字が出ない)が『で、俺らはいったいどうなるんです?』と聞くと、上人は『定數難逃 何必再問(運命からは逃れられないんだから、ワシに聞いてどうするね?)』と応じて寝てしまう。すっかり弱気になった劉カイ(字が出ない)は『仙人は凄ェな』と呆気にとられているけど、張任は『お前もアイツもアホか?』と相手にしなかった」
Y「なるほど、『益州で"は"きっての切れ者』のようだな。周りがアホだから」
F「というわけで、荊州軍と益州軍との間に戦端が開かれた。雒城の周りに砦をふたつ作っていたんだけど、ケ賢・冷苞は黄忠・魏延の活躍で相次いで斬られる。劉璋は慌てて、長男に外戚(兄の妻の兄)の呉懿、副将に呉蘭・雷銅をつけて送り出した。激戦に次ぐ激戦が展開される」
A「厳密には、冷苞が斬られたのは呉懿たちが到着してからなんだけどな」
F「しかし、この激戦の最中に、あろうことか龐統が戦死を遂げる。享年、わずかにして36」
A「ぅわ、あっさり殺した!?」
F「実は、これに先んじて馬良が荊州からやってきて、孔明からのお手紙を持ってきていた。荊州には何の心配もありませんと前置きした上で『癸巳(注 干支のひとつ。213年)は北斗が西にあって危険デスから、雒城攻めには気をつけるデスよ?』と書いてあったのね」
Y「演義において、孔明の天文は百中を誇ってたか」
F「ところが龐統は面白くない。孔明め、俺が蜀を盗って功績を挙げるのを妬んで、こんな書状を書いてきたんだな……と邪推する。というわけで『ナニを仰る、北斗が西にあるということは殿が益州を獲られるということでありましょう!』と、むしろ劉備をけしかけた」
Y「なぁ、客観的に云うと龐のセンセ、手柄に眼がくらんで暴走してるようにしか見えねーんだが」
F「……否定する余地はないな」
A「お前らそんなに劉備一家が嫌いか!?」
F「いや、だって。いざ雒城攻めに際して、劉備・黄忠と龐統・魏延の二手に分かれたんだけど、乗馬が暴れて龐統はひっくり返るんだぞ? コレは不吉だと劉備の白馬を借りて山道を進めば、そこが落鳳坡というのに半ばまで進んでから気づいて、挙げ句に張任から『あの白馬が劉備だ! 射て射て殺せ!』と矢を射掛けられてるンだから。そこまで露骨に死亡フラグが立ってたら、引き下がるのも勇気だろうに」
Y「あれ……? 的廬って白いのか?」
F「的廬ではない別の馬らしいよ。急に出てきた白馬だな。しかも、先行していた魏延は、後ろから龐統の本隊が来ると思って、呉蘭・雷銅・張任(追いついた)に包囲される始末だ。下手をすれば魏延まで、そのまま死んでいたかもしれないんだから……黄忠に助けられたんだけど、ここでの張任の戦果は、実際凄まじいものだったわけだ」
A「がるるるーっ……」
F「関城まで下がった劉備軍は、黄忠の進言で関平を荊州に戻し、孔明を呼んだ。その間、堅く守って張任の挑発に応じない。呼ばれた孔明は、来たのが関平だったことから荊州を関羽に任せ『曹操は攻めてもいいけど、孫権とはくれぐれも仲良くなさいっ』と云い残して、張飛・趙雲とともに出陣した」
Y「正史でも、龐統は乱戦の中で射殺されてるな。相手が張任だったという記述はないが」
F「うむ。で、正史では、孔明・趙雲はそのまま西進、張飛はちょっと南に逸れて、厳顔を降伏させてそれぞれ進んでいるけど、それは次回だな。演義では、張飛が先行して、趙雲が水路、孔明は簡雍・蒋琬らを率いて後詰を張る。厳顔を張飛が降伏させて、その管轄下にあった関所をフリーパスし劉備のもとにたどりついたのは、ほぼ正史の通りだな」
Y「最近、新キャラ多すぎんか?」
F「これでも控えてるんだけどなぁ。そのままぱっと死ぬのと、後で関わってくるのと、それなりに重要な連中しか出してないンだから」
A「あー、もぉ……。このペースじゃ120回でも終わらんような気がしてきたぞ」
F「気をつけてます。さて、焦れた劉備は雒城への攻撃を再開した。篭城した張任は、劉備軍が疲れ果てたのを見て取って、呉蘭・雷銅に黄忠・魏延を任せ、自分で劉備の本隊へと攻めかかる。戦下手を遺憾なく発揮した劉備本隊は総崩れで、劉備は単身逃げようとするも、張任逃がさんと追いかける」
A「珍しいことに、ここでは劉備、追いつかれるんだよな? 逃げ上手で知られてるくせに」
F「うむ。コーエーの『三國志11』ではZOCの影響を受けずに移動できる『遁走』のスキルを持ち、『SWEET三国志』では『こいつ武将やないわ!』とまで云われた『逃げることなら大陸一』の劉備に、張任は追いついている。劉備を負かした敵将は数多いが、逃げる劉備に追いついたのは、呂布(それも、赤兎馬に乗っている)と張任だけだ」
A「……ぅわぁ、凄いのか凄くないのかはともかく、張任がマジで只者じゃないような気がしてきた」
F「そこには張飛が駆けつけて、事なきは得たんだけど……ね。ともあれ、張飛の活躍で呉蘭・雷銅の部隊は降伏。続く戦闘でも大暴れするけど、今度は張飛が張任・呉懿に包囲される。つまり張任の策にはまったんだけど、その背後から趙雲が攻めかかり、呉懿を捕らえる。でも、肝心の張任は取り逃した」
Y「粘るなぁ」
F「呉懿も劉備に説得されて降伏したんだけど、呉懿が云うには『劉カイ(字が出ない)はともかく、張任は凄い奴ですからねぇ。アイツがいる限り、雒城は陥ちませんよぉ』と請合う。孔明が『じゃぁ、張任を捕らえるのが先かな?』と云うと『このひと、頭悪いのかねぇ?』と考えるほどだ」
A「でも、今度こそ張任も一巻の終わりだったろ? 孔明の策の前に、なすすべもなく」
F「劉備・張飛・趙雲・黄忠・魏延・厳顔に孔明自らが出陣して、やっとの思いで捕らえたのに『なすすべもなく』とは大きく出たな」
Y「羅貫中は、そんなに張任が好きだったのか?」
F「何なんだろうね、この勇者は……。かくして、すったもんだの末に劉備の前に引き出された張任だけど、いくら説得されても頑として降伏しない。劉備は惜しんだものの、孔明が張任を斬った」
Y「龐統の敵討ちか?」
F「……劉備は、龐統が死ぬ前夜に、神人に右腕を砕かれる夢を見ていた。龐統本人はそれを笑って聞き流したものの、やはりフラグだったわけだな。かくして、上人の云った通り、鳳は地に墜ち、臥龍は天に昇った」
Y「その鳳が誰だったのかは、さておいて……だな」
F「劉禅以外の蜀の武将を思いっきりひいきして、蜀に降らない武将には悲惨な死に様を遂げさせている『反三国志』でさえ、張任を名将と讃えているからなぁ。大まかな流れ以外演義に準じていない『SWEET三国志』でも、張任の最期はしっかり描かれている。こういう渋い脇役が、三国志人気の秘訣ではなかろうかと僕は思う」
Y「……ふん」
F「ともあれ、討たれた張任の名節を讃えた賛詩が残っている」

 烈士豈甘從二主 張君忠勇死猶生 高明正似天邊月 夜夜流光照雒城

F「あえて訳す必要はないと思う」
A「……だな」
F「続きは次回の講釈で」
Y「……台無しにして悪いが、訳してくれんか?」

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