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私釈三国志 59 竜鳳集結

F「周瑜の死は歴史にとっては損失だったが、三国の群雄たちにとっては朗報だった……とは前回述べた」
A「演義では孔明の引き立て役みたいな奴だけどなぁ」
F「正史において……というか、歴史においては、三国時代に冠たる武将だったんだよ。ところで、以前さらっと『三国一の美男子』が顔良だと触れたけど」
A「待て」
F「はい、違いました。ごめんなさい。……では、三国志でいちばん顔の悪い武将って誰だろう」
A「……張松かな」
Y「月英も捨てがたいんじゃないのか? 正史でも醜女と書かれてるくらいだし」
A「武将じゃないだろ」
Y「それを云うなら、張松は文官だぞ。武将ではない」
A「そーいうへ理屈こねないの!」
F「はいはい、仲良くしなさいアンタたち。……しかし、それを云われると辛いな。外見がさっぱりしないという意味で、上位に喰いこんでくるのが龐統なんだけど」
A「……軍師だな」
F「前回見た通り、周瑜は遺言で、自分の後継者に魯粛を指名していた。……さて、どう思う?」
A「見劣りするよなぁ……」
Y「比べるのも酷な話だがな。前任者が偉大すぎるという問題を抜きにすれば、まぁ使ってもいいというレベルか」
A「でも、孔明や曹操と太刀打ちできるとは思えないよ?」
F「本人はともかく、孫権もそう思っただろうな。その昔、講談社から『SWEET三国志(片山まさゆき、全5巻)』というのが出ていたんだけど、コレの魯粛は半魚人で、孫権は魯粛を見たものの、周瑜の屍にしがみついて『おまえじゃダメや〜〜〜〜』と泣き叫ぶ始末だ」
A「あ、全巻そろってるの? 出して出して」
F「えーっと、2番のダンボールに入ってると思うけど。まぁ、魯粛にも周瑜には及ばない自覚があった。そこで、魯粛は自分の代わりの軍師を孫権に推挙する。それが、余人ならぬ"鳳雛"こと龐統だった」
Y「孔明と並び称される、っつーふれこみだが、正直どれほどのものかって気もするがなぁ」
F「まぁ、演技はできない体質みたいだな。曹操はともかく徐庶はだませなかったし、周瑜の葬儀から帰還しようとした孔明を『おのれ、周瑜の仇!』と襲いかかって、でも孔明は平然としていた、なんてこともあったから」
A「襲う気、あったのかな?」
F「ないだろ。周瑜が死んだ以上、龐統は江東に義理がないわけだから。そこで孔明は『フリーなら劉備軍に来なよ』と紹介状を書いて龐統に渡したんだけど、その前に魯粛の紹介で、孫権に会ってみた」
A「例の会談だな」
F「うむ。孫権に拝謁した龐統だけど、風采が上がらない……つーか、顔が悪いモンだから、第一印象は最悪。それでも孫権は『お前は鳳雛などと呼ばれているが、お前と周瑜とどっちが上だ?』と尋ねる。上記『SWEET三国志』の、3巻196・197ページから、コレへの返答を抜粋する」

『ジュワイオクチュールと瓦でしょう』
『ジュワイ・・どっちがオクチュールや?』
『あなたは今まで瓦の上にいた朝日ソーラーみたいなもんです』
注 『SWEET三国志』では、孫権や周瑜といった呉の武将は大阪弁(作中では『呉国なまり』)で喋る。

F「まぁ、孫権でなくても怒るわな」
A「そりゃそうだろう!」
F「仕官かなわなかった(というか、見るからにその気はなかった)龐統は、魯粛に『曹操のところに行こうかなー?』と云い出すんだけど、そんなコトされたらたまったモンではない魯粛は、紹介状を書いて劉備のところに行かせた。ところが龐統、持たされた紹介状を2通とも出さずに劉備に拝謁し『軍師いらない?』と申し出た」
A「でも、劉備も龐統の外見が悪いのを気にして、やんわりと閑職に回すんだよな」
F「外見にこだわらずその発言を評価して、三公の一隅に加えるとまで云ってのけた曹操とは、あまりにもかけ離れた対応だな。この辺り、曹操と、劉備・孫権の人材対応の限界の格差が見て取れるんだけど」
A「ぐぬぬ、反論できない……」
F「というわけで龐統は、130里離れた耒陽県の県令に任じられた。ところが、任地に赴任しても龐統は、酒ばかり呑んで政務を執らない。百日もそんなことをしていたモンだから、民衆は劉備のところに訴えた。あの県令は仕事をなさいません、と。聞いた劉備は、張飛に巡察に向かうよう命じる」
A「孔明は?」
F「地方巡察に出てたんだ。そんな孔明と同じ任務に就くわけだから、張飛はご機嫌。通りかかりの孫乾に自慢したところ、孫乾は劉備のところにすっ飛んで行って、同行する手はずを整えた」
A「まぁ、お守りは必要だよな……」
F「耒陽県に到着した張飛(と孫乾)を、民衆は『長官様じゃ長官様じゃ!』とお出迎えする。問題の酒びたり県令を裁いてもらおうと、みんなで喝采だ。気分がいい張飛を、龐統は酒でもてなそうとするものの、さすがに張飛に怒られて『では、政務を片付けてから一献いくか』と云いだした」
A「とりあえず、酒からは離れられないんだね……ふたりとも」
F「お白州には、まず借金に絡んだ傷害事件で、関係者28人が勢ぞろいしていた。出てきた龐統は、ヒゲをいじりながら全員一斉に喋らせていたものの『そこまで!』と声を上げると、その全員が納得する判決を下した。続いては関係者が36人だけど、これまた全員が静まり返る名裁き。聖徳太子や大岡越前の故事が、龐統から来たというのは最近中国で云われている新説だけど、説得力あるよね」
A「それ、日本国内で口にしていいのか?」
F「悪人連中は震え上がって、少しでも罪を軽くしてもらおうと次々と自首する。中には、懇意の牢番に頼んで先に棒刑を受けてから白州に出頭する、という悪知恵の者までいた。百日分の政務などあっさり終了してしまい、張飛も孫乾も民衆も声もなかった。口々に云いあう……『やぁ、県令さまが酒びたりなんて嘘だろう? きっと、毎日下調べをなさっていたに違いない』とか何とか。お白州が跳ねて龐統は、ようやっと張飛に例の紹介状2通を渡す」
A「ぅわ……いちばん効果的なタイミングでンな真似を」
F「喜んだ張飛は、酒も呑まずに孫乾も置いて、一路劉備のもとに帰還する。ハラづもりはこう……『龐のセンセが軍師になれば、酒呑み同士オレと気があう。孔明の野郎は趙雲ばかり使いたがるが、センセはきっと、オレを重用するぜ!』という次第だ」
Y「ノンダクレはこれだから……」
F「一方、巡察から帰ってきた孔明に『龐統はどうしました』と聞かれた劉備は『あぁ、同姓同名の別人が来たが、本人はまだだぞ』と応える。孔明は呆れて、龐統を招いた経緯を説明する。そこへ、張飛が"ひとりで"帰ってきたと聞いたものだから、劉備は『嗚呼、何ということだ! バカの義弟が龐統どころか、孫乾まで殺してきやがった!』と天を仰いだ」
A「鈴々ったら、お茶目さん……じゃ、すまない事態だな」
F「だから、真名を出すな。問題の紹介状を受け取った劉備は、そういうコトではないと判ったものの、劉備としては気が気でない。とりあえず龐統を呼び寄せると、孫乾に付き添われて出頭した龐統は、皮肉たっぷりに県令の正装で現れた。ついに劉備は泣きながら『先生、済まなかった!』と平伏するのに、龐統は龐統でわざとらしく平伏する。臨席していた張飛は龐統の味方なモンだから、当然フォローしない」
A「非道っ!」
F「さすがに孔明がフォローしようと口を挟むけど、龐統、孫乾にこちらはどなた? と尋ねる始末だ。孔明殿ですとの応えに、龐統はなおさら平伏して声を張り上げた」

『や、これは軍師。落第県令龐統、ただいま参りました』

Y「耒陽だ!」
F「おあとがよろしいようで」
Y「やかましい!」
F「この辺りは、いつも通り柴堆ものでのオハナシになります。三国志平話という民間伝承では、龐統は、長江流域の諸郡を率いて劉備に弓引くという、さらに凄まじい真似をしでかしているんですけど、まぁそれはさておいて」
Y「それはそれで見てみたい気はするが……前回シリアスに終わった反動で、今回ギャグなのか?」
A「あははっ、くふふっ……あー、笑った笑った」
F「亡き水鏡先生は云った。"臥龍"・"鳳雛"のいずれかでも得られれば、天下を治めることもできよう、と。そのふたりをいながらにして配下とした望外の喜びに、劉備は漢王朝復興の大志を改めて誓うのだった」
A「だから、いきなり締めに入るな!」
F「続きは次回の講釈で」

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