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私釈三国志 53 謀士競演

F「前回、赤壁について正史での記述を見たところ、どうにも面白いイベントが多くて困る」
A「違いない♪」
Y「笑えない……」
F「まぁ、火攻めで曹操軍を退けようとしたのは、正史・演義で共通している。つまり、演義が正史に準じたことになる。それを献策してきたのが、孫堅の代から仕える宿将・黄蓋だった。実際にやったことは前回見たけど、演義ではさらに、これに苦肉の計を重ねている」
A「鞭打ちだよな」
F「うむ。軍議の席で周瑜を罵倒し、怒った周瑜は黄蓋をムチで打てと命じる。周りが押しとどめたのでやむなく予定の半分で済ませたが、これには諸将も非難ごうごうだった。本陣に戻った周瑜は、やってきた魯粛に、孔明は何と云っていたか確認すると『アレはさすがにやりすぎだったのでは、とおっしゃっていました』との答え。周瑜は手を叩いて『やった、ついにあの男を欺いた! 実はさぁ、アレ計略なんだよ! 孔明先生まで引っかかったなら、曹操だって欺けるよ!』と大喜びする」
A「で、ひとのいい魯粛は冷や汗かくんだよな。魯粛は孔明から『私が云ったのはナイショですよ? アレは苦肉の計で、黄蓋殿は提督と申しあわせているはずです。私が見抜いているって聞いたら、この計を中止して、黄蓋殿が打たれ損ですから』と云われていたモンだから」
F「確実を期すなら、諸将の前で黄蓋をフォローすべきだったんだけどなぁ。この時点で周瑜に意見できるのは、孔明ひとりだったんだから。周瑜もその場で、自分の策が上手くいくと喜んで、鞭打ちの回数を減らしたかもしれない」
A「……お前を敵に回したくないってのは、俺の本心だからな」
F「ありがとう。さて、というわけでボロになった黄蓋から、曹操のところへ使者が送られる。これこれこーいう次第で周瑜に辱められたから、いっそ曹操軍に降伏したい、と。さすがに曹操だけあって、一度はこれを疑うけど、使者の弁舌にごまかされて、ついには降伏を受け入れるに到った」
Y「演義の曹操は、今ひとつ割り切りがなぁ」
F「というか、演義ではその前に、ちょっとしたイベントが起こっているのね。以前見た通り、曹操軍の水陣は蔡瑁が指揮していて、まともに戦っては周瑜でも苦戦は免れない。どうしたものかと悩んでいた周瑜のところに、昔馴染の蒋幹が尋ねてきた。曹操に仕えていた蒋幹が……? と怪しんだ周瑜は、すぐにこの男を使って蔡瑁を除く策を立てる」
A「蒋幹……あぁ、周瑜を説得して降伏させると豪語した縦横家か」
F「弁舌の徒がイコール縦横家と思うのは、かなり間違いだと思うんだけどなぁ。まぁその通りで、周瑜を降伏させようと勢い込んで乗り込んできた蒋幹だけど、周瑜が『やぁ親友! 来てくれて嬉しいよぉ』と手離しで喜ぶわ、自軍の中を連れ立って歩くわ、宴席まで設けてくれるわ、挙句の果てに太史慈に例の剣を渡して『今宵は友情の宴、曹操だ戦だとほざく輩は斬って捨てろ!』と云い出す始末。降伏云々と云える状況ではなくなっていた」
A「完全に、場に呑まれたわけだねー」
F「余談になるが、周瑜は音楽に通じていて、たとえ酔っ払っていても些細なミスに気づいて『そーじゃないっ!』と叱りつけたとか。また、この宴席では自ら剣をとって歌いながら踊っている。『勝ったから、オイラご機嫌! だから呑んで酔って歌うのさ〜!』って歌」
Y「詩才はなかったようだな」
F「いや、たぶん僕の記憶がまずいんだと思うけど。そんなわけで同衾した蒋幹だけど、とても寝られる気分ではなかった。寝息を立てている周瑜を、いっそ扼殺して帰ろうかと思ったものの、ふと眼についたのは蔡瑁からの書状。いずれ折を見て曹操の首を獲ると書かれている。そんなモン見つけて驚愕しているところへ、兵士がやってきて周瑜を起こし、蔡瑁から使者が来たと告げる。もはやこれまでと、蒋幹は朝を待たずに曹操軍に戻り、曹操に注進した」
A「で、曹操は蔡瑁一党を切り捨てたものの、その直後に『……あ、殺っちまった!』と愕然とする、と」
F「有名なイベントだな。そんなことがあってから、蔡瑁の弟(いとこ?)が降伏してきた。蔡瑁が無実の罪で殺されたから、その仇を取りたいと云ってきたんだけど、もちろんそれは曹操の策略。内応させようという策で、こいつらから黄蓋がムチで打たれましたと書状が届いていて、曹操は最終的にその降伏を信じるに到ったワケだ」
Y「よく考えてみたら、単純な計略だな」
F「んー……」
2人『頼むから、ここで悩むな!』
F「ともあれ、蔡瑁の弟たちは甘寧に預けられるんだけど、周瑜は甘寧に命じて、黄蓋に同情して曹操に誼を通じたがっているような言動をさせる。果たして弟乗ってきて、自分たちの企みを甘寧に打ち明けるのでした」
A「敵ながら、もうちょっとマシな人材はいなかったのかって思う……」
F「さて、キツネとイタチが化かしあっていたそんなある日、またしても蒋幹がやってくる。今度は周瑜、有無を云わさず『君のせいで蔡瑁たちが処刑されたじゃないか!』と、蒋幹を山小屋に閉じ込めた。監視は緩かったので、どうしたものかとうろうろしていた蒋幹は、ふと他の小屋を見つけ、訪ねてみた。そこにいたのは、タヌキと並び称される荊州の"鳳雛"こと、龐統であった」
A「曹操と周瑜のどっちがイタチだ?」
F「名誉挽回と喜んで、蒋幹は龐統を曹操のところに連れて行く。曹操は名高き"鳳雛"を『先生の智謀は高々と聞き及んでおりました!』と喜んで迎える。……まぁ、周瑜と組んでの策略だったんだけど」
A「しかし、何で"鳳雛"が周瑜の策に乗る?」
F「どうにも、当時は呉に仕えていた形跡があるんだよ。つーか、このあと龐統は曹操に家族の安全を求めているから、たぶんそういうコトだったんじゃないかな。周瑜に、家族を人質に取られて」
A「……ぅわ、やりかねねェ」
F「というわけで陣形の手直しを進言した龐統だけど、ふと曹操に『ところで、陣中に腕のいい医者はおりますかな?』と尋ねる。慣れない風土に耐えかねて、病を発する者が多いと、龐統は見抜いたんだね。頭を抱えているのです、と応えた曹操に、それでは船を鎖でつないで揺れないようにしてしまえば、馬でも走れるようになるでしょうと云いだした」
Y「冷静になって考えてみると、かなり無茶苦茶云ってるように聞こえるんだがなぁ」
F「しかし、曹操それしかないと判断し、船を鎖でつなぐように命じる。これで大丈夫と喜ぶ曹操に、龐統はさらに(家族の安全保証を確約させてから)、江南の豪族を説得してきましょうとまで云い出した。曹操は平伏して、勝利の暁には龐統を、三公の一隅に加えるとまで云ってのけた」
A「どんだけ龐統が気に入ったの、曹操は?」
F「気持ちは判らんでもないがなぁ。ところが帰り道、龐統は突如『丞相はだませても、このオレはだませねェっスよぉ!』と羽交い絞めにされる」
Y「おい」
F「……あ、無駄なキャラ付けが失敗だった。一発で徐庶だって判るな、コレじゃ。えーっと、演義ではあのまま曹操の元に留まり、劉備へ降伏勧告に来たりしていた徐庶は、龐統の企みを見抜いたものの、曹操にそれを告げることはしなかった。何しろ、例の母親が『このボケ息子がぁーっ!』と徐庶を殴りつけてから首吊ったモンだから、曹操軍中にあっても本心は曹操を怨んでいたんだね」
A「で、龐統をひっかけたワケか。龐統も、相手が徐庶だと判ってしまえばもう安心だな」
F「うむ。肩をなでおろして帰ろうとする龐統だけど、徐庶はまた羽交い絞めにして『このままだったらオレまでウェルダンっスよ!』と対策を求める。要するに、自分が生き残る策を置いていけというワケね。そこで龐統が献じた策は、ある意味凄まじいものだった」
A「涼州で、馬騰や韓遂が動いてるんじゃないかって噂だろ? それが流れたモンだから、曹操としては心中穏やかじゃないけど、諸将にしてみれば手柄を立てる機会から外されるのは面白くない。誰を派遣したものかと頭抱える曹操に『あ、オレ行くっスよぉ』と徐庶が手を挙げる……だったよな」
Y「しかし、事実上天下を取ったに等しい曹操が、どうして涼州の軍閥なんぞ恐れる?」
F「20年前に同じことがあっただろ? 董卓は、馬騰を恐れて洛陽を捨て、長安に遷都したぞ」
2人『……………………あ?』
Y「……おいおい」
A「いや……云われてみれば、当時ンなこと云ってたね、お兄ちゃん……」
F「忘れてたのか? 中原の群雄にとって、西方で異民族相手に兵馬を鍛え、確たる軍事力を有する涼州勢は、どうしても注意せざるを得ない仮想敵なんだよ。周瑜も、曹操の過ちの筆頭に、河北と並んで涼州の動静不安を挙げている」
A「……ぅわー、ごく最近に伏線はあったのに、綺麗に見落としてた」
F「かくて、赤壁決着への準備は、着々と進行する。曹操・周瑜・孔明、そして龐統をも巻き込んでの知恵比べは、ついに最終局面を迎えようとしていた」
A「だから、どっちがイタチなんだ?」
F「続きは次回の講釈で」

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