私釈三国志 51 赤壁大戦
F「というわけで赤壁の戦いだけど、次回云った通り、まずは演義での戦闘の推移」
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A「周瑜と孔明の知恵比べだな」
F「そゆこと。前回見た、机斬り落としのあとで、周瑜は孔明に『孫権さんは、曹操軍の数が多いのを不安がっておられるようですからフォローしてきた方がいいですよ』と云われ、実際に孫権を尋ねてみると、その通りに怯えていた。そこで周瑜は、袁家・荊州の降兵は曹操に信服しておらず、また河北からの南征で疲れ果てていようと指摘。それを聞いて仲ボン、ようやく戦う気になった……というイベントがあった」
A「あぁ……あったな」
F「ひとの心を読めるかのような孔明の読みの深さに、周瑜は危機感を抱いた……というか、怯えたと云ってもいい。曹操のあとは孔明こそが敵となる。そう判断した周瑜は、瑾兄ちゃんを使い勧誘するも失敗。やむなく殺すことにした」
A「するな、ってところだけどな……。英雄は英雄を知るって奴だろ?」
F「まぁ、孔明が危険分子だと判断したんだろうね。劉備たちのところには帰さず、孫権軍の本陣に留めて、客分という扱いで監視することにした。一度など、劉備が糜竺を送って孔明の安否を尋ねたのに『軍務で忙しいのですよ。むしろ、僕が劉備殿にお会いしたいところですな』と、劉備に直接来るように云い出すくらいで」
A「態度でかっ!」
F「むしろ劉備を殺そうとしたわけだな。魯粛が止めるのを聞かずに暗殺部隊を配置して劉備を待つけど、のこのこ現れた劉備の後ろには、関羽が突っ立っていた」
A「華雄。顔良。文醜。五関六将。呂布と互角」
F「周瑜は震え上がって、暗殺を断念したとか。そこで孔明、劉備に『11月20日に趙雲を小船に乗せ、迎えに来させてください』と、こっそり言付けた。劉備、平然と自陣へ引き揚げていったとか」
A「……まぁ、呉には関羽と戦える武将、いないしな」
F「そゆこと。というわけで、周瑜は初心に戻って孔明を殺そうと画策する。官渡のことを引きあいに出して、曹操軍の食糧集積所を襲ってくれと孔明に持ちかけた。自分の手を汚さずに、孔明を除こうとしたんだね」
A「乗る孔明じゃないよな?」
F「うむ。その場では引き受けて、メッセンジャーが来るのを待った。周瑜に云われて様子見にやってきた魯粛に『あなた方は確かに優秀だが、おのおのひとつのことしかおできでない。あなたは陸戦、提督は水戦だけ。陸のことを知らぬ提督だから、曹操軍がろくな防備もしていないと考え、こういう策を思いつくのでしょう。……ま、成功する自信はありますがな。はお、はお♪』と鼻で笑う」
A「魯粛は帰って周瑜に伝え、周瑜はこの挑発に腹を立てる。で、自ら騎兵を率いて出陣すると云い出すんだよな」
F「思えば、そのパターン多いな。孔明の挑発に、引っかかる周瑜。それを聞いた孔明は『バカな真似はおよしなさいって。敵の防備は完璧なんですから、出れば必ず捕まりますよ?』と、魯粛を通じて周瑜を説得。周瑜は不承々々出陣を取りやめたものの『あの野郎の見識は僕の10倍はある! 危険だ!』と地団駄踏んだとか」
Y「情けないな、美周郎」
F「さて、実際に戦火を交えてみると、曹操軍は北方出身の兵が多く、水上では思うままに動けない。曹操は、降った蔡瑁を水軍都督に任命していたんだけど、そんなワケで緒戦に敗れてしまう」
A「まぁ、役者が違うか」
F「いや、純粋な水戦の能力では、多分周瑜にも引けを取らない。緒戦の反省から、まずは水軍の調練が必要と判断した蔡瑁は、水塞を築いたんだけど、それを見た周瑜は『荊州の水軍はかなりのものだな……』と、このプライドの高い男らしからぬコメントをしている」
A「演義では、かなり情けない役どころなんだけどなぁ」
F「違いないな。さて、周瑜でも警戒が必要だと思ったので、それを利用(つーか、悪用)して孔明を除こうと策を弄する。つまり、孔明に無理難題の役目を吹っかけて、できなければそれを口実に処罰しようと企んだ」
A「例の、十万本の矢だな?」
F「うむ。舟戦ではどうしても矢を消費する。そこで、周瑜は孔明に、戦のための10万本の矢を、10日以内に用立ててほしいと、諸将居並ぶ軍議の場で公式に要請した。いちおう客分なので要請だけど、事実上命令だね」
A「対して応えた孔明の台詞がいいよな〜。周瑜を見透かして白羽扇振り振り『10日でよろしいんですか? 明日にでも曹操は攻めてくるかもしれませんよ?』と余裕綽々の表情! 3日でいい、と云い出した」
F「コレには周瑜も度肝を抜かれ『軍議の席でいい加減なこと云われちゃ困りますよ。……ホントに?』と、むしろ警戒する。孔明は『できなかったら首あげます』と証文さえ書いたものだから、周瑜は内心大喜び。ただし、本心ではもぉドキドキで、魯粛に『アイツ、何考えてるのかな……ちょっと、行って見てきてくれ』と頼んでいる」
Y「弱気だな、美周郎」
F「来た魯粛に孔明は、小船20とわらを大量に用意するよう頼んできた。そして『提督には云わないでくださいよ』と軽く云う。立場上云わねばならない魯粛は、戻って周瑜に伝えたところ『……まぁ、それくらいなら』と出荷を認めた。それから2日経ったものの、孔明には動きがない」
A「動いたのは3日めの夜?」
F「うむ。様子見に来た魯粛を伴い、孔明は小船に乗って出発。あたかもその夜は、濃霧が出ていて前を見通すこともできない。そのまま20艘の小船は、曹操軍の水塞にたどりついた。一列にならんだ小船の、乗っているわずかな兵に一斉に陣鼓を叩かせると、水塞からは矢が雨のように降り注いできた」
Y「何で火矢じゃなかったんだろうな」
A「そんなモン考えるなっ!」
F「マジメに考察するなら、濃霧で敵の兵力が判らなかったことだろうな。同士射ち……もとい、同士討ちになる可能性を考慮すると、火はつけられない。火がついていなければ、ある程度矢を浴びても船は沈まないし」
Y「そうか? 当時の船がそんなに頑丈だったとは思えんが」
F「いや、実例があるんだ。213年(5年後)のことだけど、孫権が別の水戦場で曹操と対陣していて、ある日偵察に出たところ、曹操の陣営から大量の矢を射かけられた。側面に刺さった矢は、船が傾くほどの量だったとか。そこで仲ボン、船を方向転換して、反対側にも矢を射かけさせた。狙いは成功し、両側に同じだけの矢が刺さった船は安定を取り戻して、孫権は自陣に帰還できたとか」
Y「なるほど、ある程度はもつのか」
A「……俺にはついていけないレベルの話をしてやがる」
F「まぁ、多分このエピソードが、今回の孔明の計略のモデルだろうけど……ね。深い霧の中に100万の兵が矢を射かければ、船に乗せられたわら束にたっぷりと矢が刺さる。のんびり酒を呑んでから、孔明は船を方向転換。周瑜軍の水塞に引き揚げていった。『丞相殿、矢は有り難く申し受けました!』と云い残して」
A「うーん、さすがに神算鬼謀! 孔明凄いね〜」
F「帰ってきた孔明を、周瑜は兵を率いて迎える。一艘あたり五千ないし六千の矢が刺さっていて、10万本は軽く越えていた。これには周瑜も驚き呆れ、震え上がったという」
Y「数えたのか?」
F「あったことにしよう、という心境だったらしいよ。本陣に孔明を迎えて、周瑜はついに頭を下げた。そして『ご主君から早く戦闘を開始しろとお達しが来たが、どうにも策が思いつきかねまして……先生、ひとつ知恵をお貸しねがえませんか?』と、へりくだって、だがまだ孔明を酷使しようとする」
A「そーゆう読み方すんなっ!」
F「やかましい。周瑜としても策がないわけではないと聞いた孔明は、互いの掌に策を書いて、一斉に見せようと提案する。乗った周瑜と、それぞれ掌に文字を書き、同時に掌を突き出すと、そこには同じ文字が書かれていた」
A「たった一文字……火、だな」
F「大笑するふたりの様子に、魯粛はようやく肩をなでおろしたとか。まぁ、和解したわけじゃないんだけど……ね」
A「やかましいわ」
F「続きは次回の講釈で」