私釈三国志 49 唇亡歯寒
F「ところでお前ら、魯粛嫌いか? 前回のラスト、反応非道かったが」
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A「いや、正当な評価だと思うぞ」
Y「珍しく気があったな。俺も、あの男は好きになれん」
F「……まぁ、いいが。えーっと、魯粛が劉備のもとを訪れたのは、表向きは孫権から、劉表の弔問に派遣されたということだけど、ちょっと考えればそれはないというのが判ると思う」
A「孫堅殺したのも、孫策が苦戦したのも、黄祖だからな。その主君の劉表の、弔問に来る道理はないか」
F「そういうコト。現に、孫策の弔問に劉表は使者を出していないから。つまり、魯粛が用があったのは、劉gではなく劉備だったということだ」
A「実質的には、劉gは劉備の下についていた状態だった、と?」
F「そうなる。劉表が死に、荊州が曹操のものとなった以上、勢いに乗って江東に攻め入ってくる可能性は高い。孫権がこの状況を打破するには、荊州の反曹操勢力を誰かに結集させ、それを使って曹操の足を止めるなり、江東に攻め入ってきたタイミングで蜂起させ背後を衝かせるしかない」
Y「……策としてはもうふたつあるな。曹操軍の主力が荊州に集中している今のうちに合肥を抜き、許昌を攻略する」
A「いつぞや、孫策がやろうとした奴? でも、合肥には劉馥がいただろ」
F「名作『蒼天航路』でも触れられていたように、戦火は交えているけど……まぁ、それについては後々で触れる。もうひとつは、降伏だね?」
Y「そういうことだ。劉備の首級を挙げて曹操に降れば、ある程度の国体は維持できるだろう」
A「首……!?」
F「えくせれんと♪ 察しがいいな、泰永。この時期に魯粛が、劉備のところを訪れたのはそういう狙いだと僕も見ている。つまり、劉備の人柄を検分して、ともに謀るに足るようなら荊州での陽動に使い、ダメダメだったら殺して曹操への手土産にしようとしたのではなかろうか、と」
A「えーっと、えーっと!? 何で、この時点で孫権が、劉備を殺そうとか思うの!?」
Y「少しは考えろ。この時点で孫権が、曹操に降伏したとする。それを容れるとしたら、曹操は孫権に、劉備を討てと命じたことは疑う余地がないぞ」
A「……そう、かな」
Y「十数年前に似たようなことがあったんだ。俺らの通ってたがっこうの3年どもが、俺に幸市を潰せと云ってきた。嫌なら俺から痛いめに遭わせるぞ、と」
A「……やっぱりそういうコトを好んでやってたのね、この雪男は。ちなみにどうしたの、ヤスは?」
F「おいおい。僕と泰永が手を組んだら、がっこうひとつくらい軽く潰せるぞ。校内で襲ってきたバカどもは返り討ちで済ませたけど、校外で襲ってきた連中は全員病院送りになった」
A「先生たちどうしたの!? それは、さすがに問題になるでしょ!」
Y「どうやって? 30人がかりでたった2人に負けました、とか? 最初の暴力行為は正当防衛と認められたし、そのあとのことは内ゲバと処理された。そもそも、校外のことにがっこうが口出すわけないだろ」
F「うん。校外では僕たち、実際には何もしてないもんねぇ」
A「……確かに、同士討ちさせるのが最良の策だな」
F「ともあれ。孫権のところには、すでに曹操から書状が届いていた。『オレ、丞相になったんだよ。荊州も降ってくれてさぁ。この際だからキミも、一緒に江夏で狩猟でもしようじゃないか。末永く同盟しようZe♪』というもので」
A「コミカルに云うな!」
Y「マジメにやる気がないなら、俺がフォローするか。ふたつのことが読み取れるな。江夏で、と云ってるからには、孫権はともかく劉備は許さんという意思表示。そして、降伏勧告」
F「裏というか……僕の見立てでは、降伏してしまえば孫権は安泰だったと思うんだけど、それはもう少し先だな」
Y「お前らしくもない楽観論だな? お前が連中に降ったところで、腕の一本や二本では済まされんかっただろうことは、お前の前に血祭りに上げられたバカが証明してるだろ?」
F「いや、その時とは決定的に違う……というか、ほぼ正反対のことがあってな」
A「何があったのー……?」
F「……連中には、僕の実兄が加わっていた。そこから先については、いずれ触れる。話を戻そう。当然、孫権の周囲は降伏しようという一派と交戦しようという一派とに分かれる。張昭……孫策から『国内のことは張昭を頼れ』と遺言された重鎮や、その他文官はおおむね降伏派。対して武官連中は交戦派だね」
A「周瑜はおいといて、魯粛はどっちなんだ?」
F「交戦派だ。そもそも魯粛は天下二分の計を唱えたことでも判る、強硬派の参謀。孫権に天下を盗らせようと画策しているひとりだからね。……そして、その男に劉備の見聞を任せたことで、孫権の本音は判ると思う」
A「……まぁ、な」
F「そんな魯粛が、孫権のところに孔明を伴って戻ってきた。劉備に合格のお墨付きを出した魯粛は、孫権と劉備の間にパイプを作ろうと、孔明をよこすよう劉備を説得。劉備は渋ったものの、孔明本人の願いもあって、出立させた」
A「そういえば諸葛瑾は? 降伏か、交戦か?」
F「それについては本人の言があるな。曰く『私が何を云っても、弟の影響と云われましょう』と」
A「この状況ではそんな立場も無理はないのか」
F「張昭主導で降伏に傾きつつあった呉の陣営に、孔明が乗り込んできたモンだから、瑾兄ちゃん文官席の一番すみっこに引き下がったから。孔明を見て張昭は『この野郎、仲ボンを焚きつけに来やがったな……』と警戒する」
A「仲ボンって……」
F「あとで見るけど、張昭は孫策の遺言を盾に、孫権に強く出ることが多かったんだ。劉備にとっての法正かな」
A「アイツがいてくれれば……って話か? だからって、ここまで主君を舐めた呼び方はしないと思うけど」
F「まぁ、この主従の仲の悪さ……ある意味での絶妙なコンビ漫才模様は、いずれ見るとして。張昭は孔明に喰ってかかった。孔明殿は自らを管仲・楽毅に比していたとか。孔明平然と『いかにも』と応じる」
Y「管仲は春秋時代における斉の宰相で『倉廩満ちて即ち礼節を知り、衣食足りて即ち栄辱を知る』で有名な、当時最高ランクと云っていい政治家。楽毅は戦国時代に、その斉を滅ぼす寸前まで追いつめた武将だな」
A「管仲は文官で、楽毅は武官な。で、張昭何云ったっけ?」
F「三顧の礼で迎えられたにもかかわらず、ほとんど何もできずに、劉備は荊州を追われた。臥竜の名はどうした、と挑発したところ、孔明平然と『民衆抱えて少ない兵力で、どんな戦争ができるか。こちらの劉備様は生き延びたが、アンタなら孫権を守りぬけたのか? 口ばかりで臨機応変の能力が欠ける奴は、天下の笑い者だぞ』と応じる」
Y「……おいおい」
F「張昭、ぐうの音も出なかった。続いて虞翻や陸績を舌鋒でねじ伏せ、『漢を奪おうとした曹操が賊なら、古の聖賢・尭・舜・劉邦のことごとくが賊ではないか!』と云った薛綜に到っては『だったらアンタは孫権が衰えたから曹操に乗り換えようと云うのか!? とんでもない野郎だな!』と罵倒される始末。曰く『江東十賢人』と称された7人まで論破し、ふたりが口を出そうとしたところで、黄蓋が入ってきてようやく孫権とご対面と相成った」
A「割と重要な話なんだけど、もう少し孔明っぽい口調にしないか?」
F「いいじゃないか、演義でのオハナシなんだから。もちろん、正史ではこの辺の騒動はないけど、孫権にはほぼ同じコトを云っている。つまり『命と領土が惜しかったら降伏しろ! うちの大将は漢の皇族だ、曹操ごときに降れるか!』と豪語し、孫権が『お前、オレにケンカでも売りに来たのか!?』と反発するくだりだけど」
Y「張飛が来てたのか?」
F「少しマジメな話をすると、孫策から孫権になったのはともかく……いや、ともかくと云っていいのか微妙だな、アレも。えーっと、劉繇や厳白虎、王朗といった君主から、孫家に仕えるに到った文官連中は、また主を変えればいいだけだけど、孫権としてはそういう考えにはなれないんだね。降伏したとしても、果たして曹操は、孫権の身分と身柄を安堵してくれるかどうか。……正直に云うなら、安堵したと僕は見ているけど」
A「だから、マジメなオハナシする前には何かひと言云って! お願いだから!」
Y「張邈が一族郎党皆殺しになったのを考えると、心中穏やかじゃないよなぁ」
F「古い話だな。いったんは孔明に説得されて交戦を決めた孫権だけど、張昭たちが騒ぎ立てて、そう強くは云い出せない。頭を抱える孫権は、もうひとりのお守りの存在を思い出した。即ち、兄の義兄弟・美周郎を」
A「……しっかし」
F「続きは次回の講釈で」