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私釈三国志 30 官渡前哨

F「では、時代を戻して官渡直前。以前見た通り、曹操の勢力は袁紹・劉表・劉備にほぼ包囲されていた」
A「……つーか、お前以前『劉表は基本的に外征を行わない』とか云ってなかったか? ばっちり張繍に援軍を出してたようだけど」
F「それについては、劉表について語る頃……まぁ、赤壁の前くらいだな」
A「やっぱり、新しいシリーズができてるー!」
F「いや、シリーズじゃねーけど……。えーっと、呂布やコーソンさんの死によって、黄河の北と南でいちおう安定した政権ができた状態なんだね。あくまで後漢の輔弼たらんとする曹操と、それに対する袁紹。この時点で、漢王朝に対して(袁紹ではなく)曹操がどんな考えを抱いていたのかはさておいて、最初に動いたのは董承だった」
A「車騎将軍だっけ」
F「献帝の側近。以前触れた通り、娘が献帝の側室だったので、献帝の信任を受けた。絵に描いたような外戚だね」
A「外戚と宦官の争いって、以前見たアレか?」
F「正確には宦官じゃなくて、宦官の孫なんだけど……ね。幼少の子が皇帝になった場合、先帝の妻(その子の母親)を通じて、妻の父や兄が政治や人事に口出しする。親族・一族で要職を固めるとかだね。ところが数年すると子供もいい年になるから、操り人形はゴメンだと思うようになるんだね。でも要職には外戚一族しかいないわけだから、後宮に出入する使用人に過ぎない宦官しか、皇帝が頼れる者はいない。かくして、利害が反発する両者は争うようになる」
A「政治の実権を握って、か。どっちがよりタチが悪いんだ?」
F「どちらが悪いかと云うなら、両方悪いな。権力争いにうつつを抜かして、政治を省みなかったわけだから。後漢末にはそれをいさめようと、第三勢力たる"清流派"もいたけど、コレは両者から弾圧されて、朝廷を追われる始末だ」
A「あらら……」
F「まぁ、外戚が、実権者たる曹操を疎ましく思うのは、ある意味歴史の必然だな。というわけで、董承は自分が実権を握るべく、曹操を倒すべく暗殺計画を立てた」
A「漢を重んじて、じゃないのか?」
F「それを思うなら、曹操を討たんよ。袁紹ならまだしも、曹操には献帝を廃するつもりはなかったんだから」
A「……この時点では、だろ?」
F「さて、ね。ともあれ、董承は同志を募って、曹操暗殺の策を謀った。頭痛もちだった曹操は、侍医の吉平を度々召していたんだけど、その吉平を抱き込むことに董承は成功する」
A「よくもまぁ、そんなことが……」
F「演義では、曹操を討ちたいと夢にうなされた董承の寝言を、吉平が聞きつけたことになっている。それを聞いた吉平は『真の医師は病を治すだけではなく、国の禍をも治すと聞いている』と、董承への協力を約束したとか。ところがそのオハナシが、董承の下僕から曹操に漏れた」
A「どうして、そんなヘマをしでかすかな……」
F「脇が甘かったとしか云いようがないな。ええとこのお大尽らしい失敗だ。董承や吉平、同志たちは捕らえられ処刑される。特に董承の一族は、幼子まで殺されたとか」
A「例の妃(董承の娘)は?」
F「懐妊中だったらしい。……が、禍根を残すこと能わずと処刑されている」
Y「さすがに、フォローできんという表情だな」
F「まぁな……。ともあれ、これに連座したのか、曹操は劉備征伐を宣言。これには群臣も『袁紹を捨て置いて劉備がごとき小勢を討つのはいかがなものかと……』と難色を示すものの、曹操は『劉備こそが油断ならんのだ!』と云い切って、徐州に兵を向けた。かつて信頼した男の裏切りに、問答無用で怒り狂っているのが判るな」
A「何とかならんのか、この男……」
F「曹操という男に関しては、当時の名士たちは高い評価をしているんだけどねぇ。たとえば、人物鑑定で高名な許子将は、若き日に曹操の人相を見て『キミは治世では能臣、乱世なら奸雄だろうね』と評しているし、同じく橋玄も『これから乱れる天下を安定させられる者がいるなら、キミだろうな。何かあったらウチの家族を頼むよ』と絶賛している。生きてたらこんな曹操の姿を見て、どう思うだろう(許子将は195年、橋玄は霊帝時代に死去)」
A「己の不明を恥じて、人物鑑定やめるんじゃねーか?」
F「ともあれ、動いた曹操に反応したのは、袁紹に仕える謀臣の田豊だった。この機に乗じて許昌を攻めなさいと進言する。ところが袁紹は、末の息子・袁尚が病気で、今兵を挙げるのは避けたいと、これを退けた」
A「こいつはこいつで……」
F「しかし田豊諦めない。では張繍に使者を送り、曹操の背後を脅かすべしと進言。これはさすがに袁紹も容れて、張繍の元に同盟を求める使者が送られた」
A「劉表は、袁紹サイドだったよな」
F「そうだね。曹操につくことは、劉表との決別になる。でも、賈詡はその使者を追い返して、むしろ曹操につくべしと張繍に進言する」
A「どのツラ下げてー!?」
F「考えてみよう。当時、どちらに正義があった?」
A「さっきのお前の台詞借りるが、どちらが悪かと云えば、どちらも悪じゃ」
F「……いくら外戚を討ったり国政を私物化したりしても、曹操は献帝を擁している以上、官軍に他ならないんだよ。以前陳登が、呂布に『逆賊と組んではなりません!』と、袁術との手切れを勧めたけど、それに近いね」
A「でも、陳登には打算があったぜ? 呂布を除こうという」
F「この頃には賈詡も、漢王室に対する曹操の態度を見直していたのかもしれない。あるいは、すでに漢王室を見限っていたのか……いや、それなら袁紹についたかもしれんが」
A「?」
F「ともあれ、弱い方につけば感謝されるけど、強い方についても適当にあしらわれるだけ、とも云っている。もちろん賈詡には逆らわない張繍は、あっさり曹操への降伏を決定。主従そろって曹操のところに赴くと、曹操はコレを受け入れた。ふたりに相当の地位を与えている」
A「……味方がほしかった気持ちは判らんでもないが、これだけは確認させろ。胡車児どうなった?」
F「いいところに注目したな。曹操は『お前の武勇は大したものだ!』と絶賛して、100金を与えている」
A「曹操、怖っ!」
F「裏があるとしか思えないな。何しろ、コレ以後演義にも正史にも、胡車児の名が出てこないのを見ると……ねぇ」
Y「……ところで、胡姓ってことは、西域系か? 確か、その姓は異民族って聞いたことがあるが」
F「いや、さっきも云ったけど、胡車児ってあまり記述がないから、詳しいことは今ひとつ判らん。ともあれ、曹操は徐州へと攻め入った」
A「え? ……あぁ、そういえばそんなことがあったな。忘れてた」
F「忘れるな。小沛に張飛と張っていた劉備は、曹操来るの報に驚き慌てたものの、交戦を決心。張飛の策に従って、曹操軍に夜襲をしかけることになったんだけど……」
A「張飛の……策?」
F「もちろん、失敗した」
A「当たり前だよ!」
F「夜襲してくると見抜いた曹操は、それをあっさりと返り討ちにする。混戦で張飛は行方不明になり、劉備はやむなく袁紹の下へ逃亡。続いて徐州城も陥落し、曹操軍は、残る下邳へと攻め寄せる」
A「呂布がこもった城だな」
F「復旧できてたのかなぁ? ここを守る関羽は、この頃すでにその名を知られていたと考えていい。関羽を欲した曹操は、彼を捕らえるよう命を下す。程cが策をもって関羽を城からおびき出し、その隙に下邳城を攻略。近くのお山に逃れた大将を、張遼が説得して降伏させた……というコトになってるな」
A「先に関羽の進言で張遼が助かったけど、今度は張遼の説得に関羽が従ったのか」
F「そして、陳登は戦わずに降伏し、徐州全土は曹操の手に陥ちた」
A「劉備にしてみれば、つかの間の自立だったな……」
F「何が悲しくて、張飛を参謀にしたのかまるで判らん。勝てるワケなかろうに……。ともあれ、旧張繍領には曹仁、徐州には陳登、寿春の南・合肥には劉馥、涼州には鍾繇を配し、対北戦役の準備を整えている」
A「着々と、乱世の風は北へと向かっているワケな」
F「続きは次回の講釈で」

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