恋姫無双RPG サンプルシナリオ「真夏に降る雪」
「基本システム」より抜粋
では、実際にはどんなシナリオを組めばいいか、のサンプルになります。プレイヤーとして参加される方は、この先は見ない方がいいと思います。
1 準備段階
プレイヤーは5人以下を想定しています。6人以上の場合にも、カルディール率いる兵を200にすることで対応できると思いますが、その辺りは調整してください。
また、PCのうちひとりは『未来人』だとシナリオ的に有利になれます。さりげなく勧めるよりは、作成段階で「誰かに『未来人』やってもらうから」と宣言してしまった方がいいでしょう。
そして、ここがいちばんのポイントになりますが、こちらはさりげなく、スキル「雨乞い」を誰か持たないかと提示してください。キャラクター作成に際して、以下の台詞を(なるべく冗談めかして)伝えます。
「魔法系のスキルは、ゲーム本編、つまり『真・恋姫』になってほぼなくなりましたが、ルールとしては残っています。プレイヤーが使うには便利なので、修得と使用に制限を設けています。誰か雨乞いでも持ちますか?」
実際に持ちたいと返事があったなら持たせてかまいません(通常の取得コストがかかります)。ただし、使用はカルディールとの戦闘でしか認めるべきではありません。
なお、キャラクターの作成から始めて3時間というところです。すでに作ってあるキャラクターを使うなら、キャラメイクに費やす時間が減る一方で『未来人』と「雨乞い」がないため、多少不利になります。できればPCを作る段階から始めてください。
2 徐州城でのイベント
PCは全員、徐州刺史陶謙に仕える身です。『未来人』も、何らかの事情で仕えています。
「とにかくそうなっている」で済ませてもかまいませんが、その辺りの理由付けができているとPC間の関係が深まるので、ちゃんとロールプレイしておいてもいいと思います。
その経過で、さりげなく「今回のシナリオは真夏」と伝えておいてください。
ある日、PC全員が陶謙のもとに呼び出されます。執務室に出頭すると、そこには陶謙と、見覚えのない女性が待っています。この女性を知っているかどうか、の判定を求められても、目標値は提示せずに判定させ「じゃぁ知らないね」と云いきってください。原則としてPCはこの女性を知りません。
女性は夢梅といい、徐州城の東方に位置する階上津で警備隊長を張っています。名を聞いてから『未来人』が目標値20の「未来知識」判定に成功すれば、馬超との戦闘で曹操を救った夢梅老師のことを思い出せますが、具体的にどうしたひとなのかまでは教えなくてかまいません。
外見について聞かれた場合は「ふくよかな中年女性」と応えてください。もっと具体的にと云われた場合は以下の情報を与えてかまいませんが、基本的には上記情報でとどめ、深くツッコんできた場合のみ伝えるようにしてください。
「年齢の割に頭は白髪で、やや老けた感がある熟年女性。ちょっと小太りで、腰には獲物と思われるムチを下げている。真夏だというのに冬とみまごう服装は、一見すると赤一色だが、縁や裾には白い飾りがあるね」
「未来知識」が3以上の『未来人』は(判定ナシで)「なんか、サンタさんみたい」という印象を抱きます。そうでない場合は「ふくよかなおばさん」くらいの印象です。
こちらは全員判定ナシで知っていることにしていい情報です。
・階上津は徐州東部の港湾都市。
・他州のみならず外国の船も寄港する、東海岸最大級の交易港。
今回、夢梅が徐州城までやってきたのは、交易と通商を求めるパルティアの使節に、どう応えたものかという指示を得るためでした。階上津の太守が判断できるレベルの問題ではないので、刺史の判断を伺いに来たのです。
パルティアについては「西方の騎馬民族国家だね。ときどき揚州や交州まで交易にやってくる」と説明してください。この時代の中央アジアにおける強国のひとつ、とまで説明すれば充分で、国家元首だの情勢だのを尋ねられても基本的には「あー、その辺はシナリオにかかわってこないから」とスルーしてかまいません。ただし、元首や情勢より先に「信仰されている宗教は?」と聞かれた場合は、正直に「最近、ゾロアスター教が流行しつつある」と本当のことを答えてください。これはシナリオにかかわってくるものですから、聞かれたら答える必要があります。
なお、実史におけるパルティアはゾロアスターを信仰しておらず、そもそもゾロアスター教が起こったのはパルティアの滅亡後と考えられています。その辺りをプレイヤーからツッコまれたら「そーいう設定なんだよ」と突っぱねてください。そこまで詳しいヒトがいるとやりにくいですよ、ええ……。
ともあれ、パルティアの要求は2点。
・今後も階上津に入港して交易を行いたい。また、パルティア船が補給のために寄港する許可がほしい。
・できれば内陸にも入って、直接各地と交易したい。
陶謙は協議の結果、前者は認めるものの後者は「今後の態度次第」と突っぱねることにしています。この辺りまでの情報は、何の判定もなくPCたちに説明されます。ただし、協議した書記の陶双央が留守にしているため、したためた返書を届ける役割がPCたちに回ってきた、というわけです。
基本的に拒否権はなく「しっかりやっておいで」とのお言葉と返書をいただいて、そのまま夢梅とともに退出することになりますが、陶謙とのスキル「話術」の対抗判定で勝てば「なぜPCたちが選ばれたのか」を教えてくれます(つまり、勝たなければ教えてくれません。また、教える必要もありません。なお、陶謙の運営は5、「話術」は3です)。
「書記の推薦さ。お前たちは、日頃の任務でそれなりの成果を上げている。だから、行ってもらうことにしたのさ。書記の推薦が正しかったと思われるよう、期待を裏切らないでおくれよ」
陶謙のもとを辞したところで、GMは2D6を振ってください。そのうえで、
出目が10以上の場合
「出発は明日ですが、1回につき5時間として……各自2回行動できます。何をするのか申告してください」
出目が9以下の場合
「出発は明日ですが、えーっと……2回か。それまでに各自2回行動できます。何をするのか申告してください」
つまり、出目がいくつであっても『2回行動できます』と宣言してください。プレイヤーがごねても「サイの目がこうなったんだから仕方ない」で済ませていいです。サイコロを振るという行為にはこういう使い方もできる、というのはひとつのテクニックとして身につけておきましょう。
具体的に何をすればいいのか、と聞かれた場合は「情報収集」と「兵の準備」は伝えるべきですが、友好ポイントの確保や個人用所持品の調達などはGMから提供すべき情報ではありません。
・階上津とその周辺の情報収集
これには「夢梅から聞き出す」「自分で調べる」のふたつの方法があります。前者なら「話術」後者なら「地理」「情勢」を使って判定する、と伝えれば、どうやって情報を集めるのかプレイヤーが選ぶでしょう。
いずれを選んだ場合にせよ、そのスキルで判定を行わせてください。「夢梅から聞き出す」を選んだとしても、対抗判定にはなりません。彼女には自分の知っていることを隠す意思はないので、情報は正直にくれます。
ただし、「夢梅から聞き出す」場合、彼女は最初にこう云います。
「私が階上津に来たのが去年だから、あまり詳しいことは……」
そのうえで、判定の出目によって与える情報の数が増えます。「地理」「情勢」でも情報は集まりますが、やはり出目で与える数を変えてください。
1・階上津は徐州の東海岸に位置する港湾都市(話・地)
2・城壁はそれなりに堅固で、通用門は長江の支流に直結した南側のみ。東側は港になっていて、出入りはどちらかからしかできない。(地)
3・常備兵は300。(話・情)
4・ただし、常時船が出入りしているので、何かあったら船員が戦闘に加わり、最大で1000は動員できる。(話・情)
5・黄巾は来なかったので、ある程度治安はいい。(話・情)
6・周辺には賊らしい賊はいない。(話・情)
7・揚州の港町とは、東海岸の利権をめぐってライバル関係に近い。(話・地・情)
情報4は情報3を得ていなければ得られません。また、情報7は、「話術」なら大成功レベルの出目でなければ得られませんが「地理」か「情勢」なら簡単に与えてかまいません。これは、守備隊長の夢梅が巣津のことを軽視している半面、地理的あるいは利益的に考えると関係がよろしくなりえないのがすぐ判るから、です。
判定一度につき、一回の行動になります。PCが複数人あるいは複数回情報収集を行うようなら、出目を加算していっていいでしょう。
情報7が手に入ってからは、揚州に関する情報を集めることができます。こちらは「情勢」の判定のみです。
8・揚州には、まとまった勢力はない。
9・揚州の港町は巣津という。
10・巣津にも外国船が入港するため、利権をめぐって階上津との関係がぎくしゃくしている。
出目が20以上だった場合は、以下の情報も与えてください(いくつ与えるのかは出目で判断)。
11・巣津にもパルティア船が来ている。
12・巣津の太守は、パルティア船との交易を受け入れた。
13・パルティア人は何かを探しているらしい。
出目が30以上だった場合、以下の情報も与えてください(同上)。
14・パルティア人は内陸に入って、各地の城にも直接交易する許可を得た。
15・パルティア人は、馬を探している。
こちらも、判定一度につき一回の行動になります。
また、情報14を得たあとで、行動が2回残っているキャラクターが「偵察」を行い直接巣津を調べると自己申告してきた場合は、それを行わせてください。GMの側から「行動を2回使えば直接調べられるよ」という趣旨の情報を与えてはいけません。
というのも、すでに巣津の太守は殺害されているので、その辺りの情報が外にもれないよう手を打たれているからです。「偵察」の出目が5以下(運営が4未満かつレベル1でも出すのが難しい数値)だった場合、そのキャラクターは死亡します(「身のほどはわきまえようよ……」とでも呆れたように云ってください)。6以上の場合なら揚州に入れずに帰還することになりますが、大成功レベルの出目だった場合だけは以下を得ます。
16・巣津の太守は死んでいる。
・連れていく兵と物資の準備
PCの側から「兵は連れて行くんですか?」と質問があったら「もちろんです」と応えてください。
原則として、兵は「(PCの人数−1)×100」が動員されます。また、その人数が5日間行動できるだけの補給ポイントが用意されます。
プレイヤーの人数分の行動が終わっても、まだ連れていく兵のことをプレイヤーが思いつかなかった場合は、いちばん武勇の高いPC(上記「偵察」に出ていた場合は次点のキャラクター)のところに趙二英がやってきます。
「アンタたち、兵の準備はできたの? アタシも忙しいンだから、あんまり手間とらせないでよね」
いずれの場合にせよ、一回の行動になります。これは、誰かが必ず行わねばなりません。
兵数の増員要求はできません。この件は陶謙本人からの命令なので、事実上の筆頭武官たる趙二英にも、兵を増派する権限がないのです。
陶謙本人か陶双央にコネがある(友好ポイントが○先行で5以上あるくらい)なら、陶謙に直談判できますが、そうでなければ会うこともできません。情報16を得ているかPCに死者が出ている場合なら、まず二英ないし楊花玉と交渉してから(上記と同レベルの友好ポイントが必要です)陶謙に面会できます。
「話術」での対抗判定に持ち込めるか、がまず問題で、どのような経緯で会ったにせよ、陶謙は兵数の増員には否定的です。陶双央が陳小理・盾親忠を伴って徐州城を離れているからで、兵数よりは作戦行動力と心理面で、ディフェンスが普段の半分以下に落ちているからです。PCは何とか陶謙を説得しなければなりませんが、これは判定ではなく実際のロールプレイを求めてください。口実がもっともだ、と判断したなら判定を行います(前述しましたが、陶謙の運営は5、スキル「話術」は3レベルです)。複数人で交渉にあたったとしても、判定できるのはひとりだけです。
GMは「PCがどんな口実で兵数増員を求めているのか」で返事を変えてください。
・情報16を得ていて、PCが対抗判定で負けた場合
「となれば、この城の守りを手薄にはできないだろう? 悪いが、この兵で何とかしておくれ」
・PCに死者が出ていて、PCが対抗判定に負けた場合
「云っていることは判るが、向かう先をお間違いでないよ。行くのは階上津なんだから。何だって、わざわざ揚州の偵察になんか行ったンだい?」
・他の口実で、PCが対抗判定に負けた場合
「ダメダメ、その兵で上手くおやりよ」
・情報16を得ているかPCに死者が出ていて、PCが対抗判定に勝った場合
「……判った。そんな状況だったとは、ちょっとあたしが甘かったようだよ。どうもあんたたちには荷が重いみたいだから、この件からは手を引いておくれ」
このケースは、ぶっちゃけゲームオーバーです。すでに何らかの被害が出ていて陶謙の危機感をあおるのに成功した場合、事態の規模からしてPCたちでは対処できないと判断した陶謙は、双央や他の武将たちに事態の解決を命じ、PCたちは下がらせます。GMはシナリオの失敗を宣言してから、ちょっとたしなめる表情を作って「過ぎたるは及ばざるがごとし、ですよ?」とでも云ってください。
・他の口実で、PCが対抗判定に勝った場合
「……判った、もう100出すよ。それで何とかおし」
このパターンのみ、兵数の増員がなされます。
交渉に参加したPCの全てが、一回の行動になります。また、陶謙との交渉は、状況や結果の如何を問わず一度しかできません。交渉後に「偵察」を行い死者が出た、あるいは情報16を得た場合は、判定ナシでシナリオをゲームオーバーに進めてかまいません。
・友好ポイントの確保
PC間や夢梅との間に友好ポイントを稼ぎたい場合、相手との交流をロールプレイしてGMが適切と判断した場合、友好ポイントを与えてください。
一度の行動で1ポイントを得ることができますが、2度の行動を消費するなら3ポイント得られます。ただし、PC間の友好ポイントの場合は、双方に行動としてカウントされます。
また、3人以上で宴会や食事を行い交流を深めたいという要求は退けるべきではありません。成否や是非は、あくまでそれをロールプレイできたかどうかで判断してください。
夢梅と交誼を結びたいというPCがいたら、夢梅はそれを拒みません。ただし、PCの中に容貌が「幼少」のキャラクターがいる場合、あるいは後述するマニがいる場合は「何で子供がこんな仕事をしてるの!」とお怒りになります。夢梅はどんなときでも子供の味方です。
この時点では、夢梅との友好ポイントは高くても3までしか上げられないため、真名を含む夢梅の真相に行きつくことはできません。もし二英か花玉にコネがある(前述したように、友好ポイントが5以上)なら、彼女が本当に、去年から階上津の守備隊長を張っていると調べることができますが、その前にどこで何をしていたのかは判りません。
また、この席で夢梅から情報を聞き出す場合、「話術」の判定に1D6のボーナスを認めてもいいでしょう。
・マニ
PCが何らかの理由(上記「偵察」含む)で徐州城の外に出た場合、GMはサイコロをひとつ振らせてください。複数人いる場合は全員に、です。そのうえで、出目がいくつであってもいちばん武勇の高いPCに「じゃぁ、キミの前でイベントが起こる」と宣言します。実際には武勇の高いキャラクターでイベントを起こしたかったワケですが、サイコロの出目でこうなった、と思わせるのが目的です。武勇の高いPCが複数人いて出目が違った場合などは、サイの目が大きかった方にする、という具合に、臨機応変に対応してください。
ともあれ、そのPCの前で、少女が山賊に襲われています。たとえ「偵察」に向かう直前であっても見捨てるという選択肢は存在しませんが、どーしても助けたくないと云い張るのなら無理強いはしないでください。
先に見捨てる場合ですが、少女・マニはそのまま死亡します。
助ける場合は、山賊ふたりとの戦闘になります。
・山賊(データは両方同じ) 武勇2智略1運営1魅力2 スキルなし
まぁ、負けることはないでしょう。むしろ、こんなのに殺されるマニが不思議です。
GMは「この山賊たちは身なりが小ぎれいで、ひょっとしたら山賊としてのキャリアが短いのかもしれない」という情報をどこかのタイミングで伝えて、山賊としては"新人"のため、スキル「威圧」が有効だというのを暗示してください。「威圧」が成功するかひとりが死んだ場合、生き残っている山賊は逃走します。
ただし、戦闘中に何らかの理由で火を使った場合、マニもいなくなります。また、戦闘が10ターン以上長引いた場合も、彼女はこっそりいなくなります。
PCが生き残りマニがその場に留まっていた場合、GMはサイコロをひとつ振り、出目にかかわらず「マニがPC(複数人いた場合は、いちばん武勇の高いPC)に抱きついて『怖かったです……!』と泣きじゃくった」と伝えてください。泣きじゃくる小さな子供は、基本的にそのPCから離れません。
PCが城外で何をするつもりだったにせよ、「収拾」で難易度20の判定に成功するか、いちど城内に彼女を連れ込んで、安全だと納得させる必要があります。
最初で触れましたが、季節は真夏です。そのため、よほどへそ曲がりなことがなければ、城内で火が使われていることはないと思います。しかし、炊事場など火を使う施設に連れ込んだなどのイレギュラーがあった場合、マニはさらに発狂してしまいます。こうなると「収拾」の難易度は25に上がり、成功するまでそのPCは身動きがとれません。
なお、夢梅は5レベルの「収拾」を習得しています。PCが手間取っているようなら「あらあら、どうしたの」とか何とか云いながら彼女を登場させ、フォローしてください。
落ちついたマニは恥ずかしそうにうつむいています。名を尋ねると、云いにくそうに周囲に視線をめぐらせて、プレイヤーの(繰り返します、プレイヤーです)見えるところにあるものをアレンジした名前を口にします。テーブルなら丁振、タンスなら丹須、あるいは桂泰・代朱などでしょうか。とにかく偽名と判るものを応えてください。
外見は「黒髪で小柄な女の子。割と可愛い」とだけ答えてください。ツッコまれたら「大人しい印象は受けるが、眼の奥に力強さを感じさせる少女。旅慣れているのか、服装はややくたびれている」と、長い旅をしている少女、というのを前面に押し出して答えること。
マニ(で、通します)との質疑応答は、以下を参考にしてください。
・名前は? →上記
・どこから来た? →「南の方から、河を渡ってきました」
嘘ではありません。ですが、「南の方」に来る前には、交易船に密航して漢土までやってきたことは、マニは(この時点では)絶対に口にしません。
・どこに向かう?orこれからどうする? →「根なし草で……できれば置いてもらえればなって」
本当です。どこに行っていいか判らないで途方に暮れているのが本音で、安全に暮らせる場所を探しています。
・何で襲われてた? →「さぁ……」
これも本当です。山賊は何の理由もなくマニを襲いました。仮に生き残っていた山賊を捕縛し尋問しても「自分たちは山賊を始めたばかりで、とりあえず手ごろと思い襲った」としか答えません。情報16を得ていても、パルティアとの関連をうかがわせるものは出てきません。
・パルティアって知ってる? →「いえ……?」と不思議そうに見上げてくる。
パルティア関連の質問に、マニは答えません。あまり民間レベルでの交流はないので、知らなかったとしても不自然ではないことを、聡明な彼女は察しています。
PCが、何らかの口実でマニの所持品を確かめたいと伝えると、彼女はそれに応じます。あるいは「偵察」でこっそり調べることもできます(難易度20くらい)。
・マニの所持品
着替え・財布・携帯食・薬の入った包み・護身用の短剣・それらを入れている袋・着ている衣服
スキル「経理」か「製造」で判定し、20以上なら値打ちものはないと判ります。30以上なら、それらはすべて揚州で買ったものだと判ります。また、財布の中身は小粒金です。
調べているPCから「火をつける道具は持っていないのか?」と聞かれなければ、答える必要はありません。「偵察」していたPCから聞かれた場合は「見つからない」で済ませてください。マニに直接聞いた場合のみ、彼女は左手を軽く押さえて「……火は、苦手です」とだけ答えます(イベントB1)。
マニは、助けてくれたPCにくっついていこうとします。キャラシートを見せればある程度以上に使えるキャラだと判るので、連れて歩くのにメリットがあると思わせることができるでしょう。どうしても嫌がるようなら離してかまいませんが、その場合は夢梅が保護します。
どちらにせよ、マニを階上津まで連れていくことになります。
もちろん、誰ひとり徐州城の外に出ずに出立の刻限を迎えたら、このイベントは発生しません。
・その他
軍の物資ではなく個人での所持品購入や、二英・花玉ら上官への挨拶などは、常識の範疇で行うべきですが、それを行動にカウントするかはGMの判断にゆだねます。これらの行動は直接シナリオに影響するものではないので、そういった行為に時間とカウントを費やすのはあまり勧められません。そのことをさりげなく伝えましょう(たとえば二英に「あいさつは不要よ、結果で見せなさい」とでも云わせる、など)。
2 階上津への移動
PC全員が行動を2回終えたら、出立の刻限になります。陶謙は見送りに来ず、楊花玉が見送ってくれます。
花玉は「偉そうにしていれば、相手が勝手に『大物が来た』って思ってくれるわよ」と、それなりの兵を率いていく理由を教えてくれます。
道程は約3日。PC一同は馬で階上津へ向かいますが、夢梅は鹿のような動物にひかせたそりに乗っています。
それを説明した直後、PC全員に智略での判定を行わせてください。ただし、常駐スキル「智嚢」をもっていても使えず、「未来知識」なら使える、とはっきり宣言します。理由を聞かれたら「動物について純粋に知っているかどうかの判定なので、頭のよさより文明レベルのが影響する」と本当のことを応えてください。ごねるようなら旧『恋姫』で、趙雲がクジラを魚と思っていたことを例に挙げてもいいでしょう。
20以上なら(出すには「未来知識」がなければ不可能です)、夢梅のそりを牽いているのがトナカイだと判ります。
「幼少」のキャラクター(マニ含む)がいるようなら、夢梅はそこへそりを寄せてきて「乗りなさいな」と声をかけてきます。お言葉に甘えると、そりに載せている大きな袋から甘そうな果物を振る舞ってくれます。他のPCもほしがるようならあげてください(特に効果などはありませんが)。
全員の注目が集まった、と判断したら、夢梅は「ためになるオハナシを一席」と前フリして講釈を始めます。
「あるところに、ひとりの信心深い神父さんがおりました。街が洪水に飲まれ流されそうになっても自分のことは省みず、必死に住民たちの避難を誘導していました。そこへ若者が駆け込んできて『神父さん、逃げましょう!』と声をかけますが『私は最後まで残ります!』と突っぱね、逃げ遅れたひとがいないか探しに行きます。
水はどんどん増えますが、神父さんはかまわずに、誰か残っていないか探し続けます。小船が近づいてきて『神父さん、こちらへ!』と声をかけても『他の方を乗せてください!』と突っぱねます。神父さんの奮闘で、この街の住人は皆さん避難できましたが、たったひとり、神父さんは溺死体で発見されました。
それだけに、死後に神父さんは天国に逝くことが許されました。神の御許に来ることを許されたのを喜んだ神父さんですが、天国の門を守る天使さんには、自分は生涯を主のために尽力してきたというのに、あの最期は……と少しだけ愚痴をこぼしてしまいます。
それを聞いた天使さんは、残念そうに云いました『ええ、判っています。だからこそ、主はあなたに二度も救いの手をもたらしたのですよ』と。
人生、どんなことで救われるのか判らないものです。チャンスを逃すような真似はしないようにね」
話が終わったら「未来知識」か「外国知識(大秦)」をもっているPCに、難易度20で判定を行わせてください。失敗したら何も教えなくていいですが、成功したら、これがキリスト教の逸話だと伝えてください。察したPCが「夢梅さんはキリスト教徒?」と尋ねたら、彼女は「そうよ」と軽く答えます。
以後、道中では特にイベントは起こりません。プレイヤーが望むようなら、各自1度ずつ友好ポイントを稼げるかのロールプレイを行ってもかまいません。
3 階上津にて
階上津に到着すると、太守が出迎えます。
それが誰なのかと聞かれたら、ちょっと驚いたような表情をして「……あ、考えてなかった。えーっと、陳登の親族にしておこう。うん、陳なにがし」と答えてください。聞かれなかったらそのまま「太守」で通してかまいません。
これは「夢梅は最初から名前が決まっているのに、太守は決まってもいなかったので、軽視していいNPCなんだ」と思わせる目的があります。実際に、この太守はシナリオに絡んできません。ムダにかまけてPCの手間暇を煩わせるような真似は避けさせてください。
ともあれ、PCを、その場に残って兵を管理する者たちと、パルティアの使節に会う者たちと、二手に別れさせます。全員で行こうとしたら、まず夢梅から「兵はどうします?」と尋ねさせ、それでも全員で行くと云い張るようなら「じゃぁ、私が兵を預かりますね」と申し出ます。
逆に、PCの代表がひとりだけで行くというのも、できれば避けたい事態です。PCのリーダー格といちばん「話術」の高い者くらいは行かせるよう、夢梅を使って誘導してください。
兵の管理にひとり以上のPCが残る場合、夢梅は使節に会う方に同行します。どちらの場合にせよ、マニはいるなら、空気を読んでその場に残ります。一時的に保護者から離れることになりますが、自分がパルティアの使節に会うことは危険だと察し、より安全な方を選ぶ、というわけです。いちばん武勇の高いPCにひっついているのはその辺が狙いでしたが、PC全員が使節に会いに行くなら、夢梅が「おいでー」とフォローします。
3−1 カルディール
パルティア船に近づくと、妙齢のおねぃさんが降りてきます。外見についてツッコまれた場合は、以下の情報を与えてください。
「年の頃は二十代後半。黒髪のすっきりした美人さんだが、ちとキツい印象を受ける。赤一色の服装をしていて、腰には少し幅広の鞘をした剣をさげている」
彼女はその場にいるを見渡し、面識のある夢梅と太守を除くなかでいちばん智略の高いPCに向かって「パルティアのカルディールと申します」と名乗ります。この場に『未来人』がいて、プレイヤーの側から「知ってるか判定していい?」と申し出があったら、「未来知識」で難易度を告げずに30で判定を行わせてください。プレイヤーが実際に知っているというのでなければ、カルディールが本人だと知らせる必要はありません。
会談そのものは、PCが何もしなければ、その場で陶謙からの返書を渡して終了です。カルディールは「了解しました。今後の関係進展に期待します」と、終始にこやかに受け入れます。
PCが持っている情報の質と量によりますが、この場でカルディールと突っ込んだやりとりもできます。「話術」で対抗判定を行い(カルディールの能力値は後述します)、PCが勝ったら「本当のことを云っているように思える」「嘘をついているように思える」とだけ伝えてください。嘘でもそれがどんな嘘かまで伝える必要はありませんが、判定に負けたら「それが本当か、判断しかねる」と伝えること。
・巣津に関して
この件に関するカルディールの反応は、PCがどこまでの情報を得ているかによります。
情報13までなら「あちらには別の者が行っております」と嘘を云います。実際に、カルディールはPCたちの目の前にいるのですから。
情報14なら「揚州に関しては、私の権限からは離れています」と嘘をつきます。カルディールは今回の一件に関して全権を認められていますが、それを口外することはありません。
情報15について尋ねると「あぁ、内陸移動用の交通手段を得たいと思いまして」と本当のことを云います。馬がほしいのは事実ですが、もっとほしいものを探していることは、現時点ではPCに知られていません。
情報16を得ている、あるいはPCが「偵察」で死んでいる場合、そのことについて尋ねるようとすると、夢梅がその場にいるなら喋ろうとしたPCの口をふさぎます。小声で「いまはダメよ」とささやいて引き離し、他のPCにも口に出さないよう目くばせします(イベントA0)。
夢梅がいないかどーしても喋るようなら、カルディールは「知られていたとはね……」と低く笑い、このまま戦闘に突入することになります。「4 戦闘」の「イレギュラーなケース」に移ってください。
巣津に行っている使節は、との問いには「私の同僚の男です」と答えます。どんな男だ、などの質問には、カルディールは「さて……」と笑って答えません。
実は、その男・ハサネは、物陰からPCたちがあやしい動きをしないよう、出ていくタイミングをはかっています。ですが、PCと戦闘にならない限り出てくることはなく、また、見つかることもないでしょう。
・カルディールについて
カルディール個人に対する質問や話題に、彼女はめったに応じません。彼女はゾロアスターの神に生涯を捧げており、辺境の異教徒と馴れあう必要性をまったく感じていないのです。態度には出しませんが、内心でははっきりPCたちを見下しています。基本的には笑ってスルーしますが、本国ではその高潔さと信心深さから距離を取られることが多いため、肉体的接触によるアプローチにはかなり弱いです。馴れ馴れしくひっつかれると反応に困ってしまう、初心な女性を演じてください。
何らかの方法でカルディールの身体に触れた場合、PCには体温が妙に高いことを伝えてください(社会儀礼としての握手くらいなら、体温について自覚がある彼女は、少し躊躇いつつも応じます)。PCがそのことを指摘すると「よく云われますが、そういう体質です」と額を差し出してきます。確かに、額は平熱です。額だけですが。
スキル「応急手当」ないし「治療」をもっているPCがいる場合、本当に熱が高いだけで、病気ではないと判ります。ただし、そのPCにカルディールは異常なまでに喰いついて来て「誰から医術を?」「徐州では医術が盛んなのですか?」「小さい子供の医者などはいませんか?」と問い詰めてきます(イベントC0)。
その場にいない「医療技術を身につけている少女」ことを口にしても「それはぜひお会いしたいですね」とにこやかに笑います(イベントC0)。
PCの追求が収まるか、会話があまり長引いたら、カルディールから「では、そろそろ……」と会話を打ち切らせてください。最後に彼女は「あさって出港しますので、何かあったらご連絡を」と云って船に戻っていきます。
この間、兵のところにいるPC(と、いるならマニ)は完全に放置されます。サイコロを振って「んー……何も起こらなかったな」と伝えてください。
3−2 それぞれの思惑
PC一同は、パルティア船の出港する2日後までは階上津に留まることになり、階上津内に用意された宿舎に案内されます。同じ宿舎に夢梅も住んでいるため、いるならマニも一緒です。
PCにはその2日間で何をするのか、とりあえず相談させてください。その間、GMは以下を頭に入れておくこと。
・シナリオの背景
マニは、西方一帯で隆盛しつつあるマニ教の開祖です。
より正確には、彼女の持つ癒しの力を両親が大々的に喧伝し、一大教団を作り上げました。その勢力はローマにまで浸透しつつありましたが、急進のゾロアスター教団により、マニの両親は焼き殺され、マニ自身も改宗を迫られました。しかし、やっとの思いでその場を逃れ、交易船に密航して漢土に逃げ延びました。
パルティアを背景としたゾロアスター教団は、マニを逃がすまいと、正規の使節としてカルディールを派遣し、追討の任に当てました。教団の中でも急進派かつ過激派な思考をもつ彼女は、まず橋頭保として巣津を確保し、揚州北東部に自前の勢力を得ました。そして「小柄な医者が徐州にいる」との情報を得たのです。
結論から云ってしまえば、コレは陳小理のことですが、カルディールはそのことを知りません。
ですが、有力な情報を得たと判断したカルディールは、自ら徐州の港・階上津に乗り込み、まずは友好的な態度で油断させ、階上津の実権を握ろうと考えています(これは、巣津を攻略するときに用いた手段です)。
カルディールは、マニを捕らえ殺すのが目的で動きます。そのためなら、階上津そのものとそこに住まう異教徒を焼き尽くすことも辞しません。
一方で、漢土に流れ着いたマニもまた「小柄な医者が徐州にいる」と知り、揚州から徐州にうつりました。自分と似たような者がいれば、近づきつつある追っ手をごまかすことができる……と期待してです。
マニ自身は、両親の宗教活動には積極的でなく、できればどこかの村で診療所でも開いて過ごしたいと考えていますが、そんなたわごとには両親もゾロアスター教団もつきあってくれませんでした。
彼女は両親が嫌いです。しかし、両親が焼き殺されたのは明らかにマニのせいです。どうすればいいのか、あるいはどうしたらいいのか、聡明な彼女には判りません。判らないまま逃げ続け、現在に至ります。
夢梅には「全ての子供たちに夢と希望を与える」という、神から与えられた使命があります。
その使命の一環として、旅の占い師から聞かされた「遠く漢土で子供が危険にさらされる」という予言を阻止すべく、一年前から階上津に入っていました。
夢梅の情報網は極めて広くかつ正確で、巣津の陥落とカルディールの目論見を把握しています(巣津を軽視しているのはそのため)。加えて、カルディールが狙う陳小理がマニではないと知っていますが、マニ本人がどこにいるのかは判っていません。
マニが顔を合わせると、夢梅には「この子がカルディールが探している張本人だ」と判ります。しかし、表だってマニを救おうとはしません。マニ自身がどうすれば自分が救われるのか判っていないからです。
夢梅は子供の味方です。マニがどうすればいいのかを導くことはしませんが、出した答えには全力で協力します。
なお、彼女の真名はニコライ。日本ではサンタクロースと呼ばれている張本人です。
整理するとこうなります。
カルディール:マニを殺したい
マニ:どうしていいか判らない
ニコライ:マニを助けたい
事態を収拾するためには「マニにどうするのか決断させる」「そのうえで、カルディールとニコライのどちらかに協力する」ということになります。もちろん、マニが生きて階上津にいることが大前提ですが。
GMは、プレイヤーに「じゃぁ、しばらく自由行動になります」と宣言してください。この3人を行動の軸にするよう、さりげなく誘導するように。
3−3 駆け引き
・夢梅関連イベント
夢梅に会っても、イベントA0を起こしていると「夜に伺います」と短く云われて避けられます。
起こしていない場合は、マニを階上津に連れてきているかどうかで(その場にいなくても)反応が違います。
・連れてきている場合
「小さい子供だからって、何も悩みがないなんてことはないわよね……」と、暗に「ワタシじゃなくてあの仔をかまいなさいよオラ」と責められます。
・連れてきていない場合
単なる雑談になります。
その前に会っていても会わなくても、イベントA0を起こしていると、夜になってから夢梅が顔を出します。
A1
「揚州が危険だということは、ご存知のようですね」と前置きして、夢梅は彼女らしからぬ真剣な表情を浮かべます。
「楊州全土、とは申しませんが、巣津から北はパルティアの手に落ちています。あの者たちは強力な火計を用いて、布教という名目での侵略を行っているのです。もしあの場で問い詰めていれば、皆さんも焼き殺されたでしょう」
このとき「話術」の判定で20以上を出せば、夢梅が「嘘をついているように思える」と伝えてください。しかし、この場にマニがいるなら、まず彼女がパルティアと聞いて震えだすので「判定どころじゃない」とごまかしてください。
A2−1
追及する場合(必然的に、マニはこの場にいません)、彼女は悲しそうな表情で
「信じていただけなくとも、パルティアが危険だというのはご理解いただけているはず。どうか、カルディールを信じないでいただきたいのです。あの女は、危険です」
A2−2
追及しない場合、または判定に負けてできない場合にも
「カルディールを信じないでください。あの女は危険です」
A2−3
マニがこの場にいるなら、彼女は溜め息交じりで、震えている彼女に、
「やはり、そうでしたか……カルディールはあなたを探していたのですね」
「ひぐっ!」と悲鳴を上げて、マニは保護者にひっつきます。
「私から詳しく申し上げるのはよしましょう。とにかく、カルディールを信じないようになさってください。また、この子を隠し通してください。あの女は……危険です」(イベントB2)
A3
とにかく「アイツは危険だ、信じるな」と伝えた夢梅は「あの者の火計は私が封じますので、何かあったら呼んでください」と云い残して出ていきます。判定ナシで、嘘を云っていないのが判ります。
このイベント以降、夢梅の態度は以下に分かれます。
・マニが階上津にいる場合
「私ではなく、あの子をかまってあげて」
・マニが階上津にいて、悩みが解決している場合
「……もう、大丈夫そうね」
・マニが階上津にいない場合
「カルディールは何かを探しています。それが何か判れば……」
・マニが階上津におらず、イベントC3が起こっている場合
「女の子……ですか。私も探してみます。あるいは、その子の身柄を抑えれば、優位に立てるかもしれません」
夢梅との友好ポイントが○先行で5以上になっていて、マニの悩みが解決している場合、夢梅の真名を聞くことができます。「未来知識」3以上の『未来人』なら、彼女がサンタクロースだと判定ナシで気づきます。
ちなみに、雪と寒さを逆手にとって危機を救ったオハナシなので、そう名乗っています。
・マニ関連イベント
まず、階上津に連れてきていなければ、そもそも彼女関連のイベントは起きません。
イベントB2が起こっていないうちに彼女に会っても、ただの雑談にしかなりません。
イベントB2が起こっても、イベントB1が起こっていなければ、マニは自分の悩みを話しません。
ただし、『未来人』が相手だと、マニは「この国の方ではなかったですよね……ご家族は?」と話を振ってきます。真偽はともかく、家族がすでに死んでいなければ、そのまま雑談で終わります。
死んでいる場合は「遺されたというのは、国を捨てるには充分な理由ですよね……」と言葉を濁します。
マニの悩みというのは「嫌っていた両親が死んだからといって、遺された自分が志を受け継ぐ必要があるのか」というものです。プレイヤーはキャラクターを通じて、悩みを解消させてください。
もちろん「話術」の判定ではなく、ロールプレイで。
基準は任せます。年頃の少女が自分の将来を決断するに足りる、と思えた説得なら、マニは笑顔を見せてくれます。
機会はPCひとりにつき一度だけです。
マニとの友好ポイントが○先行で5以上になっていて、悩みが解決している場合、彼女の真名を聞くことができます。「未来知識」3以上の『未来人』が難易度20の判定に成功すれば、彼女がマニ教の開祖だと気づきます。
・カルディール関連イベント
イベントC0を起こしていると、カルディールは自らPCたちのところに訪ねてきます。
「医療技術を身につけている少女」がマニだった場合、カルディールは笑顔を浮かべて「あぁ……神よ、感謝します」と小さく呟きます(難易度15の智略判定に成功すれば聞こえます)。マニは、カルディールの顔を知りません。マニを相手に世間話して、その場では帰ってしまいます(イベントC1)。
マニではない別の誰かだった場合、カルディールはやや残念そうにしつつ、身体のどこかにやけどがないかこっそり確かめます。難易度15の武勇判定に成功すれば気づきますが、それを指摘されると「いえ、別に……」と目を逸らしてごまかします。これまた世間話して、帰ります(イベントC2)。
イベントC1が起こっていると、夜明け前のタイミングでカルディールが忍んできます。
「マニを私たちに渡していただきたいのです。彼女は、我が国で大罪を犯した叛逆者の娘なのです」と、嘘を云いますが、ことの真偽をPCが疑った場合は「話術」での対抗判定を行わせ、勝敗は告げずに、勝った場合は「本当のことを云っているように思える」と、負けた場合は「どうも本当のことを云っているようだ」と伝えてください。何しろカルディールはゾロアスターこそが絶対の正義だと信じているので、マニや両親のことを罪人としか思っていないのです。
(「話術」の対抗判定で判るのは、あくまで「相手が嘘をついているかどうか」なので、本人に嘘をついている自覚がなければ判定に勝っても嘘とは判りません)
引き渡すなら、パルティア船は日も昇りきらないうちに出港します。夢梅は二度とPCたちの前に姿を見せません。必要に応じて、泣き叫んで嫌がるマニとそれを軽くあしらいながら連行していく浮かれたカルディールの姿をロールプレイしてください。シナリオはここで終わります。
引き渡さないならカルディールはそのまま帰りますが、朝になって「敵襲!」との声が聞こえます。「4 戦闘」に移ってください。
イベントC2が起こっていると、外を出歩いているPCは、何となく視線を感じるようになります。
スキル「偵察」で難易度20の判定に成功すると、割と遠い位置からPCを見張っている人影に気づきます。が、すぐにそちらでもPCの視線に気づいて、さらに距離を取ります。接触ないし攻撃するのは距離的に無理、と判定もナシに伝えてください。
これは、PCたちが何かを隠していると考えたカルディールが、監視をさしむけたものです。
気づかなかったふりをしてどこかに誘導する、というのは基本的に失敗します。PCがマニを連れていなければ離れるからです。マニを連れていたにしても「いることさえ判れば充分」なので、やはりついてきません。
PCからカルディールを訪ねて、何か話をすることも可能です。
ただし、雑談や世間話では「出港前で忙しいので……」と手短に切り上げられ、以後カルディールは顔を出さなくなります。純粋な商談なら応じますが、商品が馬だと「あ、もう大丈夫です」と丁重に断られます。
「偵察」判定に成功し、でも気づかなかったふりをしてそのままパルティア船に駆け込み「追われています!」と訴えた場合には、カルディールは皮肉っぽい笑みを浮かべて「……こちらの手の者だと気づいていたワケですね?」と、個室に案内(というか、連行)してくれます。
個室では、カルディールとテーブルを挟んで椅子に座り、唯一の出口には監視としてPCをつけ回していたハサネが立ちます。人数にもよりますが、戦っても勝ちめはなさそうだとはっきり伝えてください。
カルディールは、まず「無礼をお詫びします。そのうえで、改めてご協力を求めましょう。私どもパルティアは、マニを探しているのです」と本当のことを云います。繰り返しますが、これは本当です。
「マニは我が国で大罪を犯した叛逆者の娘で、我々がこの地までやって来たのも、実を申せば彼女を探してなのです」と嘘を云いますが、先に見た通り、判定ではこの発言を嘘とは思えません。
「と云いましても、私たちには彼女を害するつもりはありません。何しろ小さな子供です、きちんと教育を施せばちゃんとまっとうに育つでしょう」と嘘を云います。これが嘘だというのを見抜く判定には、10点くらいボーナスをつけてもかまいません。
協力するにせよしないにせよ、カルディールは「こちらの誠意を見せるため」と、PCを解放します。ですが「いつでも殺せるのは覚えておけよ」とハサネが念押しします。
以後、ハサネは堂々とPCをつけ歩くようになります。
・リミット
PCには8回の行動機会があります。タイムテーブルとしては以下の通り。
初日
(カルディールが訪ねてくる:イベントC0が起こっている場合のみ)
行動1
行動2:日没
(夢梅が訪ねてくる:イベントA0が起こっている場合のみ)
2日め
(カルディールが忍んでくる:イベントC1が起こっている場合のみ)
行動3
行動4
行動5
行動6:日没
3日め
行動7
行動8
カルディールを信用するなと夢梅は云いますが、2日間マニを隠し通せばパルティア船は本当に出港します(余所を探しに行くワケです)。
PCに伝えてはいけないものですが、カルディールには「危機感」という隠しデータがあります。
GMは、各行動フェイズが終わるたびに「カルディールの智略+危機感で難易度20での判定」を行い、成功したら次の行動フェイズには移らず「4 戦闘」に移ってください。ただし、行動フェイズ1・5ではこの判定は行いません(次の行動フェイズが夜にかかるからです)。
「危機感」は以下のタイミングで上昇します。
危機感:初期値0
・情報13について尋ねる:+1
・情報14について尋ねる:+1
・情報16について尋ねる:+15(カルディールの智略は5なので、次の判定で必ずリミットを超える)
・イベントC2で身体検査をしているのを気づく:+1
・監視に対する「偵察」判定に成功する:成功するたびに+2
・マニ探しの協力を断る:+2
・マニ探しに協力すると答える:−2
・イベントC1でないタイミングで、マニと出くわす:+15(同上)
その他、カルディールが身の危険を感じるようなことがあったら、危険の度合いに応じて上昇させてください。原則として増える一方で、減ることはめったにありませんが、何かあったら減らしてもかまいません。
4 戦闘
このシナリオで戦闘に入るということは、カルディールとの交渉が決裂したことになります。引き返せない段階になっている、というのはさりげなく伝えてください。
戦場マップは以下の通りです。
海
壁
壁
壁
港
壁
A
B
港
河
河
南門
河
港
C
海
城壁を破ることはできないのはもちろん、海や河を埋めることもできません。また、門を閉じるにはどれだけ早くやっても1ターンはかかります。
・パルティア軍の動き
パルティア軍は大きく二手に分かれます。
まず、海上から船団が攻め寄せてきます。夢梅(か太守)がいればこれらの船が巣津を出たものだと判り、一見でライバル港の襲撃と思わせるのが目的です。PCには伝わらない情報として、こちらの指揮をとっているのはハサネです。
そして、こちらは陽動です。敵襲との声が上がった時点で「門を閉じに行く」というのに思い至らなければ、PCたちが港に到着するのとほぼ同時に、階上津の南方にも部隊が現れます。
時間差で攻め入る算段ではありましたが、現れたタイミングは偶然です。ですが、「街の中にも誰かが……!?」と危機感を持たせることにつながるので、黙っておいた方がいいでしょう。
夢梅は、各イベントの進展具合を問わず「この場は私が引き受けます!」と、PCたちには南門に向かうよう伝えます。事実、港での戦闘は階上津守備隊と荒くれの船乗りたちのおかげで、割と優位に進んでいるので、門をふさぐのが優先と説明すれば、PCはそちらに向かうでしょう。向かわなかったら……まぁ、遠慮なくカルディールが攻め入ってきます。「だから云ったのよ!」と叱りつけてください。
ただし、カルディール率いるパルティア陸軍と巣津の守備兵(巣津守備隊は前述通り100ですが、パルティア兵の数はPCの人数に併せて増加させてください)は戦場マップのCに陣取って、門を占領しようとしません。PC率いる兵は戦場マップのAに到着できます。
それを見届けたカルディールは「ゾロアスターの正義の炎をしかと見よ!」と叫び、スキル「神火」を使います。ルールブックが手元にないか、書いていない版のものしかないプレイヤーのために、GMは「神火」の効果を読み上げてください。
神火(魔法系スキル)
敵部隊が、使用者から見て異教徒だった場合、あるいは地形属性「木」に駐留している場合は、無条件で全滅する。
使用者と同じ神を信仰している場合、あるいは地形属性「水」に駐留している場合は、一切ダメージを受けない。
いずれでもない場合は、使用者の智略×100のダメージを受ける。
PCがこのスキルを修得・使用するには、GMの許可が必要。また、雨天・降雪時には使用できない。
一撃で巣津守備兵100人を灰にしたこの魔法について、ガタガタ騒ぐPCには「だから、最初に雨乞い持つかって聞いたンじゃないか」と云ってやってください。釈明はそれで充分です。また、カルディールが南門に入らなかった理由も併せて説明してください。この南門は河の上にあるので地形属性が「水」になっていて、ここにいては巣津守備兵を焼けないから、です。
カルディールはいっそ清々しい笑顔で「これが最後よ、マニを渡しなさい!」と通達してきます。その場にマニがいるなら渡すのも選択肢ですし、本人も「私が焼かれれば、皆さんを助けてくれますか?」と申し出ますが、差し出されたマニが灰になってもカルディールは攻め込んできます。もちろん、突っぱねた場合もです。
どちらにせよ、PC側全部隊の士気を2点下げ「最初に云いましたが、季節は真夏です。奇跡でも起こらない限り、雨は降らないでしょう」と通達して、実際の戦闘に入ります。
なお、このタイミングで、港ではハサネが死亡し、船団が退却を始めます。
カルディールは、マニがいるならマニのいるところにまっすぐに向かおうとし、マニがいないなら手近な部隊から潰そうとします。PCには、南門の上にいれば「神火」を使われることはないのを必ず伝えてください。
また、スキル「雨乞い」を持っているPCには「敵と隣接していたら、おちおち雨乞いの踊りも踊れんぞ」と、後方でなければ使えないのを伝えてください。
マニを含む「幼少」のキャラクターが危険な状態にあると判断したら、GMはそのキャラクターに夢梅との友好ポイントを確かめ、○先行で5以上の場合は友好判定をさせてください。出目がマルだったら、夢梅が本性を現して「雨乞い」を使い、雪を降らせて「神火」を封じてくれます。アレさえ封じてしまえば、勝ちめが見えてくるでしょう。
そのイベントが起こっているにせよいないにせよ、戦闘開始から4ターン後には夢梅が階上津守備兵300を率いて援軍に駆けつけます(戦場マップBに出現します)。おそらく、それなら勝てるはずです。
PCの部隊が危機的状況に陥ったら、マニがスキル「聖水」を使用してカバーします。プレイヤーに提示していた能力値には含まれていなかったのは、マニ自身がその力を使うのを躊躇っていたためです。
カルディールの部隊が壊滅すると、カルディール本人は戦死し、兵たちは自決します。また、PCが降伏しようとしても、カルディールはそれを容れず焼き殺します。
・イレギュラーなケース
もし、PCが夢梅の制止を振り切ってカルディールを問い詰めるか、あるいは夢梅がその場にいなかった場合は、そのままカルディールとの戦闘になります。
通常ルール通りの戦闘になりますが、その場に夢梅がいるかいないかで、状況は凄まじく変わります。
・夢梅がいない場合
まず、どんなイニシアチブになったにせよ、一番最初にハサネが、もっとも武勇の高いPCに「奇襲」してきます。
また、カルディールの行動順になる前に行動不能に追い込まなければ、彼女は迷わずに「神火」をブチかまします。防ぐすべはない(完全に接敵状態にあるので、「雨乞い」は使えません)ため、1ターンにひとりは灰になるでしょう。
ただし、武勇そのものはあまり高くもないので、ハサネの「奇襲」さえ乗り切ればカルディールを抑えるのは難しくありません。彼女を人質にとればハサネも降伏せざるを得ず、戦闘は終了します。
その後は、駆けつけた夢梅(とマニ)から状況説明があり、PCたちにカルディールの処断が任せられます。
・夢梅がいる場合
これまたどんなイニシアチブになったにせよ、一番最初に夢梅が「雨乞い」を使います(彼女はスキル「雨乞い」でえこひいきされているので、接敵状態でも使えます)。突然の雨によりハサネの姿もむきだしになってしまい、「奇襲」を断念して戦闘に加わってきます。
その後夢梅は戦闘に加わりませんが、まぁ勝てるでしょう。
・NPCデータ
マニ 所属:フリー
武勇1智略3運営4魅力6 歩1騎4弓1
収拾4、話術3、仙術3、外国知識(西戎)3、補給2、応急手当2、信心、聖水、陣形1(衡軛)
※ただし、スキル「聖水」をもっていることはPCには教えないこと。キャラシートにも書かない。
実史ではマニ教の開祖ですが、このゲームでは逃げ惑う子供です。PCは彼女を守る側に立ちます。
ニコライ(夢梅)
能力値は省略。
実史ではサンタクロースと呼ばれるおばさんです。子供の夢と未来を守るのがおしごとです。
カルディール 所属:ゾロアスター教団(司祭)
武勇3智略5運営5魅力6 歩2騎5弓1
火計5、経理4、外国知識(西戎)4、収拾4、話術3、重騎兵、逃亡、神火、信心、陣形2(魚鱗、長蛇)
実史においてマニを処刑したゾロアスターの司祭です。このシナリオにおける敵役です。
ハサネ 所属:ゾロアスター教団(神官)
武勇4智略3運営5魅力1 歩2騎1弓3
偵察5、外国知識(西戎)4、伏兵4、奇襲3、逃亡、水軍、陣形1(鶴翼)
カルディールの部下として出したNPCです。特定のモデルはいません。
5 事後処理
どんなかたちでシナリオが終わったかで、PCは経験点を得られます。
・情報16を得た +1点
・マニが階上津にいて、生き残った +1点
・マニの悩みを解決した +1点
・マニの真名を聞きだした +2点
・夢梅の真名を聞きだした +1点
・夢梅に「雨乞い」を使わせなかった +2点
・カルディールに「神火」を使わせなかった +2点
・階上津の戦闘に勝利した +1点
・階上津で戦闘を起こさなかった +3点
・カルディールにマニを引き渡した 経験点は一切得られない
・ゲームオーバー 経験点は一切得られない
どんな結末を迎えたにせよ、パルティアは巣津から手を引き、階上津は東方での海上交易を独占することになります。戦闘が起こっていたら復興するのにある程度の手間暇はかかるでしょうが、その辺りをPCが担当することになるか……で、またひとシナリオ組めるでしょう。
ちなみに、カルディールがマニを探しているものの直接の面識がないのを逆手にとって「火傷がある子供の左手」をカルディールに差し出せば、カルディールは心底残念そうに階上津から出港していきます。本人のものでもかまいませんが、ちょうどよく死体を手配できればそれでも済みます。
最後になりましたが、このシナリオがひとつの結末です。『真・恋姫RPG』におけるNPCは、出してもカルディール・マニ・ニコライまでで、そこから先の時代・そこから先の国の人物を使うは好ましくない、としておきます。
また、魔法スキルの習得と使用をどこまで認めるのか、に関する答えでもあります。強大な魔法スキルを使ってくる敵が出るようなら、PCに少しだけ対抗策を持たせるか、NPCに使わせるか、です。原則としては使わせるべきではない、というのが僕の見解になります。