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3 人物邂逅

F:では、シナリオを開始します。これから皆さんのことはキャラクター名で呼びますので、よろしく。
 シナリオというのは、単純に云えばTVドラマの1回分。物語のひと区切りに相当するもので、基本は1日(1回の集まり)で1シナリオが望ましい(注1)
 これに対し連続ドラマに相当するキャンペーンシナリオというものがあり、そちらは、いくつものシナリオを同じキャラクター(つまり、同じプレイヤーであることも求められる)で続けていくもの。
 この辺りの台詞は「三國志演技・リプレイ集」そのまま。同書の22ページの、シナリオ開始部分を引用すると『このシナリオでの登場人物の人間関係の設定を、シナリオの冒頭で遊技者どうしに決めてもらうつもりでいました。事前になにもかも決めておくのは遊技者にとってもつまらないし、それにシナリオの伏線となる設定をさりげなく織り混ぜようという意図もあったからです』とある。ひそみに倣うのもまた一興。
 大筋だけ提供して、あとは各員のロールプレイに任せることにします。
F:えーっと、時は後漢末、乱世の時代。董卓という白くて悪いひとによって、洛陽の都が戦禍に巻き込まれてから数年が経った頃のお話です。北方では一大決戦が終わりましたが、孫呉と接するこの徐州ではそれほどの戦乱もなく平穏な日々が過ぎていました。
陶双央:舞台は徐州なの?
F:です。えーっと、陶双央さんは徐州を治める陶謙さんのお孫さんに当たります。
陶双央:お?
趙二英:それで字だけ変えさせたワケね。
F:そゆこと。陶謙には劉備に仕えなかった息子がいたンだけど、その子供という設定ね。書記の……といっても秘書じゃなくて、エジプトにおける書記(注2)の役割を務めていると思ってください。
陶双央:でも、官渡の戦いが終わってるのに、陶謙さんは健在なのね?
F:ある種のパラレルワールドですから。設定としては、呂布がこっちに来なかったので、徐州はあまり戦乱に巻き込まれなかった……とはさっき云いましたね。袁家は滅んでいるのでその残党は多いですけど、それでも老公が頑張って統治しています。
陶双央:いちおうは独立してるのかな?
F:うーん、どうなんだろう。曹操領を経て……いや、経たのかな? とりあえず、北方の大国の庇護下にある、みたいな状態だと思ってください。その辺の設定がよく判らないので。
 いや、ホントに。
趙二英:? ……判らない?
F:さて、双央さん。老公から呼び出しがかかりました。
陶双央:出頭しましょう。……えーっと、何て呼べばいいのかな。
F:いちおう公式の場ですから陶刺史とでも呼べばよろしいかと。諱を呼ぶのは失礼に当たりますから。
陶双央:はぁーい。では(こほん)「刺史さま、お呼びでしょうか」……こんな具合?(注3)
F:おーらいです。「あぁ来たね、陶書記」と、老公もプライベートではない呼び方で応対します。
陳小理:他には誰がいるっすか?
F:武官として曹豹が控えていますけど、3人だけです。基本的に、徐州の武官のトップが曹豹で、文官のトップが双央さん、という編成になっていると思ってください。陳親子(注4)は他の城を治めている、と。
陶双央:で、なにごと?
F:「来てもらったのは他でもない。城下をにぎわしている袁家の残党についてだ」……えーっと、台詞調でやると時間がかかるので、ちょっと短縮しますね。数年来、袁家の残党が徒党を組んで旅人を襲ったりしていました。ところが、北方での一大決戦が終わってからというもの、この徐州城の近くに大きな根城ができてしまったようなのです。近隣の村はたびたび襲撃を受けていて、このままでは徐州城も攻められよう、というのがもっぱらの噂です。
趙二英:……ん?
陶双央:どうかしたの?
趙二英:いや……
F:続けますね。老公は中央に援軍を求めていましたが、ようやっと重い腰を挙げて、一千からの兵が送られてくることになりました。
陶双央:ようやく、北方の争いが一段落したというところかな?
F:それは、プレイヤーとしての発言? それとも双央として?
陶双央:えーっと……口に出します。「朝廷は、地方の苦労が判っていないンですよね。戦火は衆議場で起こっているンじゃなくて、現場で起こっているのに」
F:「滅多な事を云うモンじゃないよ、陶書記」と、たしなめます。老公は続けて「ともかく、来てくれるのはいいが任せきりというわけにもいかない。曹豹に常備兵を動かす準備をさせたンだが、いま城内にいる兵は五百人くらいだ」
陶双央:「賊はどれくらいなのですか?」
F:「偵察では千を超えているらしいが、正確なところはよく判ってないのさ。実数は判らないけど、兵はある程度そろえておきたい。そこで陶書記、義勇兵を募っておくれ」
陶双央:義勇兵、ですか。
F:つまり、曹豹の指揮する部隊のほかに、双央さんの指揮する部隊を編成しておこうということですね。これに援軍を加えれば、袁家の残党を恐れる必要はないだろう、と。
陶双央:えーっと「御命とあれば否やはありませんが、どれほどのものを募ればいいのでしょうか」と確認しておきます。特に、資金をどうするのか。
F:「資金も食糧も、賊に奪われるくらいなら使ってしまってもいいだろう。ある程度は融通するよ。お前の裁量で、義勇兵を募ってきな」とお墨付きを出しましょう。ただし「だが、証文はしっかりね」とクギも指しますが。
陶双央:持つべきは頼れる主、かな?
楊花玉:では、そこへ双央さんの部下が顔を出しましょう。「申し上げます、商人の楊さんがお見えです」
F:いいタイミングですね。
 ある程度慣れているプレイヤーは、こういう気配りをしてくれるので助かる。
陶双央:知りあい、ということでいいの?
F:その辺のルールもありますけど、今回は顔見知りということでいいでしょう。
楊花玉:うん、出入りの商人ということにでもしてくれる?
F:おーらいです。じゃぁ、父親の代から城に出入りしていたということで「あぁ、楊完の娘かね。ちょうどいいところに来てくれたじゃないか。待たせちゃ悪い、行ってきな」と送り出します。
陶双央:送り出されます。失礼しますねとひと声かけて、応接室に向かうね。
楊花玉:応接室で……じゃぁ「これは双央さん、お久しぶりです」
陶双央:真名は名乗っていないくらいの関係、かな。こちらも「久しぶりね、花玉。ちょうど会いたかったのよ」
楊花玉:「おや、嬉しいことを。ちょうどキナ臭い噂も聞いておりましたので、お力になれればと伺いましたが、ワタシの鼻も満更ではないですね」……袁家の残党って、どれくらい噂になってるの?
F:(ころころ)……援軍も含めてだいたい城下には知られてますね。
楊花玉:じゃぁ、他の商人に先を越される前に乗り込んだのは正解だった、というところね。
F:その辺の行動力が、同業者からうらまれる所以なんでしょうね。
陶双央:でも、助かる。「実は義勇兵を募ることになったの。そこで、装備と物資の調達をお願いしたくて」
楊花玉:「心得ました。大恩ある双央さんのためです、お力添えをさせていただきましょう」と請け負うけど……物資の調達に役立ちそうなスキルって持ってないのよねェ。
趙二英:ダメじゃないのよ。
楊花玉:その辺は何とかフォローしてくれるでしょ。「で、兵の募集はどうされるのですか?」
陶双央:「とりあえず、高札を立ててみようと思ってるンだけど」……で、大丈夫?
F:ええ、そういうことにしてもらいます。徴兵ないし募兵に関する記述は基本システム・パワーアップブックのいずれにもないので、今回はオリジナルのルールで対応するつもりで設定していましたから。
陶双央:じゃぁ、城内のいちばん目立つところで……どうするの?
F:どこに立てるのか、は考えなくていいです。基本的には"交渉"の能力値を使います。
趙二英:行為判定するワケね。
陶双央:はんてい?
F:普通の人が道を歩くのは何の問題もなくできますね。でも、手ではばたいて空を飛ぼうとするのは誰にでも不可能です。では、ある程度の高さの塀を乗り越えるのは? 成功するのか失敗するのかを判定するのが、行為判定ルールです。
陶双央:ふんふん
F:このゲーム経験者の二英もしばらくぶりなんだから、ちゃんと聞いておくように。このゲームでは、基本的に行為判定のルールはひとつしかありません。まず、関連する能力値の10の位の数値。これを能力値修正値と呼びますが、塀を乗り越える場合は"機敏"を、高札で兵を募る場合は"交渉"を使います。
陶双央:えーっと、双央の"交渉"は50だから、5ね。
F:次に、関連する技能の段位を足します。塀を乗り越える場合は実は武力系技能の『軽身』を、兵を募る場合は……後にしますね、とりあえず。
陶双央:なんで?
陳小理:またよからぬことをたくらんでるっすか? えーっと、あたしは"機敏"65で『軽身』2だから、8っす。
F:で、その他修正値……たとえば、足元がぬかるんでいたらうまく跳べないですね? 状況によって判定値が上下しますが、それを表す数値です。
陳小理:あい。今回は考えなくていいっすか?
F:そうだな。で、最後に2D6……6面のサイコロ2個の出目を足したものが、最終的な数値になります。これが目標となる難易度以上なら成功です。塀を乗り越える場合は13から15となっているので、14にします。
陳小理:サイコロふたつ……てりゃっ(ころころ)6っすね。合計で14……ぎりぎり成功っす。
F:という具合です。このとき、能力値の1の位(ルール上では端数と呼ばれます)を使うと、能力値は切り上げた数値になります。65なら能力値修正値は6ですが、端数を使うと7で判定できるワケです。ただし、使った端数は、シナリオが一段落するまで回復しません。
陳小理:使いどころを見極めろって『私釈』で云ってた奴っすね。
F:また、"命数"をたとえば10点使うと、判定の数値を+2できますが、使った"命数"は回復しません。
陳小理:……ごくっ
F:本来なら追加ルールで命数回復の祈祷(失敗すると即死)が公開されるはずだったのに、その辺が公開されなかったからなぁ。かなり残念ですねっ!
楊花玉:お兄ちゃん。
F:はい。さて、募兵に戻ります。今回は高札を立てるか、街頭で兵を募るかになります。前者なら"交渉"、後者だと"風采"が使う能力値です。
陶双央:高札なら"知力"じゃないの?
F:このゲームでは、内政関係は"交渉"での判定になっていますから。まぁ、知力系技能や風采系技能を使うのはいいですよ。つまり、『士気高揚』を使って檄文を打ったり、『流言飛語』で街は危機的状況にあると思わせ、民意を奮い立たせるとか。もちろん『説得』や『本音』といった交渉系技能でもいいですけど。
陶双央:じゃぁ『情報分析』で……どうなるのかな、これの場合だと?
F:賊とこの城の置かれている状況に、援軍が来るということを告知する内容になりますね。
楊花玉:さすがに、それを公表するには陶謙さんの許可がいるンじゃないかしら?
F:出ないでしょうね。賊の偵察が来ていた時に備えて、自分たちの総兵力を公表しようとは思わないでしょうし、たぶん来ていますから。
陶双央:他に高いスキルってないのに……ん?
楊花玉:え?
陶双央:(にっこり)「花玉、高札の文面を考えてもらえない? 私が書くよりたぶん効果的だもの」
陳小理:ぅわ、責任転嫁するっすか。
趙二英:効果的なのは確かね。"交渉"65で『説得』が3だから、期待値(注5)16だし。
楊花玉:「引き受けましょう」えーっと……じゃぁ『説得』で振ればいいのかしら?
F:そうですね。用意しておいたルールはこんな具合ですが。

募兵ルール(非公式)
・高札を立てる(基本難易度:14)
 基本は"交渉"と、使う技能を選んで行為判定。技能や状況によっては数値を増減させること。
 『威圧』『挑発』『愛想』ではマイナス補正、『士気高揚』『説得』『本音』などならプラス補正があってもいい。
 文面によっても補正を検討。また、『礼儀作法』『引率』を持っているならボーナスがあってもいい。
 基本の難易度は14とするが、「賊の行いに民衆が憤っている」などの理由があれば低く、「度重なる戦火で誰も彼も疲れ果て、戦うことを辞す」などという場合なら高くなっていい。
 成功した場合は出目の5倍、失敗した場合でも出目の3倍の人数が、翌日までに義勇兵として集まる。
 成否を問わず、1度高札を立てると、10日間、新たな高札を立てることができない。
・街頭演説(基本難易度:14)
 基本は"風采"と、使う技能を選んで行為判定。技能や状況によっては数値を増減させること。
 (各技能に対するリアクション表は割愛)
 基本の難易度は14とするが、「賊の行いに民衆が憤っている」などの理由があれば低く、「度重なる戦火で誰も彼も疲れ果て、戦うことを辞す」などという場合なら高くなっていい。
 成功した場合は出目の10倍、失敗した場合でも出目の3倍の人数が、翌日までに義勇兵として集まる。
 成否を問わず、1度街頭演説を行うと、翌日まで演説は行えない。ただし、出目の半分(端数切り上げ)に等しい日数が経たないうちに再度演説を行う場合は、集まる兵が半分(端数切り捨て)になる。

楊花玉:……これは、ふたりで両方できるの? それとも片方だけ?
F:高札の文面が場所によって違うようでは、見るひとも困るでしょうね。朝令暮改を避ける目的で『10日間、新たな高札を立てることができない』としているワケですから。行為判定を行えるキャラクターが複数いる場合でも、高札は1度しか判定できません。一方で、街頭演説は各人で行えますが1日一度です。
楊花玉:じゃぁ「ワタシは高札を用意してから街頭演説に行きますから、双央さんは先に街に出ていてください」
陶双央:「うん、お願いね」と、先に街頭演説をしておく……けど、どうしよう?
楊花玉:"風采"も"交渉"も50台なら、どっちでもいいって思うけど……"風采"+『説得』でいいかしら。
陶双央:それが限界ね。
F:えーっと、双央さんはこの城では知られているヒトですので、演説の際に+1の修正を認めましょう。
陶双央:わ、らっきー。"命数"使わなくていいね、それなら。端数は使って……
F:使いますか。
陶双央:まずは人数を集めないと。えーっと、能力値修正値が6になって、『説得』で+1、修正がさらに+1、サイの目が……(ころころ)7。合計15。
F:成功です。双央さんの説得に応じて、翌日までに150名が兵士として志願してくることになりました。
陶双央:具体的に、どんな演説をしたのかはいいの?
F:プレイヤーのリアクションに一定の判定基準を与えるのが、行為判定の存在意義ですから。極端な話、双央さんが「母の愛した徐州を守ってください」とか演説したら、僕なら迷わずに出目マイナス30を命じます。(注6)
陳小理:今いる兵士さんまで逃げるっすか?
F:逃げるっすね。でも、そんな評価をするのは僕だけだろ? アキラ辺りならプラス修正をつけかねない。
楊花玉:お姉ちゃん、それが普通の反応だと思うわ……
F:というわけで、どんなスキルを使ったのかは考慮するが、実際に何を云ったのかは考えない。考え出したら処理が複雑になっちゃいますからね。
陳小理:ごもっともっすねー。……じゃぁ、ここらであたしも出演していいっすか?
F:いいぞ。演説を聞いて志願するワケかな?
陳小理:そーっす。双央サンにちょこちょこ近づいて「おねーさん、軍医は必要ないっすかー?」って。
F:キャラお前のままかい。
陶双央:えーっと、苦笑しながら頭をなでて「子供はおうちに帰りなさいねー」……ね、年は?
陳小理:決めてないっすけど、規定あるっすか?
F:年齢に関する規定はないですよ。ただし、こどもの権利条約第38条第2項(注7)にのっとり、15歳未満のキャラクターはオレの片腕に賭けて許さんが。
陳小理:……じゃぁ、師匠を怒らせないように、最低レベルの15歳にしておくっす。
趙二英:15歳で医術5レベルってどうなのよ。
陳小理:なんかあったンすよ、きっと。えーっと「あたしはお役にたてるっすよー。おねーさん、雇ってくださいっすよー」とうろちょろするっす。
陶双央:うーん、立場としてはおうちに帰してあげないとダメよね? どうしようか。
F:対抗判定というのがあります。先ほどの募兵は不特定多数が対象の行為判定でしたが、小理ちゃんを相手に交渉を行うものですね。双央さんは小理ちゃんに帰るよう説得するワケだから"交渉"で『説得』ですか。小理ちゃんは……どうする?
陳小理:交渉系のスキルって持ってない(注8)ンすよ。
F:じゃぁ"交渉"で平目(注9)
陶双央:えいっ(ころころ)……11だから、5の1で17。ちょっと高かったかな。
陳小理:(ころころ)出目が6っす……。えーっと、合計でも11っす。
F:じゃぁ双央さんの勝ちになります。小理ちゃんは説得されておうちに帰ることに……なったらまずいな。
陳小理:まずいっすよ、師匠〜。
陶双央:うーん、判定した後で引き留めるのはまずいよね?(注10)
趙二英:花玉、アンタの出番。商人の保有能力『有朋遠来』の出番よ。
 有朋遠来(ともありえんぽうよりきたる)は、商人の人脈を表す固有能力です。"交渉"+『愛想』+2D6で目標値以上を出せば、ゲーム中に登場した人物を以前からの知りあいだったことにできます。
 これは他のキャラクターのみならず、実在の武将相手でも実行可能です。……ゲームマスターが使用を認可し、判定に成功すれば、ですが。
楊花玉:高札を準備し終えて街に出たところで、双央さんに小理ちゃんがじゃれついているところに出くわすのね?
F:そうなりますね。難易度は……キャラクター同士だから9でいい(注11)ことにします。
楊花玉:"交渉"65で『愛想』3だから、サイコロ振らずに成功できる数字よ? (ころころ)……出目11だし。
F:合計20ですか(注12)。友人判定(注13)でもよかったかな。
楊花玉:声かけるわね。「あら、小理ちゃん? しばらくぶりね」
陳小理:顔見知りっすね。「花玉姉さんっすかぁ、お久しぶりっす〜」と、今度はこっちのお姉さんにうろちょろ。
陶双央:「花玉、この仔知ってるの?」
楊花玉:えーっと……(Fを見る)
F:(眼を逸らす)
 その辺の判断は任せる、という意思表示。
楊花玉:「そうですね、お世話になったお医者さんのお弟子さんで……小理ちゃん、お師匠さんは元気?」
陳小理:「あのエロジジイったら、あたしを弄んでポイ捨てしたンすよぉ。おかげで路頭に迷って……よよよ」
F:はい、そこ。特定個人の評価を貶める発言をしないように。
陳小理:そんなつもりはないっすよー?
F:では云い直そう。特定夫婦の関係を悪化させる発言は慎むように。
陶双央:ダメよ、手伝いたいって顔しちゃ。
趙二英:してないわよ!
楊花玉:(←笑ってない)お話戻していいの? 「双央さん、この仔はちーちゃいけど腕は確かです。連れ歩いて損はないですよ」と勧めてみるわね。
陶双央:花玉さんのお墨付きなら、逆らわないでおこうかな。「そうなの? 花玉さんがそう云うなら……」と、ちょっとだけ不審そうにうなずく。
楊花玉:まだ信用されてないわね。
陳小理:その辺はおいおいフォローしていくっす。
趙二英:じゃぁ、ここらで襲撃するわ。
F:待て!
趙二英:待たない。小理に『突撃』を敢行(注14)
F:ええい、いつになってもワガママな……。このゲーム、奇襲は異常に難しいぞ。えーっと……じゃぁ二英は"武力"に『突撃』、小理は"機敏"に『軽身』で対抗判定してくれ。
趙二英:(ころころ)7か……足して14。
陳小理:(ころころ)あたしは9が出て、17っす。
F:では、回避成功。二英の大刀を小理は回避しました。
陳小理:「何するっすか! 危ないっす!」
趙二英:「やかましいわよ! ここで会ったが百年目、この傷の恨み晴らしてやるわ!」と、さらに攻撃。今度は(ころころ)11が出たから、18になったわよ。
F:お前、ホントに殺す気か?
陳小理:えーっと、10以上で成功っすか? (ころころ)ぅあ、5……13っすね。
F:じゃぁダメージが通って……丁度いいと云えば云えるか。ここで、戦闘に関するルールも説明してしまうか。
 軽く親指を立てる。
陳小理:あたしがお相手っすかー!?
F:先に云った通り、このゲームでは行為判定に関するルールはひとつしかないです。戦闘に関しても、基本的には対抗判定の延長線上で考えてください。
陶双央:えーっと、いまやったみたいなの?
F:そうです。まず、9×9のボードを使用します。将棋盤を代用してもよし、と公式な記述もありますね。で、真ン中に戦闘を行う人数分のコマを置いてください。
 初期状態




陳:趙



F:ここから『白兵』技能+武力修正値+武器の修正値で対抗判定を行います。勝った人が長兵器を持っているなら2マス、他の武器なら1マス、相手の側にコマを押し込むことができます。
趙二英:アタシの持ってるのは大刀(注15)だから2マスね。
陶双央:判定に負けても、次の判定で勝てれば押し返せるってことかな?
F:そうです。つまり、このゲームではどれだけ武力が高くてもサイの目が悪いと一騎討ちで負けるンです。システム上、武力はサイの目の修正値程度の意味合いしかありません。
陳小理:だから、武力差が19までなら覆せるっすか。
F:20だとさすがに難しいな。また、生命力に類する能力値がなく、コマのいるマスで受けているダメージを表示するシステムなので、奇襲や暗殺も殺りにくいです。……まぁ、実際にやってみますか。小理にさっきの一撃があるので、2マス下がっている状態からスタートします。
 こうなる↓
死亡ライン
●陳:趙○



趙二英:またアタシが勝ったら、アンタ死ぬわよ。
F:鎧を装備していないと、4マスが死亡ラインになっています。
陳小理:意地でもここで何とかしなきゃっすかー!? でも『白兵』技能持ってないし"武力"40っすー!
趙二英:アタシは『白兵』3で"武力"65、武器の大刀で+1、出目は(ころころ)11だから合計21よ。
陶双央:わっ、死んだ?
陳小理:(ころころ)えーっと、6ゾロっすけど17にしかならないっす……
F:……なぁ翡翠ちゃん、そのダイス、どこで手に入れた? このタイミングでクリティカルかよ。
陳小理:クリティカルっすか?
F:さっきから要所では出目がいいなぁ? 戦闘中に6ゾロを出すのを『効果的打撃』といいます。要するにクリティカルで、武器ごとに設定されているマスだけ対抗判定の結果にかかわらず相手を押すことができます。ピンゾロの場合は『危機的痛手』つまりファンブルになって、これまた対抗判定の結果にかかわらず押されることになりますが。
陶双央:じゃぁ、今回は……?
F:えーっと、まず判定そのものは二英が勝ったので2マス押せますが、小理がクリティカルを出したので、その分押し返せます。小理の獲物は短兵器扱いとなる剣ですが、これはクリティカルだと2マス押せる設定にしています(注16)ので、結果、コマはどちらにも動きません。
 こうなった↓
死亡ライン
◎陳:趙○





趙二英:舌なめずりして「なかなかやるわね……」と凄む。
陳小理:「助けてくださいっすー!」と泣き叫ぶっす! 奇跡は二度も三度も起きたりしないっすー!
F:そのサイコロだと何度でも起きそうな気がするのは、僕の気のせいか?
楊花玉:じゃぁお姉ちゃんが割って入るわね。大斧+"武力"60+『白兵』3で(ころころ)出目7。
F:はい、17と云って大斧が振り下ろされました。二英?
趙二英:6ゾロと云って受け止めるわよ。
楊花玉:……お姉ちゃん、素で驚くわ。「なっ……ワタシの斧を受け止めた!?」えーっと?
F:ダメージはナシでいいですよ。止めに入ったところで戦闘が終了したことにします。でなきゃアンタが一撃で殺されますから。
趙二英:じゃぁ「邪魔するンじゃないわよ! そのヤブ医者をこっちによこしなさい!」と小理に刃を向けるわ。
陶双央:手は出せないけど口は出すね。「さぞや名のある豪傑とお見受けしましたが、こんな小さな子供に刃を向けるのは見過ごせません!」と『説得』で(ころころ)14ね。
趙二英:交渉系スキル持ってないのよね……(ころころ)平目で6だから10か。「むっ……」と、豪傑呼ばわりされて心が動いたことにすればいいわね。
陶双央:うん、いーわよ。「この仔があなたに何をしたというのですか?」
趙二英:兜を脱いで「女の顔に傷をつけたのよ」と額の傷を示すわ。
陳小理:花玉姉さんの後ろから「あたしじゃなくて師匠の仕業っすー!」と叫ぶっす。
F:えーっと、勝手に設定走らされるとこっちが困るンだが……。つまり、二英が怪我をした時に、小理の師匠が手当てして傷が残った。原因は小理の失敗だった、と。小理の『怨恨』と二英の『復讐の誓い』両方を消化できるな。できれば先に決めておいてほしかったが。
陶双央:なんとか説得できないかな?
F:難しいですね。女の顔に傷をつけたことをどうフォローします?
楊花玉:うーん、知人判定が通用する局面じゃないし……。
陶双央:……あ、そーだ。じゃぁ、師匠の雪英さんに悪者になってもらっちゃおう。
F:とりあえず、オレを出すのをやめませんか?(注17)
陶双央:「どうか聞いてください。あなたに傷をつけたこの仔の師匠は、この仔を弄んだ挙げ句ボロ切れのように捨ててしまったのです。この仔にも悪いところはあるでしょうが、恨むべきはその師匠でしょう」
趙二英:「何ですって? あの雪男、こんな小さな子供を手籠にした挙げ句に浣腸までしたっていうの?」
楊花玉:「そうなのよ。おまけにこんなおっぱいに××××……」
F:頼むから、オレを出すのやめませんか!?
陶・趙・楊:いや
陳小理:泣いちゃダメっすよ、師匠。
F:……代表者ひとり、二英と"交渉"で対抗判定。
趙二英:先に云うと、アタシは(ころころ)……出目6だから10よ。
陶双央:では、責任を取って私が『説得』で(ころころ)……出目5でした。えーっと、いちおう11かな。
F:出目がタメなら趙二英優位の結果になりましたが、1点でも勝ちは勝ちです。
趙二英:「……そういう事情なら仕方ないわね」と刃を引くわ。
陶双央:「お判りいただけると思っておりました」と、その手を取る。
趙二英:無言で払う。
陶双央:「あんっ」えーっと……また説得すればいいのかな?
楊花玉:今度は代わる?
 城下でのもめごとなので双央さんが収めるのが筋だと思い、先の交渉は譲ったのだが、二英を義勇兵に勧誘するのは協力してもいい、という意味の発言。
F:知人判定するなら難易度9です……と、さっき云いましたね。
楊花玉:(ころころ)出目は10。「……思い出しました。北平の二英さんじゃないですか」と手を取る。
趙二英:今度は払わないでいいわね。「あぁ……楊花玉ね。久しぶりね」
陶双央:「花玉のお知りあいですか?」
楊花玉:「ええ、官渡の戦いで功を挙げた豪傑です。二英さん、こちらはこの城で書記をされている陶双央さん」
趙二英:「陶? じゃぁ太守の一族なの?」……うーん、知ってる情報をいちいちロールプレイするのもアレね。
F:その辺はしっかりやってほしいところなんだが。特に、二英が野に下った理由。
趙二英:「アタシは戦功こそ挙げたけど、顔に傷を負うという女としても武人としても恥ずべきことになってしまった。この恨みを晴らすため、軍を辞して仇を探していたのよ」……こんなモンでいい?
陶双央:「そうでしたか。……では、その仇討ちをやめろとは云えませんが、どうでしょう、手がかりが見つかるまでこの徐州に留まっていただくわけにはいきませんか?」と『説得』。
F:判定はしなくていい。自分でどうするか考えてください。
趙二英:悩むことじゃないでしょ、そこは。「……そうね、路銀も乏しくなってきたし、しばらくは厄介になろうかしら。見張っていなきゃいけない奴もいるし、ね」と小理にぎろり。
陳小理:花玉姉さんの後ろに隠れたままっす……
楊花玉:「まぁまぁ……」とフォローするわね。
陶双央:話がついたところで、義勇兵の募集に戻りましょうか。
F:あぁ、覚えていましたか。でも、双央さんの演説に応じて小理と二英が加わった状態ですから、残ってるのは花玉さんの演説と高札ですよ。
趙二英:アタシたちはできないワケね。
F:さて、二英。ちょっと"命数"平目で判定してくれ。いくつになった?
趙二英:ん? (ころころ)……15。
F:『隠密潜伏』は持ってないから(注18)なぁ。"機敏"の平目……げ、出目4。えーっと、キミたちを見つめる視線が、どこかから向けられているのに気づいた。
陳小理:視線っすか?
趙二英:アタシに云ったってことは、つまり『知敵知己』をやれってことよね?
F:話が早くて助かる。『知敵知己(てきをしりおのれをしる)』は武人・女傑の固有能力で、敵のおおよその強さが判るというものです。二英、"武力"の能力値修正値に『白兵』技能足すと幾つだ?
趙二英:"武力"65で『白兵』3。9よ。
F:たとえば『白兵』スキルを持たない双央さんや小理だとこの数字が4なので、二英から見ると−5。これだと『知敵知己』では『雑魚』と表現されます。
陶双央:花玉だとどうなるの?
F:プラマイ0だと『ほぼ互角か』ですね。実際にいくつ違うのかは判らないけど、そういう表現をすることである程度の強さが判るワケです。ちなみに、獲物が飛び道具の場合は"武力"ではなく"機敏"、『白兵』じゃなくて『投射』スキルですが。
 「ちなみに」以降はルールにはないが、二英からもツッコミはなかった。内心ニヤリとしたのは秘密だ。
趙二英:で、視線の主は?
F:『とてもかなわじ』。二英から見て+4から+5の使い手ですね。
趙二英:!?
楊花玉:二英さんもずいぶんの使い手なのに? それって、どれくらいなの?
F:武将で云うなら顔良・文醜・夏侯淵というレベルですね。夏侯惇なんかはもう少し上ですが。
趙二英:どこにいるか判る?
F:もういっちょ"命数"で判定。
趙二英:(ころころ)……5か。12よ。
F:(ころころ)7……では、視線の主がどこにいるのかは判りませんでした。ちなみに、この一連のやり取りは他の3人には判っていないので、突然顔を挙げた二英が必死の形相で周りを見渡しているようにしか見えません。
楊花玉:「どうかしたの? 二英さん」と、暗に探すのは諦めるように促すわね。
趙二英:それがいいわね……。「……何でもないわ」と眼を逸らす。
 "命数"を消費してまで探そうとしたら、城から使者が来て「一度お戻りください」と邪魔をすることになっていた。それだと双央さんひとりだけ戻して他3人が探すことも考えられたので、4重の妨害策は用意していたのだが、花玉さんには見通されていたらしい。
F:では、募兵に戻りましょう。花玉さんは、まず"交渉"に何の技能を使いますか?
楊花玉:じゃぁ『説得』で……
 ちょっと長くなったので、ここらでページを切り替えます。



注1 「三國志演技」では『超絶能力』の都合で、あまり長いシナリオは好ましくない。
注2 文官というか政治家に相当する。当時エジプトでは識字率が低く、文字を書けるというだけでエリートとされた。その中でも、宮廷書記は最大のエリート職。
注3 この辺りの"ロールプレイ"が、慣れないひとには恥ずかしいらしい。僕はとっくに吹っ切れているが。
注4 徐州の影の支配者、陳珪老・陳登親子。
注5 サイコロで出てくれるであろう数値。2D6の期待値は7(出目の平均が3.5)なので6+3+7で16になる。
 ただし、これは計算上のものであり、実際の期待値はサイコロを振る本人によって異なる。2D6の期待値が10を超えるプレイヤーというのは珍しくない。
注6 ツッコミが入らなかったのはいいことです。日頃の行いですね。
注7 「15歳未満のこどもを戦場に出してはならない」という規定。第3項ではさらに「18歳未満のこどもを戦場に出す場合は、年長者を優先する」とある。
注8 『挑発』は風采系。
注9 ダイスの出目に修正を加えない場合の隠語。厳密には"交渉"の能力値修正値を加えるので、用法を間違っている。
注10 初心者にありがちなミス。プレイヤーとしての考え・行動とキャラクターとしての考え・行動がうまく調整できず、空気の読めない言動になってしまう。ロールプレイとしては面白い展開、意見としてはまっとうなので、そもそも15歳のお医者さんを作った翡翠ちゃんこそが責められるべきなのだが。
注11 「素人でもたやすい(薪を割る。飲み屋でお客に給仕する。歌を披露する)」というレベル。「塀を乗り越える」は「その道の者ならばできてあたりまえ」という難易度。
注12 「その道の師匠と名乗っても恥ずかしくない(暴れ馬を乗りこなす。金一袋に値する芸をする)」に相当する出目。
注13 『有朋遠来』には知人判定と友人判定の2種類があり、今回行ったのは「知り合いだったことになる」知人判定。さらに「好意的な関係になる」友人判定もできるが、どちらを行うのかは事前に決めておかなければならない。
注14 ……あれ? そういえばコレって集団戦闘用のスキルだったな。
注15 中国での大刀は、日本で云う薙刀に近い獲物……と、以前『私釈』で触れましたね。
注16 ルールブックでは「武力修正+1」とあるのだが、小理の武力そのものが低かったので「威力は剣と同じだが、クリティカルの効果は長兵器並み」に設定を変更した。……まさかこんな形で役に立つとは思わなかったが。
注17 あとで確認したのだが、趙二英という名前は「はっきり雪英二にしたらアンタが却下したでしょ」とのこと。気づけオレ。
注18 自分や物を隠すスキル。つまり、相手は隠れているが、間諜ではないというヒントだったのだが、そこまでは気づかなかったらしい。ふふふ。

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