春のトンボ
3月の水辺。陽射しは徐々に暖かくなってきているが、小川の水はまだ冷たい。池や沼の水面上には立ち枯れたアシの茎だけがめだち、まだ緑は見えない。夜にはメスを誘うカエルの合唱が始まり、水辺にはちらほらと卵が見られるようになる。周囲の草むらはようやく草が芽吹き始めているが、雑木林はまだ冬姿で林床は明るい。そんな中、草原ではムラサキケマンやゲンゲが、林床ではカタクリやスミレ類が咲き誇る。
4月〜5月になると雑木林は新緑に覆われ、林床は薄暗くなってくる。林ではヤマザクラ、エゴノキ、ガマズミ、ツツジ、ウツギが咲き、草原ではオオイヌノフグリ、ハルジオン、ヒメジョオン、ノアザミが
次々に咲く。小川の水もようやくぬるみ始め、縁ではタネツケバナやキツネノボタンが咲き、池沼では、枯れ茎の隙間から新しいアシの葉が伸びてくる。この時期、日中は水鳥たちが旅立ちの支度に余念がなく、夜のカエルの大合唱はまだ続いている。
春に姿を見せるトンボは、成虫で冬を越した種と、春になって羽化した種の二者がある。
南西諸島を除くわが国で成虫で冬を越すトンボは、イトトンボ科(1種)とアオイトトンボ科(2種)が知られるのみであるが、そのいずれの種も県内に分布する。これらの種は未成熟状態で越冬し、目覚める時期には若干の差がある。越冬後は、暖かい晴天時の日中に、雑木林の中などで盛んに小昆虫を捕食する姿を見かけることが多い。
春になって羽化する種は、まず、老熟幼虫で冬を越し、春にのみ一斉に姿を現す種がある。これはさらに、晩春には姿を消す種と、初夏頃まで生き残る種に分けられる。前者の例としては、カワトンボ科(1種)、サナエトンボ科(5種)、ヤンマ科(2種)、トンボ科(3種)、エゾトンボ科(1種)、後者の例としては、サナエトンボ科(1種)、トンボ科(1種)が知られる。次に、様々な成熟段階の幼虫で越冬し、それ以後継続的に羽化し続ける種があるが、イトトンボ科(8種)、モノサシトンボ科(1種)、カワトンボ科(1種)、サナエトンボ科(2種)、ヤンマ科(4種)、トンボ科(3種)、エゾトンボ科(1種)が知られる。
最終更新日 2003/10/30
凡例 |
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未成熟個体が中心の時期 |
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両者が混在する時期 |
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成熟個体が中心の時期 |
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休眠している時期 |
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ほとんど見られない時期 |