分布 |
国内: |
本州、四国、九州。島嶼では南西諸島。土着北限は中部山岳を除いた石川-栃木南部付近と考えられる。また 南西諸島南部でも個体数が少なく、八重山諸島では土着していない。低山地~山地が分布の中心だが、一部は平地にも進出している。 |
県内: |
市街地を除きほぼ全域に棲息するが、食樹の関係からか南部に比較的個体数が多い。 |
国外: |
朝鮮半島南部、台湾、中国(中南部)~インド、ヒマラヤ、セイロン、インドシナ~小スンダ列島、フィリピン、ボルネオなどの地域に分布する。ヒマラヤ-東南アジア型の分布形式を示し、全域で12亜種が知られる。原名亜種はインド中部、ヒマラヤ~中国大陸産をさし、標式産地は「広東」。本亜種はほかに朝鮮半島産を含み、標式産地は栃木県の「日光」、亜種小名もこれにちなむ。 |
変異 |
形態: |
国内でも若干の地理的変異が知られるが、亜種区分には至っていない。 |
季節: |
比較的明瞭。大きさが著しく相違するが斑紋の差は小さい。春型(第1化)と夏型(第2化~)が知られる。 |
性差: |
ほぼ同型。一般に♀は♂より大型で地色が淡く、後翅外縁の赤色斑紋が発達する。♀前翅表亜外縁には淡黄色の弱い帯があるが、♂はこの部分に黒いビロード状の光沢をもつ。 |
生態 |
環境: |
食樹の自生する樹林内、渓流沿い、林縁などのやや薄暗い環境を好む。 |
発生: |
通常年2回。暖地の一部で3回。南西諸島では4回~5回。本属中最も春型の出現が遅く、5月中旬頃姿を現す。南部では10月中旬まで姿を見かける。 |
越冬: |
蛹。食樹の枝やその周辺の、直射日光や雨の当たらない場所に付着している。越冬蛹は褐色型が一般的で、屋外では緑色型は稀。 |
行動: |
昼行性。飛翔はきわめて敏速で雄大。♂は薄暗い樹林内に蝶道をつくり、大きな波形を描いて飛ぶ。移動性はきわめて強く、山頂に飛来する傾向があるほか、海や湖など大きな水域を単独で渡ることも稀ではない。 |
食性 |
幼虫: |
食植性/葉。ミカン科のカラスザンショウが主。他にはキハダや栽培ミカン類でも生育する。ちなみにサンショウ、イヌザンショウ、カラスザンショウの若木が混生する袖ケ浦市内の同一丘陵斜面での観察によると、カラスザンショウにのみ産付され、他の樹種ではまったく卵や幼虫は確認されなかった。 |
成虫: |
食植性/花蜜。訪花性は強く、アザミ類、ツツジ類、ユリ類、ヤブガラシ、ムクゲ、ネムノキ、センダン、クサギ 、トベラなどさまざまな花で吸蜜するが、特に赤色系の花を好む。夏型の♂は湿地で吸水することも多いが、日中ではなく、午前中あるいはやや日が傾いてから行う。春型の♂にも弱い吸水性がある。 |
類似種: |
クロアゲハに似るが斑紋と大きさが異なる。シロオビアゲハに酷似するが県内には分布しない。 |
保 護: |
指定されていない。 |
その他: |
本土地域では本種の夏型♀が最大のチョウである。 |
天敵 |
捕獲: |
虫はアシナガバチ類やスズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類。成虫は大型ヤンマ類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類。造網性クモ類など。 |
寄生: |
幼虫に寄生し、蛹から脱出する、ヒメバチ科ヒメバチ亜科のムラサキアゲハヒメバチ(Trogus lapidator lapidator (Fabricius, 1787))、ヒメキアシフシオナガヒメバチ、アゲハヒメバチ(Holcojoppa mactator (Tosquinet, 1889))、クロハラヒメバチ(Psilomastax pyramidalis Tischbein, 1868)などのほか、コバチ類、ヤドリコバチ類。終齢幼虫から脱出するマダラヤドリバエなど。 |