モンキアゲハ

紋黄揚羽蝶 (アゲハチョウ科)


2002/5/27 15:45 袖ケ浦市吉野田 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 大型のアゲハチョウ。林縁や林内の薄暗い場所を、波形を描きながらものすごい速さで飛んでゆく大きな黒い蝶がいたら、本種の♂であることが多い。南方系の種で、記録は秋田県が北限だが、土着地は年平均気温が13℃以上の地域とされ、現在のところ新潟~栃木付近と推定されている。ただし、宮古諸島や八重山諸島にはなぜか分布していない。県内では全域に分布しているが、幼虫がカラスザンショウを好むので、県北部ではやや少なく、南部に比較的個体数が多いようだ。鋸山以南では完全に普通種である。英語圏では"Red Helen"と呼ばれている。
 写真は、袖ヶ浦市吉野田で5月下旬の午後、林縁に植えられたムシトリナデシコで吸蜜する春型の♂である。性差は斑紋に表れ、裏面の斑紋は♂♀でよく似ているが、♂は地色が一様な黒色、♀は♂より翅表の赤色斑が発達するので翅表さえ見ることができれば区別は比較的容易である。夏型は♂♀共に春型よりはるかに大型で、日本本土地域では最大の蝶となる。似た環境にはクロアゲハやオナガアゲハもいるが、後翅に黄白色の大きな斑紋があるので容易に見分けられる 。またオナガアゲハは翅形が細く、尾状突起がはるかに長い。飛翔も本種より緩やかである。
 夏の日中など気温の高いときは林内の日蔭で翅を広げて休息していることが多い。 夏型の♂はよく湿地で吸水するが、ほかの種とは異なり、午前中かやや陽が傾いてから行うことが多いようだ。移動性はきわめて強く、海や湖などを渡ったり、尾根や山頂に集まる傾向があるが、市街地に姿を見せるようなことはまずない。アゲハチョウの中では最も遅く姿を現す種で、県内では5月中旬以降になってようやく出現し、その後2回~3回程度世代を交代する。



モンキアゲハ 日本・朝鮮亜種 (アゲハチョウ科 アゲハチョウ亜科 アゲハチョウ族)
Papilio helenus nicconicolens Butler, 1881
分布 国内: 本州、四国、九州。島嶼では南西諸島。土着北限は中部山岳を除いた石川-栃木南部付近と考えられる。また 南西諸島南部でも個体数が少なく、八重山諸島では土着していない。低山地~山地が分布の中心だが、一部は平地にも進出している。
県内: 市街地を除きほぼ全域に棲息するが、食樹の関係からか南部に比較的個体数が多い。
国外: 朝鮮半島南部、台湾、中国(中南部)~インド、ヒマラヤ、セイロン、インドシナ~小スンダ列島、フィリピン、ボルネオなどの地域に分布する。ヒマラヤ-東南アジア型の分布形式を示し、全域で12亜種が知られる。原名亜種はインド中部、ヒマラヤ~中国大陸産をさし、標式産地は「広東」。本亜種はほかに朝鮮半島産を含み、標式産地は栃木県の「日光」、亜種小名もこれにちなむ。
変異 形態: 国内でも若干の地理的変異が知られるが、亜種区分には至っていない。
季節: 比較的明瞭。大きさが著しく相違するが斑紋の差は小さい。春型(第1化)と夏型(第2化~)が知られる。
性差: ほぼ同型。一般に♀は♂より大型で地色が淡く、後翅外縁の赤色斑紋が発達する。♀前翅表亜外縁には淡黄色の弱い帯があるが、♂はこの部分に黒いビロード状の光沢をもつ。
生態 環境: 食樹の自生する樹林内、渓流沿い、林縁などのやや薄暗い環境を好む。
発生: 通常年2回。暖地の一部で3回。南西諸島では4回~5回。本属中最も春型の出現が遅く、5月中旬頃姿を現す。南部では10月中旬まで姿を見かける。
越冬: 。食樹の枝やその周辺の、直射日光や雨の当たらない場所に付着している。越冬蛹は褐色型が一般的で、屋外では緑色型は稀。
行動: 昼行性。飛翔はきわめて敏速で雄大。♂は薄暗い樹林内に蝶道をつくり、大きな波形を描いて飛ぶ。移動性はきわめて強く、山頂に飛来する傾向があるほか、海や湖など大きな水域を単独で渡ることも稀ではない。
食性 幼虫: 食植性/ミカン科カラスザンショウが主。他にはキハダや栽培ミカン類でも生育する。ちなみにサンショウ、イヌザンショウ、カラスザンショウの若木が混生する袖ケ浦市内の同一丘陵斜面での観察によると、カラスザンショウにのみ産付され、他の樹種ではまったく卵や幼虫は確認されなかった。
成虫: 食植性/花蜜。訪花性は強く、アザミ類、ツツジ類、ユリ類、ヤブガラシ、ムクゲ、ネムノキ、センダン、クサギ 、トベラなどさまざまな花で吸蜜するが、特に赤色系の花を好む。夏型の♂は湿地で吸水することも多いが、日中ではなく、午前中あるいはやや日が傾いてから行う。春型の♂にも弱い吸水性がある。
類似種: クロアゲハに似るが斑紋と大きさが異なる。シロオビアゲハに酷似するが県内には分布しない。
保 護: 指定されていない。
その他: 本土地域では本種の夏型♀が最大のチョウである。
天敵 捕獲: 虫はアシナガバチ類やスズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類。成虫は大型ヤンマ類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類。造網性クモ類など。
寄生: 幼虫に寄生し、蛹から脱出する、ヒメバチ科ヒメバチ亜科のムラサキアゲハヒメバチ(Trogus lapidator lapidator (Fabricius, 1787))、ヒメキアシフシオナガヒメバチ、アゲハヒメバチ(Holcojoppa mactator (Tosquinet, 1889))、クロハラヒメバチ(Psilomastax pyramidalis Tischbein, 1868)などのほか、コバチ類、ヤドリコバチ類。終齢幼虫から脱出するマダラヤドリバエなど。

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