40徳川侯爵家(紀伊徳川家)

紀州徳川家蔵品展覧目録 昭和2年4月4日 東京美術倶楽部
静和園蔵品展覧目録 昭和8年11月24日 徳川侯爵家別邸
静和園第二回蔵品展覧目録 昭和9年2月20日 東京美術倶楽部

 いうまでもなく、紀伊徳川家は、徳川御三家の一家で、八代将軍徳川吉宗、十四代将軍徳川家茂を輩出した家として知られている。明治以降も、旧大名の華族の中では大きな資産を有する家であった。しかし、大正後半期以降、同家の財政状況が悪化をきたしたため、昭和2年から3度の売立を実施することになった。
 第1回の売立では、「鼻毛老子」と俗称される伝牧谿筆「老子図」(現、岡山県立美術館)が119,000円、伝牧谿「江天暮雪図」(現、相国寺)が110,000円の落札価格となるなど、約1,630,000円の総売上額を記録した。
 なお、この第1回の売立目録の作成にあたっては、紀伊徳川家が明治34年に設けた私設図書館南葵文庫の主事であった高木文が編集にあたり、各出品作のうち伝来の明らかなものについて、その伝来記録を付して紹介する方法がとられた。これについては、目録の口上文に「展覧に際し猶名品の記録を詳記し此の後愛玩さるる諸士に報したき」とその動機を記している。菊倍版の大型書として作製された最初期の目録であることとともに、売立目録が、商品カタログという性格のみならず、美術書、美術研究書としての性格を帯び始める最初期の例が、この目録であると思われる。
 第2回、第3回の入札は、ともに代々木上原に所在した紀伊家の別邸静和園を名乗って実施された。第2回の出品作品には、書画や茶器に加え、武具類、特に刀剣が含まれている。中でも「名物松井江」と称される「刀 朱銘義弘」(現、佐野美術館)をはじめとする紀伊家伝来の名刀が多数含まれている。
 売立目録は、菊4倍版という巨大なもので、このサイズの売立目録は、数千種は存在するといわれる売立目録の中でも、他にほとんど類例のないものであろう。編集には、第1回に引き続いて高木文があたり、いくつかの作品には、記録とともに、充実した作品解説を付している。
 第3回の入札では、「江雪左文字」と称される「太刀 銘筑州住左」(現、小松安弘興産)が出品されたほか、第2回に続いて刀剣の出品が多数を占める。
 第1回・第2回とは異なり、売立目録は、菊判の洋装本である。編集は同じく高木文で、主要作品に、記録、解説文を付す形式は、第2回と共通する。