home
オリーブオイルindexへ
  Olio e Cucina(オリーヴ・オイルと料理)

 イタリアという国で、大抵の場合リストランテというものは、日本でいう会社組織の数字ずくめの帳簿が料理を作っているかのようなものとは違って、家族経営にて行われ、シェフ自身の懐の気分次第で生まれてしまう”創造的な料理の突発性”、若しくは自分が払うからこそ出来てしまう、価格の付けようのない”今この瞬間しか存在しない料理の逸話性”などが往々に見られます。
 そんな、イタリアという国で料理に携わっていると、様々なシェフや、それぞれの考え方、又は理念に出会い、そしてそれをまじかに体験することが出来るもので、更に心の目を開いて見れば、注がれる大量のオリーヴ・オイルの流れと共に、その料理に対する”やはりとてつもなく大きい愛情”をも注ぎ込んでいる、シェフの姿が透かし見えてきたりもします。
 偉大なシェフとは、どのような人のことを指すのでしょう。高価な食材をふんだんに使い、幾千もの種類のテイストから、”幾何学的な美味”を創り上げる、ブランド物の香水の薬剤師みたいなひとでしょうか?少なくとも、僕が学ばせて貰ったシェフ達は、そんな人達の代わりに、最小限の優れた食材のみで、シンプルの極みをつく”爆発的なの美味”を創り上げる、本物の料理人でした。究極の素材を知ることをまず、生産業者の努力へ最大の敬意を払う事から始め、不必要な場合には一滴の無駄でも気を落とす傍ら、必要時にはバケツごと並々注ぐ。こうしたある種のカリスマ性に富む人達であったからこそ、可能になり得るテクニックであったのも事実ですが、とにかく、ここトスカーナにて5年もの歳月を過ごした僕にとっては、良質のオリーヴ・オイルというものは、何かしらのパーティー料理を依頼される時に、まず、最初に確保するもので、そして確保出来なければ引き受けないほど(ここなら、いつも見つかりますが)重要な位置を占める物です。確かに、美味しい物なら幾らでも良質のオリーヴ・オイルなしでも造れます。ただ、ここで大事なことは”それをしたくない”ということです。近代の料理テクニックというものは、多少の劣素材の欠点など、簡単に隠しとおすことも可能ですし、先述した”香水の薬剤師”のように、ズッキーネなしでズッキーネのソースを作る事だって、これといって難しい事ではありません。ですが、しません。我が偉大なる料理の先人達との輝かしい経験の後に、もし、そんなことをしてしまうくらいならば、料理自体を辞めてしまうでしょう。

 さて、ここで一通りの実践料理とオリーヴ・オイルとの組合せを始める前に、ひとつ、基本的な概念をお話しておきます。まず、最初に、何故、トスカーナのプロシュット・クルード(生ハム)が、舌を突き刺すほど塩辛く、パルマのそれが甘いか、ご存知ですか?理由はそれと共に食されるパンとの相互関係によるもので、オリーヴ・オイルについても全く同じ事が言えます。このコーナーに至るまで、口を酸っぱくして”地方性”という言葉を記したと思いますが、ここでも、それを繰り返させて頂きます。つまり、文化とはすなわち歴史であって、賛否はともかく、物事が成り立った背景には常に理由があります。中部イタリアの伝統菓子を食べて、”硬い”、若しくはスポンジ生地を頂いて、”硬くてボロボロこぼれる”失敗作なのかな?と疑ってしまった経験はありませんか?こういうことにも、例えばそれは単なる保存食で、リキュール類に浸すことなく食べないものであったり、歯ごたえのないものを嫌う国民性の表れであったりするのです。つまり、もし貴方がシチリアのオリーヴ・オイルを使用しなければならない時には、シチリアの光景や背景、知る限りのそれらしき料理みたいなものを頭に思い浮かべて、”何故?”という疑問、例えば”何故、シチリアでは比較的フライ料理が多いのかな?”といった風に、何かしらの答えを探してみる事が大切です。見つからなくても構いません。次、又はその次の機会には、なんとなく分かってきます。
 では、さっと、目を通して見てください。

アンティパスト プリモ セコンド