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  Olio e Antipasto(オリーヴ・オイルとアンティパスト)

 「魚料理にはリグーリア産、それ以外にはトスカーナ産のオリーヴ・オイル」

 イタリアでここ数年、頻繁にテレビ番組にも出演し、すっかりイタリアで最も優秀なコックの座を欲しいままにしている、とある有名シェフであったでしょうか。こんな台詞を流行らせたひとは。
 ほとんどの意味に於いて正しいと言えます。いわゆる、リヴィエラ沿岸の地理条件からも、魚料理天国と言われるリグーリア州の文化が生みだしたオイルと、”リボッリータ”や"ビステッカ"等、山の幸で有名な料理体系を持つトスカーナ文化の生みだしたオイルの地方性を表している言葉であります。
 ただ、例えばワインに於ける、魚は白、肉は赤という理論が全てのケースに順応するものではない(とはいえ、限りなく正しい)のと、同様に、使用され方によっては、例外も多く見られます。
 おそらく、最も分かり易いであろう、例外の一つが、「鮮魚のカルパッチョ」などに、見られるいわゆる”刺身”でしょう。一般に、リグーリア産のオリーヴ・オイルが持つ香り成分の薄さが、魚のデリケートな風味を損なわぬとの理由で、その組み合わせが提唱されるところですが、生魚は別の話。実際日本でも、世界で一番あじの濃いであろう生醤油と山葵で、その生臭さを溶かし込んで頂かれるように、風味の高いトスカーナ産のオイルと塩、そして適度なレモンによる組み合わせは、まさに向かうところ敵なしの完璧なマッチを見せます。

 さて、ここで、コース料理に於けるアンティパスト(前菜)の役割を考察してみましょう。その昔、リストランテに於いてのアンティパストというものは、野菜のグリルのオイル漬けや、魚介類のマリネ、切り分けたサラミ類などの、”冷たい料理”が大勢を占めていましたが、「ヌオーヴァ・クチーナ(ヌーヴェル・キュイジーヌ)」の台頭により、料理人の個性がお皿に反映される時代を迎え、セコンド・ピアットとして成り立ちそうな料理を小さく小奇麗に盛り付ける、シェフの腕の見せ場、つまりそのプレゼンテーション、品数、そしてインパクトとしての味の重要度などが必要とされる傾向が広がりました。更に、現代人の小食、そして軽食嗜好も手伝い、従来の形式、おつまみとしての前菜、量的に充実したプリモ・ピアットに、しっかりとしたセコンド・ピアット、という、軽いものから重たい物への味の移行のバランスが反対へ流れる結果へと繋がる事となったのです。
 そんな現代のイタリア料理のアンティパストとして挙げられるものは、煮込み汁や焼き汁を使用せず(やはり、前菜には重い)、サラダと共にドレッシングや、野菜のソースで頂く肉魚料理、要するにここで良質のオリーヴ・オイルの必要性が向上したとも言えるのです。
 ここで紹介するものは、肉でも魚でも兼用可能の柑橘類のドレッシング・ソースで、調理は簡単、3分の1ほどに煮詰めたオレンジの汁に塩、胡椒をし、味を見ながら、オレンジの2倍ほどの量のオリーヴ・オイルを加える。さて、オイルの選択ですが、煮詰めた柑橘類の強いテイストはある程度の香りを含むオイルにも負ける物ではないので、コクが欲しければ、あるいはカモなどの肉と合わせるならば、中部イタリアのもの。軽さや、繊細な味で定評のあるアカザエビなどと合わせるならば、シチリアはDOP「モンテ・イブレイ」をお勧めします。味の演出を補うソースとして、バルサミコ酢と蜂蜜を煮詰めた物を、極少量垂らしてあげると、オレンジの酸味を引き立て、いっそう料理の幅が広がります。カモなどの肉の場合は、焼きあがる直前に絡めてあげると、尚更食欲をそそる香りを放つでしょう。