lamp 7.信号のない道路とバックミラーのない車

 高見のイミグレ

日本を出てから約25時間、タラップを降りて久しぶりの地面を踏む。現地時間10:15。徒歩で空港の建物へと階段をのぼる。見上げる朝の空はとても広くて、深みのある青。 ここは温帯ではない。熱帯、それも南半球の空を目にしているのだ。

余談:某「○波少年」の朋友の旅の最中、この空港が映し出されなつかしかった。

ARRIVALの表示に沿ってイミグレへ向かう。入国カードはあるが、筆記用具は置いていない。 手荷物に入れてあったボールペンで必要事項を書き込み、別々の列に並ぶ。 イミグレの係官はなぜか120cmほどの高さの番台みたいな所に座っており、小柄な2人はめいっぱい背伸びして見上げなければならない。 滞在期間をボソっと聞かれ、「4days」と答えると放免された。

ターンテーブルには、実にいろんな「荷物」があった。ゴブラン織りのトランク、バックパック、ソフトスーツケース。 ほどなく2人のスーツケースも無事に出てきて、窓口へ向かう。どーでもいいが、イエローカードってチェックされないのね…。あの苦労はなんだったのか(-"-)。

外貨申告書を書かされると思っていたが、それもなかった。 到着ロビー(というほど広くはないが)に出る前、ガラスの向こうに笑顔で手を振る友人が見えた。異国で見る友人の顔が、こんなにうれしいものだと初めて知った。 再会を喜び合うことしばし、都合でサファリは明日からになったという。風邪気味の3号にとっては朗報。

「今のケニヤは気候がいいからね、風邪なんてすぐ治るよ」

 バンプ

アフリカ、というと灼熱の乾いた大地というイメージを持つ人も多いだろう。 確かにナイロビはほぼ赤道直下。しかし、海抜1700mの高地のため非常にすごしやすい。 我々が訪れた12月初旬は小雨期にあたるそうだが、気候としては東京のGW頃に近かった。 日の当たるところでは少し汗ばむが、日陰では風が涼しく感じるといったらわかってもらえるだろうか。

空港前の銀行で両替をし(紙の質があまりよくないため、紙幣はすぐにぼろぼろになるらしい。 友人いわく「煮染めた札」が多い)。最も大きい紙幣は500ケニヤシリング(以下シル)だが、最近偽札が出回るせいで我々が見たのは200シル札どまり。 それでも、この札をめぐって殺人が起きることもあるという。

東アフリカ随一の都市ナイロビは、貧富の差が激しい町でもあるのだ。友人の車でナイロビ市内に向かう。市内までは20km弱。この間、ほとんど車はとまらない。 走るにつれ、ナイロビの高層ビル街が見えてくる。しばらくして、赤信号で停止する。

大都市だけあって車は多い。信号がなかったらどうするんだろう…。答えは二つ。一つめ、交差点はロータリーになっている(イギリス流にいうとラウンドアバウト)。 確かにこれなら信号がなくても大丈夫だが。もう一つの答えは、バンプ。病院や小学校の前など、車を徐行or停止させたい場所には、道路に高さ・幅とも30cmくらい畝のように盛り上がっているのだ。これがバンプ。

一度、夜中に気づかないまま、スピードを出してバンプを超えたらものすごい衝撃だった。 これなら、確かに車は徐行せざるを得ない。ルールやモラルに頼らない、すごい知恵かも。

 歩くひとびと

友人宅に向かう道すがら、ふとあることに気づいた。道路脇を歩いている人達がたくさんいるのだ。たとえて言うなら、縁日が近くにあって人がぞろぞろ、という感じか。

ナイロビにはバスもある。しかし、人々は歩く。我々ならちょっと乗っちゃお、という距離(あるいはそれ以上)でも歩くのだという。 歩いている人たちを眺めていると、皆かっこいい。背筋は伸びているし、おしりはキュッと上がって張り出しているし。 長い足を惜しげもなく踏み出して歩くリズムもいい。

みんな、何でもない服を着ている。Tシャツ、半袖シャツ、短パンその他。しかし、その組み合わせは何でもないように見えてコーディネートされている。 手足の長い均整のとれたスタイルとあいまって、本当に決まっている。日本で、ストリートファッションとかこだわっている奴らより遙かに、カッコイイのだ。

走っている車の中には、今にも分解してしまいそうなものも混じっている。 「ほら、あの車、バックミラーがないよ」……。高価なのは日本車とドイツ車(なんだかんだいっても丈夫で保つらしい)。中古車でもかなりの値段がするらしい。 ボロボロでも、車を持つというのは、すごいことなのだ。

この日、友人はゴルフを予約してくれていたのだが、3号のわがままで中止にしてもらった。 グリーンが美しいゴルフ場で、さわやかな風に吹かれながら昼食(おいしかった)。 このあとナイロビ観光、ゲームを食べさせる店での夕食などを済ませて長い長い1日が終わり。友人宅のゲスト用ベッドルームで眠りにつく。 友人が言った通り、風邪はどこかへ消えた。

明日は、いよいよサファリへ出発!


lamp 8.That's African Road!!

 するどい眼力

翌朝、サファリに出発するためにガイドとの待ち合わせ場所へ向かう。1泊2日のサファリ、目的地はアンボセリ国立公園である。 ガイドのメジャック氏はやや太り気味だが誠実そうな目のおじさんであった。ベテランらしい。日産の四駆に乗り込む。

サファリの値段は、同じ日本人でも在住者向けと日本人観光客向けで異なっている。むろん後者の方が高い。友人が予約手配をしてくれたおかげで、我々は安い料金適用となった。

しかし、車に乗り込んでしばらくするとメジャック氏が言う。 「あなた(友人)はナイロビに住んでいるけど、こっちの2人(2号&3号)は観光客だね」。お見事(でも追加料金をとられたりはしなかった)。 しかし、どーしてわかるんだろう? 友人は、サファリの帰りに寄ったドライブインでも「おまえはケニヤに住んでる日本人だろう? 目つきが違う」と言われ、どこが違うんだろうと悩んでいた。

アフリカでは視力5.0や6.0は当たり前というが…。眼力も比例するのか?

違いがあるとすれば海外に暮らす緊張感があるかないか、だろう。通りすがりの観光客と、そこに住む人とはやはり違うのだ。

 アフリカフェ

サファリのできる場所は国立公園(NP)内である。ナイロビの近くにもいくつかNPがあるが、我々が選んだのはタンザニアに近い、アンボセリNP。 運が良ければキリマンジャロが見える。 ナイロビからは陸路3時間半くらい。最もメジャーなのはマサイ・マラNPで約4時間。

アンボセリへ向かうルートは、きちんと舗装されていた。しかし、ナイロビから離れるにつれ、あちこちに穴が見える。半径1mくらい陥没しているなんてザラ。 メジャック氏の運転はまあ慎重な方で(現地ガイドはけっこう飛ばす人が多いらしい)、車に弱い3号も一安心。

途中、こぎれいな喫茶店で休憩。お茶を飲んでいくことにする。コーヒーを頼んだらなんと、インスタントコーヒーの大きな缶とお湯の入ったカップ&ソーサーが出てきた。 自分でカップに粉を入れて飲めというのか? こぎれいでお値段も高いわりにはケチだなあ。 しかし、このインスタントコーヒー、なかなかおいしい。缶を見るとその名も「アフリカフェ」made in Tanzania。

友人の話によると、こちらではインスタントコーヒーの方が高級品だという。理由は簡単で、「工業製品」だからである。ケニヤはコーヒー産出国。 「豆」と「インスタント」どちらに費用と工数がかかるか考えてみれば当然のことなのだが、日本の感覚とは反対。

 飯のタネ

再び走り出すと、道路はますますボコボコで、揺れが激しくなる。酔いやすい3号は助手席にのせてもらっていたが、道路がアスファルトと地面のパッチワークにも見えてくる。

道沿いにキリンの群(5~6頭)を見つけ、メジャック氏は車をとめ、せっかくだから歩いて見ようという。NPの中では車を降りてのサファリ原則禁止。 ここは一般道だから自分たちの足で追っても構わないわけだ。

kirin 道路沿いにキリンやダチョウの群が見えることに驚いてはいけない。
動物たちの棲む草原に、人間があとから道路を造ったのだから。


キリンはむろんこちらに気づいている。が、逃げはしない。すらり、と伸びた首をゆらしつつ歩く姿は優美そのものだ。首も長いがまつげも長い。 警戒は怠っていないから、こちらが近づいた分だけ、向こうもするりと後退する。 その距離が、我々にとって檻みたいなもの。

サファリの帰途には、ダチョウの群(20~30位か)に遭遇。ぞろぞろと道路を渡る群にお構いなく、車は突っ走っていく。 運悪く一羽(一頭?)が轢かれそうになって転んだ。怪我はしなかったらしく器用に立ち上がり(あの肢体で立ち上がるのは大変そうだが)、無事群に合流。

我々は、車をとめて一部始終を見ていたが、メジャック氏は目に涙をため、拳を握って嘆いた。 「ケニヤ人は動物を大切にしない。でも私は動物を愛している。なぜなら、

…彼らは私の飯のタネだからだ!」

ベテランガイドにとっては真実そのもの。ありふれた動物愛護のお題目でないだけに、彼の言葉にはずしんとくるものがあった。 うまく言えないが、この旅で印象に残った言葉のひとつだ。

アンボセリに近づき、とうとう道路の舗装が途切れた。車の走った後があるからそれほどの悪路ではない。 しかし、時折岩でスリップしたり、ぶつかりそうになったり、激しくバウンドしたり怖い思いをした。一度、助手席側にあった大きな岩に激突しそうになり、3号は青い顔。 それに気づいたメジャック氏は、少しの安堵と大きな余裕の笑みを見せてこういった。

"That's African Road!(これぞアフリカの道)"


lamp 9.サファリ in アンボセリ

 干上がった湖 

アンボセリNPはアフリカ最高峰キリマンジャロ(山頂はタンザニアにある)の東に広がっている。"アンボセリ"とは湖の名前でもあるが、雨期にだけ出現するらしい。 ただ、年々乾燥が進み、アカシアの林が消えていっているという。そう言われてみると、立ち枯れている木が目につく。枯れた木の周囲は草も少ない。 赤茶けた土が「砂漠化」をつきつけてくる。

乾燥化を防ぐため、アンボセリNP内は指定の道筋しか車は走行できない。肉食動物が草食動物を狩るさまを車で追いかけて、というサファリがしたい方はマサイ・マラNPへ行くことをお薦めする。 メジャック氏も「次にケニヤに来たら、ぜひマサイ・マラへ」と言っていた。ただ、どこへ行こうと、テーマ・パークではないから、見たいものが見られるかは運次第。

我々は、殆ど肉食動物には会えず。唯一の例外は「ブチハイエナ」くんだけ。

乾期には火山灰土がもうもうと土埃をあげ、雨期は道が川になるそうだが、ちょうど小雨期だったため数日前に雨が降り、乾燥してはいなかった。 しかし、スコールの後は道がどろどろになり車がスタック。メジャック氏が一人で奮闘しようやく抜け出した。 我々も手伝おうと思ったのだが、彼は「自分の仕事だ」と主張してきかなかった。

 ゾウ、ゾウ、ゾウ

NP内を車で走っていても、最初はなかなか動物を見つけられない。一生懸命目をこらしているのだが、灌木の陰に隠れていたり、道路から離れていたりすると、意外に見えないものなのだ。

#サファリを半日すると、遠くばかり見ているので目がよくなります、ホント。

ベテランガイドは目もいいのだろうが、だいたい「動物を見るポイント」を知っていて、当たりをつけながら車を走らせる。 そして、かなり遠くから「あそこにシマウマ」「向こうにゾウ」と教えてくれる。指さす先をじぃぃっと見つめてもただ同じような草原が広がるばかり。 しかし、その先で確かに「彼ら」に出会えるのだ。

あそこにゾウがいるよ、と言われて何も見えなかったのに、しばらく進むと黒い点が見え始めた。 それはどんどん増えていき、やがて一つ一つの点がゾウになっていく。群だ。 車をとめ、サンルーフを解放して外を眺める。360度のうち、320度にわたって、ゾウ、ゾウ、ゾウ。 群には子供も交じっている。母親にまとわりついていたり、子象どうしでじゃれていたり。群の外縁部には、警戒役もいるようだ。

たくさんの象にぐるりと囲まれている、あの時の気分はなんといったらいいんだろう。少し怖くもあり、まさに野生の王国の世界だ!という興奮もあり。 自分が車という檻に入れられた人間サンプルの様な気がしたり、遠いご先祖さまたちは、よくもまあ檻なしで同じ草原に生きたもんだなあ、と感慨にふけってみたり。

サファリの途中、二頭の像が目の前で道路を横切っていった。耳を揺らしながら。 道路から群を眺めたときより、はるかに大きい。カメラに収めなくては、でも自分の目に焼き付けたい。そんな葛藤を知る由もなく、次第にその姿は遠ざかっていく。

文章には、書ききれないものがある。それがサファリ。(言い訳?)

 出会った動物たち その1

ここまでに出てきた動物は、麒麟、駝鳥、象、斑ハイエナ(漢字で揃えてみようと思ったらハイエナ君で挫折。和名あるのかしらん)。 アンボセリで出会った他の動物たちについて書いてみたい。写真がないのでちょっとわかりにくいですがお許しを。

意外なところでは、カバ。アンボセリは元湖だっただけに、ある程度の深さの池が点在していてカバの群に出会える。 水中から耳と目と鼻だけ出して、群がみんなこちらを見ている姿には思わず笑ってしまう。水中から出てこなかったので、見たのはたくさんの耳と目と鼻だけ。 ボディにはお目にかかれず。

大きな湖では、日暮れ前にフラミンゴの大群を見ることができた。グレーターとレッサー(レッサーの方が色鮮やか)の両方が湖で羽を休めているさまは、さながら映画の一シーンのよう。 フラミンゴに混じって、少しだけカンムリヅル(かなり大型で頭に派手な金髪とさか)がいた。

鳥といえば、異色をはなっていたのがハゲコウ。コウノトリの一種だが、幸福を運ぶイメージとはほど遠く、草原のメフィストという感じ。 乾いた草原のところどころに一匹狼のようにあたりを睥睨しつつ立っている(体長1.5mというから3号とそれほど変わらない)。禿げた頭、黒の翼。 ハゲコウのいるあたりは、なんだか雰囲気が悪い。大きい鳥なので、セスナのエンジンにぶつかると墜落にいたることもあるという。

さもありなん、という独特の雰囲気の持ち主。

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