チリ通信−30 (2007年4月10日)

皆様、いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。


サンペドロ(チリイシダイ)の産卵シーズンは終わり、200尾の稚魚生産に終わりそうです。
これは未だにワムシ(チリ通信27参照)の大量生産ができず、イガイの幼生と配合飼料だけで生産するしかなかったからです。
この生産量ではプロジェクトの要求を満たしてないので、更なる生産が必要です。
方針としては、ホルモンまたは水温管理による親魚の成熟誘導とワムシ生産の回復です。

Oplegnathus insignis "San pedro"


さて、今回は世界の魚養殖事情の話です。

ナショナルジオグラフィックの2007年4月の記事によると世界的規模で魚が減少しており、
対策を講じなければ深刻な状態になるであろうと報告されています。
http://nationalgeographic.jp/nng/magazine/0704/feature01/index.shtml

地中海のマグロ、カナダ沖のタラ、サメなどはかなり減少しているそうですが、
自分的にもアジア、南米、アフリカどこで聞いても"昔はこんなんじゃなかった、たくさん魚が獲れた"と言われます。
日本の防波堤で釣りをしていると漁師のジーサンに、"こんなところで釣りしてもつれないよ、魚なんかいないよ"と言われた事もあります。
チリではメルルーサの減少が問題になっていますが、それ以外の魚類も大幅に減少しているのが現状です。
よく考えると畜産物・農産物はほとんど人工生産(牧畜・栽培)されていますが、魚介類は天然から搾取されてきました。
今までは海の生産力に頼ってきたわけですが、ついに消費が生産を上回ってきたわけです。

理想的解決方法は禁漁で、ニュージーランドでも良い結果が出ています。 
複数の禁漁区を線で結び面として広域の資源を回復できるようです。
http://nationalgeographic.jp/nng/magazine/0704/feature03/index.shtml

しかし、 全ての海域を禁漁とし漁業を廃止することはできず、船などの資産を生かした養殖という事業が発展しています。
養殖には陸上養殖と海面養殖があり、陸上ではタンクを使い海面では生簀を使います。
特に海面養殖では水管理のコストを削減できるので大規模に行われており、生産量も養殖の多くを占めます。


マグロを例にすると"蓄養"と呼ばれる、天然若魚を捕獲し数ヶ月給餌をして全身をトロに仕立て直して出荷する方法が行われています。
回転寿しで食べているマグロの多くがこの蓄養マグロです。
この事業の利点は、天然若魚を使うため種苗から若魚までの飼育リスクを省き生産コストと時間を圧縮することができることです。
更には数ヶ月の飼育で出荷ができるため既存の養殖に比べて資金の回収が早く、回転率が高いことです。

この事業はオーストラリアで成功をおさめ、発祥の地であるポートリンカーンではマグロ御殿が建っているようです。
そしてこのビジネスモデルは地中海沿岸諸国・メキシコなど世界中に急速に広がりました。
日本では南紀串本、奄美、沖縄などで蓄養が行われています。




この生産形態の問題点は天然若魚を種(タネ)にしていることで、天然資源を消費しているだけでなく、
若魚を成熟・産卵する前に漁獲するために資源の減少が急速に進むことです。
若魚に関しては規制が緩いため獲り放題で、海上に飛ばした飛行機で魚群を発見し丸ごと漁獲しているようです。
最近では蓄養マグロの不買運動や漁獲規制が始まっていますが、資源枯渇に歯止めがかからないようです。
端的に言えば世界のマグロを消費している日本の消費者が"蓄養マグロの不買運動(不食運動?)をすれば解決しそうですが、
やっぱり安くトロを食べたいわけです。
昔、すし屋の大将に食べさせてもらったトロ、旨味を発しながら口の中でジワーと溶けたトロ、を今でも忘れることはできません。

では、日本人がこれからもトロを食べ続けるためにはどうすればよいのでしょうか。

選択肢としては人工種苗を使った完全養殖への移行があります。
完全養殖とは天然親魚から生まれた稚魚を親まで飼育して産卵・再生産さすことで、天然資源から独立した養殖を指します。
この事で天然資源の枯渇問題からフリーとなります。
更には人工種苗の放流による資源回復も可能です。
日本政府としても将来における食料の安全保障をみこし、海外での種苗生産プロジェクトを立ち上げました。
このうち私の魚の師匠である中澤昭夫氏が担当した、パナマにおけるキハダマグロが好成績を収めました。
日本では近畿大学において30年越しのマグロの完全養殖が2002年に成功し、出荷が始まっています。
低歩留まり(生存率)による生産コスト高に問題があり、技術発展が必要です。
http://www.za.ztv.ne.jp/vm4k4stx/Kenkyu_Frameset.html

海面養殖における問題点は餌と糞の海洋汚染、餌として大量の魚を消費する事、環境ホルモンなどで、改善方法が試行されています。
では前記の問題を解決し環境に対し親和性が高い方法は無いのでしょうか。

ここに一つの解決策があります。
それは資源を回復・増加さし、魚粉を主成分とする配合飼料を基本的には使用せず、環境汚染も最小にすることができます。
その方法が海洋牧場です。海洋牧場とは養殖と漁業の中間に位置し・・・。

残念ながら時間となりました。詳しくは次回に続きます。



        



二川topへ