チリ通信−31 (2007年5月13日)
皆様、いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
サンペドロの稚魚は75日齢(孵化後75日)になり、遺伝的に弱い個体は淘汰されて120尾ほど生存しています。
今は懸案事項である給水サクションの設置を準備中ですが、老体にムチを打ち潜っています。
2年ぶりに潜ったのでエアーをガバガバ使い、体のあちこちが痛いですがやっぱり海の中はいいものです。
まずは、前回の続きの前にチリの美味しいパンの紹介です。
パンは日本では副食であるため、味付けや詰め物においてバラエティーに富んではいます。
対してチリではパンは主食なので、食感的に色々の種類があり基本的に量り売りです。
うれしいことは焼きたてのパンにあたることが多く、フワフワ感や風味を味わうことが出来ることです。
炊き立てのご飯の香りと同様、ちょっと幸せになります。
またマラウイでもそうでしたが、普通のレストランでも自家製の焼きたてのパンを出すところがありました。
焼きたてのパンにあたると思わず沢山買ってしまいます。
現地で売れ筋は硬めの手のひらサイズで、値段が安く腹にたまり易いからでしょうか。
それでは海洋牧場の紹介です。
基本的に海洋牧場とは養殖と漁業の中間に位置し、人工種苗の放流、人工漁礁の設置、資源管理の3本柱からなります。
人工種苗については自然界に放つものですから、遺伝的に欠陥が無く遺伝的多様性が重要視されます。
人工漁礁は放流直後の減耗(食害)を防ぐもので、特に天敵から稚魚を守るデザインでなければなりません。
資源管理とは現存する魚類を恒久的に維持するため、科学的に算出した持続的漁獲可能量を元に、計画的に漁獲することです。
日本では放流事業が30年以上にわたり行われており、漁獲量の回復例が見られます。
また魚礁の開発・設置がマリンフォーラム21らによって行われており、やはり漁獲量の回復例があります。
しかしいずれの事業も官営もしくは補助事業で行われており、民間で行われることは無いようです。
なぜならば膨大な費用が掛かるわりに再捕率は良くても10%程度で(100尾放流して10尾漁獲する)、事業として利益が出せないためです。
利益の出せない事業では民間の興味を引かず、事業普及にに限界が出るのは仕方のないことです。
このことは海の生産力も関連していると考えられます。
日本は島国のため膨大な海岸線を持っていますが、99%以上がテトラポットや防波堤が施されている人工の海岸です。
また、海の生産力は山間部の開発と関連があることが解ってきました。
すなわち森林が減ることにより海に注がれる地中の栄養分が減り、
治水システムの向上により雨水が短時間に海に流れ込むことが問題視されています。
では海洋牧場を利益の出せる事業にするためにはどうすればよいのでしょうか。
魚礁のコストを下げ再捕率を上げる事は当然のことですが、まず海洋牧場を行う場所が生産力に富む海であることが重要と考えます。
魚礁を設置することにより副次的に天然の資源量が増加しますが、海の生産力が大きければ二次資源の増加量も大きくなるからです。
具体的には魚礁が設置されると付着生物が発生し、これを食べる小型生物が生息し更には大型魚類が謂集する生物相が形成されます。
海の生産力が大きければ食物連鎖のピラミッドの底辺が大きくなり、頂点にいる大型魚類も多くなるわけです。
更には砂浜に魚礁を設置することにより、新たに魚資源を作ることも可能となります。
魚礁に放流できるのは岩場に居付く根魚に限られますが、二次資源は中層表層にいる回遊魚も含まれます。
そしてペルー・チリ沖は勇昇流の発生する、世界有数の生産力の高い海です。
これがチリに海洋牧場計画を私が持ち込んだ理由です。
開発課題としては、
製作が簡便で特に設置コストが安価である魚礁の開発、大量種苗生産技術の開発、漁獲可能量算出のための基礎データ取得方法、
牧場の管理方法などがありますが、特に天敵であるアザラシと人間(泥棒)の管理が計画の成否に大きく関与すると思われます。
放流資源の再捕率をどこまで上げられるかは未知数ですが、私の試算では40%で採算分枝となります。
この値は非常に高い値なので、副次資源がどれだけ増えるかが大きな課題となります。
チリは海岸線が長大で、北部は砂漠が占めているので人間の汚染は軽微です。
また海岸は崖が多く海に出られる道も限られているので、船でしかいけない海岸が多くあります。
そういう海域ではまだまだ魚が居るようですが、幸いなことにまだ手が付けられていません。
海洋牧場の適地としては漁獲・運搬・加工・輸出を考えるとやはりインフラの完備された都市の近くということとなります。
希望的にはチリで、海洋牧場を使った資源再生のモデルを作りたいと思っています。
などと考えている今日この頃です。
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