ページ先頭です。目次をとばして内容部分に進みます。
やぶれっ!住基ネット情報ファイル

サイトの目次


このページの目次


異議申立理由書

1 目的外利用の中止の請求について

杉並区は可否決定通知書で、収集の目的内において利用するものであり、条例第14条第1項に規定する「目的外利用」の事実及び予定がない、と理由を述べています

しかしこれは、杉並区自らが「住基ネット訴訟」において目的外利用であると主張してきたことと矛盾し、また住基ネットにより国等の機関に提供される本人確認情報が、「居住関係の公証」をこえてデータマッチングのための本人識別番号として利用されつつある事実に反しており、誤った判断による決定です。

(1)杉並区自らが目的外利用であるとしてきたことに反する決定

異議申立人は利用中止請求の際に、「利用中止請求の趣旨」2〜3頁において、杉並区自身が「住基ネット訴訟」で住基ネットは『従来の市町村での固有の事務での利用を超えた目的外利用となることは明らかである。』(上告受理の申立理由書)と判断していることを指摘しました。

杉並区は『住民の個人情報が、国の行政機関等の各種行政事務に係る本人確認事務において、従来の利用目的を超えた形で利用されることを意味する』(上告受理の申立理由書)、『住基法がかねて本来的に予定していた住民票情報管理の目的は、「住民の居住関係の公証」・・・ところが、住基ネットを通ずる「本人確認情報」としての利用は、「住所」を、居住関係情報であることを越えて、氏名等と合わせて広範囲に本人識別目的で活用するのにほかならない。したがって、住基ネットを通ずる「本人確認情報」の取扱いは、改正法定の根拠を有するとはいえ、「住所」情報を居住関係の公証という住基法上の本来収集目的を越えて「本人確認」のための識別情報として利用することを意味するのであって、「目的外の利用・提供」と解するのが、個人情報保護法制の原理に照らして相当』(兼子仁鑑定意見書)。と主張してきました。これらの弁論について、杉並区は区の見解を正しく主張したものとしています。

今回の可否決定通知において杉並区は、「目的外利用中止請求」については「外部提供中止請求」に対する理由とは異なり、司法の判断により従来の解釈を変更した、とはしていません。にもかかわらず、目的外利用であることは明らかであると主張してきたことと明白に矛盾する「目的外利用の事実及び予定がない」とする可否決定通知書の理由は、まったく根拠がありません。

(2)住基ネットは、住基法の目的を変質させ、住民情報を目的外利用するもの

杉並区は可否決定通知書で、収集の目的として「住民の居住関係を公証するとともに、住民に関する各種行政事務処理の基礎とするため」とし、住基ネットはその目的内において利用するもの、としています。

たしかに住基ネットは、住基法の第1条(目的)については手をつけずに1999年の住基法改正により導入されました。しかしこの「改正」はもともと四八条の法律だった住基法に、新たに住基ネットの新設に関する五五条を追加するという、元の法律より改正内容の方が多い異常な改正であり、住民基本台帳の目的を「住民サービスの台帳」から、「国民管理の台帳」に変質させるものでした。

住基法の第一条は、その目的を次のように規定しています。

この法律は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)において、住民の居住関係の公証、選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関する届出等の簡素化を図り、あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るため、住民に関する記録を正確かつ統一的に行う住民基本台帳の制度を定め、もつて住民の利便を増進するとともに、国及び地方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする。

これに対して住基ネットの目的として総務省は「居住関係を公証する住民基本台帳のネットワーク化を図り、4情報と住民票コード等により、全国共通の本人確認を可能とするシステム」であり「行政機関に対する本人確認情報の提供や市町村の区域を越えた住民基本台帳に関する事務の処理を行う」目的であると説明しています。

私たち区民は、住基法第1条にあるように、私が杉並区○○町○丁目○番に住んでいる、ということを公証するとともに、杉並区民としての義務をはたしサービスを受けるために住民登録をしています。住基法第1条は、あくまで「住民」に関する事務である、となっています。

住基ネットが目的外利用である第1点は、「住民」ではなく「国民」に関する事務に利用が変質している点です。総務省の述べる目的のうち、後段の「市町村の区域を超えた住民基本台帳に関する事務」までは、「住民」に関する事務という目的内と言えるにしても、国の行政機関における本人確認という事務は、「住民」に関する事務とは言えません。

目的外利用である第2点は、「居住関係の公証」「住民に関する事務の処理」という住基法の目的から、「本人確認」「本人認証」という事務に変質していることです。○山×子という人間が杉並区○○町○丁目○番に住んでいる、という公証と、○山×子と称している人間は○山×子本人である、という確認・認証をするということは、本来、まったく異質のことです。

このように、住基ネットにより送信される本人確認情報等は、杉並区が収集の目的としている「住民の居住関係を公証するとともに、住民に関する各種行政事務処理の基礎とする」こととは異なる目的に使用している事実があり、目的外利用です。

(3)住基ネットにより国等の機関に提供される本人確認情報は、データ・マッチングのための本人識別番号として利用されはじめている

さらに国等に提供される本人確認情報の利用も、目的外利用に変質しつつあります。

住基法第30条の7は、本人確認情報を国等の機関に提供できるのは「住民の居住関係の確認のための求めがあったときに限り」と限定しています。

都道府県知事は、別表第一の上欄に掲げる国の機関又は法人から同表の下欄に掲げる事務の処理に関し、住民の居住関係の確認のための求めがあつたときに限り、政令で定めるところにより、保存期間に係る本人確認情報を提供するものとする。

総務省は本人確認情報の利用法として、「行政機関が申請・届出を行った者、年金受給者等についての情報が正確であるかどうかの照合を行う場合」と説明してきました。つまり、個別であるか一括であるかはともかくとして、ある手続をした者が、間違いなく申請した住所地に住民登録をしているか、の確認をする目的で、本人確認情報の提供を受けるということが、法に規定され、また国民にも説明されてきた住基ネット利用の目的でした。

しかしこの住基法の規定をこえる利用がはじまっています。

2007年6月30日に成立した年金改革法(「国民年金事業等の運営の改善のための国民年金法等の一部を改正する法律」)により、居住の確認ではなく本人確認情報と被保険者情報とをデータ・マッチングすることにより、あらたに「年金未加入者」という新たな個人情報をつくりだすという事務が、住基ネットの利用事務に追加されました。住基ネットから34歳に到達する全国民の本人確認情報の提供を受け、社会保険庁が保有する被保険者情報と照合し、基礎年金番号を有していない者を「第1号未加入者」として把握し、年金適用の勧奨を行うというものです。しかもこの際に住基法別表に追加されたのは「国民年金法による被保険者に係る届出に関する事務」という曖昧な利用事務であり、これでデータ・マッチングという新たな事務が行われようとしています。

さらに、現在は厚生労働省で検討中ではあるものの、住民票コードの転用も想定した社会保障番号と結合した社会保障カードが、2011年導入を目指して準備されています。これは社会保障における負担と給付の関係を把握するために、さまざまな行政機関や民間のもつ関連情報を、社会保障番号をキーコードにして結合し、個人情報を一覧可能にしようとするものです。それに使用する「番号」については、住民票コード、基礎年金番号、カードの識別番号などいくつかの案が検討されている状態ですが、住民票コードが使用された場合「国の機関等と他の国の機関等との間で住民票コードを利用してデータマッチングをすることはできない。」と説明されてきた利用目的が、まったく異質なものに変わります。

このように、現在もすでに国等の機関に提供された本人確認情報の利用目的は変化しつつあり、さらに今後、大きく変わることが検討されている状態で、「目的外利用」の予定がないという杉並区の理由は、事実に反しています。

2 外部提供の中止の請求について

異議申立人は利用中止請求において、杉並区個人情報保護条例第15条第2項のいずれにも該当しない外部提供であるので中止するよう請求しました。これに対して杉並区は可否決定通知書で、個人情報保護条例第15条第2項第1号の「外部提供について法令に定めがあるとき」に該当する、と理由を述べています

異議申立人は利用中止請求の趣旨として、杉並区が「法令の定めがある場合」に該当すると判断していないにもかかわらず外部提供するのは条例違反である、と主張し、その際、杉並区が「住基ネット訴訟」において、住基法は住基ネットによる送信(外部提供)を無条件に義務づけてはいない、と主張してきたことを示しました。

要約すれば、兼子仁鑑定意見書に詳述されているように、住基法第30条の5の規定はほんらい住基ネット送信の技術的執行方法を定めるものであり、個人情報保護法制の原理と制度に適合したものであるためには、本人同意に代わる実質的限定を擁した規定でなければならず無条件で適用されるものではないこと、そして杉並区の個人情報保護条例における「法令の定め」についても、「これが行政法治主義に基づく行政権限行使の根拠法条をすべて指すものと誤解されてはならない」こと、「それ故、無条件に送信を義務付けようとする原判決の判断は誤りである」と、杉並区は主張してきました。

また外部提供については、住基法そのものの規定からも、提供が無条件に義務づけられているわけではないことを、「(市町村長は通知、送信する)ものとする」と「(都道府県知事は記録・保存)しなければならない」という文言の使い分けから、市町村長の裁量の余地を杉並区は指摘してきました。

この点に対して杉並区は可否決定通知書において、「なお、平成20年7月8日の区側の上告等を認めなかった最高裁決定により司法の判断が確定したことから、それ以降の住民基本台帳法の解釈については、区側の主張を否定した平成18年3月24日東京地裁判決平成19年11月29日東京高裁判決における判断による」との補足をしています

これは、異議申立人が主張したように杉並区としては法令により無条件に外部提供が定められているとは判断してこなかったが、裁判に敗訴したことによりその解釈は否定されたので、以後は解釈を変更した、という趣旨であると理解します。

しかしこの杉並区の理由は、以下の点から不当で、誤った判断であり、認めることはできません。

(1)外部提供中止請求と関係のない最高裁決定を理由とすることの不当性

この住基ネット訴訟で争われたのは、杉並区という地方公共団体が実施しようとした「横浜方式」という段階的な住基ネットへの送信を東京都は受信する義務があるか、ということです。地裁・高裁・最高裁は、そもそもこのような事柄を司法で争うことはできない、としてこの請求は却下しつつ、損害賠償請求に対して、「横浜方式」による送信は違法であり東京都に受信義務はない、との判断を示しました。

それに対して異議申立人が今回求めているのは、杉並区が自ら定めた個人情報保護条例の規定に則った外部提供を行おうとしているか、という点であり、その手続に従っていないので中止せよ、ということです。

杉並区の可否決定通知書では、最高裁決定により司法の判断が確定し以降の住基法解釈はこの判断による、ということを述べているだけで、それが今回の外部提供の中止請求に応じられないということとどのように関わるのか、なんの説明もされていません。

司法で争点となった「横浜方式」という段階的参加の是非と、今回請求している外部提供の中止はまったく別の事です。杉並区が条例に基づく適正な手続をとることと、横浜方式に対する司法の判断は、関係のない事柄です。

杉並区自らは「今回の最高裁の判断は、住民基本台帳事務という自治体固有の事務に関して、独自に住民の安全安心を確保しようとする自治体の裁量権を認めない点で、時代錯誤の不当な判断であり、私としても全く承服できるものでありません」(広報すぎなみ 平成20年8月1日号 区長コメント)と述べている以上、「外部提供が法令に定めがある場合」に該当するとの解釈には、依然として疑問を抱いています。

杉並区の条例の運用である以上、あくまで杉並区として整合性のある判断をすべきです。条例では、外部提供を例外的に認める要件として、法令に定めがある場合のほか、「本人の同意がある場合」「審議会の意見を聴いて区長が特に必要と認めたとき」も規定しています。あえて区の納得していない理由によるのではなく、たとえば区民一人一人に同意をとり、同意の得られない区民については審議会で検討する、という手続をとることも可能だったはずです。区自身がそのようには判断していない「法令に定めがある」との理由で請求を認めなかった今回の決定は、正当な理由ではありません。

杉並区の可否決定通知書は、裁判に負けたから今までの区の主張は御破算にする、とも受け取れるような理由になっています。これはこれまでの住基ネットへの取り組みを踏まえた対策をする、という広報すぎなみ8月1日号で区民に宣言したこととも反し、認められるものではありません。

(2)司法の判断を外部提供中止請求に応じられない理由にするのは、根拠がない

杉並区からは説明がないため、「司法の判断」と「法令の定めがある場合」に該当するということの関係は不明です。司法の判断により、外部提供を中止するという扱いは否定された、という趣旨であるなら、今回の訴訟に対する決定は「横浜方式」実施という裁量を否定するという文脈において送信についての地方公共団体の裁量を否定しているものであり、外部提供中止請求そのものを認めない理由として、判決をそのまま根拠にするのは、飛躍であり、認められません。

杉並区が、「横浜方式」による選択的・段階的送信を認めなければ住基ネットは違憲になる、との主張を行った東京高裁の判決文では、異議申立人のみるかぎり「外部提供」についての直接の言及はなく、都道府県への送信を規定した住基法第30条について、次のように述べています。

a.市町村長が住民票の記載、消除等を行った場合に、都道府県知事に対し当該住民票の記載等に係る本人確認情報を送信しないという事態は全く想定されていない(p.25)

b.仮に送信しなくてもよいということになれは、一部の住民について正確な本人確認情報が保存されないという事態が発生し、国の機関等に正確な提供をすることができなくなることは明らかである(p.25)

c.都道府県知事が本人確認情報の正確性を担保し、その保存・提供等の事務を適切に実施するためには、区域内のすべての市町村長から、すべての住民に係る本人確認情報の通知を受けることが必要不可欠である(p.25)

d.住基ネットは、地方公共団体の不参加はもとより、住民の一部に不参加があると、・・・・行政コストの削減を図るという住基ネットの目的は達せられないことになる。(p.26)

e.市町村においてネットワークによらない住民基本台帳事務の処理方法を残すことになると、住基法が目的とする市町村における住基事務の効率化は著しく阻害される(p.26)

f.(a〜eを受けて)したがって、住基法第30条の5第1項及び第2項が、都道府県知事に対して本人確認情報を送信するか否かについて、市町村長に裁量権を付与しているとは到底考えられない(p.26)

g.以上検討したところによれば、市町村長は、住民が通知を希望しているか否かを問わず、都道府県知事に対し、漏れなく当該住民に係る本人確認情報を送信する義務があるといわなければならず、通知するかしないかにつき裁量の余地は全くないから、これを怠った市町村長の行為は違法(p.26)

h.控訴人が求めているのは、杉並区民のうちの通知希望者に係る本人確認情報のみの通知という・・・違法な通知の受信(p.26−27)

i.控訴人が通知希望者に係る本人確認情報のみを通知することは違法といわざるをえず・・・(p.27)

j.ある地方公共団体がそこから離脱することはもちろん、一部の本人確認情報のみを送信するということを容認するならば、・・・住基法の目的を達することはできない(p.28)

異議申立人は法律の専門知識はありませんが、以上の判決文を読むかぎり、東京高裁は以下の判断をしているものと考えます。

①住基法には、地方公共団体が接続するかしないかの裁量を認めた規定はなく、国民の選択権を認める規定もない。

②住基ネットシステムが効果を発揮するには、全市町村・全国民の本人確認情報の通知が必要。不参加があると目的を達成できない。

③地方公共団体が通知希望者に係る本人確認情報のみを通知するのは違法。許されない。住民の希望に関わらず漏れなく送信する義務を怠った市町村長の行為は違法。

ここで異議申立人が強調したいのは、今回のこの司法の判断はあくまで杉並区という地方公共団体が行おうとした「横浜方式」による送信の東京都の受信義務に対する判断である、という点です。(「横浜方式のような」)裁量権を認めれば、東京都に対して受信義務を課すことになる、という裁判において、そのような裁量権を否定した、という判決だと見るべきです。

したがって判決が「違法」という明確な表現をしているのは、g,h,iのように「横浜方式」(「通知希望者に係る本人確認情報のみの通知」)に対してです。非接続をふくめた自治体の裁量一般については、a〜f,jのように否定的な表現をしているものの、争点ではないそれらのことについて、違法という表現はしていません。

以上のように、今回の「司法の判断」は、地方公共団体が実施しようとした「横浜方式」を違法と判断はしているものの、個人が外部提供の中止を請求すること、そしてその結果として提供が中止されること自体について判断したものではなく、それを根拠に請求を認めないという判断は誤っていると考えます。

(3)高裁判決が認めなかったのは地方公共団体の行う「横浜方式」であり、個人が住基ネットの差止め等を争うことは認めており、外部提供中止を認めない理由にならない

杉並区が外部提供中止請求を認めない根拠としている東京高裁判決は、地方公共団体の裁量権に否定的な判断を示す一方で、本人確認情報がプライバシー情報であり法的保護に値することは認め、個人が住基ネットの差止めの可否を争う可能性を、以下のように明文で認めています。

「なお、本件において控訴人が保護されるべきものとして主張する本人確認情報は、・・・これらが第三者に開示されるときは、個人が特定され、その結果、個人の私生活上の平穏が害されるおそれが生ずるから、個人のプライバシーに関する情報にあたり、法的保護に値するものということができる。したがって、住基ネットの稼働によってこのような利益が侵害され、または侵害される可能性がある場合、これによって生じた損害の賠償又は住基ネットの運用の差止めの可否等が問題となるが、これらは、侵害されたと主張する当該個人が地方公共団体等を相手に法的救済を求めた場合に判断されるべき事柄・・・」(p.31−32)

また杉並区が主張した住基ネットにおける個人情報保護法制上の不備、名寄せの危険性、独立かつ公平な第三者機関が設置されていない現状のおける住基ネットの違憲性についても、それを否定はせず、ただ「住基ネットの稼働によって上記利益を侵害されたと主張する個人が地方公共団体等を相手に法的救済を求めた場合に判断されるべき事柄であり、被控訴人東京都が控訴人に対し、送信された通知希望者に係る本人確認情報の受信義務を負うか否かの判断に影響を及ぼすことではない。」(p.32−33)と、争う主体は個人であり地方公共団体ではない、としています。

「控訴人が、非通知希望者に係る本人確認情報を被控訴人東京都に送信することは当該住民のプライバシー権を侵害するものであり違憲又は違憲の疑いがあると判断したとしても、そのような個人の権利を侵害するか否かの判断の前提となる違憲性は、それにより自己のプライバシー権を侵害されたと主張する国民が法的救済を求めた場合に判断されるべきことであり、地方公共団体である控訴人が独自にそのような判断をして非通知希望者に係る本人確認情報の送信をしないという扱いをすることは許されない。」(p.29)

まさに今回の利用中止請求のように、個人が地方公共団体等に対して個人情報の利用の中止を求めることは判決も肯定し、その結果として利用中止となる事態も否定していません。判決が否定したのは、地方公共団体が独自の判断として「段階的参加」をすることです。判決が求めているのは、個人の請求を受けて判断すべきである、ということです。この判決を「外部提供中止請求」を認めない根拠にすることは、判決内容にも反しています。

異議申立人も杉並区と同様に、地方自治体の裁量権を著しく制限する司法の判断については、不当なものと考えています。しかし高裁判決のこの部分は、まさに杉並区が訴訟において大阪高裁判決などを積極的に活用して住基ネットの憲法上の問題を指摘してきたことを受けて示されたものであり、5,797万余円の費用を投じてきた裁判を有意義なものとするためには、杉並区はむしろ区民個人が利用中止請求することの意義を積極的に肯定していくべきです。

(4)条例の求める提供先に対する利用の目的や方法の制限や個人情報の適切な管理のために必要な措置がとられていない外部提供である

個人情報保護条例第15条第3項は、「法令の定めがあるとき」により外部提供するときも(註1)、外部提供を受けるものに対し、外部提供に係る個人情報について、その利用の目的若しくは方法の制限その他必要な制限を付し、又はその漏えいの防止その他の個人情報の適切な管理のために必要な措置を講ずることを求めるものとする、と規定しています。

外部提供するのであれば、提供先である都、住基ネット全国センター、その他提供を受ける国等の機関および都道府県・市区町村に対して、必要な制限や措置を講ずることを杉並区は求めなければなりません。

※なお、条例は「求めるものとする」となっていて「求めねばならない」ではないので裁量が認められる、というような区別は、まさに高裁判決により否定された文言解釈であり、「司法の判断による」としている以上、とることはできません。

しかし、8月1日区広報で発表した「参加にあたっての対策」では、この必要な制限や措置はまったく入っていません。それどころか、かつて杉並区自身が「段階的参加方式」の採用を表明した際の「住基ネット対応方針」(平成15年6月)で杉並区として講じるとした5点の措置には含まれていた、「(自治体共同設置による)住基ネット監視第三者機関」や「アクセス・ログ公開にあたり区民の公開申請を支援」という住基ネットそのものの運用監視の支援がなくなっており、提供先に対する「必要な制限や措置」を求めた第十五条3項に明白に違反しています。

住基ネットは杉並区自らが述べてきたように、国等の機関に提供された後の利用について区民自身も杉並区も把握できず、利用事務の拡大に対して区民も杉並区も関与することができない仕組みになっています。また全国の自治体や国等の機関の出先機関を含めて、膨大な提供先で本人確認情報の閲覧・利用が可能になっており、漏洩の可能性は至るとこにあり、しかもその提供先の個人情報保護に不安があることを、杉並区は住基ネット訴訟で主張しています。

したがって、提供した本人確認情報の利用後の消去など住基法が求める措置が履行されているかの確認、利用は法の定める「本人確認」に限定し住民票コードをつかった個人情報の結合に使用しないことの確認、提供後の利用内容の報告、利用機関拡大の際の杉並区の関与など、制限や措置を講じる必要を杉並区は認識しています。

異議申立人は、利用中止請求の資料として提出した「利用中止請求の趣旨」の2(4)で、これら条例が求める必要な措置を講じていないことも理由として中止を求めましたが、これについて可否決定通知書はまったくふれていません。

異議申立人も会員となっている「住基ネットに不参加を!杉並の会」は、9月19日に、これら「参加にあたっての対策」を見直すよう申し入れましたが、回答はありません。杉並区からは、その後住基ネット参加にあたっての対策について広報はなく、異議申立人は11月6日に区にその後の経過について質問をしましたが、回答はありません。住基プライバシー条例第6条に基づく区長の必要な措置の一環として設置された「杉並区住基ネット調査会議」に対して、外部提供にあたり必要な措置についての諮問も行われていないと聞いています。

住基ネットに参加予定の1月が迫っているにもかかわらず、これら条例の求める必要な制限や措置は講じられていません。にもかかわらず、外部提供することは条例違反です。

▲サイトの目次へ▲このページの目次へ

原典について

引用者註

〔註1〕個人情報保護条例第15条第3項は、「法令の定めがあるとき」により外部提供するときも

条例解釈の誤りです。

杉並区個人情報保護条例第15条第3項は、次のように規定しています。

実施機関は、第一項又は前項第三号の規定により外部提供をするときは、外部提供を受けるものに対し、外部提供に係る個人情報について、その利用の目的若しくは方法の制限その他必要な制限を付し、又はその漏えいの防止その他の個人情報の適切な管理のために必要な措置を講ずることを求めるものとする。

ここでいう第15条第1項は「本人の同意を得たとき」、第15条第2項第3号は「審議会の意見を聴いて、区長が、特に必要があると認めたとき」の外部提供を指します。

「外部提供について法令に定めがあるとき」は、第15条第2項第1号の規定であり、第15条第3項の規定には該当しません。


Copyright(C) 2009 やぶれっ!住基ネット市民行動
初版:2009年01月31日、最終更新日:2009年03月01日
http://www5f.biglobe.ne.jp/~yabure/suginami/husankawo/igi-riyu081217.html