視神経炎 虚血性視神経症 遺伝性視神経症 中毒性視神経症 外傷性視神経症 圧迫性・浸潤性視神経症 多発性硬化症 視神経萎縮
○現代医学での概要と当院の針灸治療
○患者さんからよくある質問
○院長からひとこと
○関連リンク・参考文献
視神経炎
・多くは片眼性で原因は不明、急性の視力・視野障害として発症する疾患で10代〜40代に多くみられます。数週間で回復に向かう症例も多く、1ヶ月程度で70%の症例は視力1.0以上へ回復し、6ヶ月以内に完全に回復する症例も多いのですが、ステロイドの減量と共に悪化し再発を繰り返す難治の視神経炎や、30%程で再発する可能性もあります。
・自然に回復する症例も多いため数ヶ月は様子を見ていただき、眼科で回復が遅いなどと診断されている場合には、適切な鍼治療も検討されることをお勧めします。適切な鍼治療は視力を改善して、ステロイド減量の際の悪化を防ぐことができます。また当院で鍼治療を継続されている患者さんについては再発例はなく、長期に渡って健全な状態を維持できる可能性が高いです。
虚血性視神経炎
・急性に発症する前部虚血性視神経症(AION)は動脈炎性で高齢者に多く発症し、視力・視野障害と共に頭痛や多発性筋痛症などの全身症状を伴う特徴が有ります。中年期にみられる非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)は、高血圧や糖尿病などが原因となり、自然に改善する症例も一部にみられます。一般に非動脈炎性(NAION)は、動脈炎性(AION)に比較して10倍以上の発症数といわれています。
・比較的若い方で発症から長期間が経過していない非動脈炎性(NAION)であれば、適切な鍼治療により視力・視野障害は改善する可能性が高くなります。通常、虚血性視神経炎と診断された場合に、動脈炎性(AION)の診断名が付いていない場合には、非動脈炎性(NAION)の症例が多いです。また数年以上など長期間経過した症例では回復は難しくなりますので、早めの治療開始をお勧めします。
遺伝性視神経症
・常染色体優性視神経萎縮(DOA)は学童期に徐々に進行する両眼性の視力障害で、弱視と診断された子どもさんが後になって診断が付く場合があります。Leber遺伝性視神経症は、10代で突然急速な片眼の視力障害・中心暗点として発症し、数ヶ月〜1年程度遅れて他眼も発症します。遺伝性疾患ではありますが、家族歴のない孤発例もあります。
・常染色体優性視神経萎縮(DOA)は、長期的な視力低下を可能な限り抑えることが目標になりますが、当院でも症例数が少ないため、実際どの程度進行抑止に繋がるかは不明です。今後の症例の蓄積をお待ち下さい。
・レーベル遺伝性視神経症については、ミトコンドリアの遺伝子タイプにより状況が異なり、11.778型が最も視力低下などが大きく、針治療による中心暗点の縮小や視力の改善量も少なくなる傾向があります。他のタイプでは0.1未満の状態からでも0.3〜0.4程度までの改善は普通に見られ、中心暗点も縮小しています。レーベル病と診断されている場合には、ミトコンドリアの遺伝子タイプを確認されることをお勧めします。
中毒性視神経症
・タバコ・アルコール性視神経症は、両眼で徐々に視力低下や中心視野が欠損するもので、毎日40本以上のヘビースモーカーや飲酒量の多い方で、食生活が不規則な方にみられ、栄養欠乏性の視神経症とも考えられます。早期であれば喫煙・飲酒を中止して日常生活を見直し、質の良い食事を心がけることで改善に向かいますが、長期間に渡る重症例では回復は難しくなり、入院治療や禁煙外来や心療内科での治療も必要になる場合があります。
・シンナー中毒視神経症は有機溶剤などに含まれるトルエンが原因となり、運動失調や歩行障害に続いて徐々に視力障害が進行します。メチルアルコール中毒は誤飲などによる摂取から1日程度で、頭痛・腹痛・呼吸困難などの全身症状と共に急激な視力低下・中心暗点を生じます。眼科では確実な治療法は無く、循環改善薬やビタミンB群、ステロイドパルス療法やステロイドの内服、星状神経節ブロックなどが行われますが、大きな効果は期待できないのが現実です。
・タバコ・アルコール性視神経症では生活習慣の改善と共に、適切な針治療を行うことにより、特に若い方では大幅な改善がみられます。中心視野が欠け視力なしの状態から、中心暗点が消失し視力1.0まで回復する症例もありました。しかし長期的には原因となった生活習慣を継続的に変えて行かなければ再発する恐れがあります。
・シンナー・メチルアルコール中毒視神経症では、比較的若く軽症の方で長期間が経過していない症例ほど、回復の可能性が高くなります。長期間が経過した重症例ほど回復は難しくなりますが、ある程度までは回復する可能性はありますので、適切な針治療もご検討下さい。
外傷性視神経症
・頭部への外傷によって、視神経管骨折や視神経損傷、血液の循環障害、出血、浮腫による圧迫などにより、視力や視野に障害を生じます。前部視神経障害では1週間程度、後部視神経障害では1ヶ月程度で視神経萎縮となり、光干渉断層計(OCT)では網膜視神経線維層の減少もみられます。眼科ではステロイド薬の点滴などで視神経の浮腫や炎症を軽減させて、ビタミンB12の内服により視神経の保護を目指す流れになりますが、視力改善は外傷の程度・内容にもより、予後不良の場合も多くあります。
・外傷や手術後の後遺障害での視神経症については、受傷後の経過時間や傷害の程度により回復は様々です。詳しくは外傷・手術後の後遺障害のページを参考にして下さい。
圧迫性・浸潤性視神経症
・圧迫性視神経症では良性腫瘍の視神経鞘髄膜腫や脳腫瘍、視神経膠腫、脳動脈瘤、また甲状腺眼症として視力低下や中心暗点を生じるケースがあります。浸潤性視神経症では白血病などの癌によるもの、真菌などの感染による視神経炎があります。原因疾患への適切な治療が必要になりますが、糖尿病や免疫抑制治療などを行っている場合には、より重症化しやすく注意すべき視神経症です。
・腫瘍などが原因の場合には、原因を取り除くことが必要です。原疾患が手術などで解決された後の回復には、針治療も役立てることができます。また甲状腺眼症による視力低下などでは、適切な針治療により改善する症例が多いため、早期の治療開始をお勧めします。詳しくは甲状腺眼症のページを参考にして下さい。
多発性硬化症(MS)
・眼科領域では視力障害や複視として、全身症状としては感覚障害、運動麻痺、排尿障害として発症する疾患で、脳や脊髄の中枢神経が病変部位となる自己免疫による炎症性脱髄性疾患です。一般に視神経炎から多発性硬化症への移行は10年以内で38%とされ、視神経炎発症時のMRI所見で脱髄病変が無い場合は22%、1ヶ所以上の脱髄病変が有る場合には56%が多発性硬化症に移行といわれています。炎症期にはステロイドパルス療法や血漿交換法などが行われていますが、炎症が落ち着いた後の神経変性に対する治療法はありません。
・多発性硬化症に対しての針治療は当院では症例が少ないですが、比較的軽症な症例では視力の回復や複視の改善は得られています。また全身症状に対しては治療結果の傾向は定まっていませんので、当院では視機能の回復を中心に他の症状の改善も目指すことになります。
視神経萎縮
・様々な視神経疾患は長期的な経過をたどる中で、網膜神経節細胞の軸索の消失を眼底検査などで確認できる状態を視神経萎縮といいます。小児では常染色体優性視神経萎縮(DOA)などに代表される進行性の疾患ですが、成人では原因となる視神経疾患の終末像でもあることから、進行性の眼疾患(緑内障や網膜色素変性など)を原因とする場合を除いて、再発しない限り視力低下・視野欠損などの進行も停止するとされます。
・眼科検査で視神経萎縮と診断された場合でも、比較的若い患者さんで診断からの経過が短い場合には、適切な針治療により視力・視野などが大きく改善する症例があります。眼底検査などで視神経萎縮とされていても、実際の視機能は残存している場合もあり、針治療を開始したところ0.2程度→1.0以上へと回復した症例や、視野の改善がみられる症例もあります。しかし長期間が経過した視神経萎縮では大きな改善は難しいため、原因疾患の再発や進行を抑えて現状を長期間維持することが針治療の目標になります。
・視神経疾患への針治療は、眼科での治療と併用が有効な疾患といえます。視神経炎では視力や視野が良好になることが多く、ステロイド治療などからの離脱が早まることから、症状が安定し治癒までの期間を短くすることができます。また視神経萎縮といった眼科的には難治の状況でも、比較的早期であれば眼科医が驚かれるほどの回復が得られる症例もあります。全ての状況に対して有効とは言えませんが、視神経疾患への適切な針治療は現在行われている眼科医療の限界を様々な状況で超える可能性があり、私も注目している分野です。
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Q.ステロイド薬を使用していますが難治性の視神経炎は治りますか? 視力や視野が改善しますか?
A.ステロイド薬の効果が高まることから視力・視野は改善され、早期に治癒に向かう可能性が高まります。
・ステロイド薬を減量する度に視力等が悪化するケースでは、適切な針治療を併用することで悪化することが少なくなり、針治療の開始後は順調にステロイドの減量が可能になる症例が多いです。また視力や視野は概ね回復し維持できることや、長期経過例では視神経萎縮や多発性硬化症への移行例はありません。
Q.目の疲れや周囲の痛み、複視が強いのですが、針治療で良くなりますか?
A.針治療による様々な症状の改善は比較的容易です。複視については程度の強いものは難しくなります。
・眼精疲労、眼の周囲の腫れ感や目の奥の痛みなどの症状は初回治療時から効果的で、針治療を続けることで徐々に問題ではなくなる症例がほとんどです。また複視についても改善は見られますが、多発性硬化症や重症の甲状腺眼症では複視の改善は限定的な場合があります。
Q.視神経症についての日常生活での注意点は?
A.睡眠をはじめ休息を十分にとり、疲れを溜めないことが大切です。
・疲労が蓄積し体全体の免疫力が低下すると、一部の異常な免疫が亢進するなどして炎症などの原因を抑えることが難しくなり、原因疾患の悪化に繋がりやすくなったり回復にも時間が掛かります。喫煙や過度の飲酒(毎日1合を越える)も避けるべきです。
・甲状腺眼症の場合などでは、コンタクトレンズは前眼部での炎症を誘発、増幅させる可能性があり、眼瞼腫脹や外眼筋の炎症を助長することに関与します。コンタクトレンズの使用は運動時などの必要最小限として下さい。
Q.必要な期間や治療間隔はどのくらいでしょうか?
A.症状の重さや炎症期かどうかで変わってきますが、当初は週2回もしくは1回程度の治療間隔です。
・炎症期(ステロイド薬による治療中)や発症から比較的早い場合であれば、状況にもよりますが週に2回の治療から始めます。比較的治療上の課題が少ない場合や病状が落ち着いている場合には、週に1回から始めることになります。状態を確認しながら徐々に治療間隔を空けていき、再発の予防や良好な状態の維持を目標として、2〜4週間に1回程度の治療を続けていく場合が多いです。
Q.低周波(パルス)通電治療は有効ですか?
A.視神経疾患については状況により低周波(パルス)治療が有効な場合に度々出会います。
・千秋針灸院では様々な眼科領域の測定を行い針治療の効果を確認していることから、眼科疾患全般に対しては、通常は低周波(パルス)通電治療は必要無い(有効とはいえない)と結論付けています。しかし視神経疾患の一部に限っては、低周波(パルス)通電治療を行わなければ決して得られないほどの高い効果が得られることを度々経験しています。
・当院との提携治療院も含めて、様々な理由から低周波(パルス)通電治療を行わない場合もあるのですが、治療結果から判断すれば明らかに差がついてしまいます。当院では低周波(パルス)通電治療が有効と考えられる状況の場合には、カルテ等の書類にも記載して導入を促していきますが、実際に行われるかどうかは実際に通院される治療院にもよります(治療者の考えや設備の有無など)ことをご了承下さい。
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・最近の傾向として視神経疾患は来院されている患者さんが特に多くなっている病気の一つです。様々な視神経疾患の患者さんが来院され実績が蓄積されつつあることから、針治療の効果や限界も少しづつ明らかになってきました。特に低周波(パルス)通電治療が有効な場面があり、通常の針治療では考えられない程の結果が得られる症例に度々出会います。例えば視神経萎縮などで眼科的に治療法が無いと診断されている場合でも、比較的若い患者さんで発症からあまり時間が経過していない症例では、針治療による回復が得られ易いことも特徴です。
・千秋針灸院での視神経疾患に対しての針治療は開業当初から行っており、試行錯誤を繰り返しながら様々なケースでの実績や治療法自体の完成度を高めてきました。遠方の患者さんには全国規模での眼科鍼灸ネットワークを活用した、提携治療院での適切な針治療もお勧めします。
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関連リンク
●眼科領域の難病治療を提携治療院で (当院ページ)
参考文献
●参考文献・蔵書一覧 (当院ページ)
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