甲状腺眼症、甲状腺性視神経症、眼球突出、眼瞼腫脹、眼瞼浮腫、眼球運動障害、目周囲痛など
○現代医学での概要と当院の針灸治療
○眼球突出の評価方法
○患者さんからよくある質問
○院長からひとこと
○関連リンク・参考文献
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
・甲状腺ホルモンの過剰な分泌により甲状腺中毒の症状を起こす病気です。思春期から更年期の女性に多く見られますが、男性に発症することもあります。びまん性の甲状腺腫、眼球突出、頻脈の三大症状の他にも全身倦怠、易疲労、発汗、体重減少、微熱、神経質、情緒不安定、頭痛、食欲亢進、下痢、動悸等の様々な症状があります。予後は比較的良好で、抗甲状腺薬による適切な治療により数年程度で治癒しますが、長期にわたり寛解と増悪を繰り返すこともあり、強いストレスや疲労から悪化することもありますので注意を要します。
甲状腺眼症
・甲状腺機能亢進症の半数程で発症する眼疾患で、特徴的な眼球突出をはじめ、眼瞼腫脹、眼瞼後退、結膜充血、上輪部角結膜炎、眼窩部痛、眼球運動障害、外眼筋腫大、複視、視力低下、眼圧上昇、視神経障害等の症状を生じます。こうした症状はバセドウ病の炎症に伴うもの(結膜充血や眼瞼腫脹、眼窩部痛)と、炎症消退後の慢性期の症状(眼球突出や眼球運動障害)に分けられます。甲状腺眼症では血液検査として甲状腺機能だけではなく、甲状腺関連自己抗体(TBII、TSAb、抗TPO抗体など)が重要であり、甲状腺眼症の状態を表す指標とされています。
・眼球突出は甲状腺眼症の中でも特徴的な症状であり、MRI等の画像診断により15〜17ミリで軽度(39.1%)、18〜20ミリで中等度(25.9%)、21ミリ以上で重度(9.2%)として分類されます。治療は外眼筋の炎症が遷延化し繊維化する前に、パルス療法などのステロイド全身投与が中心となり、眼瞼部へのトリアムシノロンアセトニド注射(ステロイド)や、35歳を超える場合には放射線照射なども行われることもあります。炎症が落ち着いた後に繊維化して起こる眼球運動制限や、眼窩内の炎症から肥厚した脂肪組織による眼球突出に対しては、眼窩減圧術などの手術が行われています。重症例では腫脹した外眼筋による視神経や血管への圧迫により、甲状腺性視神経症として視力や視野などに障害を起こす場合があります。
・一般に甲状腺機能亢進症の治療は、治療薬(プロバジールやメルカゾール)が中心になりますが、千秋針灸院では主に甲状腺眼症への針治療に取り組んでいます。甲状腺機能亢進症は通常数年で炎症は治まり、眼球突出をはじめとした後遺症を残すことも少なくありませんが、できる限り投薬による治療期間中に針治療を行うことで、甲状腺眼症によるトラブルや後遺症を最小限に抑えることを目標としています。治療を開始する時期も関係しますが、一般に視機能(視力や複視)は良好となり、眼窩部痛や目の周囲の痛み等の症状は改善します。眼球突出については大幅な改善は難しいですが、炎症期の治療であれば一定度の改善は見られます。痛み等の症状は初回治療時から改善することが多いため、針治療の効果が分かりやすい疾患です。
・中国における甲状腺機能亢進症への有効率は、症状消失、血清中甲状腺ホルモンの正常化が50-60%、加えて症状が明確に改善したのは30%前後〔総有効率80-90%〕ということです。ただし眼球突出の症例では、やや治療効果は下がり有効なものは40-50%ということです。中国では一般にかなり集中して〔隔日治療で3ヶ月程〕治療が行われます。千秋針灸院では甲状腺機能亢進症の本体、眼症の両面から針治療を行うことで炎症が治まりやすくなり、内服薬を早期に減少できることにより、結果的に症状の軽減や後遺症を少なくする可能性があります。眼窩部痛や眼球突出をはじめとした甲状腺眼症の症状が出始めたら、早めに針治療を始められることをお勧めします。
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ヘルテル氏眼球突出計
・千秋針灸院では眼球(前眼部角膜)の突出を正しく測定・評価するために、眼科で広く使用されているヘルテル氏眼球突出計を導入しています。眼球突出の左右差や正常範囲を超えた突出の度合いを正確に測れると共に、眼科学に基づき客観的に、針治療による効果を正しく判断することができます。ヘルテル氏眼球突出計での測定が行われないと、眼球突出への根拠のある針治療は難しいです。また視力低下や複視を伴うこともあり、必要に応じて適切な方法で測定・評価を行います。
○リンク・・・千秋針灸院での測定・評価法
・当院では症例数の増加に伴いヘルテル氏眼球突出計を導入し、針治療による様々な変化が分かってきました。適切な針治療により眼球突出の数値は確かに変化する場合も多いのですが、眼瞼部などの腫脹との兼ね合いも関与します。特に腫脹が強い場合には、腫れが引くことで両眼の眼窩外側縁間のサイズが数ミリ変化した症例もあります。このため眼球突出の状況以上に眼瞼部の腫脹が強い場合には、眼球突出の数値は変わらないのに目周囲の腫れが引くことで、写真上での顔つきが変わることもありました。ヘルテル氏眼球突出計に加えて、写真による適切な評価も大切です。
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Q.眼球突出は治りますか? 改善する確率はどのくらいですか?
A.全般に眼球突出の大幅な改善は難しいのですが、特に非炎症期(投薬終了後)の回復は困難です。
・バセドウ眼症の治療は先に書いたとおり、投薬治療が行われる炎症期(一般に数年程)と、投薬治療(プロバジールやメルカゾールの服用)を完了した慢性期で異なり、特に眼球突出については炎症期であれば半数程度の症例で、完治ではないものの患者さん自身が自覚できる程度の改善は得られています。しかし慢性期の眼球突出は脂肪化・繊維化した組織による後遺症であり、基本的に針治療による改善は見込めませんので手術を考慮する必要があります。まだ内服薬治療が続いている間に針治療を始めることをお勧めします。
・ヘルテル氏眼球突出計や三田式万能測定計で、客観的に眼球突出を測定すると、概ね半数以上の症例で1〜2ミリの改善が得られているようです。また数値的な改善がみられなくても、目の周囲の腫れが引くことで自覚として改善されたと感じる患者さんもあります。甲状腺眼症の場合では、針治療を開始してから自覚的、あるいは客観的にも悪化した症例はありません。眼科学に基づいた測定・評価と共に行われる適切な鍼治療は、手術の前に試してみる価値はあると思います。ただし大幅な突出(22ミリ以上)を正常範囲内(18ミリ以内)まで大きく改善は経験的に難しいと思われます。当院の実績で3ミリ以上(ヘルテル眼球突出計)の改善を確認している症例は全体の数例と少数です。
Q.目の周囲に針を打つのは心配です。目が傷ついたり、痛みや出血はありませんか?
A.目の周囲へ使用する針は直径0.12〜0.14ミリ、深さ1〜2ミリです。眼球は傷付きません。
・当院で目の周囲へ治療に使用している針は医療用として認められている針の中でも細く、概ね8歳以上から安全に行える治療ですので、痛みや出血は僅かです。
・針の深さと効果について当院では眼科学としての各種測定・評価法を取り入れ、数ミリ程度の安全な針の深さで効果が得られることが分かっています。初回の治療直後に瞼の腫れが軽減するなどして、目の周囲がスッキリした感覚が得られる患者さんが多いです。
Q.目の疲れや周囲の痛み、まぶたの腫れや複視が強いのですが、針治療で良くなりますか?
A.甲状腺眼症は物理的な変化である眼球突出・複視を除けば、症状の改善は比較的容易です。
・甲状腺眼症に伴う眼窩部痛や目の周囲痛などは初回治療時から効果的で、針治療を続けることで徐々に症状は治まる症例がほとんどです。眼瞼部の腫れも軽減します。また眼精疲労や視力は良好となり、程度にもよりますが眼の動きや視力、複視についても改善が見られる症例があります。
Q.甲状腺眼症についての日常生活での注意点は?
A.甲状腺眼症の主な要因は、喫煙や睡眠不足、過剰なストレスが挙げられます。
・適切な鍼治療に加えて禁煙や睡眠不足を解消することで、甲状腺眼症は改善し易くなります。ストレスは原因が明らかであれば、運動などで発散させるなど対策を講じることも大切です。また甲状腺眼症ではコンタクトレンズの使用を必要最小限とした方が良いです。コンタクトレンズは前眼部での炎症を誘発、増幅させる可能性があり、眼瞼腫脹や外眼筋の炎症を助長することに関与します。甲状腺眼症では特に炎症期の期間や程度を短く軽くすることが、眼球突出をはじめとした後遺症の軽減に繋がります。
・眼球突出や眼瞼腫脹(目の周囲の腫れ)の程度は、時間や季節(朝や春は悪化)にも左右されますが、やはり疲労やストレスの蓄積が関係します。十分な休息を取ることやストレスの発散を意識して実行して下さい。
Q.甲状腺治療薬(プロバジールやメルカゾール)の副作用があり、薬もあまり効きません。
A.一般の投薬治療に針治療を加えることで内服薬の効きは良くなり、副作用は軽減される傾向です。
・千秋針灸院では脈拍を測ることで、概ね甲状腺機能亢進症のコントロールができているかを把握しています。内服薬が充分に効かず、安静時で100/分以上の方も、針治療を加えることで徐々に80/分以下で安定してきます。また咳などの副作用を抑える治療が行えることや、血液循環などが改善し内服薬の効きが良くなりますので、早期に薬の量を減らすことができ、投薬の必要な炎症期が短くなることで、目への様々な後遺症も最小限で済むことが期待できます。
Q.必要な期間や治療間隔はどのくらいでしょうか?
A.症状の重さや炎症期かどうかで変わってきますが、当初は週1回もしくは2回程度の治療間隔です。
・炎症期(投薬治療中)であれば、眼球突出をはじめ症状が多く比較的重い場合には、週に2回の治療から始めます。比較的治療上の課題が少ない場合には、週に1回から始めることになります。3ヶ月程度の期間毎に治療方針を見直し、徐々に治療間隔を空けていき、2週間に1回程度の治療で投薬終了まで続けて、内科での治療が完了すると針治療も終了を検討します。投薬治療完了後の慢性期では痛みなどの症状の緩和が目標となり、悪化してきたらその都度行うという状況です。
Q.内服薬は終了していますが、針治療は眼球突出に効果はありませんか?
A.内科での投薬が終了し数値が正常範囲になっていても、針治療は有効な場合があります。
・眼球突出への針治療の適応は甲状腺治療薬の継続に限らず、日によって眼の状態が変化するなどの期間となります。眼窩内の炎症が少なからず続くためですので、程度にもよりますが肥厚した脂肪組織を除いた腫脹分の突出は改善する可能性があります。針治療後に目の周りがスッキリする感じや見た目が変化するケースは、針治療後の腫脹の改善を意味しています。また内科的な数値が正常に戻っても、甲状腺関連自己抗体(TBII、TSAb、抗TPO抗体)が高い場合には針治療の適応になります。
Q.左右で眼球突出の程度が異なります。両側が揃って回復することは可能ですか?
A.片側のみの突出や明らかに左右差がある状況でも、1〜2ミリまでの差であれば改善可能です。
・針治療により眼瞼の腫れが引きやすくなることや、針を片側へ集中させて両眼の治療効果に差をつけることで、最終的に両眼の状態を外見上揃えることも目標としています。しかしあまりに眼球突出が大きい場合など、難しいケースもありますので、不確実な部分があることはご了承下さい。
Q.眼科でステロイド注射を勧められています。必要でしょうか?
A.炎症期でのステロイド注射は有効なケースも多いですが、副作用には注意が必要です。
・ステロイド注射後から強い充血と共に眼圧が大きく上がる(30mmHg以上)方が時々あります。ステロイドに眼圧がやや反応する方は数名に1人、大きく反応する方も20名に1人程度とされますので、万一眼圧が上昇した場合には適切な眼圧降下治療が必要になります。この場合ステロイドの効果が無くなる数ヶ月間は眼圧が高止まりしますが、視野や視神経に明らかなダメージが見られなければ、点眼薬や針治療で対処し手術は避けましょう。後の白内障などにも繋がりますので、ステロイド注射の前に適切な鍼治療も検討される事をお勧めします。
・甲状腺眼症には自然経過で改善がみられる症例が存在します。海外では発症後概ね6ヶ月で22%、18ヶ月で58.1%で寛解もしくは治癒がみられたとする報告があります。発症後の状況にもよりますが、半年以内の早い段階で放射線やステロイドパルスなどの副作用のある治療は、できる限り避けた方が賢明と考えられます。適切な針治療は副作用が無く自然回復を促す治療ですので、重症でなければ当面は内科的治療もしくは針治療で様子を見ていくこともご検討下さい。
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・中国における甲状腺機能亢進症の針灸治療は症例数も多く、かなりメジャーな部類に入るかと思います。私の留学していた上海中医薬大学のすぐ傍にも、「難病研究所」〔正確な名称は忘れてしまいました。〕があり、この疾患の専門科が存在していました。十分な栄養摂取〔糖質、脂質、ビタミン類等〕や睡眠の確保と共に過労やストレスを避けることです。現代医学からの管理と針治療の併用により、症状が改善しやすい疾患といえます。
・当院の甲状腺眼症の治療は、痛みをはじめ様々な症状から視力低下、複視、炎症期の眼球突出まで、多くの針治療の効果を得られています。また眼科で広く使用されているヘルテル氏眼球突出計や三田式万能測定計の導入によって、客観的にも鍼治療の効果を把握・評価して、適切な治療法を行えるようになりました。また一般に女性の患者さんが多いのですが、男性の甲状腺眼症の患者さんもありますので、ご相談下さい。
・甲状腺眼症では甲状腺関連自己抗体(TBII、TSAb、抗TPO抗体)との関係が注目されていますが、当院で針治療を行っている患者さんについては、自己抗体の数値が高くても甲状腺眼症が軽く済んでいるということで、眼科から針治療を勧められるケースもあります。適切な針治療は副作用の心配も無く、活動期の甲状腺眼症の様々な症状を落ち着かせる効果を持つため、治療の選択肢の一つとしてご検討下さい。
・千秋針灸院でのバセドウ病および甲状腺眼症に対しての針治療は、開業当初から行っており、実績や治療法自体の完成度も高く、慢性期(メルカゾールやプロバジールの服用終了後)の固定した眼球突出や眼球運動障害を除けば、お勧めできるものです。遠方の患者さんには当院で初診を受けられた上で、全国規模での眼科鍼灸ネットワークを活用した、提携治療院での治療もお勧めします。
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関連リンク
●眼科領域の難病治療を提携治療院で (当院ページ)
●千秋針灸院での測定・評価法 (当院ページ)
参考文献
●参考文献・蔵書一覧 (当院ページ)
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