妖魔界

3 未来の天国

 天国。この世の全ての命の終着点であり、出発点でもある場所。今回のお話は、数千年未来の出来事である…。

「待ちなさい! 絶対に許しませんからね!浮気なんて。」
 第一者ザンの夫、ジャディナーは声を張り上げた。空を飛びながら彼女を追いかける。
 ジャディナーは、ザンに初めて会った時から、この口調を変えていない。小人でありながら、部下になりたくて、ザンの城へ行った。笑われたあげく、俺を倒してみろと言われたので、頭を使って転ばせたら、彼女から求婚されてしまった。彼は、第二者からの告白に驚きと喜びで肯定した。
 それから、すぐ仕事をサボろうとするザンを叱ったり、なだめたりしながら時が過ぎた。小人でなければ、引っ掴んでお尻を叩いてやりたいと思いながら……。
 今は叩ける。霊体になったので、大きくなれるのだ。生きてる時に出来なかったうっぷんが出たのか、日に3・4回は叩いている。
「今日はもう3回目だろ。浮気と言ったって、ルトーちゃんとちょっとふざけただけじゃねぇかよー。お前は嫉妬深すぎるって。」
「反省するどころかその態度!鞭で100叩きにしますよ! 嫌だったら、止まりなさい。」
 ほぼ全力で逃げていたザンがこれを聞いて止まった。勢いがついて、転びそうになったが何とかこらえ、座り込んでしまった。お尻を鞭100叩きはさすがにきつい。
「やっと、観念する気になったようですね。タルートリーさんと小部屋で何をしていたか、わたしが知らないとでも思っているんですか。……浮気は100叩きと決めています。逃げたので、30回は鞭で打ちます。」
 一人になりたいとか、色々な願いをかなえるため、天国の隅に小部屋がある。入ると何もない小さな部屋だが、装飾を思い浮かべると、それが出てくる。使用目的は、人それぞれだが、ザンは悪い事に使った訳だ。
「さあ、行きましょう。今度は、あなたはお仕置きをされる為にあの部屋へ行くんですよ。」
「わ・分かったよ。そう、苛めなくてもいいだろ。ちゃんと行くよ。」

「ザンが連れて行かれましたねぇ。ジャデイナーも、あんなに怒らなくてもいいと思うのは勝手な事でしょうか…。」
「仕方なかろう。あの男にしてみれば、わたし達は過去の人物。目の上のたんこぶのような物やも知れぬ。」
「そうかも知れませんけどね。わたし達がちょっと仲良くしただけで、ああも怒ることはないでしょう。あっちは、新参者なんですよ。」
「ドルダー殿。確かにわたし達からすれば、ジャディナーは、新しく出てきた小物。わたし達がザンに与えたものに比べれば、彼はただの夫。そなたが怒る気持ちも分からぬではないが、ザンが選んだ男はわたし達ではなく、あの男。わたし達からすれば、何のとりえもないあの男なのだ。彼にあそこまで無抵抗なのもそのせいだ。わたし達は諦めるしかない。」
「それはそうですよ、タルートリー。お前と違ってわたしなんかがザンに優しくしてもらっただけでも有難いと思わなければいけませんけどね。でも、悔しくないんですか。お前だって、ザンを愛しているのに。」
 この二人は、ドルダーとタルートリー。二人が言っているとおり、二人ともザンに深くかかわっていた。
 タルートリーは、第一者の息子で、第一者を倒しに来たザンと初めて会った。彼は父を憎んでいて殺そうとしていたが、ザンに先を越されてしまい、その後、いろいろあって、第一者とその友人と言うような形で、千年近くをザンと過ごした。彼が第一者として。
 ドルダーは、ザンが子供の頃、彼女の住んでいた城を襲い、彼女の母を彼女の目の前で、殺した。彼は、殺しを楽しむタイプの盗賊で、権力争いには興味がなく、ただ殺しを楽しむために王侯貴族や、村などを襲っていた。ザンの住む城もその一つに過ぎなかった。ザンはその頃すでに、乱暴な言葉を使っており、その珍しさから、おもちゃとして楽しむ為に、彼女を自分の住処へ連れてきた。一緒に暮らすうち、ザンを愛するようになっていた。彼は、知らぬうちに強くなっていたザンに殺された。
「情けない事を言うでない。わたしは悔しくなどない。そなた、わたしより、長く生きたのに、何故そのような事を言う。確かにわたしはザンを愛している。ザンの全てをな。だから、彼女の愛した男も許せないとは思わぬ。」
「わたしは、そんな達観できません! お前、そんなに冷静で、本当に彼女を愛しているのですか。」
「何度も言っておるだろう。みっともないぞ、ドルダー殿。」
 二人は、言い争いを続けていく…。

「喧嘩してやがる…。あれじゃどっちが年上だかわからねぇな。タルートリーの奴、敬語を使うのをやめちまってる。」
 トゥーリナが、呆れたように言う。彼は父に膝枕をしてもらっている。正確に言うと、座っていたら、強引に寝かされた。別に嫌じゃないので、そのまま寝ている。すると、
「トゥー、そろそろ僕のところへ来てよ。」
「だめぇっ。次は僕なの。」
「あら、何言ってるの。わたしです。」
 ターラン、リトゥナ、百合恵が言い争っている。いつもこうだ。
「こらっ、お前らまで喧嘩すんな。ケツ引っぱたくぞ! どいつから、叩かれたいんだ!」
 トゥーリナは起き上がると怒鳴った。

 「さあ、お尻を出して下さい。ぐずぐずすると、鞭の数が増えますよ。」
「分かった……。お前、死んでから、厳しくなってないか? 生きている時の方が良かったなぁ。」
「浮気したんですよ。あなたは。怒るに決まっているじゃないですか。」
 ジャダィナーは、鞭でザンのお尻を打った。「いてぇっ。脱ぐ、脱ぐよぉ。」
 服の中に手を入れて、パンツを下ろす。服を巻いてお尻を出した。ジャディナーが望んで出来た台の上に体を横たえる。ジャディナーがザンの尾を台につけた。彼は、ザンの体を押さえると、鞭を振るいはじめた。
「話すなとは言いませんよ。でも、あなたにはわたしという夫がいて、子供だって沢山出来たでしょう?それに、わたし達は、子供の成長を見守る為に、ここにいるのであって、あなたが遊ぶ為ではありません。そうでない理由でここにいるなら、さっさと生まれ変わったらどうですか?」
「悪かったよ…。何で、お前ってそう怖いんだ。…あいつらは、俺にとって大切な存在なんだよ。ドルダーがいなかったら、俺は王女として何不自由なく生きていただろう。でも、今みたいに充実した生き方は出来なかった。タルートリーもそうだ。あいつがいなかったら、俺は第一者の存在の重さを考えることもなかった。あいつらがいたから今の俺がいる。」
 鞭を振るう手を止めて聞いていたジャディナーは、
「いい話ですが、それと性的なことは関係ないと思います。あなたはわたしに会うまで、純潔だったのに、死んだ途端、悪くなったのはどうしてですか?」
「うっ。そ・それは…。あははははは。」
「笑って誤魔化さないで下さい。…お仕置きを続けます。」
 ジャディナーは、また鞭をお尻に振るい出した。ザンが声をあげる。
「許してぇ〜。」

「しばらく死んでるから、俺…。」
 小部屋を出てきたザンがそう言いながら、倒れた。
「大げさな…。それに、もう死んでます。」
 ジャディナーは、ザンを抱えあげた。お尻をぽんと叩くと、ザンが悲鳴を上げた。
「ごめんなさい。もうしないから、許してくれぇ。」
「分かれば、良いんですよ。」
 ジャディナーは微笑んだ。ザンは、彼がやっと自分を許してくれたのが分かってほっとした。

「だいぶ怒られたみたいだな。」
 父を含む四人に抱きつかれ、どうにでもしてくれと言いたげなトゥーリナが、ザンを見て呟く。
 一体、いつになったら、生まれ変われるのかまるで分からなかった…。
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