風呂に入るお約束

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 数年前に読んだ松平誠さんの『入浴の解体新書ー風呂文化のストラクチャー』(小学館、1997年)によれば、東日本は「湯に入る」であり、西日本では「風呂に入る」の違いがあるようだ。これは「湯浴び」と「蒸し風呂」の違いから生じたもので、後者の方が昔からのスタイルだという。ちなみに、湯につかるのは江戸時代後期から明治かけて普及したようだ。水と燃料が確保できるようになって入浴も可能になったという。

 となれば、サウナは蒸し風呂であってこちらのほうが先に出現したわけである。それが目新しく感じるのは湯につかることに慣れたからだろう。ともあれ「湯に入る」というのは「湯につかる」ことだから身体を「湯にひたす」しぐさをさすのだろう。液体の中に入るから浮力も作用して安らぐのだろうか。また、「風呂に入る」というのは囲われた部分、つまり「風呂場」という空間に入ることをいうのだろう。これは湯舟(浴槽)と洗い場の違いでもある。

 ところで、湯に入るも風呂に入るも「入浴」という温泉の利用法のひとつにすぎない。これは不特定多数の者が利用する沸かし湯の共同浴場(銭湯もその一部である)の利用法に限られたものだろう。5ー1ー1でふれたように温泉の利用法には、「浴びる」・「かける」・「蒸す」・「擦り込む」・「塗る」・「飲む」などがある。そして沸かし湯の銭湯ではできないものも含まれる。

 最近のスーパー銭湯や日帰り温泉には湯につかるだけでない設備が設けられている。露天(野天)風呂、サウナ、岩盤浴などが併設されているから風呂の利用は入浴だけでないことは誰でも気づくはずだ。でも、それが入浴法を混乱させているのも忘れてはなるまい。Aが通用するからBでも当然という錯覚を生むのではないか。塩を身体に擦り込んでサウナに入る方法を銭湯で行なったら笑い物だがそれに気がつかない人もいる。

 不特定多数が同じ浴槽を利用する共同浴場には湯を汚さないという暗黙のお約束がある。また、入る(つかる)湯と身体を洗う湯とは区別される。だから、浴槽に入る前に身体を洗い、浴槽の中で顔や身体を洗わない。タオルを浴槽の中につけないのも同様のお約束に基づく。そして、湯の使用量を抑えるために洗髪に別料金制をとったり、毛染めに規制をした。

 誰もが同じ浴槽に入ることは不潔な身体を湯につけないことである。昔の風呂やプールは循環式でなかったからいんきん・たむしの温床であった。また、浴槽内をみだりに動き回らないお約束もある。風呂場で泳ぐなどもってのほかである。そして、好き嫌いや病原菌が伴う犬や猫と一緒に入る場所ではない。

 多様な温泉が増えたことや他人との関わりが薄れた生活スタイルが混乱に輪をかけている。自分以外にも入浴し、利用することを忘れた独り善がりな行動が迷惑を及ぼすのを忘れるのだろう。たしかに風呂は気をなごませるが、また気を緩ませる場である。お約束がどこから生まれたかを知っておくのも無駄ではないだろう。

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