健康な人がビタミン剤を服用すると寿命を縮める恐れがある?

Q&ANo.28

最近の疫学研究で「健康な人がビタミン剤を服用すると寿命を縮める恐れがある」との報告がなされていますが、サプリメントは摂らない方がよいでしょうか?

国内外の臨床研究では、サプリメントによる病気の予防や治療の効果を示すデータが数多く発表されています。その一方で、今回のような抗酸化サプリメント(VA・ベータカロテン・VE)が寿命を縮めるといった弊害を示すデータが報告されることもあります。全体的に見れば、サプリメントの有効性を示す疫学研究の方がずっと多いのですが、メディアは従来の常識を覆すかのようなマイナスの研究報告をセンセーションに取り上げがちです。こうしたマイナス情報をどのように受け止めるのかが重要な問題となります。

最初に知っておかなければならないことは、栄養学に関する疫学研究はいまだ途上の領域にあり、特に栄養素(サプリメント)の効果を正しく結論づけるためには、クリアしなければならない数多くの問題が存在しているということです。

まず第一に、栄養素は他のさまざまな栄養素とのチームワークによって効果を発揮するものであって、1種類(あるいは2~3種類)の栄養素を対象とした試験では、本当の効果をはっきりと確認することはできないということです。

次に、栄養素の必要摂取量には個人差(遺伝・体質)があるということです。また生活環境・食事・運動、さらにはストレスの度合・心の状態などによっても、それは大きく左右されます。こうした要素をすべて考慮しないかぎり、正確な臨床結果は得られません。同じ分量のサプリメントを摂っても、ある人には効果的に働く一方で、別の人にはまったく効果が見られないといった結果が生じることになるのです。実験条件があまりにも複雑なため、一般的な栄養素研究では通常の摂取量を大幅に超えた投与量で試験をすることになります。しかし極端な量の栄養素摂取は、それ自体がきわめて不自然であり、人によっては害をもたらすことにもなりかねません。

このように栄養素の投与量と効果については、個人差や他の多くの要素が関係するため、すべての条件をクリアした完璧な研究は、現実には不可能ということになります。

さて今回の報告は、「メタ分析」という複数の研究機関での調査結果をトータル的に解析する方法によるものですが、メタ分析自体に多くの問題があり、対象データの選別の不適性が専門家から指摘されています。抗酸化サプリメントに関する多数の調査報告のうち、解析の対象となった研究(67試験)はすべて死亡例のある調査報告(※1)であり、死亡例のなかった報告(405試験)は対象から外されています。専門家は、もしこれらも含めた分析が行われていたなら、結果は異なっていた可能性があるとしています。つまりメタ分析では、分析データの選別の仕方によって、結論を意図的に操作することが可能となるということです。意図的にまったく正反対の結論を導き出すこともできるのです。

以上のようなさまざまな点を踏まえて総合的に判断すると、今回の研究報告は、普通のサプリメント摂取を守っている人にとっては、ほとんど該当しないと言えます。

当研究所では、これまでの臨床現場での治療実績から、サプリメントは健康維持や病気の予防・治療に有効であることを認めています。ただし、それには「サプリメントよりも食生活改善を優先する」という条件を満たしていなければなりません。サプリメントが効果的な働きをするためには「食事でしっかりと栄養素のベースを固め、その上で少量のサプリメントを適切に補う」ことが大原則となります。

食事を正さなければ、どれほど優れたサプリメントを摂っても意味がありませんし、時には健康にとってマイナスとなることもあります。食事改善を徹底することで、初めてサプリメントの栄養素が最大限に利用され、効果が発揮されるようになるのです。

サプリメントの使用がマイナスとなるのは、食事改善の徹底という大原則を守らない場合です。食生活改善をしないで、サプリメントだけに頼って栄養療法を進めたり、単一の栄養素のみを摂り続けたり、一度に大量に摂ったりすると、何らかの副作用が生じる可能性があります。

当研究所が推奨しているホリスティック健康学では、“サプリメント”が人間の健康に関与する割合は、全体の5%程度としています。正しい食事がベースとなっているかぎり、サプリメント摂取によって深刻な事態を迎えるようなことにはなりません。

※1これらの報告は、健康な人を対象にした調査よりも、病気の人を対象にした調査(46試験)の方が多く含まれています。またそれぞれの報告は、被験者の人数・調査期間・サプリメントの種類や投与量などの研究条件が大きく異なります。

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