日本の最長寿地域・沖縄と、その変遷
コラムNo.47
沖縄は日本の最長寿地域としてばかりでなく、世界の長寿地域としても知られ、かつては長寿村が数多く存在していました。当然、沖縄は長寿研究の対象として、多くの研究者によって徹底した調査が行われました。その結果、他の長寿地域と同様に、沖縄の伝統的な食生活に健康長寿の理由があることが明らかになりました。(*コラムNo.46で取り上げた近藤博士の調査チームは、日本で1番の長寿村を沖縄の大宜味村としています。ただし、沖縄といってもすべての地域が長寿ではなく、地域によって、また島によって“長寿村”と“短命村”に分かれることを明らかにしています。)
沖縄の長寿村では、魚と海藻が日常的に摂られ、同時に多くの野菜や大豆が摂取されてきました。一時期、沖縄の長寿の秘訣は黒豚の肉を食べることにある、と言われたことがありましたが、それは間違いです。豚肉を食べるのはハレの日など特別な時だけであって、一般的な沖縄の人々にとって、それは日常食ではありません。黒豚などの肉料理は、もともと宮廷料理としてつくられるようになった特別に豪華な食事で、現在では観光用に出されるようになっています。さらに付け加えるなら、豚肉を食べるときには、湯に通すなどして脂を落とす工夫がなされてきたのです。こうした理由から、黒豚が沖縄地方の長寿の理由であるとの説は、今では完全に否定されています。
沖縄で長寿が実現された理由は、実は人々が日常的に摂っていた海藻・野菜・大豆・魚、そしてミネラルが豊富な飲み水にありました。沖縄の人々は、日本の他の地域と比べ海藻(昆布・アオサなど)の摂取量が、非常に多いのです。海藻にはマグネシウムやカルシウムなどのミネラルや水溶性食物繊維が豊富に含まれています。また、芋類(サツマイモ・ベニイモ)や未精製穀類を中心に、抗酸化作用のある緑黄色野菜(ニンジン・ゴーヤなど)や薬理効果のある野草(香草)などを、毎日の食事に取り入れています。さらに、優れたタンパク源である大豆には、ミネラルの他に、レシチンやイソフラボンなどの有効成分が含まれ、オメガ3脂肪酸を多く含む魚とともに、血管を健やかに保つ効果があります。沖縄の長寿の人々は、日頃から“腹八分”に徹し、過食や飽食をしない生活を心がけていました。沖縄は、こうした日常食によって、ガン、心臓病、脳卒中などの発症リスクの低い世界有数の長寿地域を形成してきたのです。(*健全な食生活以外にも、沖縄の長寿村の人々は、他の長寿地域と同様に、毎日農作業に勤しみ、よく体を動かしていること、社会的な繋がりを大切にしていること、素朴な信仰心や楽観的で前向きな精神を持っていることなどが、健康長寿の要因となっています。)
ところが戦後、米軍基地が置かれ、「欧米型の食生活」が浸透するようになると、人々は肉を多食するようになりました。すると中年層を中心に「生活習慣病」が蔓延するようになり、短命化の道を転がり落ちることになってしまいました。(*沖縄の平均寿命の全国順位は、特に男性が2000年以降、急転落し、2020年には43位、女性は16位となっています。これは働き盛りの世代を中心に肥満者の割合が増え、生活習慣病やその合併症による死亡率が高くなっていることが影響しています。沖縄では、伝統的な食生活を守り続けている長寿世代と、欧米食の影響を受けて育った短命世代の二極化が進んでいます。こうした傾向は、沖縄以外でも同様に見られます。)
それと同じく、戦前に沖縄からブラジルに移住した人々の間で急激な短命化が起きています。調査によって、当時の沖縄の人々と比べ、移民した人々は17年も平均寿命が短くなっているという事実が明らかにされました。沖縄からブラジルに渡った人々は、大量の牛肉を日常的に摂るようになりました。しかも、牛肉の塊に岩塩をたっぷり塗り込んで焼くといった摂り方をしています。そうした食生活が心臓病や糖尿病を急激に発生させることになってしまったのです。