妖魔界2番外

5 妖魔界2の髪の毛のお話

「なー、トゥーリナ。何でこんなに髪を伸ばしてるんだ?」

 ザンがトゥーリナの髪の触れながら言った。

「これかー、これはな…。」

 トゥーリナは、ザンを膝に乗せると語り出した。

 

「ターランって、何で皆と違って髪が長いんだ?」

 ある日、幼いトゥーリナは、ずっと思ってたけど、忘れてた疑問を口にした。

「お母さんが、ターランの髪の毛は綺麗ねって言うから。」

「お前は仕事をしないからなー。」

 この世界のトゥーリナは普通の村人の子供で、ターランは村長の息子だ。幼い頃のターランお坊ちゃまは、畑仕事をしていなかった。ただ、トゥーリナと村を出て暮らすと決めてから、必要になったので覚えた。

「え?どういうこと?」

「俺さ、お前の長い髪が珍しくて面白いと思ってるんだ。それで、俺も伸ばすって親父に言ったんだ。」

「うん、うん。」

「そしたら、親父は畑仕事に、長髪は邪魔だから駄目だって言ったんだ。」

「そうなんだ…。」

「俺、悔しくてよ。親父が髪を切るって言った時、逃げたんだ。」

「お尻、いっぱいぶたれた?」

「鞭はなかったけど、真っ赤になったぜ。」

 トゥーリナはその時のことを思い出して、ちょっと震えた。なんせ、とっても痛かったのだ。

「じゃあ、僕と逆だね。」

「ん?」

「僕はね、皆みたいに短くしたかったの。でね、お父さんにお願いしたら、聞いていたお母さんが泣いちゃった。」

 ターランは恥ずかしげに微笑む。「僕ね、お母さんに、皆と一緒がいいって言ったら、お母さんたらもっと泣いちゃったんだよ。そしたら、お父さんに、我が侭を言っちゃ駄目だって、お尻をぶたれたよ。」

「俺には、我が侭を言ってるのは、奥様だと思えるけど…。」

「僕も思ったけど、しょうがないよ。」

「…だな。あーあ、早く大人になって自由になりたいな。ターランもそう思うだろ?」

「思うけど、自由って、好き勝手するって意味じゃないんだよ?」

「何でお前って説教くさいんだ?」

「だってえ、家庭教師が…。」

 

「で、俺は長髪にこだわってた。一度好きに伸ばしてれば面倒だって理解したのに、禁止されたから、諦められなくてな。」

「で、今に至る。」

 話しが聞こえたのか、やってきたターランが引き継いだ。

「ふーん。…ん?面倒ならなんで切らないんだ?」

「髪を伸ばすと、身体能力が上がるんだ。」

「へ?」

 ザンはぽかんとした。

「聞いたことないかい?髪を伸ばすと強くなるって。」

「うーん…、あ!思い出した。父さんから聞いた。」

 ザンはそう言ってから、ターランを見た。「じゃ、ターランは何で今短いんだ?」

「この話には続きがあるんだよ。」

 

 二人で生きていくからと家を出たある日。トゥーリナとターランは、開放感を充分に味わっていた。

「ターラン…。」

「トゥーリナぁ…。」

 ちゅ。これから、人目を気にせずにラブラブでいられる。Hもしたい放題。二人はとても幸せだった。親を悲しませたとの思いにちょっぴり罪悪感を覚えたが、それすらも強い結び付きになっていた。

 夜、トゥーリナの寝顔を見ながら、ターランは幸せに包まれていた。溢れる開放感。彼は重い枷を外したくなった。

「バイバイ、お母さん。」

 ジャキ、ジャキ…。トゥーリナと会ったと知る度に悲しげな瞳で自分を見ていた母。せめて母の好きな姿でいようと我慢していたけれど、今はもうそんな必要もない。トゥーリナが愛しげに髪に触れてくれるのも好きだけど…。

 眩しさを我慢して見た、川面にうつった自分の姿に、ターランは本当の喜びを知った気がした。

「ごめんなさい、お母さん。でも、俺、やっと本当の自分になれた気がするんだ…。」

 知ってほしかった自分の心。分かってもらえなかった心。それでも二人は始めた。自分の力で生きられる大人なのだからと。軽くなった頭にうきうきしながら、ターランはトゥーリナの側に寝転んだ。

 次の日の朝。

「トゥーリナ、朝ご飯を作ろ。」

 ターランはトゥーリナを揺すった。

 

「で、どうなったんだよ?なんで途中で止めるんだ?」

 ザンは不満そうに言った。話が分からないタマちゃんは、不思議そうに彼女を見た。

「続きはトゥーが話してよ。」

「ああ。」

 トゥーリナはターランをチラッと見ると口を開いた。

 

 ターランに揺り起こされたトゥーリナは、大欠伸をした。浮かんだ涙を拭うと、彼の目に信じられない物が飛び込んできた!

「ターランお前、その髪!」

 纏めていた髪をそのまま切ったので、長さがめちゃくちゃになってしまっていた。

「後で、ちゃんとしてくれる?」

 トゥーリナの大声を、いきなり髪の毛が短くなっていて吃驚したからだと解釈したらしく、ターランは微笑んでいる。

「何で切っちまったんだ!!」

「小さい頃に言ったじゃない。髪を短くしたかったって。幼すぎて忘れちゃった?」

「この馬鹿!なんてことをしたんだ!」

「えっ?えっ?」

 トゥーリナは、意味の分かっていないターランを捕まえると、膝に横たえた。1発目をお尻に当てると、ターランは叫ぶ。「いたっ、痛いよ!なんでぶつのさ?」

「勝手なことをするからだろ!」

「いたっ、痛いって。俺の髪をどうしたっていいじゃないか。ひっ。」

 思い切り叩くと、ターランはうめいた。

「俺は奥様同様、お前の長髪が好きだったんだ!」

「だって、俺は君みたいな短髪にしたかったんだよ。君みたいになりたかったんだ…。」

「俺はお前の髪が好きだから、髪を伸ばしたかったのに。」

 ああ、すれ違い…。

 

「それでどうなったんだ?」

「ケツ叩きはそこで止めて、お互いの心を優先することに決めたのさ。」

「俺は髪を短いままにするし、トゥーはそのまま伸ばすことにしたんだよ。」

「ふーん。そんな物語があったんだ。」

「じゃ、お前の髪は?」

「いつでも女に戻れるように伸ばしとけって、父さんが言ったんだ。」

 ザンは微笑んだ。「戻るつもりなかったけど、もしかしたら変わるかもしれなかったしなあ。」

「俺は、君のお父さんの意見を支持するから、髪を切っちゃ駄目だよ。」

「分かった。」

 

 それでザンは大人になった今、長い髪をしているのだ。

-2003/05/01 02:06:09-

 

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