4 大人のザン
ばたんっ。「ただいまーっ。」ばたばた。がたんっ。
ザンが乱暴に戸を開け、大きな音を立てて、椅子に座りました。
「何だ、どうしたんだ?」
トゥーリナが言いました。ターランはザンを睨んでいます。タマちゃんはターランの肩の上で吃驚しています。
「だってよー、すっげー腹の立つ事があったんだっ。」
ザンはキーキー喚きました。いつもはターランの厳しい躾の甲斐あって、大人の女性らしく振舞っているのに…。言葉遣いと服装は子供の頃のまま少年ですが。
「お前らしくないな。何があった?」
「ジャディナーと楽しくデートしてたらよ、ま、いつもの様にそこらへんの子供達も構ってやってたけど、いきなりおっさんがやってきて、女のくせにその服と言葉遣いはなんだって怒鳴りやがって…。」
ザンは拳を握り締めて、そこに怒鳴った人がいるかのように空を睨みつけました。「貴様に関係あるかって怒鳴ってぶっ飛ばしたかったけど、ジャディナーの手前そんな乱暴するわけにもいかねえし…。」
ここまで言った途端、ザンはターランの膝に横たえられてしまいました。状況が飲みこめていないザンのお尻を剥き出しにすると、ターランは勢い良くそのお尻を叩き出しました。
「ジャディナーがいなくてもいきなり暴力振るっていい事にならないっ。」
「それは言えてるな。」
トゥーリナはうんうんとうなずきました。
「いてっ、だってよー、何もいきなり怒鳴りつけなくたっていいじゃねえか…。いてえよっ。何もしてないのに…。いてえっ。」
ターランは叩かれる本人にお尻を出させるのを好みます。膝に乗るのも同様です。それなのに、どっちもターランがやってしまいました。それはとても厳しくお仕置きされるのを意味します。ザンは、とても怖くなりました。
「じゃあザンは、悪い事を叱ったつもりなのに、相手が殴ってきたら、殴った相手を許すのかい?」
「だってー…。いてっ。でも俺、思っただけで何もしてないんだから、いてっ。怒らなくてもいいじゃないかっ。うー、痛いっ。」
「それは違うぞ、ザン。そんな事を考えるだけで駄目だ。」
トゥーリナが言いました。「確かにお前は悪い事はしていない。でもな、この世界の常識では男は男の服しか着ないし、女は女の服しか着ないのさ。喋り方もそう。お前は異質なんだ。俺達と一緒さ。」
「そんなの分かってるけどっ。」
「いいかい、君が今の君のままでいたいなら、善意のつもりの相手の言葉は聞き流しなさい。そうじゃないとやっていけないよ。」
「…。」
ターランの言葉にザンは黙りました。
「ところで反省したの?したんなら、お仕置き終わりにするけど?」
「分かったよ…。」
「じゃ、後20回でお終いね。数を数えるんだよ。」
途端に強くなって、ザンは痛みを堪えるのに必死で数えられません。「数えないと終わらないよ。」
「わ・分かってるけど…。…1、2、…3。」
なんとか数え終わった頃には、お尻が真っ赤になっていました。
「30分、立ってなさい。」
「はい。」
ザンは大人しく部屋の隅に行きました。タマちゃんがふよふよ飛んで来ました。「タマちゃん、あっちにいないとお前も叩かれるぞ。」
ザンは痛みを堪えて微笑みました。タマちゃんはザンの頬にキスすると急いで戻りました。
またデートの日が来ました。ザンは今度は町に行かないで、いつか4人で出掛けた素敵な場所へジャディナーを連れ出そうかなと考えました。
「やあ、ジャディナー。」
「今日は、ザン。」
ジャディナーは好青年で、トゥーリナとターランも認めています。とは言っても、お兄ちゃんのような立場のトゥーリナは素直に喜びましたが、父のターランは少し複雑そうでした。
ちなみにこっちの彼は小人ではありません。
「今日さ、前に皆で良く出掛けた場所に行きたいなと思ってるんだ。そこ、とても素敵な場所で、ジャディナーも気に入ると思うんだ。な、行こうぜ。」
「そこへ行く前に僕と一緒に行って欲しい所があるんだけど、いいかな?」
「いいよ。」
「これ、君にとても似合うと思って…。」
服屋に二人はいました。ジャディナーは可愛いらしい女の子の服をザンに見せました。
「…。」
「ほら、前のデートの時に君に嫌な思いをさせちゃったし、君の女の子らしい服って見た事ないし、それに…。」
「それに?」
「僕達付き合ってちょうど一ヶ月目だから、記念にと思って…。」
照れくさそうに微笑むジャディナー。
「有難う。」
顔では精一杯の笑顔をしましたが、胸の中では…。『“君の女の子らしい服って見た事ないし”だって?つまりはそれだけなんだろ?前の事でいい口実が出来たって訳か。』
「あのさ、ジャディナー。悪いけど良く考えたら、俺さ今日用事があったんだ。」
それだけ言うとジャディナーの顔も見ずにザンは走り出しました。
家へ向かっていると、盗賊達が現れました。盗賊の1人がおどけた口調でザンをからかいます。
「男のかっこした女がいるぞぉ。お嬢ちゃん、何のつもりでそんなかっこでこんな所に…。」
「うるせーっ!!」
ザンは一喝すると一撃で盗賊を倒してしまいました。他の盗賊をひと睨みすると、皆クモの子を散らすように消え失せてしまいました。
家が見えてきました。
「うっ、うっ。」
前が何も見えなくなりました。力が抜けて、ザンはしゃがみこみました。『あいつは違うと思ったのに。』自分が馬鹿に思えました。
「そうなのかなあ…?素直に言葉を受け止めて良かったと思うけど?」
泣き崩れていると二人が家を飛び出してきて、彼女を家に入れてくれました。
「そうか?俺はザンの感じ方が正しいと思う。」
トゥーリナはザンを優しく撫でながら言いました。
「トゥーもザンもひねくれ過ぎだよ。」
ターランは言いました。でも言葉とは裏腹にザンに優しい視線を向け、暖かい飲み物をくれました。
何とか立ち直って、仕事を手伝っていると、誰かが扉をノックしています。なんだか弱々しい音なので、トゥーリナはそっと戸を開きました。
な・なんと、そこには血まみれのジャディナーがいるではありませんか!
「お前、どうやってここへ来たんだ?」
「そんな事より治療が先!」
ターランは叫ぶと、慌ててベッドにジャディナーを運びました。
「ザンが急にいなくなっちゃったから…。僕、必死で後をつけて…。でも途中で襲われて…。」
ジャディナーは力なく微笑みました。「でも、これだけはって命よりも大事だって頑張って、持っていかれなかったよ…。」
汚れた包みが差し出されました。中身は無事でした。
「これ…!」
あのドレスでした。
「着てくれる?」
「…うん。」
ザンは微笑みました。
「悪い子、悪い子。」
ぺんっ、ぺんっ。
「だって、どう考えたって…。」
傷が完治した後、事情を知ったジャディナーはすっかり怒ってしまい、ザンのお尻をぶっていました。弱い盗賊に殺されかけるくらい情けないジャディナーの力なのに、何故かとても痛く感じました。
「あの可愛い服はザンに似合うと思うって言ったじゃないっ。なんでそんな変な方に考えが行くのっ。そんなことを思うくらいなら最初から付き合ってないよっ。」
「ごめんなさいっ、許してーっ。」
ぺんっ、ぺんっ。ザンのお尻は桃色になってきましたが、ジャディナーはまだ許してくれそうにありません。
「ほら、俺があってたー。俺の見込みに間違いはないんだよっ。」
「そうだな。さすが奥さん。」
「へへへへー。」
ターランはトゥーリナといい雰囲気に…。
「ざー、じゃー、うれちい。」
「た・タマちゃんっ。」
ターランとトゥーリナは慌てて起き上がりました。ザンが大人になったからと言ってまだ安心してHが出来ない二人でした…。