わたしはHだと思う表現があります。18禁ではないと思います。
2 子供が出来た
「痛いっ。ご・ごめんなさいぃぃっ。」
バシッ、バシッ。ターランは泣き喚く。立っていられなくて、テーブルから落ちそうになる。
「もう立てないのか?まだ20しか叩いてないのに。」
呆れたように言うトゥーリナ。でもいつもよりずっと強く叩かれているのだ。いつもだって我慢できなくて暴れているんだから、当然といえば当然なんだけれど…。「仕方ないな。じゃ、椅子に体をもたせかけて、背もたれに掴まれ。」
トゥーリナに手を貸されながら、ターランは言われた通りにした。故意にそうしたのか偶然なのか、それはトゥーリナの椅子だった。椅子にはターランが作ったトゥーリナのマスコットがついている。ターランは背もたれをぎゅっと握り締めた。ターランの位置が低くなったので、トゥーリナは膝をつき、彼の背中を押さえた。
「いくぞ。」
ターランは身を縮めた。バシッ、バシッ。痛みに、さっき反省したのを忘れて、もう止めてーと叫びたくなる。しかし、あんまり情けないのも嫌なので、何とか堪えた。でも…。
「そんなに強く叩かないでぇっ。」
「我が侭の罰で叩かれているのに、まだ言うんだな。思い切り叩いてやろうか?」
バシーンッ。
「ヒッ。ご・ごめんなさいっ!酷くしないでっ。」
「駄目だ、許さない。」
トゥーリナは冷たく言うと、バシーンッ、バシーンッと続けた。『しっかり懲らしめてやらないと。』そう思いつつ、手を振り下ろしていると…。バキッと音がして、背もたれが壊れた。「げ。」
「あ。」
二人は止まった。暫く呆然としていた。ぽとっ、ころん。トゥーリナのマスコットが落ちて転がった。はっとしたトゥーリナが言う。
「…そんなに痛かったのか…?」
「…うん。思いっきり握ってたから…、壊れるとは思わなかったけど…。」
はーっとトゥーリナはため息をつき、ターランを抱えると、四つんばいにさせた。
「床に穴を開けるなよ?…平手はあと22回だ。」
「た・たぶん大丈夫だと思う…。」
バシッ、バシッ…。今度は何処も壊さずに、60回の平手打ちが終了した。もう既にお尻の色は真っ赤だ。でも…。
「鞭を持ってくるから大人しくしてろよ。」
「はい…。」
トゥーリナが寝室に消えた。ターランは泣きながら、お尻を撫でたいのを我慢して、椅子を眺めた。転がったままのトゥーリナのマスコットを見た。トゥーリナが出てきた。大人の男性用鞭を手にしている。妖魔界の父親は皆が鞭を持っているので、性別、年代別にそれぞれ鞭があり、鞭屋で買う。二人はそこに行って、試し打ちをしてから、短い一本鞭を買った。
「さ、後25だ。数えるのもいいかな…。」
トゥーリナは意地悪な笑みを浮かべた。「どうする、ターラン?」
「か・数えるの…?……君がお仕置きしてるんだから、君が決めてよ…。俺は、言う通りにするから。」
間違ったり、言えなかったりすると、追加があるので、数を数えるのも厳しいお仕置きの1つだ。
「ほう、だいぶ懲りたようだな、ターラン。」
トゥーリナは屈み込むと、ターランの頭を優しく撫でた。「よしよし、いい子になったみたいだから、数えるのは無しにしてやる。」
「うん…。」
返事をすると、トゥーリナが鞭でお尻を撫でたので、ターランはびくっと身を竦めた。トゥーリナに腰を抱えられた。いよいよだと思い、目をぎゅっと閉じた。
「いくぞ。」
ビシーッ。痛みに息を呑む。叩くのはそんなに手加減してくれないようだ。ビシーッ、ビシーッ…。
お仕置き後。トゥーリナに強く抱かれながら、ターランは泣きながら謝っていた。
「君が折角料理を手伝ってくれたのに、俺って我が侭ばっかりで、本当に自己嫌悪だよ…。」
「酷い言われようだな。」
「えっ、何でっ?」
「折角手伝ったって、言ったじゃないか。まるで俺がやりたくないのに仕方なくしたみたいだ。」
トゥーリナは不満そうに言う。「何だよ、お前にとって俺ってそんな程度の夫なのかよ。」
「違うよぉ…。そういう意味じゃない…。」
「何が違うんだ?どうせ俺は役立たずで威張ってばかりさ。仕事道具が足りないのも分かってなかった。ターラン奥様は、何でも分かってるもんなあ。」
「なんで怒るの?そんな言い方しないでよ。俺、そんなつもりで言ってないよ。…違うってば、俺はただ君の気持ちを無視して酷い態度をとっちゃったって、言いたかっただけなのに。トゥーリナ、君を責めるつもりなんてこれっぽっちもないし、自慢もしてないよ。」
「…。」
「謝ってるつもりで怒らせちゃうなんて…。俺の言い方が悪かったよ…。俺が馬鹿なのに、君をそんな気持ちにさせちゃうなんて…。…ひっく。」
「馬鹿、男のくせにすぐ泣くな。勘違いしただけなんだから。…俺も悪かったよ。お前はきちんと何でも出来るし、…俺はただ奴当たりをしただけ…。」
「え?」
「適当にやったのを責められて、ムカッと来ている所に仕事道具のことまで言われて…。」
「俺は、君は気付いていたけど、それでも手伝ってくれたと思ってた…。」
「そんなことは全然ない。久しぶりに飯を作りたかっただけだ。」
「そうだったんだ…。…でも別にいいよ。奴当たりだなんて思ってない。俺は本当に我が侭だった。」
ターランはにっこり微笑んだ。「明日の朝食は一緒に作ろうよ。」
「ああ。…あー、そう言えば俺もお前に叩かれなきゃなんないんだったな。」
「いいよ。あれだって我が侭だし。…それに俺、今日はそんな気力ない。」
ターランはお尻を撫でながら言った。トゥーリナがひょいっと彼をお姫様抱っこした。「トゥー…。」
「俺だけ叩かれないのは不公平だから、お前が叩く気になったら罰を受けるさ。でも、今日はもう寝ようぜ。」
「うん。」
寝室で、ターランは、トゥーリナとパジャマを着せ替えあった。トゥーリナの髪留めは懲りたので、ベッドの横に置いた。お尻が痛いので二人で抱き合うだけで何も無しで眠りについた。
数日後。
「ねーえ、久しぶりに町へ行こうよ。ね、ね。」
ターランがトゥーリナに抱きついて、甘える。
「何だよ、甘えて…。」
「買いたい物があるんだ。」
「何を。」
「君が食べなきゃ生きていけない物。もう1つは内緒。」
「何だ、教えろよ。」
「だーめ。吃驚させたいから。」
「可愛くないなあ…。…ほらっ、吐けっ。」
トゥーリナはターランに悪戯する。
「ああ……駄目ったら駄目っ。」
気が遠くなりそうになったが、何とか正気を保ったターランはトゥーリナの手の甲をぴしゃっと打ち、言う。「楽しみにしててよぉ…ね。」
「仕方ねえなあ。…言っておくが、楽しくなかったら、たっぷり泣かせるからな。痛くないお仕置きで…こういう風に…。」
「トゥーのえっち…。」
トゥーリナの手がまた伸びてきて、また悪戯しようとする。「あっ、…野菜も届けちゃおうよ。い・急がないと…。」
「何だよ、いつもはお前から誘うのに。」
駄目だってばとターランに邪魔されたトゥーリナはつまらなくて言う。
「俺だってしたいけどさ。遊んでいたら遅くなるから、我慢しようよ。…ね?」
「分かった。」
トゥーリナはしぶしぶ答えた。
妖魔界の村人達は、お城に野菜を納める。ただし、税金ではない。お城に買い取ってもらうのだ。かと言って売りつけるのとも違う。お城は村人達から買った野菜を町に売る。町人は店で野菜が買える。それで野菜は村人以外も食べられる。日本で言うなら、問屋のような役割をするのだ。盗賊が跋扈する危険な妖魔界で村人達が行商しなくてすむようにする為だ。
トゥーリナ達は、お城に野菜を納めてから、町へ向かった。野菜がどの町にも平等に行き渡るように、旅が出来る村人でも勝手に街に売りに行ってはいけないと決められている。
「前より高く売れたよっ。」
満面の笑みを浮かべたターランは、弾んだ声を出す。
「俺等の腕が上がってる証拠だな。沢山作れたし、質もいい。」
「俺達だっていつまでも子供じゃないもんね。」
こちらのトゥーリナ達は、まだ200才ほどだ。4ケタにならないとまともな大人扱いされない妖魔界では、彼等は年だけが大人の青二才である。感覚的には、日本なら、二十歳になったばかりだろう。
「そりゃそうさ。」
言葉だけは冷静なトゥーリナも浮かれている。反社会的な生活をしているような気がしている彼は、誰かに認められるのはとても嬉しいことだった。
町に入る。トゥーリナに必要な食材を買った後、特に買い物の予定のないトゥーリナは、ターランと別れた。行きたい所もないので、待ち合わせの場所に近い公園の木陰に横になった。空に瞬く星を数えるともなく数えた。ぶらついてもいいけど、この町には良く来るので、トゥーリナだと騒がれたくなかった。結婚している同性愛者であり、外でも平気でHする彼等は、それが強さ以上に有名だった。名が売れると戦いを挑まれるので、強さだけが売れるよりはいいのだけど…。
「ターランは何が買いたいんだろ?」
ふと気になった。
「お待たせっ。」
暇でうとうとしかけていたトゥーリナの耳に、明るくターランの声が響いた。顔をあげてそちらを見たトゥーリナは…。
「ひーっ。…くくくくっ、何だ、それ…。ふふっ、あはははははっ。…く・苦しい…。くくっ。」
苦しそうにしながら笑い続けるトゥーリナ。お腹を抱えながら、地面をどんどん叩く。尻尾が痙攣し、翼がばさばさと動く。知らない人が見たら、猛毒で苦しんでいるように見えたかもしれない。実際に笑いすぎてとても苦しいのだ。
「そ・そんなに笑わなくてもいいじゃないっ。」
「お前、女装に目覚めたのかよ?」
トゥーリナは涙を拭きながら言った。そこには、真っ赤なハートが沢山プリントされた薄い緑色のエプロンと、おそろいの三角巾を身につけたターランが立っていた。
「トゥーリナがいつも可愛い奥さんって呼んでくれるから、可愛くしてみようかなって思ったのにっ。」
「そうだったのか…、いや、笑って悪かったよ。」
トゥーリナはターランを抱き寄せて、唇を吸った。
「俺は女の服を着たくないから、エプロンならいいかなって思ったんだ。トゥーが喜んでくれるだろうって、恥ずかしいのを我慢して買ってきて、身につけたのに、爆笑するなんて酷いよ。」
「悪かったって。確かにそのかっこも悪くないな。このまま楽しむのもいいかもな。」
「その為に買ってきたんだから。」
「おっ、じゃその時以外は着ないんだな?」
「意地悪だね、トゥーは…。」
ターランは微笑む。
家へ帰り、買ってきた荷物を投げ出して、我慢できずに外で楽しむ。ついでに裸エプロンもしてみる。真新しいエプロンが汚れてしまうのも構わずに、二人は楽しみ続けた。
と、その時。
「あ・あのぉ、お取り込みの最中、申し訳ないのですが…。」
とっても恥ずかしそうな、申し訳なさそうな遠慮気味の男性の声が、二人の楽しみを中断させた。
「何だ、お前…げっ、ガキ連れでここまで来るなよっ。」
五月蝿そうに起き上がり振り返ったトゥーリナは、男性の側に子供が立っているのに気付いて仰天した。二人の家は見晴らしがいい場所に建っている。遠くからでも二人の行為が見えた筈なのに、何故平気でここへ来たのか、男性の常識を疑った。
「何の用なのさ。」
ターランは不機嫌な声を出す。
「実は…。」
男性は話し始める。欲しくても出来なかった男の子の変わりに、娘を息子として育てたこと。再婚しようと思っている女性が、そんなおかしな子供は育てられないと彼に宣言したこと。孤児院に入れても、男の子の様に育てられた娘が苦労するのは目に見えていること。変わり者で有名なトゥーリナとターランなら、娘を育ててくれるのではないかと思って連れて来たこと…。
話を聞いている最中に、二人は親子を家に招き入れ、着替えていた。ターランは飲み物を出した。
「ずいぶん勝手な言い分だな。」
「それは分かっています…。図々しい願いだというのは…。」
「そうじゃねえよっ。貴様、自分の身だけが大事なんじゃねえかっ。」
トゥーリナが険しい顔をする。殺気が強い妖気を出し、肌がびりびりした。
「父さんは悪くない。俺が言ったんだ。父さんに幸せになって欲しいから、俺を捨ててくれって。」
顔は少女なのに、服や言葉は完全に男の子の彼女は続ける。「今、父さんの妻になろうとしている人以外にも、父さんは何人にも断られてる。俺以外の娘にはこんな躾はしないと言ってもだ。父さんの育て方じゃなくて、俺みたいな子供が嫌なんだって、馬鹿でも分かるさ。」
「でも君、お父さんに二度と会えなくなってもいいのかい?」
殺気は薄れたが、まだ厳しい顔のトゥーリナに変わり、ターランが訊く。
「俺は父さんに沢山愛された。俺が女の子に戻りたいならいつでもいいって言ってくれてた。母さんがいなくて辛かったことは一度もない。俺は父さんに幸せになって欲しい。その為なら、俺はどうなってもいい。」
「お父さんは、君に甘えてるよ?」
「気にしてない。もし今、父さんがとても酷いことを俺にしても、俺は笑って受け入れられる。父さんはとっても苦労して俺を育ててくれたんだ。当たり前だって言うなよ?うんと酷くされる子供だっているんだから。」
「今の君がその酷い目に合ってるとは思わないのかい?」
「俺にとって酷いっていうのは、意味もなく殴られるか、父さんがこのまま寂しく生きるだけさ。」
少女はうつむく。「寂しいのは酷いことじゃない。それに、俺は愛されなくたって平気だ。」
「じゃあ一緒にいればいい。義理の母親は愛してくれなさそうなんだろ?」
トゥーリナが言う。
「こうもり、人の話は聞くもんだ。俺がいたら、母親になる奴なんて来ないっつてんだよ。」
「このガキっ。」
「子供相手に本気で怒らないでくれよ。」
ターランはトゥーリナを止めた。
「…父さん、俺、こいつ等といるより、孤児院の方が我慢できると思う。」
「ガキのくせに生意気だよっ。」
「子供相手に本気で怒るなって言ったの誰だ?」
トゥーリナは呆れた。
「最初に怒ったのは誰さ?」
「何だと…。」
二人が睨み合ったのを見た父親は、慌てて娘を抱えると、お尻を叩き出した。ぱんっ、ぱんっ。
「ザンっ。そんな失礼な言い方をするんじゃないっ。」
「痛いっ、父さん、何で怒るんだよぉ…。いてえよっ。」
ぱんっ、ぱんっ。ザンは痛みに喚く。二人はその声ではっとした。
「いいって、叩かなくても。」
「そうだよ、俺達が大人気なかった。」
「ですが…。」
「それよりターラン、どうすんだよ?」
「俺は反対だね。子供を育てるなんて、とても難しいと思う。」
ターランは冷たく言った。ぶたれ終わったザンは、父親に抱かれて泣いている。
「俺は引き取りたいな。男みたいなめすガキなんて面白い。」
トゥーリナがにっと笑う。ザンはトゥーリナを見ている。
「言葉が悪いよ、トゥー。…面白いだけで子供は育てられないよ。今日は疲れたから、面倒みないって訳にいかないんだ。」
「ターランっ。お前、俺を何だと思ってるんだ?それくらい分かるぞ。」
「…俺、たまに、寝小便はしちまうけど、大体は自分で出来る。」
ザンは遠慮がちに呟いた。「畑仕事も覚えろって言うなら、努力する。」
二人は顔を見合わせる。ターランはふぅっとため息をついた。トゥーリナはザンに訊く。
「お前はどうしたい?俺等と暮らしたいか?」
「なんかお前等、仲がいいみたいだし、俺が邪魔になるなら居たくない。」
ザンはうつむく。「さっきはそういう意味で言った。」
「…どうだろ?」
「好きな時に出来なくなるよ。…俺はちょっと嫌だな。したい時にしたい。…でも、ねえ…ま、常識は身につくかもね。」
「お前の頭はそれだけかよ。」
「違うよっ。それ以外では、トゥーがどうしても引き取りたいなら、暮らせるって言ってるのっ。」
「うーん、俺は別にいいけどなあ…。大体、お前が誘わなきゃ、昼間や外ですることもねえんだよな。」
「君だって、外は見られるかもしれないから、燃えるって言ったじゃない。」
「まあな…。…って、ガキの前でする会話じゃねえぞ。」
「君からしてきたんでしょ。」
ターランは言うと、頭を振りながら続ける。「ともかく、この子は引き取るんだね?」
「ああ。」
トゥーリナはザンを抱き上げて、頬にチュッとキスした。「よろしくな。俺はトゥーリナだ。トゥーリナって呼べ。」
「え、お父さんって呼ばせないのかい?」
「こいつには親父がいるぞ。それに、奥さん、お前、“お母さん”って呼ばれたいのか?」
「俺、男だよっ!?絶対に嫌だっ。」
「ほらな、名前でいいだろ。」
「うん…。…あ、俺はターランだから。」
「あんた、奥さんなの?」
「ターランと呼びなさい。俺とトゥーは夫婦なんだ。トゥーが夫で俺が妻。」
「奥さんはいいのに、お母さんは嫌なのか?」
「それとこれは違うんだよ…。」
ターランは、はあっとため息をついた。
「あ、俺の名はザンだ。」
ザンはこうして二人の子供になった。