妖魔界

21 悪魔界の王子様

 ぱたぱたぱたぱた…。妖魔界の赤く暗い空を不安げに飛ぶ悪魔の少年がいた。

「あれーっ、ここ何処かなあ?見た事ない木とか生えてる。」

 彼の名前は、ミ・デーモン。悪魔界の王、悪魔大王の10番目の子供だ。彼は、悪魔の仕事が嫌いなので、仕事をサボって遊んでいた。悪魔は、神がくれるリストの中にある人間へ不幸を与える仕事をしている。

「空の色も変だし、僕どうなっちゃったのかなあ。」

 ミは不安で泣きたくなりながら、空を飛び続けていたが、さすがに疲れてきていた。のども乾いたし、お腹も空いてきた。うちへ帰りたくなった。仕事をサボった罰に酷くお尻をぶたれるだろうけれど、こんな怖い所にいるよりましだった。

 空には、誰もいない。一体ここは何処なんだろう…?悪魔界の空の上を飛んでいたはずだったのに。飛んでいる最中に風が強く吹いて、目をぎゅっと閉じた。体がぐらぐら揺れて慌てて目を開けたら、空の色が赤く暗い色になっていた。さっきまでの悪魔界の空は、いつもの昼間のように黒い色だった。こんな変な色の空は、見た事がなかった。人間界の夕焼け空とも違う、見ていると気味が悪くなる色だ。

「お腹が空いたよお…。もう、飛べない。」

 ゆらゆらと下降する。木の形も生えている草花も見慣れない。悪魔界の木なら、王子である彼に敬意を表して、お辞儀の一つもしてくれるのに、ここの木は、悪魔の子供を笑うばかりだ。

 歩き疲れたミは、背の高い木の前で止まった。少し休もうとしゃがみかけた時に、ふといい香りがして、見上げると、とても綺麗な形をしたおいしそうな木の実が3つばかりぶら下がっていた。ミは疲れた羽を動かして、その実の近くまで飛び上がり、手を伸ばした。木の実をもぎ取り、口に運ぼうとした、その時。

「馬鹿やろうっ!死にてえのか!!」

 という怒鳴り声と共に、拳が飛んできて、ミは殴り飛ばされた。「それはなあ、“悪魔の実”と言ってすごくうめえけど、悪魔が食ったら即死すんだぞ。」

 ミは顔を撫でながら体を起こす。目の前に、狐がいた。狐の妖精かな?と、思ったが、それにしては大きすぎる。妖精の大きさは、大人で30センチくらいだ。どう見ても、妖精には見えない。それに、妖精の匂いがしない。

 ミを殴った狐エッセルは、悪魔の実を3つとも取ると、袋に入れた。悪魔の実は、悪魔以外には、健康回復、精力増強といった効果がある素晴らしい果実である。数年に一度、しかもわずかしかならない貴重品だ。そして、とてもおいしい。

 エッセルは、怯えて震えている悪魔の子を荷物みたいに拾い上げると、村へ向かって歩き出した。

 

 エッセルは村につくと、ミを家に放り込み、神父のいる教会まで歩いていく。教会の扉をあけ、神父に挨拶した。

「神父様、今日は。奥さん、います?」

「いえ、いませんけど…。何か用でも?」

「良かった。悪魔の実を見つけたんですよ。奥さん、悪魔の血を引いてるから、食えないでしょう。いない時の方がいいなと思って…。」

「それはそれは有り難う御座います。」

 神父は微笑み、エッセルが差し出す醜悪な果実を手に取った。悪魔にはとても綺麗な形に見えるのだが、妖怪には気味の悪い形に見える。神父は、実を齧った。齧った途端、果肉は甘い汁へと変わる。悪魔の実は、食べ物ではなく、飲み物なのだ。

「あー、おいしいです。エッセルさん、本当に有り難う御座いました。」

 神父は、幸せそのものの顔をしてお礼を言った。

「いえ、神父様には、ガキどもがいつも世話になっていますから。」

「学校が出来てから、寂しくなりましたね…。」

 子供達が学校で勉強をするようになったので、教会にあふれていた子供達の声がなくなってしまった。神父は、寂しくて仕方ない。

「そうっすね…。」

 

「学校は、いい事ばかりじゃねえんだな…。」

 家への道を歩きながら、神父が可哀相になって、エッセルは呟く。子供達は楽しそうだが、確かに村はしんとしていてつまらない。はしゃぐ声も叱られて泣く声も聞こえない。

 

「で、これどうするよ?」

 お腹一杯ご飯を食べて寝てしまった悪魔界の王子様ミを振り返りながら、エッセルはフェルに言った。悪魔の実は一つは妻のルティーへやり、もう一つは自分で食べた。

「どうするって、悪魔界へ返すんでしょ?」

「悪魔界へは、聖魔界を通らねえと行けねえだろ。俺は嫌だからな。魔界人どもなんか見たくねえ。」

「僕だって嫌だよ。魔界人は、化け物でも見るみたいな目で僕達妖怪を見るんだから。」

「だから、どうするか言ってるだろ。…。…そうだ!あのアマへ押し付けちまえ。」

「ザン様へ!?嫌だよ。怒られるじゃない。お父さんが行って来てよ。」

「お前、親父の言う事が聞けねえのか!尻叩かれたくなかったら、行ってこい!」

 エッセルに、ばしっとお尻を叩かれ、不満一杯のフェルは、家を出た。

 

「何で、僕が…。」

 いらいらしながら大木をふっ飛ばしそうな勢いで、フェルはザンの城を目指し、走っていた。鍛えてあるので、普通の人の目にはとまらないほどの速さで走れる。それでも、ザンの城までは2日はかかる。

 2日後。ザンの城へ着いた。門番、洗濯物を干しに外へ出ていた召し使いの女の子達、子供を外で遊ばせていたザンの部下の妻達がフェルを見て驚く。

「戻ってきたんですか?」「お久しぶりです。」「何かあったんですか?フェル様。」

 わっと囲まれて、フェルは苦笑いした。城を辞めて、既に数百年が経っているのに、まだこんなにしてくれる。とても嬉しいのだが、すごい勢いで走ったせいで、背中でのびている荷物の事を考えると、喜んでいられない。

 

「何で俺がそんな面倒くせー事しなきゃなんねーんだよ!?エッセルの野郎!フェル、おめーもハイハイ言う通りに連れてくるなよ!」

 ザンは、フェルに怒鳴った。フェルは身を縮めた。なんだか殴られそうだ。彼女はまだ第二者になる前、盗賊として旅をしていた頃に、エッセルとジオルクの盗賊団に会った事があり、彼を知っている。

「言う事を聞かないとお尻をぶたれちゃうんですぅー。僕はザン様の迷惑になるからって言ったんだけど…。」

「フェル、おめー自分は被害者だって顔してんなよ。おめーだって、その悪魔のガキを送っていくのが面倒なんだろっ!」

「は・はい。ごめんなさい。」

 フェルが謝ると、ザンの表情が少し和らいだ。彼は、ほっとした。

「俺だって、面倒だ。こうもりに押し付けろ。俺が必ずやれと言ったと言えば、あいつが片付けるさ。」

「分かりました。」

 

「あーあ、やっぱり怒られた。もうっ。お父さんのせいだ。」

 フェルは、ぶつぶつ言いながら、こうもりトゥーリナのお城へ向かった。

「あの、きつねさんっ、僕、悪魔界へ帰りたくないです。」

 気がついてからずっと黙っていたミは、フェルへ言った。「悪魔の仕事が嫌なんです。だから、僕を下ろしてください。僕、ここで暮らします。」

「何馬鹿な事を言ってんだよっ。ここは、妖魔界なんだよっ。悪魔の子供が一人で暮らしていける訳ないでしょっ。盗賊に殺されて食べられちゃうんだからねっ。」

「僕、食べられるの?」

「妖怪は何でも食べるよ。妖怪同士も人間も、もちろん悪魔だって…!面倒になってきたから、お前を食べちゃおうか…。」

「うわあーーーっ!!!!」

 ミは泣き叫びながら、空へすごい勢いで逃げ出した。「死にたくないよーーっ!!」

「じょ・冗談だよっ!狐は悪魔なんか食べないよっ。ちよっとぉ…、あー、行っちゃったよお。…どうしよう…。僕、妖力少ないから、空なんか飛べないよー。」

 フェルは、呆然と空を見上げた。

 人間で言う気功の気は、妖怪は妖力と呼ぶ。この力があると、超能力のようなものが使え、力がとても強いと、羽が生えていなくても、短い間なら空が飛べる。妖怪なら誰でも持っているが、強さは生まれつき違っている。ザンは、気の塊を放出する事ができる位強いが、フェルは、ほんの軽い物を動かす事すら出来ない。

 

「殺されちゃう、死にたくない…。食べられるのなんて嫌だよう…。」

 ミは泣きながら、空を飛んでいた。帰りたい…、悪魔界へ。

 どすんっ。「いたっ。」「痛いなっ。」

「何すんだよっ、どこ見て飛んでんだっ。」

 ミとぶつかったターランは怒鳴った。百合恵が娘を産んで、いらいらしていた。自分は、ずっと抱いてもらっていないのに。

「ごめんなさいっ。食べないでぇ〜。」

 ミは泣きながら言った。ターランは、カチンときて怒鳴った。

「堕天使とはいえ、もと天使が、悪魔なんか食べるかあーーーーっ!!」

「ごめんなさいっ、フェルってきつねさんが妖怪は悪魔を食べるって言っていたからっ。」

「フェルが?あの狐、相変わらずふざけてんのか。悪魔を食べる妖怪は少ないよ。妖怪は悪魔と結婚して、子供を作るくらいなんだから。ふ・つ・うは、食べ物との子供なんか作らないよっ。あー、頭に来るっ。それなのにどうして、トゥーは、食料の人間なんかと結婚してんだよーっ。」

 ものすごく低気圧らしい妖怪から、ミは、慌てて逃げ出そうとした。「待てよっ、何処へ行く気だよっ。」

「ぼ・僕、悪魔界へ帰りたいんです〜。お願い、放して下さい。」

「知ってるよっ。ザンと、フェルの馬鹿狐から、電話が入ったんだ。悪魔の男の子を帰してやってくれって。電話を受けたのはトゥーだけど、今百合恵と一緒に居たいからって僕に行けって言ったんだっ。何で、あんな人間の牝ガキなんかと一緒に居て、この僕を追い出すんだよーっ。ずっと小さな頃から一緒に過ごしてきたこの僕をっ。トゥーを誰よりも深く愛しているこの僕をっ。」

 まだ酷く怒っているらしいこの恐ろしい妖怪から、逃げ出したいミだったが、襟をぐいっと引っ張られて、強引にお城へ引っ張っていかれた。

 

「面倒な事は、何でも俺に押し付けやがるんだよなー、あの女は。くそっ、あいつは犯して殺す予定だったのによー。まさか、あんなに強いとは…。」

 二人目の愛の結晶の誕生に限りない喜びとともに妻と一緒に居たのに、それを邪魔されたトゥーリナは、不機嫌に呟いた。本当は、今はザンに対してそんな感情はこれっぽっちも持っていないのだが、可愛らしい娘や妻と過ごす至福の時間を邪魔されて腹が立っていた。

 リトゥナの時は、頂点になる事ばかりを目指していて、子供など眼中になく、第一者になるまで余り彼を愛してやれず、寂しい思いをさせた。しかし、今度は違う。周りがはっきりと見えている。子供の名前を生まれる前から考える程の余裕があった。

「あー、いらつく。しかも、何だって?お前を悪魔界へ連れて行けだと?めんどくせーったら、ありゃしねえ。」

 『みんな怒っている。僕のせいで。』ミの瞳から、涙が零れ落ちる。涙は頬を伝って、服に小さな染みを作った。ぽろぽろ涙を零す悪魔の男の子に、トゥーリナは怒鳴った。

「おすがべそべそ泣くなっ。」

「お…す…?」

「え?…ああ、悪魔は違うのか。妖魔界じゃ、男や女をおすとか、めすとか言う事もあるんだ。」

「そ…う、なんですか…。初めてだから、吃驚しました。」

「そんな事より、何で泣くんだ。」

「僕のせいで、皆が怒っているから。」

「ああ、その事か…。しょうがねえだろ。お前を悪魔界へ帰すには、聖魔界を通らなきゃなんねえ。聖魔界の奴らは、俺たち妖怪を化け物だと言いやがる。そんな自分達を馬鹿にするような奴等の所へ行くのが気持ち良くないってのは分かるだろ。」

「はい。でも、聖魔界の人達はとてもいい人です。馬鹿にしたり、差別したりしないです。」

「されもしない事を恐れていると言いたいのか?お前は悪魔だ。俺たち妖怪が、奴等に差別をされていないとどうして分かる?確かに俺が会ったことのある、リントって魔界人は、俺を馬鹿になんかしなかったさ。しかしな、死んで、天国に行った奴等が言っているぜ。魔界人どもは、自分達が側を通るのも嫌がるってな。」

「知らなかったです…。ごめんなさい。…。…僕、悪魔の仕事が嫌で、遊んでいたら、いつのまにかここへ来ちゃっていたんです。僕、悪魔界へ帰りたくないです。帰っても、嫌な仕事があるし、ここは、楽しそうです。最初はとても怖かったけれど、悪魔を食べちゃう人も少ないって聞いたし。」

「何言ってやがる。お前はまだガキじゃねえか。親だって心配してるぞ。くだらねえ事を言うな。」

「でも。」

「口答えするな。お前に選択権はねえ。俺が悪魔界へ連れて行ってやるから、それ以上文句を言うな。」

「僕、帰りたくないんです!」

 トゥーリナは、無言でミの体を肩に担ぎ上げた。左手でミの体を支えて、右手を伸ばし目を閉じると、界間移動するための呪文を唱えた。界間移動とは、その字の通りに、人間界から妖魔界へ行くなどといった、界の移動をする事だ。

 何もない空間へ黒く大きな穴が開いた。トゥーリナは、中へ入った。二人の姿が消えた後、穴は静かに消えた。

 

「ここ何ですかあっ?真っ暗で怖いよぉっ。」

「界間移動するための通路だ。普通は、この通路を通らないと界間移動が出来ないんだが、たまにお前みたいに見えない空間の穴に入り込んで、他の世界へ飛ばされちまう奴もいる。」

「飛んでいないのに、体が浮いてるっ。」

「通路ったって、廊下とは違う。ここには、上も下も広さもない。ここへ入ってから、何処へ行きたいか念じれば、行きたい世界へ運ばれるようになっている。…さあ、聖魔界へ行くぞっ。」

 トゥーリナかそう言った途端、すごい勢いで、体が引っ張られた。トゥーリナが、体を押さえてくれなければ、何処へ飛ばされてしまいそうだった。

「ぎゃあぎゃあ喚くな。しがみつかなくても、一緒に聖魔界へ行ける。」

 

 聖魔界の一端の空間に黒い穴が開いた。穴から、トゥーリナとミが出てくる。

「ぎゃあっ、忘れてたぜっ。聖魔界は夜だったかっ!」

 トゥーリナがうめく。あたりは、燦燦と日の光が差していて、まばゆい光に目が眩んだ。妖怪は、吸血鬼ほどではないが、日の光に弱い。特に聖魔界の空気と日の光は清浄で、魔の生き物である妖怪にはかなりきつい。悪魔は特殊な生き物のため、日の光の中でも何ともない。白い闇にトゥーリナは、しゃがみこんだ。体がだるくなる。

 妖怪と悪魔にとって、日の光が差す昼間は寝ている時間で、夜と呼ぶ。逆に、夜は昼と呼ぶのだ。

「大丈夫ですか?こうもりさんっ。あれ、へびさんかな…?」

「へ・蛇こうもりだ。…く・くうっ。きついぜ…。」

 トゥーリナは眩暈がして、とても立っていられなかったが、何とか這って木陰へ向かう。その様子を魔界人達が、気味悪そうに見ていた。

「ああ、どうしよう…。」

 とりあえず、直射日光を避けられる場所でぐったりと伸びているトゥーリナを前に、ミはおろおろしていた。酷く辛そうにしている彼をどうすればいいのか分からなかった。

 その時、二人の前に、箒に乗った一人の少年が現れた。彼は、箒から降りると、トゥーリナの側へしゃがみこんだ。少年はトゥーリナの肩に手を伸ばし、目を閉じて何事か呟いた後、彼に聞いた。

「妖怪が魔界に来ているって皆が騒いでいるから、見に来てみたんだけど、ザハランだったんだね。…。…楽になった?」

「ああ、楽になったぜ。すまねえな、リント。」

 聖魔界の次期王リント・アルエリアは、真っ赤なリボンで縛られた三つ編みを揺らして笑った。

「ミと一緒に、魔界へ何しに来たの?」

「この悪魔のガキが、妖魔界へ紛れ込んじまったんで、悪魔界へ運ぶ途中だ。…リント、“み”ってなんだ?」

「この子、悪魔界の王子様で、ミ・デーモンと言うんだよ。ザハラン、妖魔界へ帰りなよ。ミは、僕が送ってあげるよ。」

「そうしてもらえると助かる。早く妖魔界へ帰らねえと、お前の魔法の効果が消えて、また苦しくなるからな。」

「じゃあね。ザンに、たまには、遊びにおいでと言っておいてね。」

「分かった。」

 

「心配させて!お前が何処にもいないと分かって、お母さん、すごく心配したのよ!お母さんのお仕置きが終わったら、お父さんにもぶってもらうんですよ!」

 ぱしんっぱしんっ。ミの剥き出しのお尻へ母の平手が飛んでくる。リントが悪魔界へ彼を連れていくと、悪魔界は大騒ぎになっていた。王子が一人いなくなっていたのだから。

「お仕事をサボって遊んでいて、しかも、ここへは帰ってきたくないなんて言っていたんですって!!」

 ぱしんっぱしんっぱしんっ。「どうしてあなたはそうなの!本当に悪い子ね!」

「痛いよーーっ。だって、僕達が仕事をすると、人間が不幸になっちゃうんだよ!」

「不幸になるような悪い事したんでしょ!わたし達は黙って仕事をしていればいいの!」

 ばしっばしっ。母の叩き方が強くなり、ミは、声を張り上げて泣き出した。

 

 真っ赤になったお尻をさすりながら、ミは、父の部屋へ歩いていく。母から酷くぶたれたのに、父からもぶたれるなんて嫌で仕方がなかったけれど、行かないとお仕置きが酷くなるので、諦めて歩く。

 父の部屋の扉がいつにも増して大きく見える気がする。ミは、勇気を振り絞って、父の部屋の扉を開けた。

「お父さん…。今、帰って来ました。」

 悪魔大王は、息子の声に振り返った。彼は息子の側まで歩いていくと、小さな体を小脇に抱えて、裸のお尻を出した。既に赤くなっているその小さなお尻を力を込めて打ち据え始めた。

「お前一人の為に、皆が迷惑する事になった。下らぬ情を捨て、王子としての自覚を持て。」

 彼はそれだけ言うと、後は無言で、息子のお尻を叩き続けた。ばしーんっばしーんっ。

「ごめんなさーいっ。今度から、ちゃんとしますうっ。」

 ミは、激しい痛みに泣き叫んだ。

 

「ううっ、ぐすっぐすっ。」

 ミは泣きながら、ベッドの上にいた。「お仕置きはもう嫌だけど、また妖怪さんに会いたいなあ…。」

 変な人もいたけれど、妖怪達は面白かった。今度妖魔界へ行けたら、沢山お話をしてみたいなあと思うミだった。

 

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